モンスターハンター 騎士の証明~14
- カテゴリ:自作小説
- 2012/07/18 22:32:31
【意外な正体】
グロムの堂々とした言葉に、トゥルーとランファは、どこか神妙に顔を見合わせた。
「……いいよね、ランファ」
「――そう、だよね。その方が、あの子達にとっても……いや、もともと、良いとか悪いとか言える立場じゃないけど……」
「……うん」
しんみりとうつむいた2人を見て、グロムがきょとんとした。
「――どうしたんすか? オレ、何かまずいこと言いました?」
「いや……」
ブルースは軽くかぶりを振った。
「君が気にすることじゃない。ただ、彼女達が優しいだけだ」
「そっすか……」
グロムは頭を掻きながら、地面におとなしく座っているギーレルと、立ちつくすブルースらを交互に見た。
「てか、おっさんも運が悪かったな。ギルドのオトリ調査にまんまとひっかかるなんて」
「……」
からかいとも、同情ともつかぬグロムのセリフだった。ギーレルは黙っていたが、悔しげな吐息が感情を現していた。ミイが近づき、憎々しげに彼の骸骨の仮面をのぞきこむ。
「よくもボクらをあんな狭い檻に閉じ込めたニャ。――お仕置きニャ!」
「あっ、ミイ!」
アンデルセンが止める間もなく、えいっとばかりにミイはギーレルの仮面を引き剥がした。
「くっ……」
不気味な仮面の下から現れたのは、精悍な顔つきをした中年の男だった。
短く刈った赤毛には白髪が交じり、浅黒く日焼けした肌には、まだらに無精ヒゲが生えている。どこで負ったのか、右目をかすめるように白い傷跡が走っていた。
「ニャーンだ。骸骨の中身は人間だったニャ」
「こら、ミイ! 勝手なことをするな!」
ランファが怒ったが、へへーんとミイはおしりを叩いて逃げ回る。トゥルーが、代わりにギーレルに謝った。
「ごめんなさい、勝手なことして。あの……元に戻しましょうか?」
「いらん」
マスクを再びつけさせようとしたトゥルーに、ギーレルはぶっきらぼうに応えた。
「つか、おっさん、よくこの2人を仲間にしようって考えたな? どう見ても悪さする人には見えないだろ」
グロムが苦笑すると、ギーレルは彼を睨んだ。
「仲間ではない。利用しようとしただけだ。善人かそうでないかぐらい、目を見ればわかる」
「ふうん……」
グロムは腕組みをして、ブルースを見た。ブルースはしばらく唇を結んでいたが、やがて彼を見つめ返した。
「……少し話そう。君には大変な恩もあることだし、それに、捕らえたディアブロスが目を覚ますまで、明日の朝までかかろうしな」
砂漠の夜は寒い。
氷に閉ざされた雪山と同じくらいに冷え込む中で、キャンプの焚き火だけが明るかった。
グロムに気絶させられた密猟団は、日が傾く頃には目を覚ましていたが、大きな抵抗はなかった。
縛られていたことはもちろんだが、首領格であるギーレルのひと睨みで、みな黙り込んだのである。ならず者の集団にしては、かなり統率が取れているようだった。
「なるほど、密猟多発事件ね……。噂には聞いてたけど、本当だったんだな」
焼いた肉の食事を終えて、グロムは口のまわりの脂を手の甲で拭いながら言った。ギーレルの仲間達が、それを恨めしそうに見ている。
彼らに水は与えたが、食事はやっていない。身体の負担を考えて、今は両手を前に縛っているが、それ以上のことはできなかった。
「ギルドの者がお前達を引き取りに来るのは、日が昇ってからだ。だがそれまでに、聞けることは聞いておきたい」
ブルースはそう言ってギーレルを見た。ギーレルは視線を合わせようとしない。
たやすく口を開く男ではないとわかっている。ブルースも、すぐに声を荒げることはしなかった。
「――そういや、皆さんは、どうやってこいつらと接触したんですか? 密猟者と会えるって、そうそうできないことでしょ」
思い出したように、グロムが言った。トゥルーが答える。
「私達が所属するミナガルデ・ギルドの調査員から、彼らが溜まり場にしている歓楽街を教えてもらっていたんです。でも、その場所が、女じゃ入りづらいお店で……ねえ?」
トゥルーがもじもじして、ランファと目を見合わせた。ランファも苦笑する。
「うん。だから、ブルースさんが私達の所に来てくれた時は、やったと思った」
「へ?」
グロムが目を丸くする。ブルースは、あからさまに表情を渋くした。珍しいことである。
「娼館だ。主に、ハンター相手の」
「ああ、ああ」
グロムは手を打ち、何度もうなずく。興味深々、好奇丸出しの顔つきで、ブルースを見た。
「で、で? どうでした? その……やっぱ、や、やっちゃったりとかしたんですか――って、――うぉ?!」
目の前に短銃の銃口が突きつけられ、グロムは絶句した。いつブルースが抜いたのかもわからなかった。さーっと、血の気が引く音を、グロムは生まれて初めて聞いた。
「邪推はするな。公務執行妨害で処刑するぞ」
「しょ、処刑っ? 逮捕じゃなくてっ?」
両手を胸の前に挙げて、グロムは冷や汗をかきながら愛想笑いを浮かべた。ナイトの本気の殺気の前に、さしものユクモの守り手も、震えあがらざるをえない。
「……娼妓(しょうぎ)の一人に、話をを聞いただけだ。お前が想像することは何もしていない」
白い肌と長い黒髪が印象的な、幸薄そうな娘だった。ブルースはその娘の身の上話を聞きながら、なんとかギーレル一味のことを聞きだしたのである。一晩で飲んだお茶の代金が高くついたが、ギルドの経費で落ちるだろう。
「そ、そうすか……。ですよね~」
ようやく銃口が降りて、グロムは大きく安堵の吐息をつく。冷や汗がどっと流れて背筋を冷やした。まだ心臓がドキドキしている。目の前でイビルジョーが地面から飛び出してきても、こんな恐怖は味わわない。
あの娘か、と、焚き火を遠回しに座っていた一味の一人が毒づいた。ギーレルも苦いものを食べたかのように唇をゆがめている。ブルースは冷徹にギーレルを見やった。
「どうやら口を割った娘心当たりがあるようだが、彼女に手出しはさせない。もちろん貴様らは、これからロックラックギルドへ連行されるのだがな」
「……」
再びだんまりを決め込んだギーレルに、グロムは小首を傾げた。
「でもやっぱ、変わってるよ、あんた。トゥルーさん達はさあ、確かに世間知らずのお嬢さんぽくは見えるけど、その後ろにこんな怖いお兄さんがいたら、ふつー怪しむだろ?」
怖いお兄さんとは、無論ブルースのことである。
「そんなに人手が足りなかったわけ?」
「そうだ」
観念したのか、あっさりとギーレルは答えた。グロムのみならず、その場にいた全員がぎょっとする。
「我々には時間がない。約束の時までに、求められた数だけモンスターを献上せねば、我々は大切なものを失うことになる」
「隊長!」
仲間の中で、一番年若い男が悲鳴のような声をあげた。
「隊長?」
ブルース達は、意外な呼称に驚いた。ギーレルはまぶたを伏せ、唇を噛んでいる。
「お前達……ただの密猟団ではないのか」
険しい面持ちのブルースに、ギーレルは面を上げた。犯罪者特有の淀んだ目ではなく、何か、強い意志を秘めたまなざしだった。
「少なくとも我々は、な。――我々は、元ガル国の親衛隊だった者だ」
トゥさんも着目点がイカズチさんと同じですねww
娼館ワード、すごい破壊力だww
ブルースが問題の館に潜入するエピソードも考えていたのですが、文章の流れの関係でカットしました。
カタブツの彼のことですから、トゥルー達にお願されて仕方なく+事件捜査の使命のため、渋々(嫌々?)入館していったんでしょう(笑)
ご想像の通り、何もしてません。むしろ「寄るな触るな」ぐらいに怖かったでしょうw
それは嫌いというより、極端に女性に対して不器用だからですw
グロムも大人になって成長したんですが、娼館の話に飛びつく辺り、やっぱり軽いグロムが残ってるんですよ。まだ若いですし、その辺の興味は尽きないでしょう^^
話が一本調子にならないように、密猟団にも設定を逆転させています。
最初は、ただの悪党のつもりだったんですけどね。
いろんな出来事に事情を持たせることで、話に説得力が出ないかと。いつも勉強して書いてます^^;
あははww
やっぱりそこですよね~ww
娼館、これも出そうかどうか悩んだんですが、犯罪者が合流するならココしかないだろうと。
他に思いつかなかったので決めてしまいました。
以前、イカズチさんが「フルフルに魅せられた女ハンター」の設定で官能小説を書こうと思っていた、というお話をされていたのを思いだして、そこから妄想した蒼雪のエロ話が、今回の設定のきっかけになっています(長いな)
ボルトは、女性に対してはルパン三世みたいな男ですから、それなりにモテるけど、いざとなったら袖にされるパターンですね。ベッドにルパンダイブしたら、あらら~?みたいな。
行き当たりばったりのような展開ですが、ちゃんとまとまるようには考えております。
一番心配なのは作者ですがww
娼館潜入調査、しかもブルースが!
ある意味最も向いてなさそう、と言ってしまっては失礼でしょうか。似合わなそうでおもしろかったです。
しかも聞いただけで、公務執行妨害で処刑とはw
本当に指一本触れず、お茶飲んでお話しをしていただけなんだろうなぁw
前々回、前回分とまとめて拝見しました。グロムがさらに成長、熟成してますね。さすがユクモの護り手!
口調や、「嫁さんも待ってる」とさらり言えちゃうところにも、いい意味で力の抜けた余裕を感じます。
別エピソードで活躍したキャラクタたちの、成長した姿に会えるのはうれしいものですね♪
密猟団にも事情があるようで、続きが気になる終わり方。
ガイコツマスクなんか身につけて、いかにも悪党ですってかんじだったのに意外でした。
さらなる黒幕の臭いにドキドキしつつ、次回もたのしみにしています✿
『娼館』
召喚じゃないですよ。
ロックラックも巨大な都市です。
人の集まる所には必ずと言って良いほどある『男の社交場』
昔は陰間茶屋と言って男色相手の場所や、女性が女性を……と言う場合もあったとか。
(鬼平犯科帳にもそんな話がありました)
しかし、真面目だなぁブルース。
ボルトなら使命を忘れるほど『居続け』するだろうに。
使命を忘れちゃあかんか……。
むぅ、統率のとれた密猟団。
元ガル国の親衛隊。
話が意外な方向に転がってきましたね。
目が離せない展開になりそうです。