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モンスターハンター  騎士の証明~23

【大口の悪魔】

 モンスターと人間の戦場をあとにすると、ロジャーとボルトは再び砂原地帯へと歩き出した。まずはそこに出没するという、ハプルボッカを狩るためだ。
 悲惨な光景を目にして、心に重くのしかかるものはあったが、お互い顔には出していない。ボルトはむしろ、迫る狩りが待ち遠しい様子だ。彼は喜怒哀楽が激しいぶん、気持ちの切り替えが早いのである。
 それは状況に素早く適応できる証拠だ。重い任務を背負うギルドナイトには、欠かせない資質といえる。
「今は寒冷期とはいえ、さすがに砂漠は暑いな。見ろ、太陽があんなに高く昇ってやがる」
 ボルトが額の汗を手の甲で拭った。日が昇った時点で、暑さを体内から和らげるクーラードリンクを飲んでいるから、軽く汗をかく程度で済んでいる。
「そうだね。ボルト、自前の鎧じゃなくて、むしろ助かったんじゃないか?」
「やだね。俺はナイトの制服は窮屈で苦手だぜ。できるもんなら着替えてえよ」
 ボルトはいかにも暑苦しいと、きっちり留めた詰襟に指をかけて引っ張った。しかし言葉通り襟を緩めないのは、その服が高い防御力を持つからだ。
 大きな功績を残した超一流ハンターには、特別にギルドナイトの複製服を着ることが許されるが、見た目は同じでも本職のナイトの服は、それとは格段に性能が違った。
 見えないところに希少なモンスターの素材を用いて仕立ててあるため、例えば飛竜の炎などに耐性があったりする。だから、これ1着でほとんどの用が足りるのだ。ロジャーは狩りの任務にも、好んでこの一式を着て行くが、ボルトは性に合わないようである。
「ボルト、あれ」
「あん?」
 ふと足を止めて、ロジャーは東側の荒野へ視線をやった。促されて、ボルトが荷物から双眼鏡を取り出して覗きこんだ。地平線にぼんやりと首都の姿が見え、そこから商隊の列がこちらへ歩いてくる。およそ10頭もの馬を連ね、数十人の商人と護衛らしき影も見て取れる。
「おー、いるいる。あの姿、間違いないぜ。そういえば、西側へ旅をしている途中だって言ってたな。今日、こっちを通過するのか」
 その太った商人は、昨晩の酒場での話を聞いていた者の一人で、ロジャー達が街道の安全を確保してくれるなら、積み荷から安く食料を譲ると申し出たのだ。
 狩猟の事態に備えはあったので、ロジャーは丁重に断った。好意は嬉しいが、余計な荷物を持つと行動が制限されるからだ。
 それならせめてワインだけでもと、商人はしきりにすすめたが、ロジャーは固辞した。酒好きのボルトは文字通り指をくわえて、商人が差し出す酒瓶を眺めていたが。
「なあ、せめてワインくらいはもらってよかったんじゃないか? あいつも、そうすることで俺達に協力したかったんだよ」
 まだ未練たらたらのボルトに、ロジャーは思わず吹き出した。
「止めて正解だったね。狩りの最中にも呑みそうだ」
 酒に強いボルトだが、酔ってガンランスを暴発させられてはたまらない。もちろん、狩猟中は飲酒厳禁なのだが。
「彼らには、砂原へ近づかないよう言ってあるけど、急いだ方がいいね」
 2人は足を速め、問題の砂原へ向かった。荒涼とした大地には、魚に似たモンスター、デルクスの姿もない。まるっこい小さなサボテンが点々とし、陽炎がたなびく、寂しい場所だった。
「……なーんもないな。こう寂しいと、モンスターでもいてほしくなるぜ」
「こらこら。まあ、気持ちはわかるけど。モンスターも、これじゃあ人を襲うしかないよね」
 大きな砂の丘陵はない。辺りに障害物もなく、見通しはいい。それはモンスターにとっても同じことで、ここを通る人間の群れは、かっこうの標的だろう。
「――おい、ロジャー、あそこ」
 ボルトがふいに足を止め、指さした。ロジャーはうなずいた。
「ああ。いるね。間違いない」
 索敵能力を高める千里眼の薬を使うまでもなく、それはすぐに見つかった。ロジャー達から百メートルほど先に、こんもりと砂が山を作っている。似たような砂山があちこちに点在しているが、周囲の地形と見比べると、どこか不自然だ。
「ハプルボッカの擬態だね。注意して進もう」
 ロジャーは言い、いつでも背中の双剣に手をかけられるよう、用心して進み始めた。ボルトも途端に顔を引き締めて、周囲に気を配りながら歩く。
 砂地をすみかとするハプルボッカは、獲物に悟られないよう身体に砂をかぶって身を潜め、獲物が知らずに近づいてきた瞬間を襲うのだ。なかなか狡猾なところがあって、こうして自分のまわりに似たような砂山を作り、周囲に擬態することも特長である。
「これだね」
 声をひそめ、ロジャーが素早く指さした。ボルトはガンランスを下ろし、いつでも戦えるよう身構える。
 数メートル先の小山の先端から、しきりに砂が吹き出ていた。ハプルボッカの呼吸だ。
 2人は顔を見合わせ、そうっと足音を忍ばせて近づいた。ハプルボッカは砂の上を移動する物音や振動に反応し、餌とみなして襲いかかる習性があるからだ。
 ロジャーが腰のポーチからペイントボールを取り出した。振りかぶって、小山へ向かって投げる。ボールは砂にめり込むことなく、当たって砕けた。ピンク色の粉末と鼻を突く臭いが空気に発散される。
 吹き上がる砂が、一瞬止まった。そして、次の瞬間一気に小山が陥没したではないか。
「出るぞ!」
 ボルトが嬉々として叫んだ。それと重なって、どおっと勢いよく砂が立ち上がり、巨大な姿が地上へと躍り出る。
 昼の光に鮮やかな青色が目に焼きつく。ハプルボッカの腹の色だ。のっぺりした平たい頭と幅広の胴体、ずんぐりした短い手足。先細った長い尾。全長20メートルほどの巨体が躍り上がるさまは、いつ見ても圧巻だった。
 ハプルボッカは腹を下に砂地に落ちると、ギーッ! と甲高い声で鳴いた。頭部の上についた小さな黄色い目と相まって、むしろユーモラスな顔つきをしているが、あんぐりと開いた口を見た者は、誰もがその二つ名を思い出すだろう。
 大口の悪魔、と。
 ずらりと並んだ鋭い無数の牙が、ガチンと上下に噛み合わされた。まるでケルビを捕る罠が化けたようだ。同時に、身体の三分の一を占める頭の脇から赤いエラが開いて、勢いよく砂を吐きだした。戦闘の合図だ。
「いくぞ、ロジャー!」
「ああ!」
 ボルトがガンランスの盾を構える。ロジャーは、いつでも背中の双剣に手をかけられるよう身構えた。
 ハプルボッカは大きく口から息を吸って、頭から砂に潜った。ボルトは敵の突撃に備えて盾を固く構え、ロジャーはハプルボッカの脇へまわる。相手が一度潜るのは知っていた。これは一度姿をくらますことで、自分の位置を悟られないようにするためだ。
 ロジャーは振り返り、耳を澄ます。かすかに空気が吹き出す音が聞こえた。案の定、背後にモンスターはまわりこんでいる。と、ハプルボッカの山形の背の形に砂が盛り上がり、次の瞬間、巨大な口がロジャーめがけて飛びかかってくる!
「おっと!」
 とっさにロジャーは脇へ転がって避ける。そのすぐ横を巨体が跳び、人間など10人まとめて飲みこめる大きな口が、バクンと音をたてて噛み合った。
 ハプルボッカは腹から砂に落ちると、短い足で地面をかき、すぐに身体を反転させた。
 ロジャーは、背から双剣を抜き放つ。 澄みきった鞘走りの音が、彼の眼光を変えた。

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2012/10/11 09:25
さえらさん、コメント感謝です。

ふふふ、さえらさん、すっかりロジャーのとりこですね。
こちらも筆を尽くして書いた努力がむくわれました~!w

でもすまないロジャー…orz
じつは、あまり戦いで活躍の場がないのです…。彼の本領発揮は、ラストバトルで魅せてもらおうと思っているので、この回では、まだ実力を出し切れずにいます。
これはやばいと現在気づきまして、急いで彼の見せ場(狩りで)を作ることになりました^^;
せっかく
>ロジャーは、背から双剣を抜き放つ。 澄みきった鞘走りの音が、彼の眼光を変えた。

なんて書いたのにwww

完璧な人間はつまらないですからね^^;
ロジャーもいろいろ抱えております。その屈折した思いなどが、今の自分を作っている、ということを書きたかったし、これからさらに書きつのる予定です。楽しみにしていただければ幸いです^^
ボルトはほんとにいい男ですよ。もちろん、ブルースがそばにいても、同じようにロジャーを励ましたでしょう。仲間って素敵ですねw

さえらさんの創作意欲も刺激できたようで、こちらも喜ばしいです^^
そうそう、結局はおもしろさを決めるのは、人間ドラマなんですよね。いかに戦闘や世界をうまく書くのかではない。人間が見たくて、人は本を読むんですから。
さえらさんのファンタジー作品、いつか蒼雪も読んでみたいです。そのときを楽しみにしております^^
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2012/10/11 09:14
>ロジャーは、背から双剣を抜き放つ。 澄みきった鞘走りの音が、彼の眼光を変えた。
この最後の文章。素敵すぎます、ロジャーさん……。
鋭い眼光を湛えた横顔が目に浮かぶようです。
いよいよ、狩りの場面ですね~。
穏やかな物腰で常に冷静な彼が、不敵な笑みを浮かべる時もとても素敵ですが、こうして眼光をキラリと変える場面は、本当に素敵です。

完全無欠に見えるロジャーですが、実は心の内には……。
ボルトのような男が傍らに居てくれて、本当に良かった!
今は、離れて任務にあたっているブルースも^^

こういう物語を読んでいると、思わず自分でもファンタジー作品を書きたくなってしまいますw
ファンタジーを舞台にして、人間模様を描いてみたい。そんな気持ちにさせてもらいました^^
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2012/08/24 08:59
イカズチさん、コメント感謝です。

ハプルボッカはいつか書いてみたかったモンスターなので、今回取りあげたのですが…こいつは、モンスターの動きとしてはダイナミックで書きがいがあるのですが、ハンターの(しかも凄腕の)活躍を描くには不向きなんですよね。
理由はお察ししているかと思いますが、奴が動きを止めるまで、近接の人は何もできないからです(笑)

ギルドナイトの本職の装備は、レプリカとは違うそうなので、もっと攻撃に特化していると思います。
本文でもちらっと説明しましたが、属性耐性や攻撃力アップなどがついているのでは。
2Gなどで登場した、G級のスキル(対炎龍、など)が発動している設定です。
だけど広域、捕獲の見極めはデフォルトでありそうですね。その理由も自分なりに考えたので、いずれ作中で書くつもりです。

足手まといと言えば蒼雪の方もです^^;
PT戦なのに、いろいろ試そうとするからいけない。
いや、試さないと立ち回りが研究できないというか…w
毎度の狩りで、良い刺激を頂いております。ありがとうございます^^

ここからが戦闘ですが…、さあどうしようと悩んで筆が止まっていました。
取材で双剣、ガンス(同じ武器で)戦ってきましたが、これといって見せ場が…いや、ないなら作る!ですねww
ボルトの活躍も、ご期待に添えると良いのですが。
アバター
2012/08/22 21:48
ハプルボッカとは良い所(モンスター)に目を付けましたね。
コイツはなかなかにトリッキーな奴ですので、ベテランハンターでも油断したりキングサイズだったりするとヤバいです。
地面に潜ったり、ガード不可の広域攻撃を持っていたりと嫌なヤツぅ。

ボルトはガンサーですからねぇ。
回復系の広域スキル重視のギルドナイトでは……。
いえ決して広域回復をしないという訳ではないのですが、ガンスは遅いのですよ。
武器を仕舞うのが。
そうすると回復薬を使うまでに時間が掛かり手遅れになりかねない。
ガンスは慣れると強い武器なのですが色々制限がありますからねぇ。
かく言う私も、いつもクエでは皆さんの回復にお世話になりっぱなしで……。
毎度ありがとう御座います。

考えて見れば前作ではこの三人がモンスターと対峙する所は無かったんですよね。
ああ、ランファとトゥルーもでしたが。
特にロジャーは『凄腕』と評されているので、その点を如何に蒼雪さんが活字にしてくれるのか楽しみです。
次回はついに天賦の才がその片鱗を現す!……かな?



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