「契約の龍」(70)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/07/04 06:45:40
ギレンス伯が、所用がある、と言ってあたふたとその場を去ってしまったので、俺たちは廊下に取り残された。
「…どうする?」
とりあえずクリスにお伺いを立ててみる。
「どうするもこうするも…いつまでもここに立ちつくしてるわけにもいかないだろう?とりあえず、最初に案内された客間のほうに戻ろう。案内もないのに、あまり人のうちをうろつきまわる訳にもいくまい」
「それはそうだけど…その客間はどこだか、わかるのか?」
「う…」
客間から葬儀を行った広間までも随分歩かされたし、会食を行った食堂からここまでも、また随分と歩かされた。階段の上り下りも一回や二回じゃなかった。この館自体が増改築を繰り返しているようなので、通路が複雑なのは致し方ないのだろうが…
「クリスは、ここまでどうやって来たか、覚えているのか?」
「……大体の方角なら」
「俺も同様だ。シェリルさんへの客が減ったのは、多分これが原因じゃないかな」
「…なるほど。しかも、見渡す限り、使用人の姿も見えないし。不親切な家だな」
「不親切、というか…使用人通路は別に設けられているんだろうな、おそらく。王宮でもそういう区画はあっただろう?」
「ああ…確かにあるが…私は「客用通路」と「作業用通路」だと思っていたが」
「「建前通路」と「実用通路」とか?この際、呼び方は何でも構わんが、とにかく、もう一つ通路があるはずなんだ。そっちの方が人通りは多いはずだ」
「上か、下か、横に、か…探すか?」
「それには及びませんよ。私がご案内しましょう」
いつの間にか後ろに、大公の伴侶だった魔法使いが立っていた。確か名前は…
「《ラピスラズリ》さん…急に後ろに表れないでください。どこから話を窺っていたんですか?」
そう、《ラピスラズリ》と名乗っていた。ジリアン大公には、本名を明かしていたかもしれないが。
「どこって、君たちが今探そうとしていた所。盗み聞きを始めたのはいつからか、っていう意味なら、部屋を出てきたところから、かな」
壮年の魔法使いは、悪びれることもなくそうのたまう。
「でしたら、もっと早くに出てきていただければよろしかったのに」
さっきの言葉遣いを聞かれているというのに、あくまでクリスは丁寧語をやめない。
「いやあ、ハース大公のとこでの話は聞いてたから、君たち二人っきりにしといたら、どんな雰囲気になるのか興味があったんだけど…ちょっと色気なさ過ぎ」
…いったい何を期待しているんだか。この男の前では、必要以上にクリスに近寄るのはやめよう、と心に決める。…必要な距離ってどのくらいだかわからないが。
「あいにく、そういうものの絶対量が不足しておりますので、無駄遣いはしない事に決めておりますの。ところで、歩きながらで結構なんですが、二・三お聞きしたいことがありまして…お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「かまいませんが…一旦建物の外に出た方が早いですよ。盗み聞きされる恐れも少ないし…こっちです」
そう言って、来たのとは反対方向に足を向ける。
本になるくらい すでに書かれたのではないでしょうか
これからも楽しみにしています^^