モンスターハンター 騎士の証明~28
- カテゴリ:自作小説
- 2012/09/11 00:33:01
【恋するハンター】
ロジャー達が地下で災禍に見舞われた同時刻。
荒野を急ぎ足で歩いているさなかのことだった。いきなり地面が大きく揺れて、ユッカとショウコ、オトモのコハルが、驚いて足を止めた。
「なんだろ、今の……」
「うひゃ~、いきなりグラグラッときたで?」
揺れは数秒で収まった。ふたりは顔を見合わせ、あたりの様子をうかがう。しかし、もう振動は収まっていた。
「ディアブロスが移動したんともちゃうな。やっぱ、地震か」
飛行しない飛竜種のディアブロスは、卓越した足と翼で地面を掘って地中を移動することがある。その際、激しい振動が地表を走り抜けるが、さっきの揺れはそれとは違っていた。
「この地方、最近地震が多いって聞いたことはあるけど……。これが地震なんだ……」
ユッカの故郷ユクモ村は、ロックラックからはるか東の山奥にある。豊富な源泉で名高い温泉地だが、火山の影響はまったくない。火山地帯の局地的な揺れ以外で地面全体が揺れるという体験は、ユッカにとってこれが初めてのことだった。
「なあ、ユッカ……」
不安げなまなざしで見つめてくる相方に、ユッカは毅然とした表情を作らねばならなかった。
「なあに、ショウコ?」
「やっぱこの依頼、降りた方がいいんとちゃうか?」
友の言葉は予想した通りだった。けれど、ユッカの決心を揺らがせるには十分だった。
「ギルドの支援はない、国の情勢は悪い、おまけにこの地震や。ただでさえ命がすり減るような連続狩猟に、これ以上の悪条件もないで」
「わかってる。でも……大変なのはわたし達だけじゃないよ」
腹の前で両手をきつく組み合わせ、ユッカは陽炎揺らぐ彼方を見やった。そこに自分の探すものがあるかのように。
「今頃、ロジャーさん達もどこかで戦ってる。あの人達はわたし達を信じてくれた。それを裏切るわけにはいかないわ」
「ユッカぁ……」
何か言いたそうに、ショウコが唇を噛んだ。ユッカ自身、こんなにも心細い思いで狩りに臨むのは初めてだった。
昨夜のことだ。ギルドへの書状を持ってロックラックへ旅立つランマルを街の外で見送ったあと、ユッカ達は宿屋へ戻った。
部屋に入ると、さっそくショウコが、酒場で出会った商人からもらったワインと干し肉で一杯飲ろうとした。その時、お酌をしようとしたコハルが妙なことを言ったのである。
――このお酒、なぜかマヒダケの臭いがします、と。
マヒダケは野生の毒キノコの一種で、その名の通り食べたものを痺れさせてしまう。主にハンターがモンスターの動きを止めるために採取が許されるが、一般人が触れていい代物ではない。
すぐさまショウコ達は宿泊する部屋の窓から飛び降りて逃亡した。宿代は多めにテーブルに置いて。
彼女達を捕えようと後をつけてきた兵士達は、重装備の女が3階から飛び降りたことに驚いていた。これくらい、ハンターのユッカ達には朝飯前だ。
宿屋の外で待機していた兵士達はユッカが煙玉で巻いて、命からがら街の外へ飛び出した。街門が閉ざされる一歩手前の時刻だったのが救いだった。もし閉じられていたら、今頃牢屋の中だったろう。
高い城壁に囲まれた街の外は、今やモンスターが徘徊する危険な地となっている。兵士達もそれを恐れてか、街門から外へは追ってこなかった。
それでも、彼らが追ってきやしないかと不安で、夜通しユッカ達は荒野を進んだのだ。先ほど岩陰で2時間ばかり仮眠を取ったけれど、心と身体の疲労は癒えてはいなかった。
「ひょっとしたら、ロジャーはん達も捕まってるってことも……」
「そんなことない!」
思わず強い口調になって、ユッカははっとした。ショウコが驚いた顔をしていた。
「……ごめん、ショウコ」
「ええって。あんたの気持ちも、ようわかる」
「や、わたしはそんなんじゃないったら」
したり顔の親友に肩に手を置かれて、ユッカは頬を赤くした。
「わたしはただ、あの人達の役に立ちたいの。それだけだよ」
「ウチはなんも言っとらんよ?」
ショウコがにやにや笑っている。もう、とユッカは目をそらした。
(わたしの気持ちは、ショウコが考えてるようなのじゃないんだってば……)
もし、ロジャーとふたりで狩りに行けたらどんなに素敵だろう、とは思うけれど。でもユッカの想いは、そこがゴール地点ではないのだ。
世の中の女性が夢見るような幸せは、ユッカにはもう、魅力的ではなかった。
なぜならユッカは――“ハンター”だからだ。
「……どうしても嫌なら、ショウコ、ロックラックへ戻ってもいいよ」
碧色のボウガンを背負い直し、きっぱりとユッカは前を見すえて言った。
「巻き込んじゃったくせに、偉そうでごめん。だけどわたし、できる限りのことはしたいの」
言いながら、自分勝手だと苦い思いで一杯だ。今の装備と実力では、5頭すべて討伐できる自信は、ほとんどない。
「ごめんね。わたし、ショウコに甘えてばっかりで」
つぶらな瞳を悲しげに伏せ、ユッカは自分の影法師に目を落とした。
「わたしのわがままで、とんでもないことに巻き込んじゃったよね」
「ユッカ……」
「実はね、半分後悔してるの。こんなことになるなんて夢にも思わなくて……。人から追いかけられるのって、こんなにも怖いことだったんだね」
狩りをして、人から感謝と称賛を浴びこそすれ、犯罪者のように追われるなど考えたこともなかった。
それでも、ロジャーが正しいと思うなら、自分もそれを信じて進むしかない。
「――行こか」
「――ショウコ」
親友が肩を叩いて先に歩き出すのを見て、ユッカは目を丸くした。
「――いいの? 取り返しがつかないかもしれないんだよ?」
「あんたとウチが組んで、もう何年になる? 5年やで」
鎧ごしに振り向いて、ショウコは八重歯をきらめかせた。
「5年も背中預けた相方を、そうそう見捨てられるかい。見捨てるつもりなら、ゆうべのうちに逃げとるわ」
「ショウコはん、かっこええ~。オトコ前やな~」
ショウコにベタ惚れのコハルが、目をキラキラさせて彼女にすり寄る。必要以上にくっつくのを、ぐいと片手で押しのけつつ、ショウコはさばけた顔で言った。
「さあ、急ごうで。今日中にこの一帯見回って、採れそうな草やら見つけておかんと。初めての狩場や、なんやウキウキするなあ~」
「ショウコ……」
先に歩き出したショウコを追いかけ、並んで、ユッカは小さな声で言った。
「……ありがと。ショウコで、よかった」
「やめや。今さら、あんたらしゅうない」
「えへへ」
ようやく笑顔を見せると、ショウコも安心したようだった。それでふっきれて、ようやく地図を見ながら地形を確かめる作業に集中できた。
だから、その後ろでぽつりとつぶやいた親友の声に、気づかなかった。
――ただなあ。ユッカ。あんたがこの狩りに、命以上のもんを賭けとるんが、心配なんや。
そうですね、ただグロムの後をついて行ったユッカの昔に比べたら、ずいぶん成長してると思います。
しかし、そうなるまでの葛藤、コンプレックスは…というと、実はまだ未解決だったりするんです。
その思いがユッカをナイトにすべく駆り立て、このクエでも悲壮感を捨てきれずにいるんですよ。
最後のショウコのフラグ…あはは! さすがイカズチさん、読みが鋭いですww
こちらもフラグとして書いてるので、気づいてくださってうれしいですよ~。
ショウコの関西弁は書いてて楽しいですね。文法時々間違えてしまいますが^^;
性格もわかりやすいし、これもイカズチさんのキャラ造形のたまものでしょう。こちらもショウコには、何度も助けられております^^
お兄ちゃんに憧れてハンターとなって追いかけ、ミーラルにヤキモチを焼いた頃とは雲泥の差です。
タイムリーにショウコが登場しましたね。
千文字道場の方で『方言キャラ』のコメントを書いた所と言う意味で。
なにせ台詞だけでショウコのモノとわかるから、こんなに便利なヤツは居ない。
私がショウコをお気に入りなのもそんな理由からかもしれません。
ただ……最後のショウコの台詞が、なんかのフラグが立っちゃったようで気掛かり……。
同じ時間軸で進める構成は、なかなか難しいですね^^;
ユッカとショウコが捕まってしまう展開も考えましたが、助けてくれる人が該当しなかったので、こうなりました。
前にグロムを出してしまったし…こういったデウスエクスマキナーは、さすがに2度は使えない^^;