Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(74)

 「どうした、アレク?」
 「………なんでもない」
 「なんでもなくて、部屋に入ったとたんにドアのところで沈んだりするかな?」
 ドアの前でへたり込んでいると、クリスが近づいてくる気配がする。かがみこんで、こっちの顔を覗き込む。
 「おまけに、顔色も悪いぞ」
 「なんでもないってば」
 「…そうまで言うなら、深く追求はしないでおこう。…口直しは要るか?」
 「……………何の?」
 「引っ掛からなかったか。とにかく、立って、もう少し部屋の中まで入れば?」
 クリスが俺の腕を引っ張り上げる。ので、しぶしぶ立ち上がる。
 ふらふらとソファに座りこむとクリスが後ろに立って、俺の髪を手櫛で梳き始めた。されるがままにしていると、どこからか細いリボン――目の覚めるような、鮮やかな青、だ――を取り出して、梳いた髪が一つにまとめられた。
 「せっかく括れる長さになったんだから、どうしていつも括っとかないんだ?大して時間がかかる訳でもないのに」
 「あ…面倒で、つい…」
 急に括った髪が後ろに引っ張られて仰向けにされる。
 「そういうことを言っているから、男に唇を奪われる羽目になったりするんだぞ?」
 …う…見られてたのか?
 服を着たまま寝入ってしまった《ラピスラズリ》を見て、せめて上着だけでも脱がせてやろう、と思ったのが間違いのもとだった。上半身を起こそうと頭の横に手を付いたら、いきなりその手を掴まれて引き倒されてしまった。…あとのことは、思い出したくない。
 「見てたんだったら、なんとかしてくれれば…」
 「いや…アレクがあまり抵抗してないみたいだったから…」
 「隙を窺ってたんだってば!」
 「…まあいい、そういうことにしておこう」
 そういうことに、って……驚きすぎて、一瞬身動きが取れなかったのは、事実だが。
 「で、改めて訊くが、口直しは要るか?」
 「……要る」
 手を伸ばすと、クリスの顔がゆっくりと降りてくる。指先がすべすべした頬に触れ、ふっくらした唇が、ついばむようにそっと唇に触れた。どうせ触れるなら、やっぱり女の子の唇の方がいい。断然、いい。
 「機嫌は、治った?」
 「治った。…けど、その単語、何か間違ってる気がする」
 「細かいことは、気にするな。…機嫌が治ったんだったら、相談があるんだけど」
 「はいはい、「相談」ね」
 この単語も、どっか間違ってる気がする。だが、それを指摘すると、クリスはきっと怒るので、口には出さない。
 ふと見ると、目の前のテーブルの上には、資料が散乱している。どうやら、図書館の本も何冊か持ち出して来ているらしい。
 「ユーサーの「龍」のことなんだけど…どうやら「海のモノ」らしい」
 おや。馬鹿龍って言わない。どういう心境の変化だ?
 「…根拠は?」
 クリスが、ソファを回り込んで来て、隣に座る。
 「匂い、だ。龍の内側に入った時、強い潮風の匂いがした。どの海の匂いも、同じなのか?」
 「うーん…海で暮らす人は、違いを嗅ぎ分けられるかもしれないけど…クリスのレベルだったら、同じ匂いに感じられるかなあ」
 「私のレベル、って、それは褒め言葉ではないな?」
 「遺憾ながら」
 「…ま、今日のところは勘弁してやろう。海の事について詳しくないのは、事実だし。…で、だ。学院の図書館にあった本で、海棲の幻獣を探したんだけど…あきれるほど、少ないんだ、これが。それも、「ちょっと、これは契約するのが難しいんじゃないか?」っていうやつばかり。どうしてだろう?」
 そんな事、俺に訊かれても。
 「さあ?資料を集めたのは、俺じゃないし」
 クリスが曖昧に微笑む。
 「で、その中で、「龍」に該当しそうなのを抜き出してみた」
 クリスがテーブルの上に広げてあった資料の中から、一枚の紙を取って、こちらに差し出した。見ると、あまり見慣れない幻獣の名が羅列されている。

#日記広場:自作小説

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2009/07/07 23:21
お邪魔します<(_ _)>

次回、龍の種類が判明でしょうか?



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