モンスターハンター 騎士の証明~26
- カテゴリ:自作小説
- 2012/09/11 00:31:46
【災厄の余震】
瀕死のハプルボッカが辿り着いた先は、切り立った岩山に空いた洞窟だった。まるでモンスターの口よろしく横長に広がった闇を覗きこみ、ボルトが中の様子を窺う。
「モンスターがねぐらにしてるってことは、中に光源があるってことだよな」
「ああ。しばらく進めば、どこか縦穴があるだろう。……ん?」
「どうした?」
不思議そうにボルトが見てくる。いや、とロジャーは首を横に振った。
(さっき、かすかに地面が揺れたような気がしたけど……気のせいか)
ロジャーが先に入り、ボルトが後に続いた。洞窟を住処(すみか)とするモンスターは、決して完全な穴倉を選ばない。もし外敵が侵入した場合、たったひとつしか出入り口がなければ、安全な逃げ道が確保できないからだ。また、崩落があった場合にも、同じ理由で適さないし、酸欠になるおそれもある。それを本能で理解している彼らは、必ず枝道がある洞窟をねぐらにするのである。
松明がなければ進むのをためらってしまいそうな暗闇の中、壁伝いにしばらく進むと、ほどなくして高い天井から光が差し込む空間に出た。その奥の方で、これから眠りにつこうとしていたハプルボッカがこちらの気配に気づき、振り返る。
ギーッ! と叫んだモンスターの両エラから、白い湯気が噴き出す。逃げ出すかと思いきや、怒り狂って突き進んできた。すでに手負いだが、こういう時彼らは、さらに凶暴化する。己の命を守るために、死に物狂いで抵抗するからだ。
「苦しいだろう。今、楽にしてやる」
ロジャーは双剣を抜くと、深く息を吸った。すさまじい突進を、ボルトが盾で受けとめる。鋭い牙が目の前をかすめたが、恐れることなくロジャーはモンスターの脇へ詰め寄り、露出している右のエラを切り裂いた。
ギィイ!
鋭利な刃がエラを切断し、ハプルボッカは悶絶する。じたばたともがくその大きな口に、ボルトがガンランスを突き立てた。
「これで――仕舞いだ!」
両顎が閉じる前に、その口腔で爆音が鈍く轟く。ボルトの砲撃が、ハプルボッカの最大の弱点である口蓋垂を破壊したのだ。断末魔の衝撃にハプルボッカは一瞬高く飛び上がり、鮮やかな青い腹を上にして地面にもんどりうった。そして悲しげにひと声鳴くと四肢を引きつらせ、やがて動かなくなった。
「せめて……安らかに」
剣を収めると、ロジャーはモンスターに歩み寄り、大きな鼻面に片手を当てて目を閉じた。傍らでボルトも短い黙祷を捧げる。本来なら討伐されるべきではない彼への、自分達が唯一できることだった。たとえ偽善だ、自己満足だと言われようと、この行為をやめる気はない。
ギルドナイトが実際に討伐するモンスターの数は、意外にも少ない。よほど危険な個体と判断されない限り、彼らが対峙するモンスターのほとんどが捕獲されているからである。
王立古生物書士隊が調査した全体的な個体数をもとに、ハンターが討伐すべきモンスターの数を決めているのがハンターズギルドだ。生態系が崩れないよう、個体数の増減は厳密に調整されている。もし倒しすぎたモンスターがいれば、その討伐をしばらく禁止することもある。
その際の調整役としてナイトが現地に赴き、増えすぎた個体を捕獲して別の土地へ放す、ということも行う。モンスター同士の縄張り争いに発展しないよう、充分に注意を払った上でだ。
一般のハンターにその任をまかせないのは、彼らが誤ってモンスターを必要以上に傷つけたり、殺してしまう可能性があるからだ。そのため、ナイトにはモンスターの部位破壊を一切行わずに対象を捕獲する高度な技術が求められるのである。
もしギルドと連携が取れていたなら、このハプルボッカも捕獲して、よその地域へ移すこともできたはずだった。ロジャーはモンスターのむくろを見つめ、唇を噛んだ。
「しっかりしなきゃ……」
短く吐息をついて、ロジャーは面を上げる。迷いはハンターにとって忌むべきものだ。任務の遂行だけでなく、これからの狩りで命も落としかねない。
「こいつ、だいぶ人間を食ってきたみたいだな」
奥の方へ歩きながら、ボルトがつぶやいている。足元を見る彼のまなざしが、痛ましそうに歪んでいた。ロジャーも先へ進み、辺り一面に散乱しているものを見て、短くうなずく。
悲惨な光景を目にすると、どうしても心が痛む。
これまでに、狩り場でモンスターに襲われて命を落とした仲間や一般人の姿を、ロジャーは数多く目にしてきた。今でも決して、慣れることはできない。
薄ら寒い光に照らされた一部だけでも、数多くの白骨や衣類などの残骸があった。ハプルボッカは獲物をほぼ丸呑みにするが、たまには食べ残すこともあったのだろうか。
「食べ残す……?」
はっとして、ロジャーは辺りを見回した。
「どうした?」
「何かおかしい。どうしてこの場所は、こんなに人骨が多いんだろう」
「そりゃあ、モンスターが獲物を引っ張り込んだんだろ? 巣に持ち帰って食べる飛竜種もいるだろ」
「ハプルボッカはその場で餌を食べる。持ち帰ったりはしない」
「それって、どういうことだ?」
ボルトが目を剥いた。ロジャーは素早く辺りを見回した。答えは、すぐに見つかった。
「――あった。これだ!」
「な、なんだあ?」
薄暗がりに向かって突然駆けだしたロジャーを、慌ててボルトが追いかける。そして、その前で立ちつくすロジャーに続いて、ボルトもあぜんとしてそれを見上げた。
「こ、こいつは……」
「ピュアクリスタルの大鉱脈だ。……こんなにすごいのは初めて見たよ」
高さ20メートルを超える裂け目が淡い光を放っている。そこに孕まれた巨大な水晶群が、天井から射し恵む光を反射して、きらきらと輝いているからだ。世界にも稀に見る鉱石の宝庫がそこにあった。
「おい、ほ、本当にピュアクリスタルなのか?」
露出した鉱脈に近づいて、ボルトは結晶のひとつをまじまじと見つめた。人間の頭ほどもある大きな水晶は、地底に広がる湖のように、どこまでも澄みきっている。
「間違いない。この純度、結晶の形……ライトクリスタルの最上級、ピュアクリスタルだね。旧大陸にしか発見されていないと思ったけど、この新大陸にもあったなんて思わなかった」
「だ、だよな……。すげえ。これひとつ売っただけで、しばらく遊んで暮らせるんじゃないか?」
思わずボルトが水晶に触れようとした、その時だった。
「そこから離れて頂きたい」
「――なっ! お前、ジル将軍か?! それと、あの時の商人じゃねえか!」
どこか無念をたたえた声音に、ボルトは弾かれたように振り向いた。だが、ロジャーは落ち着いて相手を見返した。こうなることは、頭の隅で予想していたからだ。
いやーうらやましいですw
この手の漫画本は、シーズンを過ぎると売らなくなるので、ネット通販の中古でようやく1冊だけ見つけたんですよ。
おすすめの本も見つけられたらいいんですが…。なかなかレア本です。
かのかさんのオトモ兄ちゃんって、フード付き装備のこの人でしょうか?
何の装備だろ…って、あ、フルフルかw
この人もなかなか味のある役どころですよね。泣いてる顔がカワイイww
同巻だけの話題で申し訳ないですが、あんこきくちよさんの「朝の準備は3時間」というネタも好きです。
そうだよな~、ギルドが緊急つってんのに、我々は装備だなんだとすごい時間かかるよな~、という(笑)
こういうの読んでると2Gやりたくなってくるんですが、ウカム緊急で半分挫折したトラウマがよみがえり、なかなか2G再開できません。ミラもとんでもないし…。
こんな腕前で3G買おうかなあと思うのもおこがましいですが^^;
でも3rd以外の新しい天地で狩りをしたいという気持ちも高まる一方で。
はぁ…4がPSでも出てくれたら良かったんですけどね…。どんどん遠い存在になっていく気がする。
『モンスターハンターポータブル2nd 4コマアンソロジーコミック』ですね。
このシリーズは現在に至るまで全巻揃っています。
私のお奨めは『モンスターハンターオフィシャル4コマコミック』2~3に収録されている かのかさんの奇妙なハンター一家がシュールで良い味出してます。
このオトモ兄ちゃん好きだなぁ。
こちらこそ、いつもお忙しい中時間を割いてくださって感謝しております。
更新のタイミングは、皆さんがお読みになってから載せようと思っておりますので、いつでも読みに来てくださいね。
あまりこっちが張り切りすぎて早く多めにアップしてしまうと、読むのが追い付かなくてプレッシャーになりはしないかと心配です^^;
ここで書いたナイトの捕獲の設定は、あくまで「そうじゃないかな?」という程度で^^;
でも物語にかかわるので、そこは上手に嘘をつくと(笑)
公式でもそういう設定だったらいいですよね。ちょっと優しくてかっこいいじゃないですか。
それに、一般のハンターだと捕獲で終わらせるのはむしろ難しいものですよね。
この元ネタは、2ndの四コマ漫画で村雨さんという作家が描いているネタがうっすら原型になってます。
どういうネタかというと、
「デスギア装備のシニガミさんはすさまじい強さでモンスターを倒すが、倒した後いつも泣いている。どういう深い理由があるかと思ったら、実は手加減できないだけだった。それで捕獲報酬がもらえなくて泣いてました」
というものです。読んで大笑した覚えがあります。イカズチさんならご存知かな?^^
最近は私的に忙しく、更新されて直ぐ拝読出来ない状態なのですが、必ず読みます。
御無礼はご容赦を……。
おおっ、そうですか。
『ナイトにはモンスターの部位破壊を一切行わずに対象を捕獲する高度な技術が求められる』
この事はモンハンの辞典にも載っている事なのですが『何のために?』の部分が見当たらず。
単に『ナイトの力量を図る為』とか『研究の素材とする為』と思って居ましたが、この方が納得できますね。
また、コメントの内容、凄い推理力です。
GJですよ~。
説明描写、きちんと伝えられたようでほっとしています。
こういう説明は、ウェブのモンハン辞典や、手持ちの公式小説(2冊しか持ってない^^;)を熟読して、さらにゲームもプレイして、無理のないように気をつけて書いています。
こういう説明を読んでいて退屈しないのは、ひとえにゲームの世界観によるものでしょうね。
昔、ウィザードリィというゲームで、モンスターやアイテムの説明を逐一読み漁ったことがありますが、その感覚に近いです。というより、モンハンは現代のウィズですよね^^
ナイトの捕獲業務については、モンハン辞典の説明と、3rdに登場するギルドナイト装備のスキル「捕獲の見極め」に基づいて考えました。
なんでここまで捕獲スキルが充実してるのかな、と思って…じゃあこういうことなのかと。
ギルドは狩場の産卵数も調査していて、個体数の増減を卵の数で調整していると(増えすぎなら採る、逆なら持ってくる?)同じサイトで読んだ記憶があるので、捕獲したモンスターを野生に放すのもありかなと考えてみました。
部位破壊せずに倒すのは、一部のモンスターを除いては難しいですよね。私の技量では、弓でディアブロスが精一杯かもw
後半の描写は、ルパン三世のテレビスペシャル「ルパン三世 ヘミングウェイ・ペーパーの謎」が、なんとなくイメージにありつつ書いてました。
この「ヘミングウェイ~」で明かされるお宝が、地底に眠る大量のウラン鉱石の鉱脈なんです。
私この作品が非常に好きでして、今回そのイメージが内容に反映されたようです^^;
さっきウィキ見たら、すごい人たちが制作に携わっていました。そりゃ面白いはずだ。
最近のルパンはぱっとしないから、またこのくらい面白い作品が見てみたいです…あ、話が逸れましたw
トゥさんのように、登場人物に乗り移って読んで頂けると、書いて本当に良かったと思います。
ありがとうございます^^
ねぐらの説明と描写、さすがの説得力でした。
『勇気の証明』のジエン登場場面でも思いましたが、モンスターの生態をしっかり書かれるところが好きです。読んでいておもしろいし、体温を持ったリアルな生き物として感じられますから♪
そのぶん、動かなくなった場面ではちょっとしんみりしてしまいますけれど。
偽善でも、自分のためだとわかっていても、わたしも黙祷をやめないと思います。
捕獲、放獣、個体数の管理というナイトの仕事が素敵です。
でも一切の部位破壊をせずに捕獲って難しいですよね。やっぱりすごいんだなぁ。
「こいつ、だいぶ人間を食ってきたみたいだな」
この台詞にあれっと思ってからの展開は、ドキドキですね! 人間の欲のにおいがしてきました。
個人的に、ロジャーとおなじタイミングで得た違和感がうれしかったりw
次回も楽しみにしています✿
この作品脱稿したら、3DSと3G買おうかな…。
その時には、4が出てるかもしれないけれど。
ニンジンと馬みたいになってきたなぁ。