モンスターハンター 騎士の証明~29
- カテゴリ:自作小説
- 2012/09/11 00:33:34
【爆砕の守護神】
「今の地震は……」
数秒で揺れが収まると、ロジャーは、ほっと息をついた。このような場所で落盤にでも遭おうものなら、一巻の終わりだ。揺れの激しさを物語るように、天井付近から、パラパラと剥がれた岩が落ちてきている。
「あ~、びびった。火山地帯でもこうはいかねえよな。最近多発してるって報告はあったけどよ」
ボルトが、地震で腰を抜かした兵士達を見て苦笑した。それほどの震度だった。
「早く出ましょう。また地震が起きたら、崩れてくるかもしれない」
緊迫した面持ちで、ジルが言った。ロジャーもうなずきかけ、ふいに、洞窟の奥の方へ半身を翻らせた。
「どうされた?!」
ジルが青ざめるのへ、「しっ」とロジャーは唇に人差し指を当てて制した。
「何か……来ます」
「な、何と?」
「あなた達は下がって! 早く!」
穴から目を離さず、ロジャーは素早く腕を払って出口へとうながした。しかし、ジルが部下へ指示を飛ばすその直前。
――ガァアア!
擦過音の入り混じった咆哮が、洞内をとどろかせた。咆哮を聞いた兵士達が身も世もない悲鳴をあげ、その場に硬直する。
「ティガレックスか!」
暗闇からぬうっと頭を突き出したのは、鮮やかな黄と青の縞模様の竜だった。一同を睥睨し、舌なめずりをする。ロジャーの告げたその名に、商人と兵士達は恐慌に陥った。
「い、いやだ! 死にたくないぃ!」
「待てっ、むやみに動くな!」
ロジャーが叫んだが、間に合わなかった。
「ぎゃああっ!!」
真っ先に出口へと駆け出した商人と兵士数名が、飛びかかったティガレックスの餌食になったのである。絶叫と血潮が辺りに飛び散り、生き残った者は震えあがった。
「落ち着いて! 奴は自分の視界に入った者から襲います! 我々の指示に従ってください!」
「みな落ち着け! 死にたくなかったら、この方の言う通りにするのだ!」
ロジャーの指示にジルの檄も重なったが、死の恐怖に囚われた兵士達は聞く耳を持たなかった。顎を血まみれにした轟竜がこちらを振り向いた瞬間、また絶叫をあげる。
「も、もうだめだあっ!」
足のすくんだ兵士が泣き声をあげた、その時だった。
「うおおおっ!」
ティガレックスの突進の前に、黒い巨影が立ちふさがった。手にした大盾が、恐るべきモンスターの牙を食い止める。
「今だ、ロジャー!」
「――全員、目をつぶれ!」
ロジャーが怒鳴りながら球状のものをポーチより取り出し、一挙動で投げる。ジルをはじめ、本能的にみな従っていた。
カッ! と真っ白な光が閉じたまぶたの裏まで焼きつくした。ギャアッ、とモンスターが怯んだ声をあげる。
「今です、逃げましょう!――ボルト、あとは任せる!」
「おお、任されたぜ! みんなを頼むぞ!」
ロジャーがジルの背を押し、生き残りを出口へと誘導する。ボルトは仲間を見送ると、閃光に目がくらんで右往左往しているティガレックスに向き直った。
「さあ、始めようか? ティガちゃんよ」
太い笑みを浮かべ、ボルトはソルバイトバーストを構えた。
「よいのですか、彼ひとりで?」
出口をたどる道すがら、ジルが不安げに尋ねた。大丈夫ですと、ロジャーは力強くうなずいてみせる。
「ボルトには二つ名がありましてね」
世間話でもするように、ロジャーは言った。
「我々ハンターには、実績に応じて称号が与えられるのですが、彼も、それにふさわしい名を持っているのです」
「それは、なんと……?」
「――爆砕の守護神」
立ち止まり、ロジャーはジルに笑みを見せた。
「全てを守り、打ち砕く。それが彼の戦い方です」
「……確かに。あの盾さばき、私の目にも見えなかった。まるで常人ではない。守護神というのもうなずける」
強く納得した様子のジルに、ロジャーは笑った。
「だから、大丈夫です。彼は絶対に負けません」
「……信頼しているのですね」
いつの間にか、ジルの言葉づかいが敬語になっていた。隠せない畏敬の念が、ロジャーを見つめる瞳にこめられている。
「もちろんです」
ロジャーはにこりとした。やがて、進む先に白い光が見えてきた。出口だ、と兵士達が喜びの声をあげる。
「しかし、そううまくは先へ進めないようだ」
外の空気へ一歩踏み出し、ロジャーは苦笑した。洞窟の出口の前には、およそ20名ほどの弩兵がずらりと並び、その中央に士官らしき男が立っていたからだ。
「宰相の命により、あなた方全員を逮捕する」
「お前は! 自分が何をしているのかわかっているのか!」
士官の顔を見て、ジルが怒鳴った。ジルより年かさの士官は、軽蔑したように肩をすくめた。
「貴君にも逮捕命令が出ています。王に背き、勝手にハンター風情に国土を荒らさせた罪としてね」
「私を貴君呼ばわりとは、ずいぶん出世したものだ。宰相に取り入るとは、お前も地に落ちたものだな」
「どうとでも。金がなければ世の中やってはいけませんよ。今のうち、陛下に許しを請う文句でも考えておかれてはいかがか?」
「貴様……!」
ジルは歯噛みして、小憎らしい士官を睨みつけた。
「ロジャー殿、せめてあなただけでもお逃げください。私が彼らを食い止めます」
「――いいえ」
ロジャーは、あっさりと両手を挙げてみせた。ジルが目を剝き、士官もいささか拍子抜けした。
「ロジャー殿、しかし!」
「今ここで、彼らをねじ伏せるのはたやすい。しかしそれでは、我々ギルドの人間は、思い通りにならない相手を力で支配するという評判が立ってしまう」
穏やかなまなざしで、ロジャーはジルを見やった。
「ここは、彼らに従います」
「ロジャー殿……」
ジルは唇を噛んで、うつむいた。ロジャーは安心させるように、小さくかぶりを振った。
「いいのです。――さあ」
士官も愚かではないらしい。ロジャーの言葉の意味を悟り、顔に朱が走った。
ロジャーだけなら、いつでも士官らを叩きのめすことができる。
しかし、ギルドの面目を守ることと、それ以上に、自分が闘うことでジルの命が危険にさらされることを防ぐために、あえて投降すると言っているのだ。ジルは、自分が足手まといと知って恥じたのである。
「連れて行け!」
必要以上にいばりくさって、士官が命令した。しかし、兵士の誰もが、この誇り高き騎士に縄をかけることができなかった。護送用の馬車に悠然と2人が乗り込んだのを見届けると、士官は、苦々しげに舌打ちをした。
(こうなりゃ、もう少し強い武器でもよかったなあ)
洞窟内でティガレックスと向き合いながら、ボルトは苦笑した。
対峙する相手は思ったより強く、今手にしているソルバイトバーストでは、やや威力が物足りなかった。
(ブルースがいたら、見栄張るからだ! とか言われちまうな)
気難しい相方を思い浮かべて、笑えるだけの余裕はまだあった。荒野で見かけた遺骸のティガレックスより、こちらは数倍大きい。しかも相当飢えていた。ひっきりなしに口からよだれを垂らし、青灰色の眼も殺気立っている。
「腹、へったろう」
一瞬、ボルトの澄んだとび色の瞳に哀愁が浮かんだ。
凶暴で知られるティガレックスだが、実は人間を食べない。しかし、生き残るために彼らは、不味くても口にしてきたに違いない。ここに散らばる人の骨は、彼の食事の跡だったのだろう。
「正面から来いよ。相手してやる。負ける気はないけどな!」
ボルトの雄たけびと同時に、モンスターが躍り上がった。
そんなに称号を気に入ってもらえるとは!ww
それはこちらも考えたかいがあるというものです。うれしいです^^
それと言うのも、イカズチさんのギルカのメッセージ「全てを防ぎ打ち砕く」があまりにカッコよかったためです。
このセリフ、いつか使いたいと思っていたので、今回お披露目できてよかったです。
28日の狩りでのお目見え、貫録ありました^^
いつか、小説のキャラのコスプレと称号で狩りに出たいですね。w
最初はそのまま「爆砕のガンランス」でいこうと思っていましたが、作中、あまりにボルトが生き生き動いたために「守護神」の称号を思いついたんですよ。
何度もロジャー達を盾で守っているシーンがあったのは、この称号のための伏線だったりします、ふふふ…。
爆砕・守護、という二つの相反する性質の言葉が組み合わさると、なんともいえないカタルシスが醸し出されますね。優しくて強い、豪放磊落な感じが、いかにもボルトらしい。
自分でもとても気に入っているので、実際に使用していただけて感無量であります。
ロジャーの配慮は、後半、ジルに説明している通りです。
最初は私も、捕まえに来た人全員をのして逃亡する展開を考えていたのですが、それはあまりに軽率だろうとロジャーが言ったのです。
ロジャーは使節として一応来ているわけですし。自分が捕まった後どうなるかは、彼自身も実は自信なかったりしますが^^;
でもちゃんと大丈夫な展開なので、安心して読んでいただけると幸いです。
ボルトは…この後、孤軍奮闘…の予定。
がんばれボルト!お前ならやれる!(笑)
元通り、「ソルバイトバースト」に訂正しておきます。
また、今作は2GとMHP3の武器を採用しているので、名前が最上位でなかった「古代式殲滅銃槍」を「ジェネシス」に変更、ストーリーの進行において問題が出たため、ロジャーとボルトがエルドラに入国した日付を「2日前」と変更しました。
ほかにも、ロックラックギルド本部の建物の設定や、トゥルー・ランファ所属のギルド名が変更になってます。時々直しているのですが、また直すかも…。
なにせ詳しい資料がウェブの「モンハン辞典」しかないので、公式とは食い違っている部分もあると思います。2次小説として大目に見ていただけると助かります^^;
公式に劣らないように勉強しつつ書いてはいますが…。
ボルトかっけ~!
『爆砕の守護神』
うぁぁぁ……。
これ、いいっ!
これにしよう、マイキャラの称号。
え~と『守護神』あった~。
と、いう訳で今日のクエには男版でお邪魔したいと思います。
ロジャーの思慮深さ。
恐れ入りました。
てっきり兵士たちをなぎ倒して囲みを突破するものと。
これはこれでカッコいいですなぁ。
後が心配ですが……。
残されてティガとデート中の彼の事も。