Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~4

【百兎と金猫】 

 ウサギと猫。
 取調室の二人を前にして、ブルースとボルトはロジャーが言った意味がわかった。
 壁際のランタンが頼りない明りを投げかける、薄暗い地下の一室。中央に置かれた木製のテーブルの前に、二人の女が並んで座っていた。
 重要参考人として連れてこられているので、ハンターである彼女達の装備は解かれ、二人ともチュニックとズボンの簡素な私服姿である。
 どちらも二十代と見られる、いずれも相当な美人だ。ちょこんと椅子に腰かけた小柄な片方は、明るい芝色の髪をココット編みにした、穏和で愛らしい面立ちだ。
 堂々と足と腕を組んで座る相棒の方は、彼女より頭ひとつ分高い長身で、栗色の髪をケルビテールにした、凛々しい印象の美女だ。
「……そちらがトゥルー、君がランファ。無所属のハンターで、ランクは6。これに間違いないな?」
「はぁい」
「……右に同じ」
 身元証明書である、彼女達のギルドカードを見ながらブルースが確認すると、トゥルーは可愛らしく小首を傾げて見せたのに対し、ランファは仏頂面で短く返事をしたきりだ。
「――正直に白状しろ。こちらに協力的ならば、お上にも情けはある」
 ボルトがランタンを持って身を乗り出し、二人に迫った。
「お前ら二人、ゴリアテの風の一員で間違いないなっ? 今までに犯した罪を全部吐け! さあ!」
「知りませ~ん」
「まったく言われる筋がないな。身に覚えはない」
 にっこり笑うトゥルーと、きっぱり断言したランファに、勢い込んだボルトはがくりと膝を崩した。
「おいおいおい……。だって証言してる奴がいるんだぜ。密猟団の男が、お前らも一味だって言ったんだ」
「え~? 全然存じ上げないです。ランファ、心当たりある?」
「知るか。……いや、待てよ。そいつ、もしかしたらあの時のあいつじゃないか?」
「……何か思い当たることでも?」
 ブルースが、長い前髪の間から目を光らせる。ランファはうなずいた。
「半年前、私達が警邏に突き出した、ある男がいたんだ。そいつも密猟をやっていてね。明らかにギルドの者ではない奴らが、大型のティガレックスを荷車で運んでいたから、怪しいと思って問い詰めたんだ」
「場所は確か、夜の砂漠だったかな。サバンナの所で、偶然発見したんです。そしたら案の定って感じでした」
 トゥルーの無邪気な瞳に一瞬鋭い光が宿った気がして、ブルースはまばたきをした。
 あどけなさを装っているが、この女――相当の知性の持ち主ではないか?
「私達はディアブロスの狩猟前だったんですけど、依頼をキャンセルして、その人達をギルドに引き渡したんです。でも、どさくさにまぎれて、一人逃げちゃって」
「それとこれが、どういう関係になるんだよ?」
 ボルトが解せないといったふうに眉をひそめる。ブルースが軽く顎をなでて言った。
「――つまり、こういうことか。その時逃げた奴が、今回我々が捕らえた者と同一人物で、彼は君達を知っていた、と」
「そうです。だから、きっと逆恨みして、私達の名前を挙げたんだと思います」
 冷静に、トゥルーは言い切った。ふざけんなぁ、とボルトが仰々しく声を荒らげる。
「そんな都合のいいことがあるか。じゃあお前、その時捕まえたっていう男の特長言ってみろ」
「身長はあなたより頭ひとつ低い中肉中背、武器は片手剣。細目で、団子っ鼻で、ちょっと下品に笑う感じです。あ、右の頬に大きなほくろがありました」
 トゥルーの証言に、あんぐりとボルトは口を開けた。ブルースも、声には出さないが感嘆する。まったく一致したからだ。
「ど、どうするぅ、ブルース~」
「お前、こういう時甘えた声出す癖はやめろ。似合わんぞ」
 途端に情けない顔つきで助けを求める相棒に、ブルースは二人に聞こえないよう、小声で鋭くたしなめた。こいつ取り調べに向いてないな、と心底呆れもする。
「……残念だが、それだけの証言では、君達の潔白は証明できない。わかっていると思うが、身内の裏切りという線もあるのでね」
「……だろうな。私達もそう思っている」
「いやに冷静だな、ランファ君?」
「……私達にやましいことは何もない。だから怯える必要もない」
「結構」
 揺るぎのない視線と言い方に、ブルースは感心した。おそらく彼女の言う通りだと、彼も思う。先ほど目にしたトゥルーの高い記憶力も、その証拠だ。
「君達の言い分はわかった。しかし、完全にそれが証明されるまで、しばらくここに留まることになるだろう。一応拘束の身となるが、我慢して欲しい。後ほど、重要参考人にも面通ししてもらう」
「はい、もちろんです」
「わかった」
「いいか、お前達。決して変な気は起こすんじゃねえぞ。お天道様は些細な悪事も見逃さねえからな。――あ、腹は減ってないか? こんがり肉でもく、――いでっ!」
 食うか、とボルトが言い終わるのを待たず、ビシ! と彼の頭で鋭い音がした。たまらず本人は両手で頭を抱える。ブルースが、手刀をボルトの脳天に食らわしたのだ。
「いちいち芝居がかるな。小説の見過ぎじゃないか? ほら、もう行くぞ!」
「はぁ~い……」
 猫首をつかむように襟をつかまれて、すごすごとボルトはブルースとともに退室した。ガチャリと扉の鍵が閉まると、くすくすとトゥルーは口元を押さえて笑った。
「変なの~。ギルドナイトも、面白い人がいるね」
「ああ。いい漫才コンビだな」
 ランファも、それまで保っていた冷静な面(おもて)を崩し、ぷっと吹き出した。

アバター
2012/06/06 22:12
トゥさん、コメント感謝です。

もうお忘れかもしれませんが、勇気の証明連載中に、トゥさんに「モデルにして書かせてください」とお許しを頂いた時にですね、もうこの話は考えてました。
でも、その前にイカズチさんがトゥさん達をモデルにしたトゥルーを登場させたので、急きょ、それまで考えていた話をボツにしたんです。

当初考えていた内容は、もっと短くてほのぼのしたストーリーでしたが、イカズチさんの原案がセクシーキャラだったので、もっとハードボイルドにしてもよかろうと。
もちろん、悪党ではないので安心してくださいw
ハンターの世界で悪党は、生態系を崩す重罪人らしいので、ナイトに抹殺されてしまうので…^^;


内輪ネタ感は、どうしても避けられないところです。
ああ、お前らだけで楽しんでんだなと思っちゃう人も必ずいますし…ていうか、それは俺です(^w^;)
けれど、内容として面白いなら、その辺も気にならないとは思います。
実在の人物をモデルにしても面白い作品ってありますし…。ドクタースランプのマシリトとか、魔界都市ブルースの外谷さんとか。

でも今のところ、トゥさん達のほかに読まれている方もいないようなので、このままで良いと思います。
自分も、書く時みなさんの喜ぶ顔を想像して書いていますので^^

アンデルセン、抱っこしたいよ!w
アバター
2012/06/05 20:56
わー! わぁトゥルーとランファが!?

ロジャー、ブルース、ボルトの三人のおはなしだと思っていたのでびっくりしました。
……白状します。前みたいに、後半ちょこっと登場してくれたらうれしいなぁとこっそり思っていたんですw
それが、こんなに早く出番があるなんてすてきに予想外な展開でした。
「ウサギと猫」の伏線は、まさか密猟団には関わりがないだろうと厚顔にも結論づけてしまったなぁ。
冤罪でよかったです!
あ、でも女悪党というのも格好いいですね。
トゥルーでは役者不足感がありますけれど、ランファだったら義賊が似合いそう。

ボルトの台詞がおもしろい回でした。
時代劇、はないですね。時代小説かユクモ小説を読んでそうです、あははw


ええと、こういうコメントは内輪だけで楽しんでいる感がやっぱり出ますでしょうか。
第2回のレス欄に書かれていたこと、わたしもちょっと気になって。
他の方がコメントしにくい空気になってしまってはご迷惑なので、もう少し自重したほうがいいですか?
あ、今回だけはあんまりうれしかったので、ご寛恕くださいませw

わたしもアンデルセンを抱きしめてあげたい!
アバター
2012/06/04 22:47
イカズチさん、レス感謝です。

そうそう、そうですね。自分もまったく同じイメージです。
問題は、ロジャーの孤独をいかに魅力的に書くか、ですね…。そこは、あまり堅苦しく考えずに、彼が語る言葉を書いていければと思います。
三者三様、バランスが取れたトリオだと思います^^

ボルトはほんとに楽しいキャラですね。彼の明るさ(能天気さ?)が、良い緩衝材になってくれてます。
今はお調子面が目立っていますが、そのうち漢を見せてくれるでしょう。
アバター
2012/06/03 16:28
『大目に見てやってください』などと、とんでもない。
ボルトは暴走してナンボのキャラです。
私の中での立ち位置としては
ロジャー:絶対的な能力を持つリーダーだが能力が高すぎる故に孤高
ブルース:天才肌のハンターだがまじめすぎる
ボルト:高い火力を持つポイントゲッターだがジャイアニズム的なお調子者
と思っています。
それぞれ単独だと鼻にかかるようなキャラ設定ですが、この集まる事で緩和がされるのかなと。
如何でしょう?
これからもボルトをお好きなようにお引き回し下さいませ。
アバター
2012/06/03 10:40
イカズチさん、コメント感謝です。

この二人は、今後もメインとして活躍してもらう予定なので、早くに登場させました。
メインなので、描写もしっかりと。キャラ立てには、毎回苦労します^^;
ご本人、気に入ってくださると良いんですが…。

そうなんです、まさに仰る通りで、ボルトが二人を見て問答無用で「帰って良し!」と叫ぶシーンも考えてました。
シーンで彼が芝居かかって二人に迫るのは、彼女達にカッコよく思われたいからです。
でもどこかずれていて、とぼけた感じがあるのが気に入ってます。善人なんですよね。

そして、次回はご期待通りの展開が…。
かなり前に書いちゃったんですが、「これ怒られないかな」と、やや心配になってました。
でも大丈夫なようなので、早めにアップしときます(笑)
かなりボルトが暴走してますが、大目に見てやってください。
アバター
2012/06/03 09:21
おお~、この二人まで早々と登場とは。
前作ではラストにサービスと親睦のつもりでチョイ役として書かせて頂いたこの二人を。
しかも詳細な設定まで、完璧に表現されています。
嬉しいったらありゃあしない!
冒頭は「えっ、この二人が密漁団に一味?」とドキッとしましたが、なるほどそう言う展開ですか。

しかしボルトだと部屋に入った途端、二人の容姿を見て
「ようし、無罪」
とでも言い出しかねないなぁ。
『こいつ取り調べに向いてないな』
と言うブルースの感想、大正解、大納得です。

トゥルーが取り調べ室に居る間、彼女のオトモのアンデルセンはきっと待合室とかで、かわいらしいウルクシリーズのお耳を震わせながら
「旦那しゃん……」
とか呟いて不安そうにうつむいてるんだろうなぁ……。
ああ、可愛そうなアンデルセン!
抱きしめてあげたい!



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