Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~30

【鋼の戦友】

 鋼をも切り裂く轟竜の爪が疾風のうなりをあげ、ボルトの顔めがけて振り下ろされる。すんでのところで大盾を構え、ボルトはこれを受け流した。稀少な金属を用いて鍛えられた表面を凶爪が通り過ぎる感覚を、ボルトは歯を食いしばって耐える。臓腑にこみあげたものは、まぎれもない恐れだ。
 どんなに場数を踏んだG級ハンターといえども、背後からモンスターに睨まれれば否応なしに身がすくむ。それは、人間がまだモンスターに捕食されるだけの存在だった時代に遺伝子に刻み込まれた、絶対的な畏怖と恐怖のためだ。
 ギルドナイトといえども生身の人間、その本能は変わらない。それは先刻ティガレックスの犠牲になった者達を死に追い込んだ理由でもあった。
「――おらぁ!」
 腹腔に力を込めて恐怖心を追い払い、全身を使って盾で敵の爪を押し返すと、ボルトは右手の銃槍を相手の顎に向かって切り上げた。鋭い切っ先がティガレックスの柔らかい顎下を切り裂き、血しぶきが飛ぶ。
 四つんばいのまま、ティガレックスが後方へ跳んだ。翼膜と一体化している太い両腕に、血管に沿って真っ赤な紋様が浮かび上がる。
 怒りに移行するサイクルが明らかに早い。それだけモンスターが飢えている証拠だ。
 飢餓状態の大型モンスターは、生存本能を怒りによって高める。それはハンターにとって最も危険な手番(ターン)だった。
 ――ガァアア!
 火竜とはひと味違う、独特の高い咆哮が洞内に轟いた。大盾の陰に身を隠し、咆哮による音圧を防ぎながら、ボルトはガンランスの長い柄を地面に素早く押しつける。
 柄の先端に仕込まれたスイッチがガチリと音を立て、巨大な槍身が半ばから折れると、本体の槍と一体化した巨大リボルバーが回転した。空の薬莢が数個排出され、同時に、槍内部に実装されている弾薬が自動装填される。
「さあ、いこうぜ!」
 愛槍に語りかけるようにつぶやくと、ボルトは再び槍と盾を構えた。使い込まれた太刀や双剣が手足の一部なら、ガンランスは相棒に等しいものだった。
 砲撃を撃ち、砲弾を装填するたびに、組み込まれた機関が持ち主と対話する。孤独な戦いを強いられるモンスターとの狩りにおいて、物言わぬ忠実なカラクリは、扱うハンターに、お前はひとりではないと勇気を与えてくれる。
 ――鋼の戦友。ボルトが誰よりも、この武器を愛している理由だった。
 ティガレックスが憤怒の形相をあらわにし、猛然と飛びかかってきた。その速度は人間の視認よりはるかに速い。ごおっと凄まじい風圧が全身を襲い、大盾を地面に立てるようにしてこらえる。
 ボルトは即座に振り向き、背後に着地したティガレックスの右後足を軸にした尾の回転攻撃を、これも盾で防いだ。高速でしなる轟竜の尾が猛烈に鋼板を叩き、ボルトは強烈な負荷にめまいすら覚えた。盾を支える腕の力をごっそりと持って行かれ、危うく武器ごと取り落しそうになる。
 何十トンもの重量を盾一枚で防げるのは、両脚や腕の卓越した荷重の分散と、この武器を作った竜人族の技術のたまものだ。それでも衝撃はすさまじく、ボルトは盾を構えたまま何メートルも後方へ押し返された。
「うおぉっ!」
 敵は連続した攻撃を放ったあと、息継ぎのために動きを止めていた。即座にボルトは槍を構えて数歩走り、背後から隙だらけの頭部に槍先を突き立てる。
 狙い過たず、ティガレックスの眉間に裂傷が走った。最も薄い鱗が剥がれ、鮮血があがる。
 重量のあるガンランスは、見た目に反して繊細な動作が要求される。機械槍の重さに人体の動きが引っ張られるからだ。長年使いこなさなければ、これほど的確に切っ先を当てることは難しい。
 のけぞった頭部に砲撃を一発当てると、ボルトは素早く左にすさり、ティガレックスの部位で2番目にもろい翼の爪を槍でえぐった。手痛い反撃にモンスターは怯み、再び後方へ飛びのいて間合いを取ろうとする。
「いつやり合っても、お前は飽きさせないなあ、おい?」
 野太い息をつき、ボルトは銃槍を握りなおした。無骨だが、決して造作の悪くない唇が不敵な笑みを刻んでいる。
 ティガレックスは原始の飛竜とも呼ばれている。それは、トカゲに酷似した骨格と頭部のみならず、攻撃方法が突進や噛みつきなど、ほかの飛竜種などと比べても工夫のない単純さから来ている。
 しかし今日まで彼らが生き残り、なおかつ地上の王者とまで呼ばれているのは、単純だからこそ混じりっけのないパワーと俊敏さゆえだ。
 執拗なまでに敵を追いつめる獰猛さに、最初は優性を保っていたハンターも気力をくじかれ、やがてペースを崩されて敗北する例が後を絶たない。
 それは、人間がモンスターから追われていた時代の恐怖を呼び起こすためだと言われている。数多いモンスターの中で、ティガレックスはその恐怖の具現たる存在なのだった。
 かくいうボルトも、かつてはそのひとりだった。まだ在野のハンターで大剣使いだったころ、ティガレックスの恐怖をこれでもかと身に刻まれた。このままではハンター廃業かとまで思いつめた矢先、ガンランスと出会ったのだ。
 手にした新たな武器でトラウマとなったティガレックスを討伐し、ボルトは上位ハンターとして見事に返り咲いたのだった。
「そういう意味では因縁、だよな」
 次の攻撃に備えてボルトが動かずにいると、ティガレックスの両腕の表面から、血の紋様が消えた。冷静になった轟竜は、分が悪いと見たのか、今までの死闘を忘れたように背を向けた。そして、彼が出てきた暗がりの中へ素早く四つ足で消えようとする。
「一時休戦か。まあいいぜ――よっと!」
 ボルトが投げつけたペイントボールが後ろ足に当たっても、モンスターは振り返らなかった。ピンクの鮮やかな粉末と刺激臭がひんやりした空気に残される。
 モンスターの姿が消えたところで、ふっ、とボルトは肩から力を抜いた。そして、どっかとその場にあぐらをかくと、荷物から取り出した砥石で銃槍の切っ先を丹念に研ぎ始めた。
「よし」
 刃こぼれが見当たらなくなるまで研ぎ終えると、ボルトは武器を置いて、今度は乾燥した四角く平たいパンのようなものをポーチから出した。ギルドが作っている携帯食料だ。
「あー、肉食いてぇ……」
 半分に割ったそれを頬張りながら、ボルトは憮然としてつぶやいた。食感は押し固めたパンそのものだが、味は「こんがり肉風味」である。あくまで風味なので、本物には遠く及ばない。むしろ、食べられるだけマシという代物だ。
 この任務が終わったらたらふく食って呑むぞ、とボルトは心底から決心した。
 立ち上がって武器を担ぎ、ナイトの誇りである鍔広帽を軽く直す。
「さあて、第二ラウンドといきますか」
 モンスターを追って洞窟の奥へ一歩踏み込むボルトには、ふてぶてしいくらい余裕の笑みが浮かんでいた。

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2012/10/16 10:19
さえら様

ギルドナイトの装備、ガンランスの様相、もしよろしければこちらをご覧ください。
名前を検索しても見つかると思いますが、見た目、こうなってるんだと知っていただければ。


ボルトのソルバイトバースト(ガンランス@wiki)
http://www43.atwiki.jp/mhp3gunlance/pages/25.html

ギルドナイトの装備(よそさまのブログから)
http://ameblo.jp/tblaze/entry-10739593800.html

ピクシブで見つけたギルドナイトと双剣のイラスト(すごく上手な絵です。ロジャーもこんな感じ)
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=16772355


騎士の証明に登場した装備の画像置き場、自分も作ってみたくなりました^^
でもHPの作成が大変そうだな~。
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2012/10/16 09:46
さえらさん、コメント感謝です。

なんとさえらさん、ここまでお読みくださるとは感謝感激です!
しかも面白かったとは、書き手として最高の褒め言葉…ありがとうございます!

ロジャーは戦いの上ではとても強いのですが、内面は20代の青年として、まだ揺らぎがあります。
ギルドナイトという重責の上に、彼らのリーダーでもありますから。いくら天才でも気苦労はあるだろうと、そういった部分を描いてみたかったんです。
ボルトの「守護神」という二つ名、メンタルケアも兼ねていたんですね!w
さえらさんのご指摘で初めて気づきました。でもおっしゃる通りだと思います。いつもどっしりして気構えがないから、何でも相談できそうですよね。
たぶん、ブルースではこうはいかないんですよ…。彼はロジャーに心酔しているので、ボルトのように対等に励ますことはできなかったかもしれません。

ロジャーがなかなか攻撃的にならない(実力行使に出ない)のは、彼がものすごく強いからです。
襲ってきた兵士を合気道みたいにやっつけたシーンでもおわかりになるかと思いますが、本気を出すと相手を殺しかねないからですね。
あっさり捕まってみせたのは、より深くこの国の内情を探ろうという意図もありましたが、彼のセリフ通りの理由でもあります。
ちょっとブレてるんじゃないかな~、爽快感にかけるかな?と心配なシーンでありましたが、ご納得いただけたようで、こちらもほっとしています^^;


ユッカがロジャーに惹かれる理由、どうしてこの狩猟に必死なのかは、あとで語られます。
ただの恋心ではない、ということですw
ユッカは読む人に受け入れがたいキャラなのではと思い悩んでいましたので、好きと言っていただけてうれしいです。重ねてお礼申し上げます。ありがとうございます^^

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2012/10/16 09:25
朝の家事を終えて、出勤前に続きを読ませて頂きました^^
はぁ~、おもしろかった!
まだ先が気になりますが、仕事があるのでガマンです><

ボルトの二つ名、カッコイイですね! 守護神ってぴったりだと思います。
狩りの場面での盾による防御も、なるほど守護神ですが、ロジャーはメンタル面でも幾度となく守護されているような気がします。ボルトは、なにも意図していないでしょうが、その自然体が良いのでしょうね。

ロジャーの思慮深さは、「なるほど。やっぱり、ロジャーはロジャーだったのね」と思わされました。
『勇気の証明』から一貫した描写があるからこそ、なんですよね~。
彼の表情からは窺い知ることのできない内面の揺れを読ませて頂きながらも、ここぞという場面では、ロジャーらしい振る舞いに納得させられています。

ユッカ……彼女の抱く想いがどういうものなのか。
そして、どうなっていくのか、非常に気になります。
ユッカは、『勇気の証明』の中で、登場した時から好きなキャラだったので思い入れもあるのかもw
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2012/10/02 08:41
イカズチさん、コメント感謝です。

4でティガ復活ということは、3Gでは登場していなかったんですか?
と思ってウィキ覗いてみたら、あ、ほんとだ…ティガいませんね^^;
全体的にモンスターの数も少ない気がする…わりとコンパクトなんですねぇ、3G。
ティガは慣れると楽しいモンスターなので、4復活はありがたいです。お前がいないと締まらないよ、なんてね。

ボルトの武器転向のエピソードは、以前からイカズチさんが
「ティガはトラウマだった…ティガは…:(;゙゚'ω゚'):」と、何度かおっしゃっていた記憶から来ています。
しかしまさか、大剣からガンス転向が実話だったとは私もびっくりですよwww
ティガの猛攻は、ガードなし武器だと脅威ですよね。
私もP3で初対面した時は、泣きながらランスで倒しました。弓で倒せるようになったのなんて、つい最近ですよ(笑)
2Gのティガ訓練も半べそでクリアしました…あれは大変だった。くじけた人、とても多いと思います。
それでもプレイし続ける我々は、まさにモンハンに魅入られた人間なのでしょうw

ガ性+1と2の性能は全然違いますね。
+2のほうが隙がないに等しいので、カウンターがよく決まりますね。ティガのようなパワータイプだと、とくに恩恵を感じました。
突き専門で戦う場合、特に欲しいスキルですよね。ソルバイトは属性がなく、弱点を攻めなければならないので、普段は砲撃王のボルトも、今回は突き專です。

携帯食料はまずいらしいですよw

吉田戦車の作品は、そんなにたくさん読んだことないんですがww
「伝染るんです」と、むかーしの「はまり道」くらいですよ。
そういえば、「マンガの肉」を出す店のネタ、ありましたね~^^
ニコ動でも再現を試みたやつがありましたが、なんか違ってました。ハンバーグはひき肉だからやっぱり違う気がw
でもフェスでふるまう予算を考えたら、見た目だけでも再現してもらえるのは嬉しいですよね。ご賞味できず残念でしたね^^;

以前ですが、イッテQ!の「森三中の肉の旅」で、たしかイタリアのレストランで大きな肉をこんがり焼いた料理が紹介されてました。
骨付きのかたまり肉で、あれを見た瞬間「あれが本物のこんがり肉だ!」とww
教官が言う外はパリッと中はふんわり…なやつです。あれは食べたい!w
アバター
2012/10/02 01:08
『単純だからこそ混じりっけのないパワーと俊敏さゆえ』
クエストで相対するとこれは実感できますよねぇ。
前作で最初に出会った時は本当に『こんなの狩れるもんかっ!』と思ったほどです。
4では復活するそうで。
3でリオが進化したように、変な技を覚えてなけりゃ良いけど……。

大剣使いからティガにトラウマを貰ってガンス使いで復活。
まるで見てきたように私そのものなんですが……。
現実にこのルートを辿る人は多いでしょうね。
ガンスでなくとも弓やハンマーとか。
ある意味、大剣離れのきっかけとなるモンスターなのかもしれません。
本当にハンターに向かない人は辞めちゃうんでしょうが。

ガ性+2(ガード性能+2)はガード状態から素早く回復出来るスキルなので、『後の先』を取る戦い方をするガンスには必須とも言えるでしょう。
なんせ火力は高いが機動性が皆無に近い武器なので。
相手の攻撃を鉄壁の盾でガードし、その隙を狙い砲撃や突きで反撃する。
この戦法を是とする者にはガンスは良い武器ですよね。
ソルバイトバーストも格好がいかにも『銃槍』って感じで好きです。

『こんがり肉風味の携帯食料』
食べ物の描写って上手いと本当に唾が湧きますねぇ。
ボルトの台詞も妙に生々しく、私も思わず「食ってみたいな……」と。
実際、あの形の肉。
食ってみたいなぁ。
そう言えば蒼雪さんもお気に入りの『吉田戦車作品』にも『あの肉を出す店』のお話がありましたね。
また、モンハンイベントでは骨にハンバーグを巻いて焼いた『こんがり肉』があるとか。
この間行った時には盛況過ぎて食べれませんでしたが。
残念!
アバター
2012/09/29 23:12
この回を書くために、ソルバイトバースト担いでガード性能+2で、凍土のティガを狩ってきました。
ガ性+2は、本編でボルトが実装しているスキルという設定です。

最近オートガードに頼りっぱなしだったので、マニュアルガードの感覚を忘れ、こてんぱんにやられた挙句、討伐25分もかかってしまいました。(ウサギさえ邪魔しなければ15~20分はいけた)
でも実際に戦ってみないと、スキル効果が実感できないし、良い取材になりました。
ガ性+2は本当にティガに役立つスキルだなあと…。


でもソルバイトバーストよりオウガンス(火雷)の方が雷属性ついてるので、そっちが早く倒せるのは諸兄ご存じの通りです。
ナイトが通常のティガと良い勝負なのは、あくまで武器の性能のせい…ということを今回書きたかった。
上位者ガンサーなら、ソルバイトでささっと早く倒してしまえるのでしょうね。装備やスキルにもよると思いますが。



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