Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~25

【ナイトの本分】

 プロとしての自覚を忘れていた。
 どうして一瞬でもそんな気持ちになったのだろうと、ロジャーはひどく己を恥じる。
(ギルドナイトの心得、それは、いかなる状況でもモンスターへの尊厳を忘れないこと)
 獲物を捕らえ損ねたハプルボッカが、いったん動きを止める。そこへロジャーは果敢に詰め寄り、その背に向かって両手の剣を左右に斬り払った。飛竜の鱗も貫く切っ先が、岩のように固い甲殻を切り裂く手ごたえを感じる。
 返す右手で斬り上げ、相手が次の行動に移る前に、もう一度右の剣を振り下ろす。甲殻が割れて血しぶきがあがり、モンスターが悲鳴をあげた。その一瞬の怯みをついて、さらにもう一撃、左の剣撃を加える。
「僕はバカだ」
 きつく眉根を寄せ、ロジャーは血を吐くようにつぶやいた。
 ギイイッと叫び、ハプルボッカが反撃に転じた。黙って背を斬られていてはたまらないと、身体ごとひねってロジャーに噛みつこうとする。それが、ガチンという鋼の音に防がれた。駆けつけたボルトがロジャーとモンスターとの間に立ちふさがり、盾で受けとめたのだ。
「ボルト!」
 驚いたように目を見張るロジャーに、ボルトは振り向き、白い歯を見せた。
「なーにがバカなんだよ?」
「聞こえたのか」
「けっこう声大きかったぜ――よっと!」
 ボルトは間髪いれず銃槍を斬り上げ、ハプルボッカの鼻面を斬り裂いた。さすがに傷がこたえて、ハプルボッカは再び巨体を砂に沈めようとする。
「逃がすかあ!」
 背を向けた相手に怒号するボルトは、戦いにいきり立つというより、嬉しそうだ。槍を構えたまま数歩駆け寄ると、切っ先で背を突き、すかさず砲撃を入れる。
「やっぱ、ひきずってんだろ、お前」
 ハプルボッカが砂中へ逃げるのを見届け、ボルトはガンランスを格納した。
「確かにさっきのあれはひどかったけどよ……お前が自分を責めることじゃないだろ」
 先刻に目撃した、ティガレックスとエルドラ軍の惨状を指しているのだと知り、ロジャーはかぶりを振った。
「違う、そうじゃないんだ、ほんとに」
「じゃあなんだよ?」
 ハプルボッカは砂の中を移動し、こちらへ襲いかかるタイミングを窺っている。ボルトは砂から目を離さず訊いた。ロジャーは口ごもった。
「ナイトとして、あるまじきこと、さ」
「なんだそれ?」
 ボルトが見すえる前方で、ハプルボッカの鼻息が噴き上がった。潜行から奇襲をかけるつもりだろう。
「油断したんだ。今戦っているモンスターが、ぬるい相手だって」
「んなの、当たり前だろぉ?」
 ハプルボッカの気配が、砂中を突き進んでくるのがわかる。いつでも回避できるよう身構えていたロジャーの瞳が、はっとしたようにボルトを見た。
「お前、何を良い子ぶってるんだ」
「ボルト……」
 一瞬にして砂が盛り上がり、ハプルボッカが跳躍してきた。電光石火の噛みつきを、2人は左右に跳んで避ける。
「俺だってそう思ったよ。こいつはザコだ、それは間違いない!」
 ハプルボッカは再び砂に潜ると、間をおかず浮上した。砂から上半身を出した姿で、大きく息を吸い込み始める。すさまじい吸引力に、周囲の砂まで巨大な口へ吸い込まれていく。
「今さら善人ぶることもないだろ。――お前、誰に良く見られたいんだよ?」
「え……」
 ハプルボッカのブレスは、およそ2,30メートルの範囲を薙ぎ払うものだ。巻き込まれる前に、2人は相手へ向かって走りだしていた。
「誰にって、それは――」
「まさか……ユッカたんじゃないだろうな?!」
 相手の側面へたどり着くと同時に、ハプルボッカは溜めていた息を一気に吐き出した。
 口の大きさと同じ直径の砂と風の筒が、文字通り暴風となって吹き荒れる。しかし、ブレスの死角にいれば、ここは大きな攻撃のチャンスだ。
「ユッカたん、って……」
「お前、ユッカたんに勝手に手ぇ出してみろ、そん時は後ろから――」
 やや呆れ顔のロジャーと側面に陣取ったボルトのガンランスから、キ―ンと高い音が発生した。構えた銃口から青い光が穂先のように突き出ている。
「こうだぁ!」
 ボルトの怒号と、竜撃砲が発射されるのが同時だった。ドン、とすさまじい火薬がハプルボッカの脇で炸裂し、甲殻に黒煙を吹きあげる。左腕部の甲殻を完全に破壊され、ハプルボッカが悲鳴をあげて垂直に踊り上がった。そのまま地上へ落下し、下半身を砂に埋めたまま頭上を仰いでふらふらしている。
「それは困る」
 ロジャーは思わず吹き出していた。笑ったことで、良い具合に肩の力が抜けた。双剣を抜き放ち、頭上で交差させる。
 瞬時に剣に意識を集中させると、身体から立ち上った赤い光が剣にまとわりついた。鬼人化と呼ばれる、双剣の奥義だ。精神統一で体内の気を活性化させ、自身の能力を飛躍的に向上させるのである。
(確かに、意識しすぎていたのかもしれない)
 ロジャーは気をこめると、勢いよく両手の剣をそろえて振り下ろした。そこから流れるように左右の剣で斬りつける。乱れ舞う剣撃に迷いはなかった。
(僕もあんなふうだった……ナイトになろうと決意して、それを目指した頃は)
 5年前と、ゆうべと。ユッカのまなざしが記憶に蘇る。
「やっぱりバカだ、僕は」
 ふっとロジャーの口元に皮肉な微笑が浮かんだ。まさか自分が他人の目を意識して狩りをするなんて、思ってもみなかったからだ。
 明日はユッカ達がこの地で狩りをする。当然、ロジャー達が残したハプルボッカの亡骸(なきがら)を目にするだろう。一流のハンターならば傷跡を見て、どういう狩りが行われたかわかるはずだ。
 彼女に尊敬されたいのか、敬遠したいのか、自分でもよくわからない。けれど、ひとつ気づいたことがある。
(狩りの間、こんなことを考える余裕があるというのも罪な話だけど)
 ロジャーの連撃と同時に、ボルトのガンランスの槍身がハプルボッカの脇腹へ叩きつけられた。ここぞとばかりに大きな爆炎が炸裂する。装填した弾を全て撃ち放つ、必殺技のフルバーストだ。
「そろそろ終いだな。――追うか?」
「ああ」
 2人のナイトの連続攻撃で、モンスターはだいぶ弱っていた。弱々しく一声鳴くと、身体を左に傾けながら、よたよたと砂地を掻いて逃亡を開始する。
「ねぐらがどこにあるか知りたい。行こう」
「おう!」
 武器をしまって、2人は後を追う。その道すがら、ロジャーは「ありがとう」と言った。
「また君に助けられた」
「あん? 俺が何したって?」
 不思議そうに見つめ返す彼に、ロジャーは気恥ずかしげに笑った。
「君の言う通りだったよ。僕は、少し気負い過ぎていたかもしれない」
「そんなの当たり前だろ。お前、ナイトのトップだしよ」
 ボルトはさらりと言った。
「でも、それでいいと思うぜ。ナイトは全ハンターの手本であるべし、という掟はあるが、たまには迷ったっていいんじゃねえの? もちろん、心の中だけでな」
「うん」
 ロジャーはうなずいた。ユッカと再会してから、自分の中で何かが変わりかけている。それは、幼かった自分との再会でもあった。
 怠惰な心は、あの娘には無縁に見えた。その眩しさが、さっき抱いてしまった自分の慢心を叱咤したのだ。
(彼女に良く見られたい、っていう気持ちは、否定できないな)
 ロジャーはさすがに、これは口に出さないでおいた。ボルトは、こう見えて相当のやきもち焼きだからである。
 
 

アバター
2012/09/03 07:57
ぎっくり腰は最初の3日が勝負ですよね。そして、痛みが収まったら即病院!
でないと、怖い病気に発展してしまうので…。私のように…^^;

連載お待たせしてしまい、申し訳ありません。お見舞いありがとうございます^^
頭の中でストーリーができているので、あとは書くだけなんですが、無理がきかなくて。
早く良くなりたいです。
アバター
2012/09/02 21:21
おお、腰ですか。
以前にもコメしましたが、私も昔、腰をやりまして。
辛さはわかります。
焦らず気長に養生して下さい。
アバター
2012/08/30 09:23
ちょっと体調が良くないので、小説の更新が先延ばしになります。腰の調子が悪化しまして…。
いましばし、気長にお待ちいただければ幸いです。
ちゃんと最後まで書ききりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
アバター
2012/08/28 09:42
トゥさん、コメント感謝です。

最初にユッカたんと呼んだのは、アリスですが、定着しましたw
今ではイカズチさんもお気に入りのようです。

ロジャーとユッカの関係の進展は、勇気の証明のジエン編を書き終えた時から、ずっと気になっていました。
あのラストだと、オシャレのためにモンスターの狩りへ行っていて、命を狩ることに罪悪感があったユッカにしては、随分ミーハーだなぁと、反省していたのです。
でも、それはグロム達に自分の気持ちを悟られないようにした言い訳で、本当は、、、という理由を、ずっと書きたかったんです。
今回その機会がありましたので、ユッカの思いが綴られます。壮大な伏線、確かにそうかもw
ロジャーの気持ちも正しく読み取って下さって嬉しいです。ありがとうございます。

ハプルは私も苦手なモンスターでしたが、今や双剣で十分以内に倒せるまでに。
今回書くために、双剣とガンス両方で狩ってきました。

上達の近道があるとするなら、様々な武器で果敢に挑む、これに尽きます。
相手の間合い、安全な範囲は体で覚えるしかないので、遠近両方使える事が大事なんだなと、最近気づきました。
始めた頃はやり方がわからんで、先達のイカズチさん、GRさんに質問しまくっていたなあ。懐かしいですw
アバター
2012/08/28 09:14
イカズチさん、レス感謝です。

そう言って頂けると嬉しいです。ロジャーもユッカも、お目目キラキラのイイコちゃんキャラの傾向があるので、見る人によっては反感、嫉妬を買いやすいんです。
そうならないよう、気をつけて書いてますが。。。

この展開は、キャラに動かされてこうなった感じです。陳腐ですが、運命の相手、なんでしょうね。w
アバター
2012/08/27 23:51
ユッカ「たん」……あははっ、おもしろいw
こんなふうに呼ぶなんて意外でした!

ロジャーとユッカは『勇気の証明』で出会ったときにも、きっかけがあれば距離が縮まりそうな雰囲気でしたもんね。
あ、ひょっとして壮大な伏線だったんでしょうかw
恋愛感情を抜きにしても、誰かの姿に昔の自分が見える、というのはドキッとする瞬間で。
そのときの狼狽、つい意識を持っていかれてしまう感覚は想像できるから、ロジャーの気持ちもわかるような気がします。

それにしても強いなぁ、ギルドナイトw
ハプルボッカ、以前はとっても苦手な相手だったんです。でもヘビィを使うようになって、最近はガンスや他の武器も触るようになって、楽しみな相手になりました。
狩りの場面、特にガンスの戦い方、参考にになります♪
アバター
2012/08/27 21:52
いえいえ、恋愛はストーリーを作る上で欠かせない要因です。
ロジャーとユッカも流れで言えば無理の無い関係になりましたし。
以前に私がコメントしたのはロジャーに対しての『嫉妬』なのかもしれませんねぇw。
ユッカたん、良い娘だもんなぁ。
アバター
2012/08/27 09:52
イカズチさん、コメント感謝です。

あはは、すみません…。ハプルボッカとの対決は、ほぼこれで終わったようなものなんです^^;
次回からは新たな展開が。事件の核心に迫ります。
下のコメントにも書きましたが、あまりにロジャー達が強すぎて相手にならなかったんです。G級でも特大サイズでもないし…(^~^;)
(このハプルは伏線なので、早く終わっちゃったというのもありますが)

前回のコメントに書かせて頂きましたが、「騎士の証明」はロジャー達の人間成長物語なので、ロジャーにも迷いや感情のブレを持たせてみました。この完璧イケメンが普段何を考えているのか、彼にも悩みとかあるんじゃないか、という話です。彼は超人的に強いけど、中身はふつうの青年だってことですね。
親しみをもってほしいと思って書いたので、感情移入嬉しいです。

以前「勇気の証明」で頂いたイカズチさんのコメで「ロジャーとユッカはくっつけないほうがよい」というご意見を頂いたのですが、どうしてもこの2人、相性がいいのか蒼雪の頭の中で仲が良いんです(笑)
ユッカは正統派ヒロインとして書いているので、ロジャーとも釣りあうんじゃないでしょうか。
もちろん、ただ好きという感情じゃなくて、お互いの成長のきっかけでもあるんです。

今作はロジャー達だけの活躍で、ユッカは出さない方針だったのですが、イカズチさんからのメールで「あ、出していいんだ」と決心がつきましてこうなりました。
あくまでモンハンの小説なので、ベタな恋愛が主軸にはなりませんが、良い結末を考えているので、ご期待頂ければと思います。

ロジャーの恋愛対象としてショウコは、まあ、あれですね…トゥルーとランファも…。
うっ、申し訳ない^^;
女の子好きなボルトは、ショウコも可愛いと思ってますけどね。でも、ボルト達が今後どうこうなるとかは考えてないです。全員カップルになると、想像の余地が薄れますから。
ミーラルは「勇気~」のヒロインでしたが、もう人妻ですしね。グロムと仲良く続いてほしいと思います。

ご紹介された動画、拝見しました。
これ何がすごいって、オトモがシッポ切り成功しているところです!w
たまにモンスをめまいにするのは見たことありますが。これ撮影するの大変だっただろうな。斬撃ダメージ計算とかしたんだろうな~。



アバター
2012/08/27 04:56
本格的に始まりましたポッカ狩り。
ここでロジャーの意外な一面が……。
ハンターとしてパーフェクトな実力を持つと言われる彼に迷いが。
『キャラを作る時には欠点を持たせるべし』とは至言ですねぇ。
今回でロジャーと言うキャラにグッと親近感が増します。

おやぁ?
おや、おやぁ?
ロジャーはユッカの視線を意識し始めたのでしょうかね。
まぁユッカはこのシリーズ中、ほぼ完璧なステータスを持つ美少女ですから。
『ミーラルが居るじゃん』と言う声もあるかもしれませんが、彼女はストーカー気味で真剣な気持ちでないとかなり怖い事になりそうです。
まして今や人妻でおっかさんですから。
(ショウコとアリスは話題にも出ず。ランファとトゥルーは……まぁ、許可が居るでしょうね~。モデルとなった方の)
ロジャーとユッカですかぁ。
意外っちゃあ意外。
でも、ある種納得できる所もあり。
この先展開があるなら楽しみですねぇ。

そうそう、前回紹介されました動画ですが、こんなのもありました。
http://www.youtube.com/watch?v=sz3rXEQG0Q8&feature=related
アバター
2012/08/25 12:12
うーむ、思った以上に早く決着がついてしまいました。
ハプルボッカはハンターとの駆け引きが見どころだと思うのですが、超一流のハンターであるギルドナイトが、通常の強さのモンスター相手に何ページも使って苦戦する様子はありえないというわけで、こうなりました。

そのため、ロジャーの心情描写が主軸になっています。
ロジャーの気持ちがよくわかんねえよ、というご感想がありましたら、詳しくご指摘頂けると助かります。
ご意見に沿って修正させて頂くこともあるかもしれません。
大丈夫なら、それで良いです(笑)

強すぎるハンターは、まったく書きづらいです。ドラマとなる苦労が別のところになってしまうし^^;



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