番外編 ティータイム♪遠い日の夢(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2012/03/17 02:23:13
これは夢。多分夢。
あの人は僕を抱き上げて笑う。綺麗に笑う。
―あぁ、なんて綺麗な翡翠の目だろう―
僕の目をうっとりと見つめると、あの人はそう呟いた。
―きれい?―
僕は、意味がよく分からなくて首を傾げる。
―あぁ。とても綺麗だよ。―
あの人は、微笑みながら優しく僕の頭を撫でる。
―それはいいことなの?―
―もちろん!とてもいいことなんだよ。―
あの人は僕を、顔の近くまで寄せると、僕の目を見つめながらゆっくりと囁いた。
―決めた!お前の名前は翠。翠にしよう。―
―あきら?―
―そう。これからお前の名前は翠だ。―
―どうしてあきら?―
―それはね・・・・・・―
あぁ、何故だろう、いいところなのに。意識が遠のいていく・・・とても大事なところなのに・・・・何故・・・・
お前の翡翠色の目がとても綺麗で、まるで本物の翡翠のようだからだよ。綺麗なお前にとてもぴったりだと思ったんだよ。
結局、最後の言葉は聞き取れなかった。
******
今、私が見ているコレは夢というものでしょうか?多分そうなのでしょう。だって、今私の目の前に、私がいるのですから。
―柔らかい羽だね。とても暖かそうだ。―
あぁ、懐かしい。あの人の声がする。凛とした、それでいて優しいあの人の声が。
―ありがとうございます。でももうつかえません。わたしのはねはもうつかえないのです。―
―何故?立派な羽なのに。―
あの人が、私の優しく羽に触れる。
―だって、けがをしてしまいました。だからもうつかえないのです。―
―治療すればいい。君ならその方法を知っているはずだ。―
―わたしがですか?しりませんけど・・・―
困ったように首をかしげる私に、あの人は尚も笑いながら続けた。
―この森で、君の知識に叶うものはいない。すなわち、君ほどこの森を知り尽くしているものはいないということ。―
―はい。たしかにもりのことはなんでもしっていますが。―
―なら、分かるだろう。薬草の有りかを。―
―・・・・ああっ!!―
盲点でした。私は、怪我をしてしまったことがショックで忘れていしまっていたのです。薬草を探して、治療すればいいことに。私はなんてマヌケなのでしょう。
―おかしなコだね。君も。おかげで、今、君の名前を思いついたよ。―
―なまえですか?―
―そう。お前の名前は賢。賢だよ。―
―す・ぐ・る?―
言葉の一つ一つ丁寧に発音してみる。とても素敵な響きです。でも何故賢なのでしょう?そもそも賢とはどういう意味なのでしょう。
―なぜ、すぐるなのですか?―
―それはね・・・・―
あぁ、いいところなのに、視界がぼやけます。声もくぐもってしまって上手く耳に入ってきません。何ということでしょう。
お前は、”森の賢者”だからさ。お前にピッタリだろう?ふふ。おっちょこちょいなところも含めて、聡明なお前によく似合う。
あぁ。意地悪な人ですね。意地悪でとても優しい人です。
******
う~ん、どうやら、我は夢の中にいるみたいだねぇ。だって、ここは我が昔住んでいた湖だから。懐かしいね~・・・
―おや、神の使いがこんな所に。―
あぁ、懐かしい。懐かしいよ。主に会えるなんて。夢でも嬉しいね~
―われは、べつにかみのなんちゃらではないよ~―
―ふふ。冗談だよ。たまにはノッてくれてもいいじゃないか。―
―われ、そんなえんぎりょくないからむりだね~―
―嘘は良くないよ。嘘は。―
からかうような笑顔を浮かべると、2,3回我の頭を小突く。
―しかし、お前は本当に神の使いに見えるよ。私は。―
―われは、そんなたいそうなものじゃないよ~―
笑いながら、主が我に腕を差し伸べる。我はそれが嬉しくて、素早く、でもそっと主の腕に巻き付く。
―う~ん。さすがに腕じゃキツいな。首の方までおいで。―
我の無駄に長い身体は、腕じゃ巻ききれなかったみたいだ。申し訳ないと思いながら、首までするすると上り首を締めないようにそっと巻き付く。
―こうすると、お前の顔がちゃんとみれていいね。―
―なんか、へんなかんじだね~―
我の頭をこすると、主は思いついたように我をみるとこう言った。
―お前の名前を思いついたよ!!―
―なんか、それきたいしていいのかびょうだね~―
―きっと気にいると思うんだ。―
主は、一つ咳払いをすると、
―瑞。お前の名前は瑞だ。―
―みずきか~。なんでみずき~?―
我が、舌をシュルシュルと出し入れしながら首をかしげると主は得意げに笑った。
―それはね~・・・―
瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ。ん~、いいところなのにね~・・・あぁ、身体がどんどんそこから離れていく・・・・残念だね~本当に残念。
お前がやっぱり神の使いだからだよ。”白い蛇は水の神”と言われてるんだよ。でも、お前は神なんて不変的なものではないからね。だけど、いつだって、私の願いを聞き届けてくれる。だから、お前は神の使い。そんな、神秘的でミステリアスなお前にピッタリだろう?
だから、我はそんなたいそうなものじゃないんだよ~・・・全く。