脇道にそれて
- カテゴリ:自作小説
- 2012/04/13 17:15:52
脇道にそれて
この街に来て、もう7年になる。
特に、この街が好きだったとか、祖先がこの街と関係があるわけではない。
単に、安価な住宅を買い求めた結果、都心に近く、値段が破格に安かったため
この、山あいの新興住宅地に落ち着いたのだ。
山に囲まれたわずかの土地に、30戸ばかりが狭い土地にひしめき合い、
太陽の出は、常に1時間遅れ、日の入りは1時間早い、
風が強く吹くと、森の木々たちがざわざわと動き出し、
新しい侵入者、つまり我々、新住民を追い出そうとしてるかのように
この時とばかりに、意思でもあるかのように、大げさに、
大騒ぎして、嫌がらせを、するのだ。
「この山から出て行け~。出て行け~。」と。
毎朝、一時間に一度しかないバスに乗って、H市まで出て、満員地獄の電車に
乗って、都心の会社まで通ったが、それは、あまりに過酷で肉体的にあまりに
残酷な通勤だった。
残業で遅くなった日など、バスがなくなりタクシーで帰らなくなったりすると
安給料の身にとっては、「安物買いの銭失い」という、
諺さえ浮かんでくる有様だ。
結局、3年程で、都心への通勤をあきらめ、H市の自動車工場に転職した。
工場での毎日は、判で押したかのように、画一的で単調な繰り返しの
連続だった。朝、7時25分に家を出て、8時20分に工場に着き
残業がなければ、5時30分には帰れる。
仕事は、ラインの側に立ち、自動車のエンジンが流れてくると、
部品を乗せボルトで締めるという、簡単なものだ。
ただ、ライン長と呼ばれる責任者がいて、常にベルトコンベアーの流れる
スピードを調整して、限界ぎりぎりで、1台でも多く、その「生産性」を
高めようと、「努力」している。
そんな、ある日のことだった。朝の通勤途中に、うっそうとした森の中に
続く道があることに、気がついた。もう、何千回と、通った道なのに
なんで、今まで気がつかなかったのだろう。
車を止め、道の奥の方をのぞいても、真っ暗な森があるばかりで、
どこに、続く道なのか分からない。
当然、カーナビにも、映ってない。
その、脇へそれる道は、朝、気がつくときもあれば、急いでいる時など
まったく気がつかないこともある。
自分が気になるときは見えて、気にならないときは、見えない道なのだろうか。
一度、日曜日、その脇道を探しに行ったが、結局、見つからなかった。
ある日の、帰宅途中、もう少しで家に着きそうだという時、妻からの
ケイタイがあり、何かと思って電話に出ると、「今日、カレー作ったんだけど
福神漬けないのよ~。買ってきて~。」と。
僕は、「福神漬けなんか、なくたっていいよ~」って、言ったんだけど、
妻が「あたしが、食べたいのよ!」って、言うもんだから、
しかたなく、薄暗い森の中で車をUターンさせた。
車のライトが、森を照らした時、獣の目が、光ったように見えたのは
気のせいだったのだろうか。ちょっと、いらいらしてたせいかもしれない。
しばらく、走ると、ふと気がつくと、例の「脇へそれる道」があった。
なぜかその時、何も考えずに、ハンドルをその脇道の方向に切っていた。
何か、頭が重く、思考が出来ない状況に追い込まれていた。
うっそうとした森の中を、朦朧として、運転していると、遠方に
セブ○イレブ○の大きな看板が目に付いた。真っ暗な山の中で
そこだけが都会だった。車が何台も停まり、必要以上の明かりが
まぶしいほど、外にあふれていた。
僕は、何かに導かれるように、コンビニに入っていった。
自動ドアの右横には雑誌の棚があって、フルフェイスのヘルメットを
かぶったままの、若者が雑誌を立ち読みしていた。
ふと見ると、若者と目があった。その目が・・・若者のその目が・・・
猫の目のように、ひとみの黒い部分が縦に長く・・・・
若者は、僕の視線に気がつくと、目をそらし、また雑誌を読み出した。
僕は、何かわけの分からない恐怖につつまれた。そう思うと、女子高生の
ミニスカートからふさふさのしっぽが見えたような、見えなかったような。
とにかく、ここにいるのは、危険なかんじがしたので、お茶とあんまんを
買って、逃げるように車に乗った。なんで、お茶とあんまん?
とにかく、体中が恐怖につつまれ、震える手でハンドルを握り締めた。
震える足で、アクセルを踏み、少しでもはやくここからできるだけ遠くへ行きたかった。
十分に、コンビニから離れバックミラーを見ると、なにも映ってない。
車を止め振り返っても、そこは漆黒の闇が広がるばかりだ。
その時、山の木々たちがざわざわと動き出し。ケケケ、ケケケ、ケケケと
けものの笑い声が、満天の空に響き渡った。
助手席の上の、さっきコンビニで買ったあんまんがいや?な臭いにおいがしてきた
それは、おそらく、馬糞なんだろう。お茶は、うまのおしっこか。
窓を開け、外に放り出した。
また、山の奥から、けものの笑い声が、ケケケ、ケケケと夜空に響いた。
僕は恐怖のあまり、アクセルを力いっぱい踏んだ。
その後、まもなく、僕は、その町を出て、よその町に引っ越した。
おしまい
ヒロックさんの小説読みあさりながら寝落ちしてしまってこんな時間に失礼いたします。
気になって仕方がなかった脇道に入ったはいいが異質なものに触れて恐れをなして逃げ帰る。
主人公は脇道のさらに先に進まなかったことを後悔しているのか、喜んでいるのか…
俺なら喜んでいるほうかも、家に帰って福神漬けはどうした!って怒る妻にほっとするんじゃないかな?改めて今の日常がとても大事に思えてくるんだと思いました。
街から、町に引っ越して、・・・・・。街だけにまちがえでした。ごめんちゃい。
そして、僕は、福神漬けを求めて、いまだに、アクセルをめいっぱい、踏み続けているのです。
最初の文のこの街に来てもう7年になる。と最後その町を出てよその町に引っ越した。
ってことで、今はもう7年になる町ではなくてよその町なのですね?街から町になってるのも誤字ではなくて
わざとなんでしょうか?
脇道にそれてどこかに入り込んでしまうっていのは「千と千尋」みたいですねw
実は、僕は、脇道にそれたあの日から、
ず~~っと、真っ暗な細い、どこに行くのかわからない道を
ひたすら、恐怖と戦いながら、何かから逃げ続けているのです。
このあいだ見た南相馬のご当地戦隊ヒーローのドキュメンタリーを思い出しました(≧∇≦)
脇道にそれてしまいました。
ドロップアウトというやつです。
アウトローには、なれませんでしたが、いまでも脇道にそれたこと少し後悔してます。
マイハウスは、今、桜が満開です。
覗いてみてください。
ヒロックさんのお家の中は入ってもいいのかしら・・・