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まさかり少年鬼  2


金子ちゃんは山姥(やまんば)によって育てられました。
山爺(やまじじ)と山姥は日本の山間を定住することなく移動しながら生活していた人々で、まさに日本の移動生活者、今で言うならネットカフェ難民にあたるかもしれません。
同じ境遇の金太郎はそのマッチョな体で出世しましたが、金子ちゃんは女性なのと山姥が人間でなさそうなのでこの先どうなるかは分りませんでした。
伝説では山姥は妖怪で旅人に山で宿を提供して持て成した後、旅人を食べてしまうと言われています。

「この山、懐かしい臭いがする」
おにぎりを全部食べ終えた金子ちゃんが、そう言いました。
「懐かしい臭いってどんなの?」
「かぁちゃんの臭いだ」
「金子ちゃんの母上は山姥さんじゃなかったですか」
「うん、そうだ」
「山姥って人間を食しませんでしたか?」
「おらもくって育った」
「えぇぇ、金子ちゃんも人間を食べていたのですか」
「カエルだと思ってくっていた。本当のカエルをくって始めて知った」
金子ちゃんがあっけらかんと、そう言いました。
人食い鬼もいますが、僕は人肉なんか口にしたこも無い鬼です。
「ちょとお聞きしていいですか。鬼は食べたことありますか」
僕は恐る恐る聞きました。
「まだない」
「まだないって、もしかして食べたいと思ってるんじゃないでしょうね」
「思ってる。うまいかどうかくってみたい」
「僕は美味しくありませんから」
「そうか。おまえはうまくないのか」
「はい、人間の肉に比べて鬼の肉には臭みがあります」
僕は金子ちゃんに食べられないように、そう言っておきました。
「母上を捜しにいきますか?」
「かぁちゃん、おらをくぅかもしれない。腹減ったらなんでもくぅひとだからな。おまえもくわれるぞ」
「僕は本当に美味しくありませんから。じゃ夜まで何処かに隠れていましょう。ちょうどあそこに小屋があります。そこに隠れていましょう」
僕達は農具の倉庫のような小屋で夜まで待つことにしました。


僕達が隠れた小屋は、木こりの倉庫なのか木を切るための斧と草を刈る鎌が置いてあり、その横に良く切れそうな大きな包丁とそれを研ぐための砥石もありました。
金子ちゃんは砥石があったので、すぐに自分の小さな鉞を置いてある砥石で研ぎ始めました。
その姿は堂に入ったもので、さすが山姥の下で育った子だと感心するのでした。
「しかし、この包丁で何を切るのかな?山菜料理にでも使うのでしょうか」
僕は包丁を手に取り、その研ぎ澄まされた刃を見ながら独りごとを呟きました。
「人間を解体するのだ」
「えっ」
金子ちゃんの言葉に僕の手が震え、持っていた包丁を思わず離してしまいました。
包丁が先から落ちて、硬い地面に突き刺さりました。
「こら、おに、包丁が切れなくなるじゃないか」
「すみません」
僕は金子ちゃんに謝りました。
「ひょとしてここは山姥の物置小屋」
震えた声で金子ちゃんに僕は尋ねました。
「そのようだ」
金子ちゃんは地面に刺さった包丁を抜くと、泥を腹掛けで拭いそれを砥石で研ぎ始めたのです。
「ここを早く出ましょう」
僕は慌てふためいていましたが、僕とは対照的に金子ちゃんは落ち着いたものでした。
「何を怖がって、あわててるのだ」
「山姥さんに食べられちゃいます。早く逃げましょう」
「心配するな。山姥は昼間は人間解体はしない」
「でも、見つかったら殺されるかも」
「心配するな。正体を知られた人間の前には現れぬ」
「それ、本当ですか」
「ほんとうだ」
金子ちゃんの自信に満ちた言葉に僕は少し安心しまたが、人間の子供の言葉を信じなければならないなんて、鬼の僕にしてみればちょと情けない気がするのです。
それに鬼の僕が恐怖におおのいているのに、人間の金子ちゃんが落ち着いてなんておかしいです。
ひょとしたら金子ちゃんは人間でないのかもしれないと思ちゃいました。

#日記広場:自作小説

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2012/05/03 17:20
この金子ちゃんが、長じて文芸に目覚めて、金子みすゞさんになるんですよね~
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2012/05/03 12:15
面白い!
淡々とした会話がいいね
このさきどうなるのかなぁ~
楽しみ^^v
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2012/05/03 10:05
おおおおっ!すばらしい仮装です!
こんな、表情がつけられるのね^^

金子ちゃん、冷静なのですね。
人間ではなさそうですが、その正体はいかに?
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2012/05/02 23:42
戦時中に、真冬の知床半島で座礁した船の船長が
2ヵ月後に保護されたんですが、実は死んだ仲間の
肉を食って生き延びていたと言う事件がありました。
後に、小説化された、そのタイトルを取って
ひかりごけ事件と言います。



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