Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~27

【災厄の余震・2】

「後をつけて来たのですか。それとも、待ち伏せていた、の方が正しいでしょうかね?」
 ロジャーの問いに、十数名の兵士と太った商人を引き連れた若き将軍は、苦く目を伏せた。
「モンスターが入ってこられない横穴で待っていた。貴殿なら、きっとここを突き止めると思ってな」
「お前、俺達をだましたのか!」
「――話を聞きましょう」
 頭に血が上ったボルトを片手で制し、ロジャーはジル将軍を見つめた。感謝します、とジルは黙礼する。
「後をつけるという卑怯な真似をしたことを、まずお詫びする。だが、決してだますつもりではなかった」
「どういうことだ?」
 剣呑なボルトの視線を恐れず、ジルは傍らに立つ商人を示した。軽く背を押されて、肥満体がぎくりと跳ね上がる。
「彼は、宰相と密通している者の一人だ。身分は商人だが、我が国の旅人の酒場に立ち寄るごとに情報を集め、それを宰相に横流ししていた。私はこの者の通告により、宰相に自宅謹慎を命ぜられたが、部下を身代わりにしてあなた方を追ってきたのだ」
「数時間前に見たキャラバンは、宰相の手下に見つからないよう変装した、あなた方だったというわけですね。しかし、そのようなことをすればあなたが危険でしょう?」
「この国の行く末を憂う者として、じっとしてはいられなかった」
 まっすぐな目をして、ジルは言った。
「ここに来たのは、あなた方を逃がすためだ。依頼は撤回する。だから、速やかにここから離れてはくれまいか」
「それは、我々自身が決めることです」
 きっぱりとロジャーは言い返した。
「我々もうかつでした。この地域が狩り場ではないために、調査をおろそかにしていたなんて。確か数年前、この地方で大きな地震がありましたね。この鉱脈は、その地殻変動で露出したものでしょう」
「おそらく。このようなものが昔からあれば、この国はもっと栄えていただろう」
「あっ! て、ことは――、もし、この商人からあの時酒を受け取っていたら!」
 今さら思い出して大声をあげたボルトに、ロジャーは苦笑した。
「そうだね。きっと、酒と食料には毒でも入っていたんじゃないかな?」
「てっめえ~!」
 さすがに頭に来て、ボルトが怯える商人の胸ぐらをつかみあげる。右腕一本で軽々と足が宙に浮き、商人はボルトの手首をつかんでじたばたともがいた。
「ひええっ! わ、私はそんな大それた事は! ただ、ちょいと痺れる薬を入れただけですよ!」
「んだとゴラァ! 食い物粗末にするんじゃねえよ!」
「し、仕方かったんです! そうするしか税金を逃れる術がなくて、だから!」
「税金?」
 ロジャーがジルを見る。ジルはうなずいた。
「恥ずかしながら、表立った産業のない我が国は、商人に通行税をかけているのだ。荷物が多ければ多いほど税が上乗せされるから、旅商達にはとても嫌われているんだが、ロックラックへの道がここしかないので、皆、やむなく支払っている。ここ数ヶ月は、さらに税金が値上がりしているのだ」
「なるほど。それで最近ロックラックへ着く荷の値段が急に上がっていたのか。宰相殿はその弱みにつけ込んで、税を免除するかわりに自分の耳となる者を得ていたわけですね」
「その通りだ。すべては、この鉱脈をよそ者から守るためにな。いや、正確にはあなた方から、と言うべきか」
「……なるほど、そういうことか。ようやく、話が見えてきたぜ」
 ボルトはジル達を鋭く睨みつけた。
「ギルドは管轄地域一帯の資源の管理もしているからな。もしこの場所が知れたら、あんたの国はこの鉱石を独占できなくなる」
「その通りだ」
 ジルは低い声でうなずいた。
「私も、先ほどまでこの鉱脈の存在を知らなかった。子飼いの部下に理由を調べさせた結果、この男の存在が浮かび上がったのだ。まだ市街に宿泊していた彼を縛り上げて問い詰めたところ、ようやくこの洞窟のことを知った」
「なるほど。しかしその行為がかえって我々をここに呼び込むことになろうとは、あなたの上司も知恵が回らなかったようだ」
 思わず皮肉になってしまい、ロジャーは「失礼」と非礼を詫びる。ジルは、それには及ばないと言った。
「なぜここの存在が秘匿されていたのかはわからん。確かなのは、宰相はこの洞窟を知った者を生かしてはおかないということだ。ここに散らばる骨はその末路だ。だからこそ、あなた方を命に代かえても逃がさなければ。それが、私にできる罪の償いだ」
「お前……」
 苦渋に満ちた将軍の言葉は本物だった。ボルトは感じ入り、思わず手の力が緩む。その隙を突いて、商人が激しく暴れた。
「は、放せえ!」
「おい、こら! 暴れんな!」
「み、皆さん!」
 ボルトの握力から逃れ、商人は地べたに落ちて尻もちをつきながら、背後に控えている兵士達に怒鳴った。
「宰相様に逆らって済むと思っているんですか!? ここはどっちについたら得か考えなさい!」
 兵士達はためらうようにお互いを見合っている。商人はここぞとばかりに叫んだ。
「あなた達は、モンスターの餌になりたいんですか!」
 途端、空気が凍った。その刹那に流れた狂気ともいうべき気配に気づき、将軍が絶望的な声をあげる。
「いかん!」
「う、うわあぁ~!」
 数名の兵士が悲鳴のように叫び、ボルトとロジャーへ向かって槍を振りかざして襲いかかった。抜刀するいとまも与えぬ奇襲に、しかし、2人は動かない。凶刃が彼らを貫く――ジルは絶望した。――が。
「――ハァッ!」
 それは、一瞬の舞のようだった。裂帛の気合いと共に放たれたロジャーの、ボルトの拳と蹴りが翻った瞬間、まとめて兵士達が地面に叩きつけられる。
「何と……!」
 泡を吹いて失神する兵士達は全員急所を突かれていた。卓越したその腕に、ジルは言葉もない。
「ただの兵士では我々の相手は務まりませんよ。おとなしく、観念なさい」
「ひっ……」
 ロジャーの向けた静かな視線に、商人は真っ青に青ざめていた。残る兵士達も抵抗の様子を見せない。完全にこの騎士達に呑まれてしまっていた。
「どの国の権力も、我がハンターズギルドを縛ることはできません。この鉱脈は、すぐにギルドに報告いたします。――しかし、その前に」
 ロジャーは凛々しい目で将軍達を見すえ、言った。
「まず、あなた方の王と話をする必要があります。我々が略奪者ではないことを、きちんと知ってもらわなければ」
「だよな。なら、その役目はお前に任せたぜ、ロジャー」
 ボルトが、分厚い手のひらをロジャーの逞しい肩に乗せた。
「残る2頭は、俺に任せろ。このだだっ広い中を探すんじゃ、さすがに夜までかかりそうだからな。それに将軍の身代わりも、今頃無事じゃあ済まないだろうぜ」
「無事……」
 つぶやいて、しまったとロジャーは額に手を当てた。
「まずい。僕らに手が回ったということは、あの2人も……!」
「ああっ!」
 ボルトも気づき、再び商人の胸ぐらを締め上げる。
「てめえ! まさか、ユッカとショウコのことも宰相にしゃべったのか!」
「そうか、彼女達も捕らえられている可能性が……!」
 このことはジルもまったく頭になかったらしく、顔から血の気が引いていった。
「どうなんだ、おい!」
「へ、へへ……」
 ボルトの叱声が飛び、締め上げられた商人が、否定ではない笑みを浮かべた――その刹那。
 ドン、と突き上げるような振動が彼らの言葉を切り、次の瞬間、激しい揺れが一同を襲った。

アバター
2012/09/18 08:00
イカズチさん、コメント感謝です。

よかった…途中までの説明に違和感はないのですね。
商人や将軍が来た理由、けっこう無理やり考えた理由づけだったのですが^^;
というか、普通にロジャーたちが余分な3頭をやっつけました、という展開だと面白くないので、起伏を付けるためにこうなりました。
オチの引きの部分は、ラストへの伏線です。揺れの正体は、次回で書きます。
期待外れにならないよう、頑張って書かねば(笑)

ちなみに、ボルトがちゃっかりロジャーに話し合いを任せたのは、信頼もありますけど、実はそういうのがめんどくさかったから…というのは内緒です。根っからの狩り好きなのですよ。
アバター
2012/09/17 23:31
これは……ヤバい。
残りの2頭をボルトがどう対するかも興味がありますが、上位ハンターとは言えユッカとショウコは依頼内容からするとギリギリの力量では?
そこに悪意を持った邪魔が入ったら。
先が楽しみ……と言うかドキドキしている自分が居ます。
蒼雪さん、魅せますねぇ。

最後の『揺れ』ってなんですか?
引っ張り方、ウマ過ぎ。



月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.