モンスターハンター 騎士の証明~21
- カテゴリ:自作小説
- 2012/08/16 10:39:02
【走れ! ランマル】
「で、仕事って? 詳しい説明聞こか」
気を取り直したショウコが、やや椅子にふんぞり返って言った。ロジャーが持参した地図を広げようとしたので、慌ててユッカがテーブルの上の料理を脇に寄せた。
「君達には、この地域で出没する大型モンスターの連続狩猟を依頼したい。ハプルボッカ、ベリオロス亜種、ボルボロス、ティガレックス亜種、ディアブロス亜種の5頭だ」
「そりゃ、けったいやなあ。いや、ごっつい、か?」
「今回は特殊な例だ。まず、狩り場がギルド指定の場所ではなく、このエルドラ公国領内であること。この国にはハンターズギルドの手が及ばないため、フィールドに拠点が確保できない。よって、支給品による支援が難しいと思われる。この条件で、できるか?」
ボルトが尋ねる。ショウコは、ヘアバンドで後ろにまとめた短い髪を、大ざっぱに横に振ってみせた。尖らせた唇が可愛いなあと頬がゆるみかけ、慌ててボルトは顔を引き締める。
「ウチは気が向かんなあ。まったく知らん土地で、しかもベースキャンプなし、支給品なしやろ? リスク高すぎるわ」
「もちろん、強制はしない」
ロジャーが言った。
「こちらも無理難題と承知している。ダメだと思ったら、断って構わない」
「そら、そうやけど……」
ショウコはまだ不満げに、ロジャーが卓上に広げた地図を睨んでいる。
「なんかひっかかるっちゅうか……」
黙っていたユッカが面を上げ、口を開いた。
「それほどまでに、急いでモンスターを狩らなければならない理由はなんですか?」
「賢いね。いい目だ」
ロジャーは不敵に微笑んだ。
「状況は急を要する。この国は今までモンスターの被害があってもギルドに救援を要請しなかった。そのため、現在では人口が激減するほどの深刻な事態となっている。我々はその現実を憂慮し、ハンターの派遣を受けるよう交渉に来たんだ」
「ははあ、なるほど」
ショウコが納得したようにうなずいた。
「事情は大体わかったわ。しかしなあ」
「どうだろうか?」
ロジャーの再三の問いに、ユッカはきっぱりと彼の目を見て言った。
「やります!」
「へえっ?」
ショウコは勢いを削がれて体勢を崩した。
「このどアホ! あの優男がどんだけ無茶振ってるかわかっとんのか!」
「わかってるよ!」
普段はおとなしい相棒に逆切れされ、ショウコは目を点にして絶句した。ユッカは、すまなそうに長いまつげを伏せた。
「ごめん、ショウコ。でも、これってきっと、チャンスだと思うの」
「ユッカ……」
ユッカが胸に秘めた決意を悟り、ショウコはそれ以上言うことはできなかった。
「あ、あのう」
それまで、どこか怯えたようになりゆきを見守っていたメスのメラルーが挙手をし、おどおどと口を開いた。
「ウチ、ショウコはんのオトモのコハルいいます。あの、一度ショウコはんらがロックラックへ戻ってからじゃいけまへんか?」
「モンスターによる被害は大きく、依頼主は一日も早い解決を望んでおられる。それに、我々も君達を信用して頼んでいるのだ」
「詭弁やなあ……」
まだ不満があるのか、ショウコがぼそりとつぶやく。本人の耳にも届いたはずだが、ロジャーは顔色ひとつ変えなかった。
「やろうよ、ショウコ」
ユッカは真摯にショウコ達を見つめた。
「ロジャーさん達が、どうしてここで私達に依頼を持ってきたのか。それは、確かに緊急の用件だってことだわ」
「そら、街が襲われるかどうかって話やろ? けどなあ」
「それもあるけど、理由はもうひとつ。――ロジャーさん達は、あまり長くこの街にいられないからよ」
ユッカのひと言に、ロジャーは面白そうに眉を動かした。ボルトも、ユッカの洞察力に感心して、思わず口笛を吹きそうになる。
「ギルドに連絡して依頼を公開するまでに、どのくらい日にちがかかると思う? それまでに街の人が危険にさらされるのはもちろん、暴れているモンスターの様子も変わるでしょう。モンスターが別の土地に移動するのはよくあることだけど、それはきっと、ロジャーさん達にとって不都合なことなんだわ」
ショウコは唇を結んだまま、黙って聞いていた。じろりとユッカを睨みつける。ユッカは、笑うことなく視線を受けとめた。
「なるほどなあ。で、ユッカ。あんたの弾、あとどのくらいや? 強敵5体とまともにやりあえるだけ残ってるんか?」
「ショウコ、 いいの?」
たちまち目を輝かせたユッカに、ショウコはついに笑顔をもらした。
「仕方ないやろ。あんたがやる言うとんのに、ウチだけ黙って帰れるかい」
「――うんっ! ありがと!」
頬を紅潮させて勢いよくユッカはうなずいた。
「本当にいいのかい? こちらも、無理にとは言わないよ」
「大丈夫です!」
念を押したロジャーに、ユッカは力強く答えた。
「弾丸に余裕はあります。薬もまだ残ってるし、食料は現地調達すればいいですから。わたし一人じゃ無理だけど、ショウコやオトモもいます。だから、きっと大丈夫」
「そうか。それなら、もう言わないよ」
ロジャーは微笑を返し、ギルドの契約書を取り出した。
「失礼」
空いている椅子を引き寄せ、さらさらと契約書に何か書き出した。終わると、紙の向きを変えて、ユッカ達に差し出す。
「では、ここに君達の名前を。契約金は2千5百ゼニーだ。報奨金は3万ゼニー。期限は明後日(みょうごにち)から50時間。よろしく頼む」
「はいっ」
だが、ユッカが契約書にサインする前に、それに異を唱える声がした。
「――オレは反対ニャ」
「ランマル?」
弾かれたように振り向くユッカを見ず、ランマルはロジャー達を睨んだ。
「拠点もなしで、まだ先日の狩りの傷も癒えてないユッカ達に大連続狩猟を依頼とは、ギルドも地に落ちたものだニャ」
「無茶とは理解している」
「そんなひと言で、大事な――旦那を、みすみす危険にはさらせないニャ」
「ランマル……」
ユッカは、それ以上言うなとかぶりを振った。椅子から降り、仏頂面のランマルと目線を合わせる。
「お願いランマル、やらせて。わたしだって、本当に無理なら引き受けたりしないわ」
「……お前、そんなに……」
ランマルは、もごもごと口元を動かした。ユッカだけに届いた言葉に、ユッカは顔を赤くしてうつむいた。
「わかったニャ。お前がそれほど言うなら、もう止めないニャ」
「ほんとに?」
「ああ。ただし」
ランマルは青い眼を強く輝かせ、ロジャーを見上げた。
「オレがロックラックまで行って、ギルドに話をつけてくるニャ。オレの足なら、休まず地中を行って往復2日半。狩りの期間内には、なんとか間に合うニャ」
「おおっ、その手があったか!」
ボルトは今度こそ口笛を吹いて讃えた。フンとランマルは腕組みをしてそっぽを向く。
「地下の道を行けば、街まで近道できるニャ。それにオレが荷物を運べば、飛行船を使わなくても、匂いをたどってユッカ達へ道具を届けるのはたやすいニャ」
「ランマル、お前――漢(おとこ)やなあ」
ショウコがぽかんとしてランマルを見つめた。コハルも感動したのか、しきりにうなずいている。
「――勇敢なアイルーだ」
ふっと空気を和らげたのは、ロジャーの微笑だった。
「ではギルドへの書状を書くから、少し待ちたまえ」
ロックラックから西方のエルドラ公国までの距離~およそ1190キロメートル
ギルド飛行船の速度~およそ60キロメートル
伝書鳥(鳩ではない)の飛行速度~カモと同じ巡航速度で65キロメートル
アイルーの走行速度~全力で走っての維持できる速度~55キロメートル
これでロックラックから片道、17~8時間で行ける計算になる
往復すると34時間ほど
ロジャーとユッカが出会った日を1とし、ユッカ達が狩りに出るのは次の次の日の3なので、ランマルが出発するのは1の日の夜――。ちなみに、地下道の直線最短距離を行くので、通常の徒歩とは違う・・・
ユッカ達が狩りをしている間になんとか間に合う…よかった、あまり書きなおさなくて良い^^;
訂正個所は、
>オレ達アイルーが地下の道を行けば、伝書鳥とほぼ同じ速さで行き来できるニャ。
ここを、「伝書鳥とほぼ同じ速さ」の部分をカットします。
いくらモンスター族のアイルーでも、鳥より早く走れるわけがないだろう、と思うので。
うおぉ、過分なお褒めのお言葉痛み入ります。
ちゃんと飛ばさずに読んで頂けたようで嬉しいです!うう…書き手として大変励みになります!(つД`)
「騎士の証明」を書くにあたって、ゲームの中から取材しました。
依頼主の「若き将軍」は使いやすそうだったので採用。
彼、王様に無茶な命令ばかりさせられているんですよ。嫌われてるのかな(笑)
第三王女はシリーズ通して登場するキャラで有名すぎるので、逆に使えませんでした。
ハンターに過酷な依頼をしてくる悪党ですが、実は悪党じゃないのかもしれないし、どうなんでしょうね?
ちなみに蒼雪は彼女が嫌いですwww
エルドラ宰相のラ―ジャンの毛皮の話も、実は彼女のクエが由来です。
寒い地方へ行くためにコートが作りたいから狩ってこい!という。
金さえ出せばギルドは依頼を受けるのか、という疑惑つきの依頼。いろいろ事情はあるんだろうけど。
キャラが生きているとのこと、嬉しいです^^
自分ではわからないので、また同じ描写言葉使ってるよ…とか、いつも悩んでいますが、楽しんでいただけて何よりでございます。
ショウコと彼氏とイモムシ事件は、前から書きたかったシーンで、今回さらりと書けてよかったです。
前の作品から読んでいると、ランマルがユッカを「旦那」と呼ぶ思いが想像できるかと思います。
そう呼ばれるようになったユッカ、成長したんですね。そして、以前は一人称「ボク」だったランマルも、「オレ」に変化してます。彼もまたユッカと関わることで性格が変化した証です。
人間だったら渋いハンサムってところでしょうか。
お見舞いのお言葉、ありがとうございます。
執筆にはさしつかえなく、痛みはもうほとんどないのですが、そうなんです、再発が不安で^^;
日常生活に、より一層気をつけなければ…。
17回目からまとめて拝読致しました。読み応えがあって、でも飽きさせも疲れさせもしない筆力がうらやましいです。これで行き当たりばったりだなんて。
狩場でなくても、わたしもこんなやりとり、好きです。
むしろ狩りはゲームで体験できるけれど、国の姿や依頼人の様子などは小説でしか見られない。個人的に大満足の展開でした。あはw
はじめは完全オリジナルかと思いましたが、登場モンスターや依頼人にモデルがいたんですね。
これからクエストを受けるとき、その背景を想像してしまいそうです。
あ、「第三王女」の間接登場にはくすっとさせていただきました。
彼女は印象に残さずにはいられない依頼人の一人ですw がんばれギルドナイト!w
ユッカもショウコもランマルも、活き活きしていますね。声が聞こえてきそうなくらい♪
シリアスな展開が続いていたから、急にイモムシトークになっていい意味でぐたっとしました。
ユッカとショウコは変わらずいいコンビで、だけどハンターとしてはぐっと成長していて。
ユッカとランマルにとって「旦那」という言葉が特別なままであるのは、わたしの心にぐっときましたw
師匠、格好いいなぁ!
失礼して数回分をまとめて書いてしまいました。
腰痛と戦いながらの執筆おつかれさまです!
イカズチさんも仰っていましたけれど、再発しやすいらしいので、気をつけてくださいね。お大事に。
そしてはやく完治しますように✿
腰痛は、ようやくほとんど治りました。ご心配ありがとうございます^^
最近筆に勢いが乗っているようで、物語の矛盾点をつぶしつつ、先を書くのが楽しみになっています。
どういう結末になるかは決めているので、その先へ向かうまでがまだ心配ではありますが。
拙い作品ですが、いつもお読みくださって嬉しいです。
モンハンというと狩りのシーンが最重要ですが、やはりそこに至るまでの過程は飛ばせませんよね。
きっと書籍の形で読めば、今までの展開に不具合はないと思うんですが、連載となると毎回見せ場を考えなくてはならず、つなぎのシーンを書くことにためらったりします。
しかし、アニメなどの内容構成を参考に、毎回どこか見る所を考えて書くようになりました。
ニコタ連載、勉強になるなあ~。
ちなみに、私も好きなキャラのやりとりは延々と読んでいたいほうです(笑)
このクエのモデルは、「集え!砂漠の最終決戦」というクエストです。
どうしてもラストのディア亜種で時間切れになり、ソロでクリアしたことがないです。いつか必ず…!
ユッカ達の置かれた状況は、ゲームでも珍しくないですね。
上位クラスのクエでは、支給品も遅れてきますし、アカムなどの決戦場では、キャンプもありませんし。
今回の内容も、そういう状況を書いています。
ランマルが緊急で支給品を持ってくる役割になりましたが、小説らしくオリジナルの要素があっても良いと思って書きました。
なんでも原作どおりにに縛られると、これまたつまらん作品になるんですよね。アレンジがうまいノベライズは面白いです。アレンジ・アドリブに作者の力量が出るんですよね。もっと勉強しなきゃなあ。
ユッカもいろいろ成長してますね。ほんとに、甘えんぼだったあの頃が懐かしいです。
たくさん依頼をこなして、修羅場もくぐって、いろんな人と出会った結果でしょう。
グロム兄の名声に恥じないように頑張っていると同時に、彼女の夢にかなう人間を目指しているんでしょうね。読む人が応援してくれる女の子になってほしいと、親心に思います(笑)
読み手としても気合が入ります。
『狩り場にいけてないですが』
いえいえ、私感かもしれませんが、このようなやり取り、大好きです。
キャラの個性が前面に出てぶつかるような。
ショウコが渋る理由ももっともですねぇ。
クエストに例えるならイベントの大連続最難関クラス。
しかもキャンプなし、支給品なし。
つまり、最悪の場合でも確保されて当たり前な安全地帯が無く、自前の消耗品を使い果たしたら終わりという事。
まかり間違っても『忘れ物』なんかした日にゃあ……。
目も当てられません。
そんな難易度をわかって居ながら「やります!」と言い放つユッカ。
しかもロジャーたちの置かれた状況を看破しての決心。
成長しましたねぇ。
グロムたちに置いて行かれてベソをかいていた頃とは別人のようです。
うんうん……。
なんか行き当たりばったりの展開だってことは自分でわかってますが、これも我が勉強ということで…。
お付き合い頂いてる皆さま、もうしばしよろしくお願いいたします。