Nicotto Town


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モンスターハンター  騎士の証明~15

【言い分とわきまえ】

 ギーレルが発した思いがけない一言に、ブルース達はしばらく言葉が出なかった。
「お……おいおいおい、そりゃあ大層なご身分じゃないか? 密猟者が、よりにもよって元親衛隊ってな……」
 グロムがうろたえた笑みを浮かべて言った。さしものトゥルーも、純真な瞳をやや細める。
「とっさの言いわけ……じゃ、なさそうですね」
 先ほど、ギーレルの部下が彼を隊長と呼んだのも、事前に打ち合わせての芝居とは考えにくかった。
「話を聞かせてもらおうか。お前も、我々だからこそ身分を明かしたのだろう?」
「信じろと言う方が無理だろう。密猟者の分際で、不心得と承知でいる。だが、我々は貴殿らに、あえて助けを求めたい」
「ほう? お前達の身柄の保護か?」
「いや。今すぐこの縄を解き、昼に捕獲したモンスター2頭を我々に受け渡すことだ」
「はあっ?」
 声をあげたのは、ランファだった。まなじりを上げてギーレルを見すえる。
「なによ、それ。身分はともかく、密猟は事実だよね? どうしてあの子らをあんたらに引き渡さなきゃならないわけ?」
「必要だからだ」
 ギーレルは、いきり立つランファから目を逸らし、ブルースを見た。
「頼む。我々を見逃してはくれまいか。伏して頼む……」
「まず、事情を聞かせてもらおう」
 武骨に頭を下げた赤毛の男に、ブルースは淡々と応じた。
「俺はギルドナイトだ。ハンターの世界において、密猟は死に値する重罪、よって、ナイトである俺は、お前達の生殺与奪の権利がある。この短銃はその証だ。だから今は、あえてその権利を執行する」
 腰の短銃を抜くと、ブルースは、顔を上げたギーレルの額の中心に狙いを定めた。
「これは、脅迫なのだな」
「重大な任務のための、やむをえない措置だ」
「……いいだろう。話そう」
 つきつけられた武器に屈したのではない。彼の中にずっとわだかまっていた、重い苦しみに負けたようだった。ブルースは銃を下ろした。
「では、こちらからの質問に答えろ。まず、お前の本名と身分を明かせ」
「――ガレン・ハドウルフ。10年前滅びた、ガル国で親衛隊長を務めていた者だ」
「どうして身分を隠し、徒党を組んで密猟を行っていた?」
「密猟は、ある方に命じられ、仕方なくのこと……。我々はその相手に家族を人質に取られている。命令に背けば家族を殺すと言われ、事実実行されてきた。かつて100名いた隊員は、見よう見まねのハンター稼業で半数以上が命を落とし、今では、ここにいる者達が最後の生き残りだ」
 ひとつ疲れた息をつき、ギーレルは続けた。
「対人戦の訓練は受けても、モンスター相手では勝手が違う。強大なモンスターを狩れるようになるには、生まれ持った資質が必要だ。どうやら我々にはその素質があったようだが、とても貴殿らのようにはいかなかった。主の要求を満たすには、熟練のプロの力が要る。そこで、金を求める在野のハンターに声をかけることにした」
「それで、街の娼館でそういう人達をスカウトしていたわけですね、ギーレルさ……あ、ガレンさんでした!」
 急いで言い直したトゥルーに、ギーレルは苦笑した。
「ギーレルで良い。闇に身をやつしてから、その名は失くしたも同然だ」
「ディアブロスを狩る際に、商品と言っていたのは? 主とやらに売るのか?」
 ブルースの問いに、ギーレルはうなずいた。
「モンスターを狩るには費用がかかるから、主もその分の報酬は惜しまない。売るという表現は正しいだろう。昼間、貴殿らにそう言ったのは、こちらを完全に密猟者と思ってもらうためだ」
「ガイコツのマスクは、その演技のためってわけか。確かにその面見りゃ、悪者には思えなくなるよなあ」
 グロムが苦笑する。ギーレルも、わずかに自嘲めいた笑みを浮かべた。
「そのアイルー達を捕らえて俺が監視についたのは、自分達の代わりに狩りを遂行してもらうためだ。非道とは承知だったが、こちらも手段は選べなかった」
「ふむ……家族を人質に、か。言い分は通っているな。それで、今まで運ばれたモンスターの数と種類は?」
 ブルースが再度尋ねる。喉が渇いてきたのか、ギーレルは何度か咳払いをしてから口を開いた。彼も、ここまで長くしゃべることは久しいのだろう。
「事実、主は、懐を惜しまずモンスターを買い集めている。我々だけでは手が足りず、近隣に噂を流して、密猟をあっせんしているのだ。近年金目当ての密猟者が、こぞってモンスターを主のもとへ売りつけている。種類は多様だが、主にティガレックス、ボルボロスなど、砂漠に適応して好戦的なモンスターを主に集めている。リオ竜種は生死を問わず高値で買い取っているな」
「なんてひどい……」
 トゥルーは言葉を失い、苦しそうにうつむいた。私利私欲でモンスターが狩られる現状は、いつ聞いてもつらい。
「こちらが話せることは、ここまでだ。……これで、我々の要求を受け入れてくれるか?」
「だめだ」
 懇願したギーレルの瞳が、ブルースの鉄のようなひと言で絶望に染まった。
「なぜ……!」
 ギーレルのみならず、捕らえられている男達が悲痛な声をあげる。けれど、ブルースは眉ひとつ動かさなかった。

「言い分はわかった。だが、お前達の話に裏付けができない限り、やすやすと信じるわけにはいかない」
「それは……!」
「第二に、いかなる理由があれど、密猟は犯罪だということだ。犯した罪は償ってもらわなければならない」
「お前達だって、オトモアイルーごときのために密猟しようとしたんじゃないか!」
 一味の一人が声高に叫んだ。ニャンだと、とミイが気色ばむのを、ランファが止める。
「ごときとはニャンだ! 種族差別だニャ、けしからんニャ!」
「やめな、ミイ。確かにその通りだから。――捕獲した後、2頭とも逃がそうとした私達の考えだって、偽善だし、欺瞞だ……。彼らばかり責めることはできないよ」
「そう……。あの時、私達はアンデルセン達を、あの2頭と秤にかけてしまったことは本当だもの。どちらも代わりのない命なのにね……」
 トゥルーは黙りこくったままのアンデルセンを抱きしめ、うつむいた。変わっているな、と、ギーレルが目をしばたく。
「あのように恐ろしいモンスター相手に、同情めいた言葉を言うとは。初めて聞いた」
「彼女達は、観察者であると同時に、見守る者――だからな。環境と、生物の」
「ははっ、なんかトゥルーさん達見てると、妹を思い出すよ。あいつも、ハンターやってるわりには、時々かわいそうだって泣いてるんだよな……」
 ブルースとグロムのやりとりに、ギーレルはますます解せない顔つきをした。
「理解不能だ。どうしてそこまで思える? まして、泣くなどと」
「そりゃああんた、この人達の狩りの腕を見たなら、わかるんじゃないか?」
 グロムは、にっと不敵な面構えで笑った。
「この人達は、もんのすげー強いんだぜ。あのディアブロスを2頭同時に相手して、怪我ひとつ負わず、しかも短時間で捕獲するなんてさ。並のハンターにはできないこった」
「なるほど……。強さから来る余裕、あればこそか。――うらやましい限りだ」 
 苦く笑ったギーレルには、むしろ悟ったような清々しい表情があった。

#日記広場:自作小説

アバター
2012/07/25 09:31
イカズチさん、コメント感謝です。

こちらこそ、いつもお忙しい中時間を割いて頂いてありがとうございます^^

とりあえず、この回ではこのくらいの情報提示でちょうどいいかと思っています。
最後まで引っ張る謎もありますが、所々でカードを表返していく感じです。
イカズチさんのコメントで、「ああ、そういう展開もあるのだな」と気づかされたりして。
毎度、とても参考にさせて頂いてます。ありがとうございます^^

書士隊は学者集団と言われてますが、ただ学問するだけでは、モンスター相手にやってられないですよね。しかもハンター兼任で、なんて…やっぱり、愛がないと。
キャラ、ちゃんと描けてますか?おぉ、嬉しいです、ありがとうございます!
自分では自分の力量がまったくわからないので…。お世辞でも褒めて頂けると、大変勇気が出ます。書こうと言う勇気。
読んでくれる人がいるって、最高に幸せですねぇ…。

アバター
2012/07/24 22:49
掲載、ご苦労様です。

……ううむ、わからない。
主は何が目的でモンスターを集めているのでしょう。
ギーレルも元親衛隊長まで務めた男。
その彼が仕えるのですから、単なる悪党ではないのか?
それとも過去のしがらみなのでしょうか?
この謎には大いなる企みの存在が感じられます。

『見守る者』
良いですねぇ。
思わず胸に迫るほど書士隊にはぴったりな表現です。
偽善、欺瞞……本当に偽善、欺瞞ならば、その事を悔いたりはしないでしょう。
ランファのまっすぐな想いが、すなわち書士隊に彼女を成らしめたのでしょうねぇ。
キャラが描けてます。
羨ましいほどに。
アバター
2012/07/24 22:01
ギーレルの言い分の回。長いです。読むのが疲れてしまいませんように^^;

今放送されている「宇宙兄弟」を見てると、前の回の種明かしが次の回で成されていて、ストレスのない進行具合ですよね。
その辺を参考にして、ちょっと進み具合を早くしています。

次の次の回から、ロジャーとボルトの話になります。



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