モンスターハンター 騎士の証明~5
- カテゴリ:自作小説
- 2012/06/03 11:02:03
【かわいい猫にご用心】
ブルースとボルトがナイトの詰め所に戻る途中、石造りの廊下の向こうで、なにやら騒ぐ声がした。
「なんだぁ?」
ボルトが目を細めて様子をうかがう。ブルースは小首を傾げた。
「あれはアイルーのようだが……」
「行ってみようぜ」
顔を見合わせ、二人は騒ぎの元へ向かった。
廊下の突き当たりには、2匹のアイルーと、彼らを押しとどめようとするギルドの職員の男が言いあいになっている。
アイルー達はともに武装していた。どうも、ハンターのオトモであるらしい。
「通してくださいニャ~。旦那しゃんは悪い人じゃないですニャ~」
「そうだそうだ! そこをどけニャ!」
「だから、取り調べが済むまでは無理だって言ってるだろうが!」
何度も同じ問答を繰り返していたらしい。職員の男が呆れたように怒鳴った。
「どうした?」
「あっ、これはナイト殿」
ブルースが声をかけると、男はかしこまって敬礼した。
「いや、こいつらが、今朝連行した女性ハンター二人を解放しろとうるさくてですね……。彼女達は無実だからと言われても、いちおう嫌疑がかかっているわけですし。第一私には、そんな権限もないし……」
「ああ、わかった」
ボルトが苦笑し、「あいつらのオトモだな」と、ブルースに目配せした。ブルースはうなずいた。
「君、ここは私達が引き受けるから、もう行っていいよ。お疲れ様」
「はっ。ありがとうございます!」
心底助かったという笑顔を見せ、男は速やかにブルース達に敬礼すると、そそくさとその場を去った。後に残されたアイルー達が、ニャ―ニャ―と抗議の声をあげる。
「ニャンだよ~。まだ話は終わってないニャ!」
「よしよし~」
強面をにこやかに笑ませ、ボルトがアイルー達の前にしゃがみこんだ。
「もう大丈夫でちゅよ~。話はお兄さん達が聞くからね。怖がらなくていいのよ?」
「ニャッ、こ、子供あつかいするニャ!」
黄トラのティガ装備をしたアイルーが、ぎょっとしたように身を引いた。しかし、その傍らのウルク装備の白いアイルーが、「ほんとニャ?」と小首を傾げる。
「おじさん、怖くないニャ?」
「お、おい! アンデルセン!」
ティガ装備のアイルーが、慌てたようにウルクアイルーを見た。
「バカッ、お前は誰でもすぐ信用しすぎだニャ!」
「だって、ミイ……」
アンデルセンは、つぶらな青い瞳をうるうるさせて、相方の猫を見た。垂れたウサギ耳を象った頭巾のせいで、猫の輪郭が隠れ、ぷくっとしたしもぶくれの顔が、まるで餅のようだ。
「猫好きに悪い人はいないって、旦那しゃんがお話してくれましゅた。ついでに、ウサギと犬が好きな人も悪い人はいないんでしゅ」
「だからって、いきなり赤ちゃん言葉で話しかける大男もどうかと思うニャが?」
疑いも露わにボルトを眺めるミイに、腕組みしたブルースも、なぜかしたり顔でうなずいている。
だが、話題の張本人であるボルトは、まったく会話が耳に入っていなかった。その目は、さっきからアンデルセンにくぎ付けになっている。
「君、お名前は?」
「ア、 アンデルセンでし……うにゅっ!」
アンデルセンは、びくっと小柄な白い身体を硬直させた。ボルトが、大きく分厚い掌を、彼の頭に被せたのだ。
「ウルクのお洋服、お似合いでちゅね~。ふっくらして、モフモフで、フスフスで……ぐふふ」
「う、うニャあぁ……!」
アンデルセンは泣きそうになった。息を乱し、頬を赤らめて、涎を垂らさんばかりにこちらを見つめてくる巨漢もさることながら、ウルク頭巾の上に載せた手指に、ぐっと異様な力を込めてきたからである。
ブルースだけは、彼の衝動に気づいていた。本当は撫でたくて撫でたくてたまらないことを。
ごしごしとアンデルセンの小さな頭を摩擦で煙が吹くまで撫でて、「アーンデルセーン!」と叫びながら抱っこして、いかつい顔を猫にこすりつけたくてたまらないことを。
しかし、相手がよそのオトモだから、必死にこらえているのである。
「あ~、かあいーな~! 俺もこんなオトモが欲しいよう!――んがっ!」
ビシ! とボルトの脳天に本日2度目のブルースの手刀がさく裂し、ボルトは尻を上に上げて、顔面ごと床に伏した。
「すまない。こいつ、君のような愛らしいアイルーに目がないんだ。しかし決して悪人ではないので、安心してくれたまえ」
「すでに怪しい奴だニャ……」
げんなりと、ミイが溜息をつく。アンデルセンはすっかり怯えて、ミイの後ろに隠れてしまっている。
「ところで、君達の主人のことだけど」
ブルースが2匹を見つめ、言った。
「詳しい事情は明かせないが、今は彼女達を解放するわけにはいかない。君達の気持ちもわかるが、ここはこらえて待っていてくれないか」
「ボク等の旦那さんは無実に決まってるニャ! 旦那さん達は知らないって言ってるのに、勝手に引っ立てて。そういうの、冤罪って言うんだニャ!」
つっかかるミイに、ブルースは面倒がらずうなずいてみせた。
「それを証明するために、少し時間が必要なんだ。人間には人間のルールがあるのでね。君達がここで騒ぎを起こしても、その解決にはならない……わかるね?」
「……でしゅ」
クスンとピンク色の鼻を鳴らして、アンデルセンがうなずく。あああ、と、まだ床に倒れたままのボルトが身もだえした。
「かーい~。猫ミンにはやっぱりウルクだよな~!」
「……お前は少し黙ってろ。――ともかく、そういうことだ。2、3日かかると思うが、その間は街で大人しくしているように。では行くぞ、ボルト」
「あぁん。もっとなでたいよう。ラブユー、アーンデルセーン!」
「いいから立て!」
相棒の尻をひっぱたくようにして、ブルースはボルトを立たせ、後ろ髪を引かれる彼を強引に連れて行く。
「……そんなによそのオトモに色目を使うなら、ちゃんと自分のオトモを持ったらどうだ?」
2匹を後に残し、足早に歩きながら、ブルースが愚痴めいたように言った。ボルトは苦笑した。
「うん。そいつはわかってるんだがなあ。けど……」
「……あ。悪い……」
「いや、いいって」
地雷を踏んだと気づき、ブルースが口ごもる。ボルトは微笑した。
ギルドナイトの任務は過酷なために、いつ命を落としても仕方のないものである。そのため、遺書を用意する義務があった。
――もし、自分が家に戻って来なかった時に、愛する存在が一人ぼっちになったら。
ハンター業をやっていれば、それはオトモに限らず、待つ者すべてに言える事実であったが、ボルトにとっては、それは耐えがたいことなのであった。
だから、ボルトはあえてオトモを雇わない。
「……因果な商売だと思わないか?」
「商売って思ったことはねえよ」
帽子の鍔に半分隠れたブルースの横顔に、ボルトは笑いかける。
「強い奴と戦えるのは楽しいからな。ハンターは、俺の生きがいだ」
「……そうか」
ブルースの口元が、笑ったように見えた。ボルトもそれ以上言わず、視線を前に向けた。
短くない友情のよしみで、ブルースはボルトの手に無数に走る掻き傷が、あまたの猫にちょっかいをかけた結果であることには、触れずにおいた。
ランファとトゥルーが留置所から逃げた、と知らせが入ったのは、それから間をおかずしてのことである。
ボルトは、この性格でよくナイトになれたなと思いますよねww
けれど、最後の方で真面目なことを言ってるのは、つまり彼が軽いノリだけの男じゃないってことです。
その辺まで読みこんでくださって嬉しいです。ありがとうございます^^
ボルトとブルースは正反対の性格ですが、暴走しがちなボルトのセーブ役がブルース、反対に、慎重過ぎるブルースを引っ張る役がボルト、という役割分担です。馬が合うというやつですねw
名無しのアイルーは、うっかりすると泣いちゃいますね。
ついに帰って来なかった老ハンター、ひとりで待ち続けるナナシ…。うう;;
ボルトのセリフは、きっとこの作品に無意識に影響されていたのかもしれません。
それでも無類の猫好きなので、あちこちの猫ちゃんにちょっかいかけてフラれてるんですよ。(そして引っ掻かれている)
昔のマンガのキャラみたいな男なんです。
おぃおぃ、ボルトさんwwそんな理性で大丈夫かwwww
ホント、必要以上にギルドナイトなブルースと、全くそれっぽくないボルト
でこぼこコンビって感じですね
それでも、そんな彼らなりに色んな葛藤を抱えてるんですよね
それまでがそれまでだっただけに、ボルトのセリフは少しグッっときました
彼がオトモを雇わない理由のところで、名無しのアイルーの話を少し思い出しちゃいました
・・・が、ボルトの手にある掻き傷って^^;
あははwトゥさんもやっちゃうんですね!^^
可愛がられるペットも、あまりぐりぐり愛情押しつけちゃうと、さすがに困った顔をしますよね。
うちの犬はキューキュー切ない声を出します。そこがまた、そそられるというか(笑)
ボルトは設定の時から、ギャップ萌えを目指しました。
というのも、イカズチさんの「終焉を喰らう者」の後半で登場した時に、ブルースに対して頭が上がらない様子、その際の「だってぇ」←このセリフから、どうしても強面だけの男には思えなかったからです。
この時点で、すでにかわいい。
そこから、どんどん今のボルトができあがりました^^
アンデルセンも書いてて楽しいです。えんえんとしゃべらせてあげたいです。
ウルク装備はユッカのオトモのランマルにもやらせましたが、アンデルセンが最強ですね!
後半の二人の会話、自分も気に入っています。ありがとうございます^^
今回の作品は、とにかくカッコいい漢を書こうと思ってるので、そういった端々を感じてもらえたらと。
あまり家に帰ってる様子がないので、たぶんロジャーとブルースにもオトモはいないと思います。
もしかしたら、ボルトと同じ理由で雇ってないのかも。
アンデルセンは男の子ですね。了解しました☆
おもしろかったー、そして可愛かったです!
わたしもこれ、うちのうささんにやってます。で、ときどきイヤそうにじたばたされて、軽く蹴られたりw
みなさんおなじなんだなぁ。
それにしてもボルトの場合は外見とのミスマッチさがいいですね、あはw
アンデルセンも愛くるしいけれど、ボルトもなんだか可愛いです。
オトモを持たない理由は納得。短いながらいい会話だと思いました。
ロジャーとブルースもオトモはいないのでしょうか?
アンデルセンは男の子なので、「彼」でOKです♥
あははwww
ペットを飼う人は、誰も同じというか…www
アンデルセンへの心理描写は、自分が飼い犬に時々している行為です。でもボルトならそうするんじゃないかと思い、書きました。
可愛い動物を見ると、よだれが垂れるというのも自分のことでして…。
される側のペットとしては、セクハラ行為にも匹敵するのではと、ふと心に思う事があります。
それにしても、愛猫家の熱意と情熱は、愛犬家に勝るものがあるような?^^;
犬は懐くと、滅多なことでは噛んだりしませんが、猫はそういうのおかまいなしのようで。
それでも果敢にスキンシップを取り、引っかかれてもなお愛情をそそぐ猫飼いの方々…尊敬します。
イカズチさん、ほんと凄い人だww
アンデルセンは可愛いですね~。イカズチさんが付け加えた「でしゅ」口調にやられました。
今後もにゃんにゃと彼(?)を書いていくことでしょう…アンデルセンは可愛いからな~。
…ところで、アンデルセンって男の子?女の子かな?
性別「アンデルセン」でも良い気がしますが。彼、と書いてしまったので。気になります。
ラストの方ですが、ついさっきまで散々悩んでました。
でも起伏にかけるのが自分のストーリー作りの欠点なので、あえてこうしてみました。
ひょっとしたらストーリーが破たんするかもしれないと悩みつつ…。
おかしいと思われましたら、ご指摘よろしくお願いします。
こ、これは……。
リアルで私そのものですねぇ。
家猫にこれをやり、よく引っかかれます。
手は当然のごとく、生傷が絶えたことがありません。
まるで獣医の手のようです。
「すでに怪しい奴だニャ……」
そんなぁ、ただカワイイカワイイだけなのにぃ。
コレを読んだらトゥさん、喜びますよ。
アンデルセンは可愛いもんなぁ……。
しかし……に、逃げた!?
二人が!?
嵐の予感がします……。