モンスターハンター 騎士の証明~9
- カテゴリ:自作小説
- 2012/06/14 11:40:37
【正義なき狩り】
岩と岩がぶつかるような鈍い音が、乾いた大気にこだました。柔らかい砂地に足を踏ん張り、二頭の角竜が激突する。
双方互角のようだ。互いに譲らず、2頭は何度も頭部を打ちつけ、しきりに己の力を誇示している。
「オスのディアブロスが2頭。縄張り争いをしていますね」
砂が作る緩やかな丘陵に身をひそめ、トゥルーが双眼鏡を覗いたまま言った。
「あれが今回の標的か。……取り込み中に狩るのは、少々気がひけるが……」
トゥルーの傍らで、同じく様子を窺っていたランファが、ふぅっと吐息をついて、手にした双眼鏡を離した。
「――わかっているな」
彼女達から少し離れたところに立つ、死神のような装備をした中年の男が、低い声で言った。陰鬱な見た目のせいで、彼のまわりだけ、照りつけている砂漠の日差しも陰るかのようだ。
「一頭たりとも殺さず捕獲しろ。角もなるべく傷つけるな。両方折ったら、商品にならない。もちろん、尾も切るなど論外だからな」
「……了解」
返事をしたのは、死神装備の男の隣に立つ、ブルースだった。ギルドナイトの正装ではない。ほぼジエン一式にそろえた、自前のガンナー装備である。
「言っておきますけど」
立ちあがり、トゥルーは珍しくきつい目で、死神装備の男へ振り向いた。
「私達のオトモに何かあったら、ただじゃおきませんからね――ギーレルさん」
「……ふん」
ギーレルと名乗る男は、不気味なガイコツのマスクの下で笑ったようだった。
ギルドマスターの命を受けておよそ3日目に、ロックラックから東に離れた宿場町で、ブルースはトゥルー達と合流した。
砂上船は使わず、貨物用の飛行船に便乗したので、次の船の便を待つ二人に追いつけたのだった。
よもや逮捕かと驚く二人に事情を説明し、彼女達も納得した。そしてその晩、ブルースは彼女達の行動の目的を聞かされたのである。
「私達の仕事は、生息するモンスターの頭数を確認することなんです」
二人が宿泊している部屋で、トゥルーは、テーブルの向かいに座るブルースに言った。
「どこに、どれだけの数が生息しているか。そして、年間どのくらいの数が、人によって狩られているか」
「書士隊の仕事は、モンスターの生態の研究のはずでは?」
ブルースが尋ねると、ベッドに腰かけていたランファが口を開いた。
「実際に狩り場に行って観察するだけじゃなくて、生息数も毎年記録しているんだ。モンスターの生態系を守るのはハンターズギルドの仕事でしょ? 私達の残す記録は、その一助ってこと」
「それは、わかっている」
用心深く、ブルースは二人を見た。
「君達書士隊と、ハンターズギルドは互いに協力しあっている。訊きたいのは、どうして偽造ギルドカードを作ってまで、その任務を果たそうとしているか、だ」
「それも、もうお察しのはずでは?」
トゥルーがにこりとする。
「蛇の道は蛇……。近年多発している密猟事件は、あくまで氷山の一角。本当に狩られている数は、もっと多いはずです」
「それで?」
「密猟の数は密猟者に訊け。そういうこと」
ランファが不敵に笑った。ブルースは眉をひそめる。
「つまり君達は、密猟者に接触して、狩られるモンスターの種類と数を調べるつもりなのか」
「もちろん、みすみす彼らの犯罪を見逃すつもりはありません」
トゥルーは笑みを消し、まっすぐにブルースを見つめた。
「密猟は、私達がハンターとして所属するミナガルデギルドでも、大きな問題になってます。旧大陸のみならず、新大陸――あなたが所属するロックラックギルドの管轄でも急増している。これは裏に大きな組織があると、ミナガルデの長老はお考えになったようです」
「そこで、調査員として、書士隊兼ハンターの私達にお呼びがかかったってわけ。ミナガルデのナイトも動いているけれど、ナイトの数は少ないから」
「ふむ……」
ブルースは腕組みをして、視線をテーブルに落とした。壁に備え付けられたランタンの明かりが、端麗な顔に陰影をつけている。
彼女達の言い分は、理にかなっているように思える。最近頻発する密猟事件のせいで各地の生態系が崩れるのではと、学者はもちろん、ギルド内でも懸念の声があがっていた。
以前に一斉検挙した、大型密猟団『ゴリアテの風』ですら、張り巡らされた犯罪網の端切れにすぎない。
密猟の実行犯4名のうち、3名がモンスターによって死亡したが、それはG級モンスターに手を出した、彼らの自業自得だ。同情する気はまったくなかった。
ベースキャンプで待機していた仲間の連中も同じ目に遭えば良かったのだと、密かに思うくらいだ。今まで殺された罪のないハンターやモンスター達の無念を思えば、やぶさかではない。
それにしても、ロックラックギルドマスターは、世界各地で多発する密猟の件について、よそのギルドマスターと情報交換していたことになる。だから、即決でブルース達の新しい任務が与えられたのだろう。
どうにもあの老人は人が悪い。ブルースはにが虫を噛んだような気分になり、一人眉根を寄せた。
いたずらに大声を出したり、変な俳句を詠んでまわりの人間を辟易させているのは仮の姿。赤い帽子の下では、何を企んでいるかわかったものではない。
事実、2年前にロックラックを襲った超大型ジエン・モーランの討伐指令はムチャクチャだった。
まだランク5だった有望な若いハンター数名と、やや問題ありの教官職のハンター、オトモアイルー2匹のみで討伐せよ、とは、人の命をなんだと思っていたのか。
遠方の任地から戻り、ロジャーからこの話を聞いた時は、本気でギルドマスターに怒鳴りこみかけた。
結局、多くのハンターを砂に沈めた天災級のジエンを、件の彼らが見事討伐してのけたのは、運が良かったとしか言いようがない。
無事に倒せたのは、彼らの攻撃がすべてジエンの急所を突いていたことと、同行したオトモが援護攻撃したためだと、観測隊の報告にあった。
(――戦闘員に記名されていないオトモが攻撃したら、確実に規定違反だろうが!)
規律に厳しいブルースは、そう言って怒ったが、ギルドマスターもロジャーも笑って取り合ってくれなかった。終わり良ければすべて良し、だそうである。
この書士隊の二人も、同じような思惑で利用されてはいないだろうか? ブルースが心配なのは、そこだった。
「……しかし、君達はそれでいいのか? これは明らかに、君らの職務の範囲外だろう。これはオトリ捜査というんだぞ」
伏せていた面を上げ、ブルースは二人と、彼女達の傍らで控えている2匹のアイルーを見渡した。すると彼女達から、ひたむきな視線が返って来た。
「わかってます。私達だって、犯罪者と関わるのは怖いです。でも、やっぱり見過ごせないから」
「ああ。密猟の抑止に貢献できるなら、やれるだけはやりたい。そう決めた」
「なぜそこまで……」
ブルースがいぶかしむと、トゥルーは愛らしく小首を傾げた。
「だって私達、モンスターが大好きだから。ハンターなら、みんなそうじゃないですか?」
「……モンスターが好き?」
ふっ、とブルースのかたくなな表情が和らいだ。
「そうだな。俺も同じだ」
トゥルーとランファの研究と保護活動ですが、動物の生態を調べている学者さんは、調べると同時に生態数をチェックしている人が多いですよね。
特に、絶滅危惧種なんかには、個体数がわかるように発信機をつけたりしていますね。
それらの行動は、調査だけじゃなくて保護活動にも貢献しているわけで。
トゥルー達もそんな感じで考えています。で、それプラス、モンスターを密猟から守るために戦おうとしている、と…。偉いお姉さん達ですw
ギルドの狩り場調査員の話は、モンハンの昔の作品内で実際に語られていたそうですよ。モンハン辞典に載ってました。この調査員の話も書いたら面白そうですね^^
トゥルー達の装備については、文章の流れですぐには書けませんでしたが、次の回でちゃんと書きますので、どうかご安心を。
ハンターの装備について詳しく語るのも、モンハン小説の醍醐味ですよね。
装備品は、ゲームの主役のひとつですから^^
で、下記のリアリティ=設定忠実論に戻りますが、モンハン世界の住人としてリアルに描くなら、ハンターが1年に狩りに行ける回数は、あまり多くないそうです。
飛行船が行き来する地域もあるとはいえ、飛行機ほど早くないし、列車もないし。
ほとんど馬車系か、徒歩ですよね。移動に1か月以上かかるでしょう^^;
そんな移動状況で、しかも幻とまで言われる銀レウスなどの希少モンスターに遭遇できる確率がどのくらいあるか…。宝くじに当たる確率くらいじゃないでしょうか?
その概念を、この章執筆前まで失念しておりまして、だから銀金装備を思わせるサブタイトル「白兎と金猫」なんてつけちゃったんですよ…。
作者の手落ちでした。すみません><
でもまあ、一式無理でも一つならできるのでは?と思って、次章でその辺書いてます。
それでもおかしいとお気づきになりましたら、どうかご一報を^^;
大丈夫です、秘薬や大タルGを持って行こうとするメラルーを攻撃するのは自分も同じです。
「や、やめてぇ~!それだけは!それだけは!(泣)」って焦りながら奪い返しに行きます。
一瞬殺意を覚えますが、クエストが無事に終了したら、そんな感情ケロリと忘れていますw
モンスターという存在もカッコいいですよね。怪物と言う名詞ですが、こちらの世界ではあくまで動物です。大自然を闊歩する、人間と同じ共存者。
中には神のような奴もいますよね。依頼でも、火の国で災いを鎮めるために、モンスターに生贄を捧げる風習があるって書いてました。
そういう悪習が未だに残る世界ですが、過去はモンスターの生きる権利を奪うようなことをしていたらしいです。なんか世界観がナウシカに似ています(笑)
ブルースはカタブツという設定で書いてます。それが「過ぎる」ことで、キャラが立ってくる。
長いこと小説書いてますが、今作でようやくキャラ作りをわかってきました。
まだロジャーが書きづらいですが、ボルトも含めて他キャラが助けてくれるでしょう。
「こいつならこうするだろう」と、自然に思いつきます。動かしやすいのは個性があるからなんですね。
トゥルー達の装備への考察、鋭い!
そう、装備はご想像の通りなのです。あの希少種セットの予定でした。
ですが、作中でブルースが規定違反と糾弾した理由もあって、そのままではいかなくなりました。
モンハン小説について語る2ちゃんスレを見たのですが、うなずける所がたくさんあって。
リアリティを考えると、希少種に会える確率は人生でとても低いってことを…。
なので、ジエン戦でオトモが参加するのは間違いなんです。
でも設定に忠実すぎて、世界に広がりがないノベライズもどうかと思う一人です。
事実、「こうはありえない、だってゲームの奴らはこうしゃべってるから」と考えると、一切想像が広がらなくなります。小話さえ思いつけなくなる。
つい先ごろまで、自分もその手のスランプに陥ってました。
なのでジエンのオトモ参戦は、あえてゲームから外して書いた自分なりのアレンジです。
設定を外し過ぎると、小説内でゲームの追体験ができないので、やり過ぎは注意ですね。
許される範囲が上手に書ける人は、それだけ原作を愛さないと、ですね。
うん。うんうんっ!
これは頷かずにはいられませんね。
何度やられても、爆弾の設置中に突撃されても、持ち物を盗まれても……ああ、やっぱりそのへんは勘弁してほしいなぁ。秘薬を盗まれるとターゲットそっちのけでメラルーを撃ってしまうことがあります。ごめんなさいw
とにかく格好いいんですよね。わたしがモンスターに持っている感情は、「憧れ」がいちばん近いかな。
ブルースのキャラクタも立ってきておもしろいです。
ジエンの一件ではギルドマスターにも怒鳴りこみかけた人で。
そして、人命を大事にしながらオトモの攻撃は規定違反だとつっこんでしまう人w
マジメに時々「すぎる」がつくタイプでしょうか。すてきです、あははw
ボルトの「カタイこと言うなって」という台詞が聞こえてきそうです。本当にいいコンビですよね♪
ところでブルースはほぼジエン一式。すると、以前登場したときインナー姿だったトゥルーやランファの装備はなんでしょう。「百兎と金猫」という章題に関係あるのでしょうか。気になります。
知りたい、悪役(らしき)ギーレルの装備も明らかになっているのにw なんて思ってしまったので、余裕がありましたらぜひ。彼女たちの描写も読みたいです。
もしこの後書かれる予定でしたら、堪え性がなくて失礼いたしました!
彼女たちのお仕事は、書士隊のフィールドワークですね♪
生き物相手だと不可欠ですし、生態調査や観察は体力がないとできないとも聞きます。
その意味でも、ハンターが所属しているのは自然な設定に感じられて好きです。
余談ですけれど、下のコメントにあった「使った薬莢でボウガンの銘も判断してしまうスペシャリスト」にドキドキしましたw すごい人がいるんだなぁ。
恥ずかしながら、書士隊のビオトープ管理の設定は独断によるものです。公式ではどうかわからないので。
説明を読む限りでは、環境保護の活動はしていなくて、本当に観察研究しているだけの組織のようですが。
モンハン辞典を読むまでは、書士隊も古龍観測隊も、おなじハンターズギルドに所属しているのかと思っていました。
すでにご存知の通り、ハンターズギルドは、モンスターの狩猟依頼をあっせんするだけじゃなくて、生態系の管理も担っています。そのために、狩り場の調査をする専門職があるそうです。
モンスターがどのくらい狩られたか、使った薬莢でボウガンの銘も判断してしまうスペシャリストが…。
書士隊の設定は早まった、間違った!と、これを読んで卒倒しかけました^^;
で、苦しまぎれに「書士隊は観察研究だけじゃなくて、生態系の調査もしている」という自分設定を付け加えました。
いつもモンスターを観察している書士隊の皆さんなら、生息数も記録しているでしょうし。
そのデータが、ハンターズギルドにも伝えられて連携しているのでは、と考えました。
しかし今では、危険な狩り場に赴いて調査する書士隊はほとんどいなくて、机上の研究をしている学者の集団のようですけどね^^;
その中で、トゥルーとランファは、志あるボランティアハンターといったところでしょうか。
戦う動物学者、みたいなものかなぁ。
「モンスターが大好き」という理由は、宇宙飛行士が「宇宙が好きだから」と言うのと一緒ですね^^
好きだからこそ、命をかけられる。良い生き様です。だからハンターはカッコいいんですよね。
生態系のバランスを守る活動って本当に広くて大きくて、相手にするものの形もさまざま
時には人類や自然環境とも戦わなきゃいけないし
その仕事の結果が出るには数十年というスパンでの時間がかかる
並大抵の覚悟で選べる使命じゃないですよね
ギルドナイトの彼らともまた違う、とても大変なこと 頑張ってるんですなぁ
「モンスターが大好き」というのがその動力源になってると思うと、すごいことだなって思いますよ
うん かっこいい生き方じゃないですか
モンハン辞典にも記載されていましたが、「部位破壊をまったくしないで捕獲」、以前リオレイア相手に試してみました。
いや…まったくこれは難しいです。よほど武器が強くて相手が弱かったら、足だけ狙ってクリアはできそうですが。互角、もしくはモンスターが強いと、全然それどころじゃない(笑)
ということは、ロジャー達はこの試験を見事にクリアできたんですね。
ロジャーは言うまでもないですが、ガンナーでピンポイントに部位を狙えるブルースはともかく、ガンス一筋のボルトは泣きながらクリアしたのではないでしょうか。砲撃使えなかっただろうし。
モンスターハンターの主役は、モンスターですからね^^
あの手この手の攻撃に悩まされ、泣かされながら、何度も挑んで克服していく全国のハンターは、確かにモンスターをライバルに思っているに違いありません。
友情、もしくは愛情にも近いような。悪口を言いこそすれ、本当に憎んでいる人はいないかと。
それでも悪態はついちゃいますけどね。「ファンゴてめええ!」とかww
『全て壊すな』は『全て壊せ』よりも、はるかに難しいです。
難しすぎて挑戦する気にもならん。
ナイトになるのって大変なんだろうなぁ……。
その意味で『ナイトは常に人手不足』ってえのは頷けますね。
「だって私達、モンスターが大好きだから」
どっぷりとハマっている人には共感できる台詞ではないでしょうか?
私もモンスターが大好きです。
ある種、『友情』のようなものを感じていると言っても良いでしょう。
かといって一緒に学校に通ったりと言うのはお断りですが……。