Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~12

【機械仕掛けのガンランス】

 今度も的確に、ブルースの放った矢がディアブロスの尾の付け根を穿つ。
 鋭敏な知覚を刺激されて、またもディアブロスは悲鳴のような声をあげるが、ブルースは奢ることなく、機械のように次の矢を構えた。
 じりじりと照りつける陽光に肌を焼かれながらも、鋭いまなざしは微塵も揺らがない。
「時間がないんだ……。悪く思うなよ」
 本来ならば、狩られる必要のないモンスターだ。だが今は、トゥルーとランファのオトモが猫質になっている。日が暮れる前に2頭を捕獲成功しないと、彼らの命がない。
 冷徹に放たれた矢と同時にもれた声音は、わずかに苦渋に満ちていた。
 
 トゥルーは銃を腰だめに構えてしゃがむと、しっかりと照準を定めた。ランファめがけて角を振りたくっていたディアブロスの後ろはガラ空きだ。
 すさまじい氷結弾の連射がディアブロスの右足を襲う。神経が麻痺したのか、ディアブロスはバランスを崩し、砂の上にもんどりうった。
「ランファ!」
「わかってる!」
 弱点属性を突いたおかげで、ディアブロスの体力は著しく消耗しているはずだ。長年の観察眼から、彼らに麻酔が効くタイミングは熟知していた。
 オトリ役となって敵を翻弄していたランファが、腰のポーチからシビレ罠を取りだす。円盤状の器具に、強力な電撃を放つ虫を閉じ込めた、簡易式の罠だ。
 ランファは、起き上がろうとするディアブロスの足元に罠を置くと、すばやく離れた。その間に、トゥルーが念を入れて、残りの氷結弾をすべて当てる。
 ようやく起きあがったディアブロスは、ランファの計算通り、踏み出した足を罠の上に乗せた。罠に仕込まれた電光虫が危険を察して、凄まじい電撃を放射する。
「今よ、捕獲を!」
「うんっ!」
 罠に痺れて身動きが取れないうちに、トゥルーが麻酔弾をディアブロスの身体めがけて撃った。2発目の薬莢が2つに割れて砂の上に落ちると、意識を失ったディアブロスもまた、どうっと砂煙をあげて倒れ伏した。
「終わった、ね……」
「うん……」
 武器をしまうと、ランファとトゥルーは駆け寄り、顔を見合わせた。どちらも、やりきれない気持ちでいっぱいだった。
「生態数でいえば、この2頭は減少しても問題ない。けど……最後まで、自然の中で生きたかった子達だ」
 ランファの言葉に、トゥルーは唇を噛みしめてうなずく。
「ごめんね……ごめんね……」
 偽善だとわかっていても、トゥルーは謝らずにはいられなかった。ランファも、倒れたモンスターに深く頭を垂れる。

「向こうも終わったか……」
 はるか向こうにトゥルーとランファがたたずむのを見て、ブルースは吐息をついた。
「さて、こちらも終わらせるか」
 予定の本数通りに麻痺をしたディアブロスを見上げて、ブルースは再び矢をつがえた。
 無防備な尾の付け根めがけて、よく弦を引き絞って放つ。矢が放たれる瞬間のキィンと澄んだ弦の音色が、ブルースは好きだった。
 それは、命を屠る音。そして、自分を生かしてくれる音――。
 麻痺の硬直が解ける寸前に、ブルースは弓をたたんで閃光玉を準備した。何度も狩ってきた相手だから、行動が考える前に出てくる。
 口から黒い煙を吐き、何としてもこちらを殺してやろうと息巻くディアブロスの鼻面に、ブルースは閃光玉を投げつけた。
 カッと真白い光が周囲を焼き、ディアブロスが悲鳴をあげてたじろいだ。もう何度同じ手にかかっているだろうと、素人は思うかもしれない。
 だがプロのハンターは皆、道具を使うことをためらったりはしない。
 たまに、己の力を試すために、自らに厳しい制限をかけて狩りに挑む者もいるが、仕事として狩りをする者にとっては、ある意味噴飯ものの話だった。
 ブルースも、見世物として狩りをしているつもりはないので、使えるものなら何でも使う。閃光玉を多用するのも、相手にとって有効な手段だからだ。ディアブロスという“動物”の習性に従ったに過ぎない。
 閃光で目がくらんでいる間に、ブルースは立て続けに矢を弱点となる尾に当てる。そこへ、トゥルーとランファも駆けつけてきた。
「ブルースさん! 捕獲しますか?」
「ああ、頼む」
 ナイトだから、一般ハンターの手は借りない、などと思う気もない。ナイトの使命はあるにせよ、同じ狩り場にいれば、等しく仲間だからだ。ブルースはランファの申し出に、素直にうなずいた。
 そして残る1頭も、ランファとトゥルーの手際によって、無事に捕獲された。終わったな、とブルースが、長く息を吐いた。
「あ、ギーレルさんが来ました」
 トゥルーが背後を振りかえる。陰気なデスギア装備が、走るでもなく近づいてきた。
「早いな……。こちらが見こんでいたより、腕は確かということか」
「当然です。――これで、私達のオトモを解放してくれますよね?」
 眠りこけるディアブロスを見下ろすギーレルを、きつくトゥルーが見すえた。
「ふむ……」
「ふむ、じゃありません! 早く、キャンプへ戻りましょう!」
 ベースキャンプにはギーレルの仲間が数名、オトモの見張り兼、捕らえたモンスターの運搬役として待機している。
 密猟などする剣呑な輩だ。気の優しいアンデルセンが痛い目に遭ってはいないか。おなかがすいて泣いてはいないか。狩りの間も、気が気でなかったのだ。
「だんなしゃ~ん!」
 炎天下にさらされ続けたせいか、アンデルセンの気が抜けたような愛らしい声が耳奥に届いた。
「おい、待つニャ! アンデルセンってば!」
「――え?」
 トゥルーのみらなず、ランファとブルースも目を丸くして顔を見合わせる。ギーレルもぎょっとしたように身じろぎした。
「だんなしゃ~ん! 会いたかったでしゅ~!」
「ア、アンデルセン!? どうしてここに?」
 砂地を四足で蹴って、夢中で抱きついてくる白い姿に、トゥルーは目をぱちぱちさせた。
 まごうことなき愛するアンデルセンだ。それに、ランファのオトモのミイと、見覚えのない重戦士の姿が一人。
「おお~い、待ってくれえ。この装備、重いんだからよ……ハア、ハア」
「なっ……」
 今度こそ、ギーレルも絶句した。金色のガンランスを背負った若者は、決してギーレルの一味ではなかったからだ。
「なんと、天助か」
 ブルースはにやりとした。そして、腰に携えていた短銃を引き抜くと、背後からギーレルの後頭部に銃口を当てる。
「どうやら、お前達の企みもここまでのようだな。無駄な抵抗は考えない方がいい」
「くっ……」
 両手を挙げたが、ギーレル本人もわけがわからないようだった。
「これは最初から仕組まれていたのか?」
「いや」
 暑さに息を切らして駆けてくる若きハンターの姿を見て、ブルースは目を細めて笑った。
「まさしく天助だ。それはおそらく、彼にも気づかない計らいだろう。――ユクモの守り手に、ここで相まみえるとはな」

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2012/07/07 08:00
イカズチさん、コメント感謝です。

あはは…出しちゃいましたww
シリアスに展開するなら、もっと重い内容も考えられたのですが、そこまで重苦しくなくても良いかと思いまして。
それと、前作とのリンク作品でもありますので、繋がりを感じてもらうには、前作のキャラは良い役割を果たしてくれますよね。
何よりは、下のコメントにもありますように、彼に会いたかったからですがww
あれから何年後か明確に書きませんでしたが、「終焉」から数年後の設定です。そこも次回で触れていきます。

ともかくはアンデルセンとミイが解放され、小さなどんでん返しと言った感じです。
読み手としては、「え、もう?早すぎないか?」と疑問に感じられる方もいるかと…。
筆者もそう思います。狩りのシーンも、もう少し彼らが苦戦して長く書く予定でしたが、ニコタで連載として読むと、だらだら長く感じられる気がして、今回は短めにしました。
これからも狩りのシーンが出てくるので、コース料理の前半といったところですね。最初に長すぎると、おなかいっぱいになっちゃうから(笑)

アンデルセンは可愛いです。書いていてほんとに楽しい。
それも、最初のイカズチさんのキャラ付けが良かったからです^^
「~でしゅ」は、アンデルセンに良く合ってると思います!この口癖で全てが決まった…w

オトモ配信、なさってみたらどうですか?
残念ながら解雇せざるをえないネコ君は、代わりにトゥさんに引き取ってもらう(配信する)というのはどうでしょう?
イカズチさんのところから離れたけど、トゥさんのところで元気にやってます、てことで…先に配信してから、解雇しちゃうという。
オトモ解雇に流れるオルゴールみたいな曲、反則ですよねぇ^^;
アバター
2012/07/06 02:51
ほう……ほう、ほう!
『彼』が、そうですか、彼が。
『機械仕掛けの神』などとはとんでもない。
前作の書き手としても、本作の一ファンとしても嬉しい限りです。

そう言えば、この『騎士の証明』はあの事件からどのくらい経過してのお話なのか、明確な記述がありませんでしたね。
彼は、そして彼女はどうしているのか。
また、どう成長しているのか。
たのしみな次第です。

祝、アンデルセン解放。
実の所、他の方のオトモにこれだけ関心を寄せるのは初めてで……。
それはひとえに蒼雪さんの描くアンデルセンのかわゆさのおかげですね~。
今度トゥさんに配信をお願いしてみようかなぁ?
ああ、でも私の所は既に満室状態で……。
誰か解雇するのも心苦しいし。
どうしよう……。
アバター
2012/07/05 14:44
出してしまった…。ついに彼を…。
出したら絶対「デウスオブマキナ」になるから、やめようかと一晩悩んだけど、やっぱり出しました。
もう一度彼に会いたかったので。

なので、タイトルが「機械仕掛けのガンランス」です。「機械仕掛けの神」と引っかけて。
今後深くは関わらないですが、友情出演という感じです。
構成がちょっとめちゃくちゃな気がしてきましたが、なんとかなる…かな?



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