ペルソナ4ゴールデンやってみた・4
- カテゴリ:ゲーム
- 2012/07/17 09:26:16
【足立という男】
感想と言うよりも、「ペルソナ4論」みたいになっているなあ…。
今回は足立の話。
足立のファンは制作者側も予想を上回るほど多い。
凡庸な見た目に、ひょうきんで間抜けた行動が目立つ、ダメ刑事。
「ジュネスの特売日にキャベツを大量に買ってしまい、毎日キャベツばかり食っている」という何気ないセリフから、ファンから「キャベツ」というあだ名をつけられている。
シリーズで一番のいじられキャラなのだが、なぜそこまでいじられるかというと、彼が事件の真犯人だからだ。
今作では、その足立との絆を育むストーリーが用意されている。
すでに無印をクリアしている人達が、「記憶を消してもういちどプレイしたい」と述べているが、自分も同感だ。
彼の正体を知らず、彼と仲良くなったあとで、真相を知ったらどんな気持ちになったか。
その衝撃を味わってみたいと思うのだ。
彼の正体を知りつつプレイすると、主人公と足立とのやりとりに齟齬が生じているのが、手に取るようにわかる。
主人公はプレイヤーの分身だが、彼の心理描写も少なからず存在する。セリフの合間に入る、テキストとしてだ。
そこに、「足立からの気遣いを感じる…絆が深まった気がする」と、描写される。
けれど、足立という人物を知った上で足立の言動を見ていると、それが完全に主人公の思いこみであるとわかるはずだ。
足立の言動には、無言の拒絶が混じっている。
愛想のいい笑顔の裏で、実は人生に絶望していた。常にヘラヘラ笑うのは、道化としてそういう自分を演じているからにすぎない。
テキストに頻繁に出る、「足立は笑っている…」という描写は、時に場を和ませるが、彼のコミュランク6のエピソードでは、異様に不気味で、悲しく目に映る。
それでも、最後の最後まで、主人公は足立を慕っていた。
要領よく生きていたらいいんだよ、おせっかいはウザい。
足立はしばしば、そんなことを言う。
それでも面倒見はよくて、上司である堂島遼太郎が酔っ払った時は甲斐甲斐しく世話をし、堂島家にお呼ばれした時は、奈々子相手に屈託のない笑顔を見せる。
どうも主人公目線からは、そんな彼が頼もしく見えていたようである。
だから、足立が事件に関わると気づいた時、仲間に告げるのをためらうのである。
足立を告発する正しいルートを選ぶと、足立は本性を現し、今までとは打って変わった残忍な素顔を見せる。
仲間に内緒で、ひとり足立の元へ向かった主人公を、彼はあざ笑った。
「君が信じていた僕は、君が勝手に作り上げた僕だろう?」
情に訴えかける選択肢を選ぶと、こう返ってくる。妄想でガチガチに固められた女性のファンには、このセリフで目が覚めた人、多いんじゃないだろうか。
足立を好きになる人は、現状、自分や人を信じ切れていない人が多いと思う。
この場合の「好き」は、全てを達観して認めた上での好意ではなく、足立本人への愛情という意味だ。
どんな作品でも、ファンの悪役への思慕は多いもので、人間くさく、悪ければ悪いほど人気が出る。
前々作の2では、殺人鬼のジョーカーが大変な人気を博していた。彼も足立も殺人を犯しているのだが、その辺りは、ファンにとっては退廃的美学としてスル―されている。
もちろん、芸術としてアウトローにも美しさや魅力はあるし、表現や好きになる自由はあるのだが、ここではその話題は避けたい。
足立という人間について語る時、人間は一面だけでは計り知れない、ということを一番に伝えたいのだ。
まず、足立は非常に身勝手な理由で、二人の女性を死に至らしめている。
別に彼女達に恨みがあったわけではなく、ゆがんだエリート意識がそうさせたのだ。
両親、特に母親からの愛情が希薄で、勉強ばかりしていた彼は、都内の進学校に通い、それなりに成績も良かった。
しかし、たいした志もなく「合法的に銃が撃てるから」という理由で警察官になり、キャリア組としてエリート街道を歩んでいた彼が、仲間同士の足の引っ張り合いで失脚し、稲羽市へ左遷されてしまう。
この逆境は人生初だったらしく、挫折感で彼の心は最大に蝕まれてしまう。
左遷されてのち、彼は、稲羽市出身の議員秘書、生田目太郎の存在を知る。
売れっ子演歌歌手の柊みすずを妻に持っているにもかかわらず、地元人気アナウンサーの山野真由美と不倫騒動を巻き起こしているのを知り、足立の劣等感が刺激されてしまったと思われる。
不倫騒動から逃れて天城屋旅館に閉じこもっていた山野真由美の元に、足立は身辺警護として派遣されていた。
ゲームではそうは見えないが、山野は相当な美人でファンが多く、足立も彼女のファンであったらしい。
真夜中の旅館のロビーに山野を呼び出し、いきなり彼女の不倫を問いただした上、
「目えかけてやってたのに、こんなつまらない女だったなんてな…」
と、初対面の彼女をなじるあり様。完全にストーカー気質である。
目をかける、とは、例えば彼女がマスコミなどに接触されないように、足立なりに力を尽くしたことを指すのだろうが、別に山野が頼んだわけでもないので、完全な自己満足である。
もちろん山野も足立と初対面なので、彼の接近を拒絶するのだが、足立はそれにブチ切れて、彼女に乱暴を働こうとする。
激しい抵抗にあい、もみ合ううちに、足立はロビーに備え付けられていた大型テレビに山野を突き落としてしまった。
稲羽に来てすぐに、ある存在によってテレビの中に入る能力を授けられていた足立は、テレビに触ると自分の手が潜ることに気づいていた。
もちろん、テレビの向こう側が危険な世界だと察知していたので、自分から入ることはなかったが、この件で、他人もテレビの中に入れてしまうことに気づくのである。
邪魔な人間を、証拠を残さず消すことができる。
その事実に気づいた足立は、今度は、生田目に接触していた小西早紀という女子高生に目をつける。
田舎に左遷され、相当なフラストレーションを溜めこんでいた足立は、山野の殺人事件の聴取として、地元の女子高生にも多数接触していたらしい。
聞きこみというよりナンパに近く、もちろんそれは下心あってのものである。
足立は「親が許さなかった」という理由で学生時代に恋愛経験がない。
コミュエピソードで、主人公に「つきあっていた彼女がいたけどダメになった」と語っているが、真実かどうかさだかではない。山野への一件からして、妄想かもしれないからだ。
早紀に目をつけたのは、彼女が、あることから生田目に執拗にコンタクトを図られていたからだ。
生田目が早紀を誘惑しようとしていると勘違いした足立は、そこでも、足立自身意識していない嫉妬心に駆られる。議員秘書だった生田目への羨望だ。
早紀に接触した時点では、山野との不倫騒動により、議員秘書をクビにされているが、それでも足立の嫉妬心は生田目に向けられていた。
彼はひと言も言っていないが、「なんで生田目が女にもてて、自分はダメなんだろう」という子供じみた感情が根底にあったと思われる。
だから、早紀を人気のない取調室に誘い込み、無理に行為に及ぼうとしたら拒絶された時、生田目は良いのに、俺だけかよ、みたいな文句を言うのである。
母親の件もあってか、彼は非常に女性を下に見る傾向があり、ここでも早紀を軽んじて、ためらうことなくテレビに突き落とした。
つづく