【眠れない夜】(「契約の龍」SIDE-C)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/06/06 04:51:18
……眠れない。
課題を片づけてしまったことで、夜更かしをする必要がなくなってしまった。
眠気も感じていないのに横になるとろくでもない事ばかり頭に浮かぶ。
アレクに触れられたい、とか
アレクにすり寄りたい、とか
アレクに抱きしめられたい、とか
アレクと寝たい、とか。
…いったいいつ頃から、だろうか?
決定的になったのは、多分、初めてあの馬鹿龍に接触した夜。
疲れ切ったところに注ぎ込まれた「力」があまりにも…気持ちよかったから。
暗い所に滑り落ちそうになるところに、あれだ。本当にアレクには自覚がない。
だけど…だから、今、私がここにいられる、のだと思う。
目を開けて最初に見えたアレクの顔が、忘れられない。
本当に、心配そうで。
だから、王宮にアレクを引っ張っていったのは、私のわがままだ。きっとまた心配掛ける事になる、と解っていたのに。
クレメンス大公のところで馬鹿龍が暴走した時に、アレクが残ったのを見た時、とても嬉しかった。
…そして、心配だった。
アレクが、馬鹿龍に害されはしないか、と。
…そう、あの、馬鹿龍に影響されているのかもしれない。
二人しかいない空間で、あの馬鹿龍が「ユーサー」と呼ぶ、その声の甘さに。愛おしげに抱きしめる、その様子に。
…でも、その相手がぴくりとも動かない、というのが、奇妙だ。
それに、あれは、クレメンス大公のように見えたんだけど。
だから、それを指摘したら、とたんに「泥棒猫」呼ばわりだ。事によったら、こっちの声も聞こえていなかったのかも。ただ、私がそこにいたから、追い払った、という感じ。
あの馬鹿龍に関しては、すべてが、「もしかしたら」だ。
もしかしたら「金瞳」に近づくものの力を奪っているのかもしれない。
もしかしたらクレメンス大公が目覚めないのは、あの馬鹿龍が捕まえているせいかも。
もしかしたらクレメンス大公を「ユーサー」と勘違いしているかも。
もしかしたら…
王族が次々と亡くなっているのは、馬鹿龍のせいかも。
まさか、とは思うけれど…
誰かに、それを否定してほしい。
…「父上」が、あの馬鹿龍に接触できるのなら、否定できるのでは?
ジリアン大公は…たぶん、女だから馬鹿龍に攻撃されると思う。
血の濃さとか、「家族」という感覚とか、人が「恋慕する」のに障壁と思う事がある、という事を理解せずに。
だから、男性である「父上」なら、あるいは話を聞いてくれるかも…
でも、国王である人に、そんな危ない事、させられない。
ハース大公がこんなに早く亡くなってしまったことが、残念でならない。
ハース大公を害したのは、あの馬鹿龍なのか、それとも「さみしがり」の夫人なのか?
あるいは、その両方なのか?
あの、妙に艶っぽい夫人は…義理の息子と同じ匂いを漂わせていた人は…あの二人は、関係を持っているのだろうか?感覚的な障壁を超えて。
私には、関係のない事なのだけど。
関係ない、といえば。
どうして事務長のロースマリーは、クレメンス大公の「金瞳」を見知っていたんだろう。あのサイズでは、ほかの場所に移動することは、きっと難しいだろうに。移動できても、せいぜい体の裏側とか、だろうに。
…まさか?
彼女はいくつくらいだろうか?
クレメンス大公より少し上のように感じるけど…彼女は「幻獣憑き」、それも「初代」だし。
でも、複数憑いてるみたいだから、継承には…
…妙なことを考えてしまうのは、私がおかしくなっているせいかな?
アレクは、今頃どうしてるだろう?
アレクの力の質は、学院内で感じる力と、とてもよく似ている。ほとんど同一、と言ってもいいほど。
私が想像しているような理由で、なのだろうか。
それとも単にここで育ったせいだろうか?
セシリアのは…またちょっと違うみたいだけど。ポチの様子を見ると。
ポチは、セシリアに預けてから、随分と回復している。予想した以上に素質があるのかもしれない。譲ってしまおうか?
あの馬鹿龍が手に負えなかったら、…結果的に、そうなってしまうな。
弱気になったら、だめ。
あきらめてしまったら、うちで待ってるばあちゃんに悪い。
何とかして、あの馬鹿龍と縁を切って、うちに帰らないと。
アレクの事は、また問題が別。
アレクが、私の想像しているような者、であるならば、母さんと同じ事になるかもしれない。
…本人には、全く自覚が無いようだから、あるいは違うのかもしれないけれど。
アレクが「学院」に連なるものである、などという事は。