Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(60)

 女子寮の出入り口のところでクリスを見送って、夕食の前に一旦自分の部屋へ戻ろうとすると、にやにやした顔でこっちを見ている顔に出会った。
 「せっかく寮まで連れ込んだのに、チャンスをふいにするなんて、いかにもアレク君らしいねぇ」
 寮長のフレデリック・センダックだ。本人はまだ叙任されていないので、名前からは判らないが、れっきとした貴族の次男だ。…三男だったかもしれない。俺より一つか二つ年上のはずだが、童顔のせいか時々年下と錯覚してしまう。そのうえ、それを利用することを厭わない、抜け目のないやつだ。
 「そんなことだと、横から掻っ攫われても知らないぞ」
 こういう話題を吹っかけられたらとぼけておくに限る。
 「掻っ攫うって、どこへだ?」
 フレデリックの黒い目がきょとんと見開かれる。
 「どこって………誰に、っていうのは問題にしないのか?」
 「どこ、が決まれば誰か、はおのずから決まることだろう?…いずれにせよ、本人の意思なら仕方ない」
 うぅ…自分で言ってて胸が痛いぞ。
 「お前には狩猟本能ってやつはないのか?去る者は追わず、では手に入れられる物も手に入らないぞ」
 「そういう贅沢は、自分の身の振り方が決まってからでないとできないな」
 「うーん。見解の相違、ってやつかな」
 「違う。立場の相違ってやつだ。お前と違って、不始末をしでかしても後始末をしてくれる後ろ盾がないんでな」
 「おやおや。不始末をしでかすことが前提とはね。そうならないように注意するのも才覚ってやつじゃないのかな?」
 「では、きっと俺にはそういう才覚が欠けているんだろうな。じゃあな」
 そう言ってその場を立ち去りかけ、こいつに言いたいことがあったのを思い出した。
 「あ、そうだ。お前新入生に妙な事吹きこんだだろう?」
 「妙な事って?」
 「わからない事があったら俺のところに訊きに来させるように、だ」
 「ああ、あれ。だって、お前頼られたら知らないって言えないだろ?」
 う……確かに。だからって。
 …じゃなくて。だからこそ、だろうが。
 「それにちゃんと、捕まえることができれば、の話だって、注意しておいてやったぞ」
 「あーそれはお気づかいどーも」
 「ついでに言うと、春の新入生にも同じことを言ってあったんだが……今頃言い出すって事は、捕まえられたやつはいないんだな、春のやつらには。……それとも、他にお前と同姓同名の奴っていたっけ?」
 「…少なくとも、ここ三年の間は、俺一人だけだ。五年前の卒業生に、スペル違いが一人いるかな。今期の新入生は知らんが」
 「ほら、すぐに出てくるし」
 しまった。知らないって答えとくとこだったか。
 「こんな便利なやつがいるのに、わからない、困った、どうしよう…で時間を無駄にさせるのは、気の毒だと思わんか?まあ、部屋の場所と、見た目と、よくいる場所は、訊かれない限り教えないでやったが」
 …訊いたやつには、教えたんだな。
 「あーそれはどーも」
 「可愛い女子学生といちゃついてる事が多いんで、相談に乗ってくれるかどうかはわからん、ともな」
 「いちゃ…そんな覚えはないぞ」
 「傍から見たら、十分そう見える。ついさっきだって。周囲の空気の色が違ってたぞ」
 並んで歩いてるだけで「いちゃつく」とは、不本意な。
 「休みの間に、随分女っぽくなったけど…何かしたか?」
 「何を期待しているか知らんが、何もしてないぞ」
 キス以上のことは。少なくとも、実体には。意識のある状態では。
 「…ていうか、どうしてもそこへ話を持ってこうとするんだな。なんでだ?」
 「…お前、この夏、王宮にいなかったか?」
 「………はあ?なんで?」
 「王宮で見かけた気がしたんだがな」
 うーむ……ここはとぼけておくべきか、認めてしまうか。

#日記広場:自作小説

アバター
2009/06/23 14:51
60話ですね☆
すばらしい才能をお持ちで羨ましいです
これからも書き続けてくださいね^^
応援しています



カテゴリ

>>カテゴリ一覧を開く

月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009

2008


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.