Nicotto Town


濃すぎる毒入り日記


欲望という名の電車

「欲望という名の電車に乗って、墓場と書いたのに乗りかえて、六つ目の角でおりるように教わってきたんですけど…。極楽というところで…」

薄汚れた街に、ジャズピアノの音が流れ、住民たちの猥雑な喧騒が響く。
その全てを切り裂くように市電の大きな停車音、そしてガタガタという市電の動きが街の音に消えて行くと、その街-1950年代のニューオーリンズの場末-に、全く似つかない格好の女性が佇んでいる。ブランチ・デヴォワ・・・

「欲望という名の電車」は、20世紀の演劇作品として、頂点の一つにある作品でしょう。
少なくとも、日本で舞台に立つ女優にとっての、一つのゴールに違いない。
僕の、この作品との出会いは変わっていて、文学座研修生でもあった大学の友人から「杉村先生(杉村春子)の作品」のビデオを貸してもらったのが初体験。30年以上演じたブランチ役の最期を80を超えた女優が演じる。冷静に考えれば怖い・・・しかし、そんな気持ちは微塵もなく、彼女の演技に震えた・・・

たぶん、僕の想いと同じモノを、これまでブランチに挑んだ女優-浅岡ルリ子、栗原小巻、太地喜和子、大竹しのぶ、あるいは篠井英介-全てが抱いたことだろう。
そして、今年12月、新たなブランチが誕生した。
高畑淳子、バラエティでのヘンテコおばさん、テレビドラマでのオーバーな演技とは違う、青年座の看板女優として、本作も若いころの端役に始まり、ブランチの妹役も経験している。ある意味、ブランチに最も近い場所にいた女優が、満を持して挑んだのが今回の「欲望という名の電車」だ。
これは、彼女1人の想いでなく文学座と青年座の合同主催であること、演出・鵜山仁に音楽・小曾根真という布陣からみても、観るべき作品となっている。

そして、冒頭の場面だ。この時点で、僕だけでなく、観客全体から無言の感極まった声が舞台を包んでいた。誰もが、杉村春子やヴィヴィアン・リーから受けた最初の強い衝撃と同じモノを感じたからだ。
この圧倒的な「女優降臨」の演技に3時間、言葉もなく魅了された。そして、万雷のカーテンコールに、堂々と手を挙げ応える高畑淳子には、頂点を観た者だけの凛とした凄みがあった。

そして、僕にとってのもう一つの素晴らしい出会いは、スタンレー役の宅間孝行さん。
スタンレーのもつ暴力性を如何に表現するのかは、毎回の楽しみだが、宅間さんは、刺々しい言葉を前面に出すことで、その武装が外れた一瞬に見せるスタンレーのコンプレックスが逆に強く感じられる演技で挑んでいる。貧しく弱き者が掴んだ幸せや誇りを、闖入者から守ろうとする拙い心理と哀しい蛮行、ここにシンパシーを持ててこそ、初めて、その真逆から動くブランチとのラストが、本当のクライマックスになる。この点からも、宅間・高畑の演技また鵜山演出は大成功だったといえよう。

しかしだ、宅間さんの台詞回しや声質が、はんにゃの金田のヘタレ先輩そっくりだったのは何なんだろう。パクリなはずはないが、あれだけ同じだと、金田の顔を浮かべないのが至難の業だ。

それと、世田谷パブリック・シアターの初日。客層が、業界過ぎw
業界ってのは、演劇関係者だけでなく、テレビ関係者、芸能人、一般人もそれっぽい人ばかり。幕間など、キョロキョロするだけで、おおおと思ってました。たまに、隣が芸能人ってことがあるのが演劇鑑賞の面白さだけど、今回は、2つ向うに柴田理恵さんがいました。
彼女が通路に出るには、僕の前を通る必要があり、僕が立ったとき「すいませんね」とあの声で言われて、ちょっと得した気分。
すごい昔に、久本雅美さんを劇場で見かけたこともあるので、なんというか、シャレでなく「女優なんだなぁ」と彼女達のことは思っています。

それにしても、19時開演で、22時過ぎて幕って、業界な皆さまは正に「あ、おはよう、●ちゃん。よかったねーアッちゃん(高畑淳子)。これからシーメどうよ」なんでしょうけど、明日は金曜日の師走って、一般人は帰るしかないですよ。
この感動を共有できる相手と語りたいって、一人で見に行った時点で実現不可なんだけど、サッカー観賞するバーみたいのが演劇版であったらいいのになぁ。もちろん、業界人行きつけってのはあるんだろうけど、一般観客が幕後にふらっと行けて、知らない者同士でも話せる店・・・下北沢だと、そのまんま粘っていると、役者そのものが来ることもあるんだけど

今年の僕は、演劇については、すっごい充実した一年だったです。
他が充実してないという意味ではなく、演劇の当たり年って意味ですが。

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2012/01/04 12:33
ちょこみんと さん コメントありがとうございます。

本多先生ですね!
北先生役の金田明夫さんとともに、新劇の役者さんらしい、濃い演技で、後期の金八先生の脇を固めていましたね。
あの当時は、すんごいオバサンwなキャラでなく、普通にいい感じの役者さんとして、全国的な知名度が上がった感じです。

あっちゃんといえば、子供の頃に見ていた仮面ライダーとかの特撮で悪の女幹部を何度か演じていて、幼な心にもすげぇ濃いなぁと思っていたのですが、後に舞台で情念を演技に昇華させる いい女優さんと思った人が、その人だと知って、「マリバロン(役名)じゃん」と驚いたことを思い出します。

「欲望という名の電車」といえば、やはり原点は映画ですよね。あのビビアン・リーとマーロン・ブランドは、その後に、この作品を演じる役者さんにとっても、観る側にとっても、絶対に意識せずには済まない金字塔ですよね。
真似をしてはいけない、しかし、奇をてらってもいけない、ちょうど高い山を登るアルピニストのように、今も尚、この作品の頂点を目指しているんだなぁと、高畑ブランチを観たときも思いました。

>私はたしか小学生だったのですが、人生ってかくも凄まじく激しいものなのか!と
>痛く感激した記憶が今も鮮明に残っています。
 オマセな小学生ですね(笑)
 あんな経験をする人もいないだろうけど、子供でも大人でも、人生と、そこに生きる人の凄まじさを感じずにはいられないナニカが、この作品にはあります。

 そういえば、広島市には市電が!原爆の被害も色濃く残る昭和20年代後半の広島を舞台に、戦争や被曝を絡めると、どんな「欲望という名の電車」になるんだろうなぁ・・・スタンレーには、「仁義なき戦い」の文太さんイメージで、広島弁バリバリの復員兵とか演じて欲しいかも。デボワ姉妹は、「白林 華子」「白林 星江」だなw
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2011/12/31 13:11
高畑淳子さんは金八先生の保健の先生役から大好きな女優さんです^^

彼女のブランチ役、それはすごいものなんでしょうね
広島での公演があれば、絶対観に行きたいです♪

わたしが一番最初に観た「欲望の…」は、NHKで放映された舞台で
あのビビアン・リーさんがブランチ役でした。

私はたしか小学生だったのですが、人生ってかくも凄まじく激しいものなのか!と
痛く感激した記憶が今も鮮明に残っています。





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