モンスターハンター 騎士の証明~18
- カテゴリ:自作小説
- 2012/08/06 22:30:15
【公国の若将軍】
しかし、ロジャーが本題に踏みこむことはできなかった。彼が口を開いたその瞬間、出入り口の方から慌ただしい靴音が聞こえてきたからである。
「お待ちを! 今はまだ、陛下は謁見中です!」
「火急の報せだ! そこをどけ!」
張りのある男の声は、侵入を止めようとする兵士を押しのけ、大股で謁見の間へと入ってきた。どこの意気高い者かとボルトは侵入者へ目を遣り、やや息を呑んだ。軍服に身を包んだ褐色の肌の男は、全身血まみれだった。
「すまないが、異国の騎士よ。少し外してくれないか」
「どうぞ」
鬼気迫る軍人の表情に訳ありと見て、ロジャーは素直に脇へどいた。軍人は、疲労困憊の影をやつれた顔に滲ませながら、王の前でうやうやしく片膝をついた。
「これはジル将軍。よく無事で戻った」
老王が、覇気のない笑みで彼をねぎらった。ジルと呼ばれた軍人は、しかし、笑みを浮かべなかった。かわりに、悲痛な眼差しで王を見上げた。
「陛下……」
「して、ジル将軍。戦績はどうであったか?」
問うたのは、宰相の方だった。ジルは、この時ばかりは自分の感情を隠さず相手を睨んだ。
「……ティガレックスを一体、始末してございます」
「おお、さすが。エルドラ公国きっての精鋭達よ」
王は無邪気に喜んだふうだったが、ジルの顔は苦々しかった。
「ですが、我が軍のおよそ三分の二が壊滅いたしました……。これ以上は、もう、我々の手には負えません。陛下、どうかご決断を」
「ならぬ」
宰相が、傲然(ごうぜん)とジルを見下す。
「我々人間が、モンスターごときに敗北するなどあってはならん。まったく歯が立たないならまだしも、現にこうして勝っているではないか」
「それは!」
きっ、とジルは宰相を見すえた。もとは精悍な顔立ちであったろうが、波打った黒髪はもつれ、汗で張り付いた土埃に額からの血が混じり、無精髭が頬を覆っていた。敗残の兵という表現が、ボルトの頭に浮かんだ。
「それは、兵士達が死にものぐるいで戦ってくれたからです! ですが、もう私は彼らに、あのように恐ろしい怪物を倒せと命ずることはできない。兵は尽きたも同然、いや、そもそも我々のような者が、モンスターに戦いを挑むべきではなかったのです」
(何の話をしているんだ?)
ボルトは、わけがわからなくなった。今の世の中、モンスターはハンターに依頼すれば、別段に脅威ではない。もちろん、モンスターの強さやハンターの実力で解決できるか否か決まるが、戦い方を知らない一般人に、モンスターは手に負えないというのが世界的常識になっている。
ハンターズギルドが成立するまでは、才気ある者達が人間に害をなすモンスターと戦って勝利した歴史もあった。彼らは英雄として祭りあげられ、今なお吟遊詩人の歌に語り継がれている。
だが今は、昔ではないのだ。
「少し、よろしいですか」
ロジャーも思うところあったのか、僭越ながらと口を開いた。
「あなた方は、今まで自力で自国を襲うモンスター達と戦ってきたのですか?」
「そうだが、何か問題でも?」
宰相が不服げに自らの口髭をしごく。ロジャーは、少し困ったように笑ってみせた。
「どうして、ハンターズギルドに救援を求めなかったのですか? 我々ギルドは、そのための組織です。依頼してくだされば、こちらからハンターを派遣しましたものを」
「ハンターは信用ならん」
当然のように、宰相は言い放った。
「奴らのように野蛮で汚らわしい者に救われるくらいなら、我が国はいっそ死を選ぶ」
「……」
ロジャーから、笑みが消えた。ボルトもなんだかムカムカしてきた。こいつらは何を言っているんだろう?
「汚らわしい、とは?」
ロジャーが尋ねると、宰相は目をすがめて、皮肉に笑った。
「見ての通りだ。奴らは狩ったモンスターの皮や牙を身に着けておる。それを武器にも使うではないか。怪物を倒すために怪物のものをまとうとは、奴らこそ化け物ではないかね」
「~~っ!」
怒りのあまり、ボルトは一瞬にして血の沸点があがった。怒鳴りつけようと大きく息を吸いこんだが、すんでのところでロジャーが彼の胸の前に手をかざす。
「だめだよ。今は落ち着いて」
「けどよっ……!」
あいつらは何もわかっちゃいない。ボルトは腹が立って泣きたくなった。ハンターにとって、命懸けで狩った獲物から得た素材は、死の戦いから勝利した証、何より、生きて帰ってこれたことへの勲章のようなものだ。それを身に着けることは、ハンターの誇りでもある。
結局、このジルとかいう将軍が示しているように、人間ごときの力ではモンスターに太刀打ちできないのだ。もちろん、対モンスター用に開発された優れた金属の武具はあるが、強いモンスターから採れる素材にはかなわない。毒をもって毒を制す――モンスターにはモンスターを、ということだ。
宰相が蔑むのも、その辺りなのだろう。彼にとっては、モンスターはただの化け物でしかないのだ。おそらく、それを狩ることのできる人間さえも、ゆがんだ畏怖の対象なのだろう。
モンスターから採れる高価で美しいものは愛するくせに、それを得るための汚くて残酷な部分には目を向けもしない。
モンスターを狩ることは、決して娯楽でも、きれい事でもない。王宮で舞踏会に興じている彼らが、身に着けている毛皮や宝石、食す肉や珍味がどうやってその手もとに運ばれているか。ボルトは、えんえんと説教したくてたまらなくなった。
ロジャーは、そんなボルトの無念を察してか、小さく首を横に振った。わかっている、だが今はこらえろ。そう言っていた。
「くっ……」
ああ、俺はなんでナイトになったかっていえば、こういうむかつく奴らをふんじばってやりたいからだったんだ。ボルトは歯を食いしばった。
(そういや、ブルースも何かあると愚痴ってたな。某国の第三王女、いつか必ず悪行を日のもとに晒すってよ。お前の気持ち、今ならよーくわかるぜ)
「恐れながら、陛下に申し上げます」
うなだれていたジルが、再び顔を上げて言った。
「どうやらこの客人は、ギルドの方のようだ。ならばこれは天命、ここはどうか、彼らに救いを求めてはいかがでしょうか。これはご提案ではなく、私のお願いでございます。どうか、お考えを」
「……すまぬ」
老王は、悲しげに目を伏せた。ジルの顔が絶望に染まった。
「陛下……!」
「さあ、将軍、それにお前達も下がれ。王はお疲れだ。謁見はこれにて終了する」
宰相が言うと、王はそそくさと立ち上がった。部屋の両脇に控えていた衛兵達が浮き足立つ。早くこの場から出ないと、力ずくで追い出すつもりだ。
ゲームを知らない方にも面白いと言っていただけるとは!書き手として感無量でございます。お褒めのお言葉うれしいです。ありがとうございます!(つ▽т)
2次創作でモンハンの小説を書いている方は非常に多いですが、小説ブログやサイトをのぞいてみると、その奇抜さには驚くばかりで。たとえば、モンスターが人間に化けるとか、主人公になつくとかです。
もちろん自分アレンジを否定する気はないです。そういう発想から学ぶものも多いので。
ただ、人に読んでもらうモンハン小説としてはどうなんだろ?って思います。
ゲームが原作の小説を読む人は、頭の中でゲームの世界を体感したくて読むので、原作の設定、世界観は忠実に守って書いた方が、より親しみやすいのではないかと思っています。
この作品は、ギルドナイトが主役というゲームではありえない設定ではありますが、ゲームが持つ世界観を壊さないように気をつけています。
ドラマパートと狩りのシーンのバランスは、いつも「これでいいのかな」と首をひねりつつ悩んで書いてます。戦闘シーンは、長すぎると退屈になるし、少なすぎても不満になるので。官能小説と同じですねww
さえらさんのように、こちらが提示した見どころをちゃんと抑えて読んでくださっていると、悩んだかいもあるというものです^^
ここでの宰相は嫌な奴ですよね~。ボルトも殴れるものなら殴っていたでしょう^^;
国家権力に、一般人は無力です。現実にある、そういう憤りもこめられたシーンだったりします。
ロジャーは怒らせると怖いでしょうね。というか、カッコよくて怖いですww
イカズチさんの書かれた、勇気の証明~第六章で登場したロジャーは、悪党を怒鳴りつけてました。これがめちゃくちゃ男前だったんで、どうしても主人公にしたかったのです。
あの姿があって、今こうして書いているんですなww
読み飛ばすだなんて、そんな勿体ないことありえません!^^
狩りのシーンも、緊張感と躍動感があって素敵ですが、狩りのシーンばっかりよりも、こういったシーンもふんだんに盛り込まれている方が物語に奥行きが出ますよね^^
『この世界でいま起きていること』をきちんと背景として理解できていると、いざ狩り! という時にも物語にぐっと入りこめると思うのです。
『強い相手に挑んで勝利する』それだけが見せ場じゃないところが、この作品の好きなところです^^
また、老王、宰相、将軍……それぞれが良い意味でトゲになっているのもいいなぁ。
チクリと刺さったこのトゲをきっとロジャー達が抜いてくれるのでしょう。まさにカタルシスですね^^
エルドラ公国は、老いた王より利己的で狡猾な感じがする宰相が問題ですね~~。
ジル将軍の葛藤が、ボルトの憤りが、なんとも胸に迫ります。
ロジャーさんの静かで激しい怒り方は、彼の男前度を上げていますね。
怒らせたら一番怖いのはロジャーさんなのでしょうか?w
この将軍と王のモデルは、3rdでの依頼に登場する「年若い将軍」から来ています。
砂漠の大連続狩猟のクエで、彼は王に自国の軍隊だけでモンスターを討伐せよと命じられており、無残に敗退しておりました。
この回は、どれだけ一般人がモンスターに敵わないかを示すために書いたようなものです。
前回、ブルース達が楽勝でディア2頭を狩ったもので^^;
もちろん、この将軍とのエピソードは、今後の伏線でもありますが。
人間を攻撃する武器じゃ、絶対勝ち目はないですよね。
ハンターが背負う武器を見れば、それがよくわかります。剣もボウガンも人の身長並み、薬莢や矢じりのなんと長いことか。このくらいしないと、あの固い甲殻やなんかは傷つけられないですよね。
執筆時、ちょうどテレビでロードオブザリングを観てまして、あれに登場する巨象と人間の戦いに、モンハンを重ねて見てました。
兵士の矢が針山のように皮膚に立っているのに、象はまったく動きをゆるめない。でも、目や象使いを攻撃すると、あっけなく倒れる。急所を突くことがいかに重要かわかりますね~。
モンハンの狩りも、まさにそういうことなんですよね。
ジル将軍も相当つらかったでしょうね。彼のこの国での葛藤が少しでも感じてもらえればと思います。
もちろん、ボルト達の怒りも…。いつの世も、古い考えが何かと邪魔をするものだ、というシーンです。
ご厚意感謝します。よかったです^^
こちらの健康は大丈夫です。ご心配ありがとうございます。最近涼しいし、筆が乗っている時は、まったく疲れませんです。
週末の狩りも良い取材になってます。プレイ中作品のこと考えて、たまに気が散ってミス連発などありますが、ご容赦いただければ(笑)
こちらこそ、読むほうが疲れないか心配です。
当初2千字以内で収めて連載すると言いながら、結局、字数限界まで書いてしまいます。
もっとたくさんのことを一度に伝えたいと思うからでしょうね。物書きの性みたいなものなのかな。
思わず「なんて無茶な」とつぶやいてしまいました。
今回はボルトと完全シンクロ。
そんな暴挙とも言える下知を下す王への怒りとジル将軍への同情を禁じえません。
モンスター素材が使えないと言う事は、作られる装備は『スティールシリーズ』に準ずるもの。
それもエルドラ公国は『国交がない小国』とされていますから、貴重な鉱石、グラシスメタルや紅蓮石が大量に流通しているとは考えられず……。
『スティールSシリーズ』にも強化出来ていないと考えるしか。
勿論、ギルドと取引が無い以上、装備の性能はさらに下回る粗悪なものなのでしょう。
そんな初期装備以下の素人が……ティガレックスを。
多数の犠牲が出たとしても、むしろ討伐出来た方がオドロキです。
兵士に死にもの狂いで戦うように命令せざる終えなかったジル将軍の心中を察すると……。
あんまりだなぁ。
物語に入り込めているかって……上記の通り感情移入し捲りです。
ご心配なく。
蒼雪さんの方こそ連日の執筆でお体とか大丈夫ですか?
特に週末には明け方まで狩りをしてますし……。
モンスターハンターの小説になってるかどうかも不安ですが、今後も自分なりに、書きたいように書いてみたいと思います。
なるべく読み飛ばされないように苦心してはいますが、ちゃんと物語に入り込めているかなあ?
とりあえず作者は面白がって書いてるので、たぶん面白いんじゃないかとは思いますが^^;