モンスターハンター 騎士の証明~6
- カテゴリ:自作小説
- 2012/06/04 23:56:24
【新たな事実】
「申し訳ありませんでした!」
ギルドマスターを前に、ブルースは深々と腰を折った。傍らのボルトは、呆然と「アンデルセンちゃんが……」とつぶやいている。
ハンターズギルド本部3階の最奥に、ロックラックギルドマスターの部屋はあった。切りぬかれた窓から夜明けの白々とした光が射しこみ、室内を淡く染め始めている。
そこに、重要参考人であるトゥルーとランファを逃した失態で訪れた、ブルースとボルト、そしてロジャーの姿があった。
椅子ではなく、執務机の上に腰かけた小柄な竜人族の老人は、ひょうひょうと笑った。
「ああ、いいんですよ。君達が気に病む必要はありません」
「しかし!」
ブルースが弾かれたように顔を上げた。
「彼女達は事件の重要参考人のはずでは……。二人の証言は一理を得ていましたが、まだ裏が取れたわけではない。自作自演ということもあり得たはずです。たとえ無実だったとしても、証拠があったわけでもない」
「うんうん」
ギルドマスターは、鷹揚(おうよう)にうなずいている。
「そんな彼女達をみすみす逃がしたとあっては、ギルドの失態。もとより、監視を怠った我々の責任でもあります」
「そうですねえ。君達、彼女達のオトモのアイルー達と話していたそうじゃないですか。彼らを出口まで見送りもせず、そのまま立ち去ったようですね。彼女達が逃げおおせるよう、アイルー達が手引きしたとも考えられます」
「はい……」
無念そうに、ブルースは唇を噛んだ。だが胸の内で、信じられないとつぶやく。
一般のハンター達が依頼をもらうために集う受付――通称“酒場”は、本部ではない。普段はハンター達の応対をするために、ギルドの最高責任者であるマスターが常駐しているので、事情を知らない者は勘違いしていることも多い。
実際の本部は、街の奥に位置する巨大な遺跡を利用した建物の中にある。
遮蔽物がほとんどない地形のせいで、砂漠から吹きつける砂風に、普通の建物は持ちこたえることができない。だからこの街では、風をやり過ごすために平屋建てしかない。
そんな風土で長い歴史を耐えた建造物は、文字通り要塞と言ってよかった。
捕らえた犯罪者はもちろん、モンスターや世界に関わる重要な機密がもれることのないよう、警備は厳重この上ない。そこから逃亡するということは、蟻の巣から地上を目指すようなものなのだ。
だからこそ、己の慢心にブルースは自分を許せなかった。
「ふふん」
そんなブルースの不審と葛藤を見て取ってか、ギルドマスターはまなじりを下げて笑った。
「ま、そういうことにしておきましょう」
「――は?」
あっけらかんとした物言いに、ブルースもボルトも虚を突かれる。ロジャーだけが平然としていた。
「彼女達には、少々動いてもらいます。――これを」
「これは、あの二人のギルドカード……」
机に置かれた二枚を示されて、ブルースとボルトは覗きこんだ。
「これが、何だってんだ?」
手に取ってまじまじと眺めるが、ボルトにはさっぱりわからなかった。その後ろで、ロジャーが助け船を出す。
「よく見て、ボルト。それは偽造だ」
「なっ!」
驚いて振り向く二人に、ロジャーはうなずいて見せた。
「君達が取り調べで確認したものと同じ。今、彼女達はそれと同じものを持って行動している。こういう事態のために、何枚か用意していたそうなんだよ」
「なぜです。偽造カードの所持は重罪です。当初からそれを所持していたのなら、密猟の罪以前にそこを問わねばならないはず」
ブルースが表情を険しくする。そうだねえ、とギルドマスターは言った。
「でも、それが仮の姿だった――としたら?」
「なんだって?」
わけがわからないと、ボルトは目を丸くした。ロジャーが説明する。
「つまり、身分を偽ってでも行わなければならない任務を、彼女達が持っていたとしたら?」
はっとして、ブルースはロジャーを見返した。
「まさか――彼女達もナイトなのですか?」
「いいや。あの子達はナイトじゃない。――書記官なんですよ」
答えたのはギルドマスターだった。うそだろ、とボルトが声をあげる。
「書士隊って、モンスターの調査と研究を行っているやつか? ハンター兼任での奴は、もう珍しいと思ってたけどなあ」
書士隊――正式名称を王立古生物書士隊という。
西シュレイド地方の王都ヴェルドに本拠地があり、世界各地のモンスターの生態を研究、観察している組織である。
それゆえにハンターズギルドとの関係も浅くはない。彼らが集めた資料をハンター向けに書きなおした生態書は、ギルドを通して販売されている。狩る対象を知ることは、危険な狩りでの生存率を上げるため、在野のハンターには必須といっていい。
「しかし、どうして偽造を。それなら、最初から書記官の証明書を見せていれば良いでしょう」
生真面目なブルースが食ってかかる。うんうん、とギルドマスターは横柄にうなずいた。
「そこなんですよねえ。彼女達が連行された時、資料とギルドカードを見たのですが、わたしもそれが気になりましてね。直接彼女達に問いただしたんですよ。あなた達が部屋から出て行ったあとに」
「わかりません……。どうして、そんな回りくどいことを」
「なんでも白黒はっきりさせようとする。その真面目さは良いですが、答えを急ぎ過ぎないことです、ブルース」
ギルドマスターは、やんわりと笑った。
「そして、少し相手のことも想像してみなさい。どうして、偽造までして身分を偽らなければならなかったのか」
「うーん……。 相手に知られて欲しくないからか? けど、普通に依頼を受けるなら、偽造はまずいだろ。ギルド嬢はともかく、そこらのギルドマネージャーなら見抜くに決まってる。……にしても、こいつは良くできてるけどよ」
ボルトが顎に指を添えてうなった。そうだね、とロジャーが言った。
「じゃあ、こう考えたらどう? 公に見つかりたくない組織の目をごまかすため、だとしたら?」
「隊長、この先のルート確保は難しいです!頂上への見通しがつかず、足場も不安定です」
「安全なルートならこちらですが…どうしますか、隊長?」
「うむむ…。安全なルートなら、頂上へ行くのはたやすい。しかし、それでは面白い作品を書くという、我々の目的が達成できない」
「隊長…」
「足場がないなら作るまで。ハーケンを打ちこめ、未踏破の崖を登るのだ!」
「行き詰ったらどうするつもりですか!」
「そうなったら、また新しいルートを探るのだ。もうアップしたのだ、後戻り(書きなおし)はできん!」
…というやりとりが、つまり小説を書くにあたっての、作者の葛藤であります。
いや、ほんと…どうしてこの展開にしたんだろう俺…orz
自分でもややこしくて、ボルトの質問は書きながら助けられてました^^;
ワトソンかあ、確かにそんな感じですねw
それぞれの思惑が交錯し始めましたね
なるほど、書士隊は学者さんが中心の組織ですもんね 非戦闘員が占める割合は高そうだ
でも、だからこそ彼らの中で狩猟能力を持つ者は、高い能力が求められるのかもしれませんし
あぁ、ボルトの存在がありがたいです
ボルトへの解説という形でロジャーとマネージャーが状況を追う会話の流れ、
状況が複雑なことになりそうな今回、私の頭では普通に追いつけそうにないので、ワトソン的立ち位置に彼がいてくれて助かります^^;
この辺は恥ずかしながら、前の回の「逃げた」伏線の回収のためでして…。さあどうしようかと。
もちろん、おおまかな筋道は最後まで考えているんですが、まだ煮詰め切れてない部分もあります。
だからちょっと説明がややこしくなってます。一気に出し過ぎたかな^^;
小出しに、徐々に明かすのも考えたんですが…ああ、実力がもっとほしい!
書士隊は、辞典見るまで此方もわからなくて、今回調べて初めて知りました。
トゥさんのギルカの称号を何とか活かしたくて思いついたんですが。
此方も、辞典の情報から想像するしかないので、いろいろ微妙に間違っているかもしれませんが、上手に嘘をつくのも小説の技法ということでw
ちょっとじっくり考えたいので、更新は一週間に一度くらいになりそうです。
気長にお付き合い頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。
偽造カードが出てきたので、まさか本当に犯罪者だったのかと思ってしまいましたw
ロジャーのいうとおり考えてみましたが、むずかしいなぁ。
王立古生物書士隊! 格好よいすてきな響きです♪
一目で気に入った称号でよくわからないままつけていましたが、こんな組織なんですね。
辞典も見ず、想像と妄想をいろいろ詰めこんでいただけだったんですw
おかげで勉強になりました。辞典の情報からどう膨らませていかれるのか、たのしみにしています。
もちろん無理なさらず、マイペースで納得のいくよう執筆なさってください。
更新をわくわく待つのもいいものです♫
モデルとなっているトゥさんのギルドカードの称号に「書士隊」がつけられていたので、この展開を思いつきました。
書士隊の称号は編集欄で見つけて以来気になっていたものでしたが、wiki(モンハン辞典)を見るまで良く分からなくて。
熟読して、ああそうだったのか、と。ハンターズギルドの中にある組織と思っていましたが、全然別の組織だったんですね。
仰る通り、ほとんどが普通の学者のために、ハンターと兼任している人は少ないらしいですね。
もう少し詳しく知ることができればいいんですが。辞典にある情報をもとに、想像で書いています。
モンハン辞典のサイト、世界観を知るためには本当に助かります。
でもサイトから印刷やメモするのも大変で…。これ、書籍になれば良いんですけどね^^;
アップのタイミングは週内にランダムになると思うので、イカズチさんも無理のないペースで見に来てください^^
この名が出てきた時はゾクッとしました。
ナイトが狩りを中心とした犯罪相手の実働部隊とするならば、書士隊はモンスター生態相手の実働部隊。
彼らの働きがあってこそ個体数の調整やハンターの安全も守られているのでしょう。
しかし、その実体はほとんどが学者さんの集まりで、狩りの腕前はハンターはおろか一般人に近いメンバーも居るそうで。
ボルトの言うように、凄腕ハンターとしての腕前を持ちながら書士隊を兼務されている彼女たちのような存在は稀なのでしょう。
その彼女たちはなぜ……。
そして何を……。
謎が謎を呼びますます先が気になってきました。
先は気になりますが、無理はいけません。
あくまで蒼雪さんのペースで。
じっくりと拝読させて頂きながらアップをお待ちします。
調子良い時はバンバンアップしていきますが、更新遅くなったらごめんなさい。
お暇な時にでも、のんびり読んで頂けたら幸いです。