Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~2

【ギルドナイト・2】

 ――よし、今だ!
 完全にナルガクルガをしとめ、二人が背を向けた瞬間、男は身をひるがえして走り出そうとした。
 だが。
「――っ?」
 「そこまで」
 数歩と走り出す前に、どこから現れたのか、一人の深紅の服に身を包んだ長身の青年が、にっこりと微笑んで男に向けて双剣の片方を突き出し、男の喉元にぴたりと据えた。
 彼の持つ水属性を秘めた優美な刀身の名前以前に、男は、もっと早く気付くべきだった。青いガンナーも着ている、虹色の羽飾りのついた鍔広帽の制服の意味に。
「ひぃっ! ま、まさか……! お前ら、ギルドナイトかっ?!」」
「ご名答」
 気取った言い方も、この若者には不似合ではない。彼は、笑ってはいなかった。
「――猟団『ゴリアテの風』の一味、ゲンダル。密猟未遂の現行犯で逮捕する」
 冷徹そのものの声音で、深紅の衣装の青年は告げた。
 年齢は20代半ばといったところか。両頬を覆う長い前髪が特長の髪型のせいで、凛々しい顔立ちは童顔に見える。しかし、こちらを見すえる視線は鉄のように冷たい。
 狩人達を束ねる組織が世界各地に存在する。ハンターズギルドと呼ばれ、狩人と狩猟依頼の仲介などを主とするが、時にこうして密猟などの犯罪を取り締まりもする。
 その実行役が、ギルドナイトの部隊だ。
 隠密を常とするギルドナイトだが、彼の制服は赤い。それは闇に葬った犯罪者達の返り血を隠すためだと、影を行くもの達から恐れられていた。
「紅蓮のロジャー……」
 わななく口で、ゲンダルと呼ばれた男は目の前の若者の通り名をつぶやいた。
 ロジャーは空いた手で、儀礼的に男に一枚の紙を見せた。ギルドマスターの印が押されている。逮捕状だった。
「罪状――。G級ナルガクルガの密猟及び、本件の募集主である、罪なきG級ハンターの殺害。依頼主への恐喝、詐欺数件の容疑。ハンターの罪はハンターの法で裁かれる。よって、お前をロックラックギルド本部へ連行する」
「ぐ、ぐうう……」
(た、助かってなかった……)
 青年の剣が顎から外れると、がっくりと男は地面に膝をついた。そこへ、狩猟を終えた二人のナイトが駆けつけて来る。ロジャーは振り向き、彼らだけに向ける温かい笑みを見せた。
「ボルト、ブルース、お疲れ様。――さあ、帰還しよう」



 大砂漠の中央に位置するオアシスに作られた大都市、ロックラック。
 日が落ちても街の喧騒は冷めやらず、多くの旅人やハンター達が市街を行きかっていた。
 どこもかしこも砂色で、埃っぽい街。それが、訪れる者の第一印象である。オアシスといっても、巨大な一枚岩に湧き出た湖があるのみで、植物の類はほとんど生えていない。
 それでも栄えているのは、大陸に必要な通商の場であり、この地域一帯を管轄するハンターズギルド本部があるためだ。
 常に砂漠から吹きつけてくる風や砂で倒壊しないよう、多くの建物が地面に張り付くような一戸建てだ。雑然としないよう、用途別の区画によって分けられている。
 ハンター達が集い、滞在もする宿屋――通称ゲストハウスのその向こうに、大きな建物がある。そこがロックラックのハンターズギルド本部である。
 ロックラックの宿場街に部屋を持ち、そこを拠点とするハンターや、世界各地から訪れるハンター達に、仕事の斡旋をする場所である。だが、表向き開かれた区画は、一階部分しかない。
 モンスターの生態や各地の地理を調査する部署など、重要な施設があるエリアは、一般ハンターが滅多なことで入ることはできない。
 その1階にある職員用食堂で、大柄な体躯を黒の騎士服に身を包んだ男が、椅子にぐったりともたれかかっていた。
 2メートル近いたくましい巨体に、褐色に焼けた肌。眉が薄く、彫りが深い顔立ちは、はた目には近寄りがたい印象を受ける。
 後ろに撫でつけた藍色の長髪を雑に掻いて、彼は大きな溜息をついた。
「それにしても、最近多いんじゃねえか? 密猟の捜査は今月で5回目だ」
「ああ、確かに多いな。――ふん、さすがにタフなお前も疲れたか?」
「まだまだぁ!――と言いたいところだが、こう連続で出動が続くとなぁ……」
 向かいに座った、青い色違いの衣装の痩身の男に、ボルトは苦笑してみせた。
「お前は疲れないのかよ」
「一人で行くよりは楽だ。お前ほどじゃない」
向かい合って座った同僚に反して、こちらは、やや繊細な作りをした美貌だ。まっすぐに伸ばした肩までの黒髪に、雪国育ちの白い肌が映えている。しかし弱々しい雰囲気はなく、鋭い目つきや、常に結ばれた口元は、ボルトとは違う近寄りがたさがあった。
「――まあ、な。一人よりかは分担できる分、楽だけどな。けど、ここんとこ、しょっぱい事件ばかりだろ? なんつーか、……やりきれないよな」
「そうだな……」
 細面を不機嫌にしかめ、ブルースは柑橘のジュースが注がれたゴブレットに口をつけた。
 二人の憂慮は、多少でも正義感のある者なら胸を痛めずにはいられないものだった。
 一ヶ月前に彼らが逮捕した密猟団『ゴリアテの風』は、手口が卑劣なことで有名だった。
 一般のハンターの獲得した獲物を強奪して横流しはもちろんのこと、本人になりすまして依頼主から報酬を倍以上要求していた。むろん、なりすまされた本人は、口封じのために殺害されている。
 今回のナルガクルガ狩猟も、後者の手口だった。
 演習で旧密林へ派遣された、とある国の軍隊がモンスターに襲われた。
 訓練された屈強な兵士達にもかかわらず、彼らは指揮官も含め、ほぼ無抵抗のまま1昼夜で壊滅した。その事実を知り、憂いた国王からの依頼だった。

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2012/06/09 21:23
GRさん、コメント感謝です。

ナイトを主人公にするのは、確かに冒険ではあります。
ご指摘の通り「強さのインフレ」が起こりがちですよね。
公式の小説を見ても、強いモンスターに苦戦しつつ勝つ主人公達がドラマになっています。
プレイヤーみんなが苦労しながら狩る楽しさを表現しようとしているので、これは共感を呼ぶために当然です。
強すぎると、いわゆる「中二」になってしまうので…^^;
でもナイトですから、普通のハンターの何倍も優れていることは確か。そこをどうするかが肝ですね。
下手するとドラゴンボールみたいになってしまうし。

ルパン三世の例えは大変良いですね!^^
ルパンの仲間も「三人の豪傑」みたいに特技に優れていて、敵と戦ったらまず負けないんですが、罠とかにかかってピンチになったりしますしね。
ロジャー達も追いつめられるとしたら、彼らの人知の及ばない脅威とか…になるのかな、と。
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2012/06/09 17:23
3人のギルドナイト、今回はこれまでとはまた全く違った舞台での物語になりそうですね
モンハンの2次創作は数あれど、ここに焦点をあてた作品ってあまりないですよね
これからどうなっていくのか・・・たのしみです
組織の中で生きている彼らは、通常のハンターとはあり方も全く異なるでしょうし
既に少し話題にもなってますが、やっぱりメインとなる相手も組織なんでしょうか

強いキャラの扱いってやっぱり難しいんだなぁ
そういう人達の話を盛り上げるために窮地を演出しようとすると強さのインフレが起こって、とんでもないことになっちゃいそうだし^^;
ジャンルは全く違いますが、ルパン三世なんかはそこ辺うまくやってますよね
彼ら能力的にズバ抜けてて、いつも最終的には状況を楽々切り抜けて飄々としてるくせに、毎回しっかり追い込まれて熱い展開になっちゃいますし
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2012/06/04 22:32
イカズチさん、レス感謝です。

ああ、剣心の師匠…比古清十郎ですね。
彼は大好きなキャラで、原作本も、彼の登場する巻だけ持ってますw
強くてカッコ良くて、できれば毎回登場してほしいキャラでしたが、そうもいかなかった理由が、今さらながらわかりました。
強すぎてカッコ良いキャラと言えば、また菊池作品ですが「吸血鬼ハンターD」を思い出します。
Dも相当強すぎるキャラなのですが、それでも一冊の話につき、何回か死にかけるくらいでして、超人すら追いつめられる危機感がドラマになるんですね。

ロジャーも「ギルドの最終兵器」とまで呼ばれる男なので、それこそ北斗の拳のケンシロウのように孤高なのかもしれません。
ケンシロウも強敵と何回か死闘を繰り広げておりますし、ロジャーも強敵に阻まれることもありましょう。

でも、ボルトのドジより、ブルースのヘマに足元をすくわれそうな気がします(^д^;)
ブルースは意外とメンタル面が弱くて、オオナズチに回復Gや秘薬を盗まれただけで動揺してしまいますから…。
って、実は自分のことですが。
こちらも、アイテムを盗まれたくらいでへこたれないよう精進します。
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2012/06/03 16:01
なるほど『機械じかけの神』
ロジャーはそんな感じですね。
『るろうに剣心』と言うマンガで主人公の師匠が居るのですが、彼を思い出しました。
タダでさえ強い主人公の師匠なので、これが輪をかけて強い強い。
一度だけモンスタークラスの相手に戦闘シーンを見せたことがありますが、そんな感じですね。

しかし『狩り』は生き物です。
絶対の強さを誇るロジャーも、どんな状況でも楽勝とはいかないでしょう。
ボルトのドジに邪魔されたりとか……。
私も毎週の狩りで邪魔にならないように精進します。
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2012/06/03 10:20
イカズチさん、コメント感謝です。

そうです。ナイトは基本犯罪者の取り締まりらしいので、まずこの場面を出してみました。
これだと、読んだ人には彼らの職業がなんとなくわかるので…。
ネコ―トさんの依頼に、教官のやつがありましたっけ?おお、あとで確認してみます!
口調で丸わかりの教官、自分で謎って言ったら世話ないですね。でもそこが憎めないんだなあ。

この話はロジャーを主役にして、彼の視点で進めようとしたんですが、こいつ「デウスオブマキナ」だったんですよ…。
何しろおいしいところをサラッと攫っていく奴なので、どうしても達観した内容になってしまう。
昔、菊池秀行先生が、魔界医師メフィストは一番書きづらいって仰ってましたが、まさにそれです。
完璧で強すぎるキャラはドラマにならない!(笑)

それでも、一人の人間としての苦悩とか、葛藤みたいなのは書けたら良いなと思います。
ロジャーは自分も気に入ってるので、カッコよくしたいです。

モンハン小説なので狩りのシーンは外せませんが、今回は濃い人間ドラマが描けたらなあと…。
その際は、ぜひあの方の動きを参考にさせて頂きます^^
ナイトなので、無様な姿を見せない狩り姿がいいですね。
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2012/06/03 08:36
第二話、拝読させて頂きました。
おお、謎のハンターは密猟者だったのですね。
おのれ、ゆるすまじ『ゴリアテの風』!

クエストの依頼書には依頼主のコメントが付いていますが、本当に中には首をかしげるような依頼主も居ますので。
その内のいくつかはこう言う仕組みで提示されたものなのかも……。
ちなみに私が最も笑った怪しい依頼書は
『ヌハハハ!我輩だ、謎の男だ! レッツ依頼!』
とのたまわる2ndGのネコートさんクエ。
これってあの人だよねぇ……。

ボルト、ブルースに続いて出てきましたね~。
『紅蓮のロジャー』
前作でも一番のお気に入りだったのですが、ストーリーの都合上、狩猟テクはお目にかける事が出来ませんでした。
本作ではその超絶テクニックを見れたら良いなぁ。
当然、モデルとなったあの方のスタイルが参考になると思うのですが……私の場合、毎回の狩猟は自分の事だけで精一杯で、細かく観察出来ないんですよね。
今度じっくりとご教授頂きたいものです。
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2012/06/02 08:20
まぷこさん、ありがとうございます。

明朝体縦書きで書いた原稿をメモ帳に貼りつけた際に、段落下げしないでこちらに貼ると、空白の調整がしやすいみたいです。
なるほど、ワードの設定ですね。
今使ってるのは90年代版と2007なので、それで試してみます。
アドバイスありがとうございました^^

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2012/06/01 17:44
Wordなら『名前を付けて保存』で保存形式が選べたと思います。
その中に『.txt』で保存できるのもあったかと……

『2007』は確か『テキスト形式』ってあったように記憶していますが。
『2010』ではどうなんだろう……?


『ファイルの種類』を『書式なし』にすれば、『.txt』になる、のかな……?
アバター
2012/05/30 12:57
まぷこさん、コメント感謝です。

txtってメモ帳ですよね?
メモ帳にコピペしたものを、こちらに写しているんですが、一段下げが余白2つになってたりして、あちこちズレが生じています^^;

そのズレを直すと文字が急激に増えたり…。wordはだめかなぁ。
storyeditorに直接書きした方が良いかとか、考え中です。
アバター
2012/05/29 23:37
『.txt』に落としてみてはどうでしょう?
アバター
2012/05/29 09:30
段落下げが直らない…。
どうにも変な余白が読みづらいですね^^;
書式削除などもしているんですが…。ニコタのページはコピーに向かないようです。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
書式のせいで読みづらかったらごめんなさい。



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