モンスターハンター 騎士の証明~11
- カテゴリ:自作小説
- 2012/06/28 10:56:58
【正義なき狩り・3】
まともに頭部をぶつけあい、2頭のディアブロスは面喰らったようにたたらを踏んだ。しかし、たいしたダメージもないようだ。
発達したエラのある顔面は、岩石よりも固くできている。少し間違ったくらいでめまいを起こすほど、ヤワではない。
ぶるるっ、と2頭はかぶりを振る。それで幾分冷静さを取り戻したようだった。そして、2頭ともブルース達を振り返ると、そろって足踏みをしたのである。
「ひとまず、共闘するつもりか……」
ブルースは次の麻痺矢を矢筒から取り出しながら、少し離れたところにいるトゥルーとランファを見た。むこうもこちらを気にしていたらしく、お互いに視線がかち合う。
「――1頭、引き離しますか?」
ようやく態勢を立て直したトゥルーが、腰に付けたポーチに手をかけ、こちらへ呼びかけた。モンスターを追い払う臭気を出す、こやし玉を投げるつもりだろう。
さて、どうするか。一瞬のうちに、ブルースは考えを巡らす。
二人の実力は、今さら疑うべくもない。先ほどキャーキャー騒ぎながら立ちまわっていたのも、彼女達なりのチームワークだとわかっている。
人によって集中力の現れ方はいろいろだ。黙々と仕事に専念するブルースのような者、常にしゃべって冷静さを保とうとするボルトのような者など、大きく二つに分かれる。
トゥルー達は後者だ。たとえ上級ハンターといえども、強大なモンスター相手に、まったく恐怖心を抱かない者は皆無といっていい。ムダに見えた軽い口調も、その怖さを紛らわせるためだろう。
(ましてや、気が立ったディアブロスが2頭も、だからな。俺はともかく、この二人には少し荷が重いかもしれない)
ブルースはトゥルーを見ると、ひとつうなずいて見せた。トゥルーも強くうなずき返すと、一旦ヘビィボウガンをたたんで、こやし玉の投擲に備える。
「来るよっ!」
ランファが叫ぶ。ディアブロス達は申し合わせたように、猛然と砂煙を蹴立ててこちらへ突進してくる。すぐにブルースは矢をしまい、奴らの軌道から脇に逸れた。同じくランファも、ディアブロスの進路から横へ退く。
「トゥルー!」
ディアブロスの進路上に立つトゥルーへ、ランファが呼びかける。わかってると言わんばかりに、トゥルーはランファへ手を振り返した。
「大丈夫!」
猛スピードで突撃してくる2頭を見つめ、トゥルーはいつでも避けられるよう身構えた。
「もう少し……、今っ!」
トゥルーは姿勢を低くして、ねじくれた角を突き立てんと突進してくる2頭の脇に転がって回避した。巨大な足が蹴り立てた砂を頭から浴びながら、それでも果敢に立ち上がり、モンスターを追いかける。
またも獲物を踏みつぶせずに空回りしたディアブロス達は、むなしく数メートル先で止まった。苛立たしげに太い尻尾を左右に振り回し、低くうなって足踏みを繰り返す。これが怒り状態特有の行動だと、トゥルーは知り尽くしていた。
相手がこちらに気づくその前に、トゥルーは1頭の背後へ駆け寄った。そして、手にしたこやし玉を振りかぶり、後ろ足めがけて投げつける。
「えい!」
愛らしい掛け声とともに、ディアブロスの大腿部で茶色い球体が弾け飛んだ。とんでもない臭気が、乾燥した熱気に漂い始める。
「やった?!」
「いや、効いてないな」
駆けつけてきたランファの問いに、ブルースはしかめ面で答えた。慌てた様子で、トゥルーもこちらへ駆け戻ってくる。
「だめ! あの子達、気が立ち過ぎて我を忘れてる!」
「そういうこともあるさ」
ある程度は予想していたことだ。ブルースは落ち着き払って言った。
「アイテムの効果を過信はできない。まあ、モンスター観察のプロである君達に言うまでもないが」
ブルースは皮肉でもなく言った。
「やはり、ここで決着をつけた方がよさそうだ。どうやら2頭はケンカしていたようだし、体力はこちらが思うほど十分にはないだろう。捕らえるだけなら簡単だ」
「――簡単、ね。さすがはナイト様ね」
ランファが茶化して笑う。トゥルーも微笑んだ。
「じゃあ、私達も負けてられないね」
まだ余裕がある様子を見て、ブルースは唇の端に微苦笑を浮かべた。
ここは、二人を信用していいのかもしれない。ブルースは思った。
ハンターにはそれぞれの狩りのやり方がある。こうして初顔合わせで狩猟に臨み、すぐに成功できる例は、あまり多くはない。大体は反りが合わなかったりして、ハンター同士がトラブルになる。
(だが、信用しなければ始まらない。この件は絶対に失敗できないからな)
再戦の合図とばかりに、ディアブロスの1頭が、けたたましい咆哮をあげた。声帯をすり合わせるような断続的な吠え声だ。近くを泳いでいたデルクスの群れが、音波に驚いて一斉に砂の中から跳ね上がる。
「狩りの主導権は、君達に任せる。俺は君達の援護に回ろう。ただし、閃光玉を使う時は一声かけろよ。矢を外してしまうからな」
「わかってる」
「任せてください!」
二人が力強くうなずき返した時、咆えていた1頭が両腕の翼をばたつかせながら、頭から砂の中へもぐり始めた。一方、こやし玉を受けた1頭は、どうすべきか決めあぐねている様子である。
(これは、そのうち効くかもしれないな)
こやし玉の臭気の効果は、時間差が出ることがある。特に、ディアブロスのような短気なモンスターは、怒っているとまったく見境(みさかい)がなくなるのだ。しかし、相手が冷静に戻れば、己についた臭気に気づき、撤退するかもしれない。
ブルースは右手を振って、二人に向こうへ行くよう合図をした。地中に潜った1頭を、こちらで引きつけるつもりだ。すぐに二人も手を振り返して、未だ無防備の1頭へ駆けていく。
「さて、俺は俺の仕事をするか」
地中から盛大に砂を跳ねあげて、狙いのディアブロスが飛び出してくる。その瞬間、ブルースは矢をつがえ、目の前の敵に集中した。背中のことは考えない。この一瞬は、獲物に矢を当てることだけ考える。
ブルースが視界に入った途端、ディアブロスはくぐもった声でうなった。えぐるように下から上へ、前に立つブルースを突きあげようと首を振りあげる。
「――っ!」
ブルースは冷静に3歩ステップし、突き上げをかわしきる。矢をつがえ、標的に狙いを定めた。
――グウオオッ!
ディアブロスが背を向け、太い尾で敵を薙ぎ払おうとする。先細った先端には平たく重いコブがついており、それが分銅の役割をして、触れたものを粉々に打ち砕くのだ。
だが、完全に見切ったブルースにとって、それは好機だった。
「ハッ!」
気合いとともに、つがえた三本の長大な矢を放つ。放たれた矢はすべて尾の付け根に的中した。しかし、ディアブロスがうるさそうに身震いすると、すぐに刺さっていた場所から抜け落ちてしまう。
(あと8回)
ブルースは、再び麻痺矢をつがえた。頭の中で数えたのは、麻痺矢が効果を発揮するための攻撃回数だ。
ディアブロスが向きを変える。落ちくぼんだ眼窩、唇がないむき出しの歯。優しさのかけらもない顔は、まともに見合えば肝がすくむ。
相手を見つめるブルースの眼差しに、揺らぎはなかった。ディアブロスが砂を蹴ると同時に、数歩下がって攻撃を避ける。そして振り向きざまに、矢を放った。
この回の取材のために、改めて3rdの「暴君の時代」を狩ってきました。
装備は、作中に出ているブルースの装備で、スキルは、集中、捕獲の見極め、罠師。
PT戦を考慮して、オトモ2匹同伴。
「こやしを使わずに部位破壊もせず、なるべく短時間で2頭捕獲できるか?」と挑戦したのですが、大暴れするディア2頭に、こやしを使わないで2頭同時は難しい!(笑)
被弾しまくりながら、なんとか30分針でクリアしましたが、とてもナイト様のような立ち回りはできなかったです。
作中のブルースの心理は、プレイ中の自分の考えにもとづいていますが、実際の蒼雪は、わりと声出してしまう方です。「あぶねえ!」とか、やばくなると叫んでいます。
こやしがすぐに効かないのは、実戦経験からです。ありますよね、当てたのに居座って攻撃してくる奴w
作品は、ブルースみたいに冷静に狩りたいなあと、やや理想が入ってますね^^;
麻痺の回数を数えるのは、ガンナーならみんなやってますね、たぶんw
特に弓は、麻痺ビンが尽きるまでに何本撃てば麻痺するのかだいたい決まっているので、わかりやすいです。(たまに効かない時もありますが)
アンデルセンの様子も気になりますねw
流れの関係上、もう少し先になるかと思います。しばしお待ちくだされば幸いです。
ボルトとロジャーもどうなったのか、早く書きたいのですが。
全20回を予想していましたが、この作品、もう少し長くなりそうです。
その一瞬で『味方の力量と体力』『どちらのモンスターを追い遣ったら良いか』『武器をたたみ、玉を投げる時間的猶予の有無』これらの葛藤を整理しなければなりません。
今回のブルースはその部分が良く出てますね~。
いつもながら見事な心理描写に感心させられます。
『アイテムの効果を過信はできない』
おまけにこの冷静さ。
私なら「え? なんでだよ。早くどっか行けよ、オメェ」みたく罵りまくり、揚句に踏まれるのがパターンです。
麻痺するまでの回数まで考慮しているのですね。
スゲェ、ブルース。
ボルトも少しは見習えよ。
戦闘シーンは読んでいて楽しいのですが、アンデルセンが気掛かりで……。
大丈夫だろうか?