Nicotto Town


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モンスターハンター  騎士の証明~31

【水面下の戦い・1】

 そのころ、ロジャーはエルドラ公国の王城まで舞い戻っていた。夜通し歩いた荒野も、駿馬の引く4頭立ての馬車なら片道2時間ほどですむ。
 今度は謁見の間ではなく、城内の一室へ通された。彼らを迎えたのは、王ではなく宰相本人だった。
「閣下、連れて参りました」
「……あの黒い大男はどうした?」
「はっ?」
 部屋の奥で豪華な執務机についていた宰相は、こちらを見るなり、不愉快そうに言い放った。功績を褒めてもらえると思いこんでいた士官は、あからさまに狼狽する。
「あの大槍をかついでいた男だ! この赤い騎士とともにいたはずだぞ」
「はっ――そ、それは」
 士官の小ずるい顔が青ざめる。見張っていた鉱脈の洞窟から、まんまとジル将軍とロジャーが出てきたことに浮かれてしまい、ボルトのことを失念してしまっていたのだ。
「――もういい。お前に期待してはいかんということは、よくわかった」
「か、閣下」
「下がれ! 貴様は用済みだ」
 苦々しく舌打ちをして、宰相はおろおろする士官を一瞥で追い払った。すごすごと退室する士官を横目で見送り、ジルがあえて溜息をついてみせる。
「宰相殿、手駒の選択をあやまたれたようですな」
「ふん。貴殿には関係ない」
「ありますとも。たとえ国家に仕える一軍人とはいえ、国が傾くのをこれ以上見過ごせはしません」
 ジルのまっすぐな視線を、宰相は冷たい目で受けとめた。
「国が傾く? ばかな。我々はうまく治めている。そしてこれから、より豊かに発展するのだ」
「人間を――民を、モンスターの餌にして、ですか?」
 必死に感情を抑えてはいるが、ジルの声音は憤りを隠せなかった。
「我々はたった今、この目で見てきました。地下に露出した大鉱脈を。あの規模なら、向こう百年は我が国を潤してくれるでしょう。しかし民を守るべき国政を担うあなたは、それを独り占めしようとなさる。なぜですか?」
「それは貴殿が知るところではない」
 そっけなく言い捨てる宰相に、沈黙を守っていたロジャーが口を開いた。
「もし我々ハンターズギルドの目にあの鉱脈が留まれば、協定にもとづき、多くのハンターに解放されてしまうでしょう。貴国は、それを嫌ったのではありませんか?」
 協定とは、通称『狩場協定(かりばきょうてい)』と呼ばれる。これは、全世界に位置するハンターズギルド本部同士で定められたものである。
 その内容は、ギルドが管轄する区域――狩場において、いかなる資源も国家が独占せず、ハンターがこれを採取する権利を認める、というものだ。
「それは当然だ。我が国の財産を、どうしてよそ者にくれてやらねばならん?」
「資源の共有は、世界を潤し、保持させるために必要です」
 ロジャーは答えた。愛想の仮面を脱ぎ捨てた表情には、いつもの春風のような雰囲気はない。
「その目……。先日王に謁見を願い出た若者と同じものとは思えんな。その身にまとう空気、単なる戦士の凄みとも違う……まるで、狩人のような」
 言って、宰相はわざとらしく苦笑した。
「はっは、忘れていた。お前はハンターであったな」
「宰相殿。我々ギルドは、決してあなた方の敵ではありません」
 じっとロジャーは宰相の目を見つめる。 もとより美貌ともいえる顔には優しさが消え、かわりに苛烈なまでの厳しさがあった。それが殺気と紙一重となってこの若者の全身に凝縮し、峻厳な気配を漂わせているのだ。
 事実、この場に居合わせた衛兵達はロジャーが入って来た途端、手にした武器を構えようとしたほどである。
「あまり見つめるな。私が女なら、勘違いして頬を染める。舞踏会に貴殿が出たなら、いかに奥手の淑女も熱い視線を注がずにはおれまい」
 宰相は笑い、ロジャーの鬼気を逸らした。執務机の向こうで足を組み、改めてロジャー達を見すえる。
「しかし、他国がどうしてギルドに唯々諾々と従うのか理解できんな。明らかに大きな損害を被っているのではないかね?」
「そのようなことはありません。モンスターの徘徊する土地には有用な資源が多く眠っていますが、狩る力のない人間をそこで働かせることは、狼に子羊を捧げるようなものです。だから、ハンターの資格を持つ者が代表して採掘を行っている――とお考えください」
「それでは、欲しいものを欲しいだけ手に入れられなくなるではないか」
「生き物を乱獲すれば、やがて種は絶えてしまいます。資源も同じです。再生のサイクルを壊さないよう、我々は必要なだけ恵みをわけてもらう。そう考えています」
 ロジャーの答え方に、宰相はあからさまな不満を浮かべた。ふんと鼻先で笑う。
「理解しがたいな。得られるものを独占して、何が悪い」
「宰相殿も資源の流通と活用性についてはご存じのはずです」
 宰相の皮肉を、こちらも強気の視線で流し、ロジャーは続けた。
「ハンターに採掘権をゆだねているといっても、好き放題に採らせているわけではありません。ハンターには採掘の回数制限をもうけて、必要以上に資源を取らないよう警告しています。採取した品は、一度すべてギルドに預け、量や種類が違反していないか調べさせています」
「それで?」
「採取したハンターは、自分の生活のために、必要な分をギルドに引き取ってもらいます。ギルドは彼らから買い取った資源をトレーダーギルドに流通させ、物資を循環させているのです。ギルドの利益は、半分はそこから得ています」
「言い分はわかった。しかし、私が聞きたいのはそういうことではない」
「それは失礼しました」
 素直に謝り、ロジャーは、とある金額を口にした。隣にいたジルが目を見はる。それは、実に小国の国家予算4分の1に匹敵する額だったからだ。
「採掘場を所有する国ないし村落には、採掘権として年間このくらいの金額をお支払いしております。その土地の採掘量と相場に応じて上下することもありますが」
「宰相殿……これでもまだ、あの場所を独占するおつもりですか」
 沈黙した宰相に、ジルが詰め寄った。
「この国が、以前より貧しくなっているのを知らないはずはない。国の威信のために、かなわぬと知って軍隊をモンスターと戦わせ、兵が減れば徴兵し、働き手を失った女達が、家族のために涙を呑んでロックラックの歓楽街へと売られていく。この現状を王はどうお考えなのですか?」
「何もかも見たなら、それで納得してもらおう。これは我が国家の問題、将軍殿やギルドが口を出す問題ではない」
「貴国には、モンスター密猟の疑惑がかかっています」
 微動だにせず立ったまま、ロジャーもまた、一国の宰相に向かって強い口調で言った。
「ここ数ヶ月間に、各地から密猟されたモンスターがこの土地へ運ばれている報告が後を絶ちません。その理由が、ピュアクリスタルの鉱脈の隠蔽のためだとしたら、ギルドのみならず、各国の反感を買うことにもなりますよ」
「それは脅しかね?」
「いいえ。事実です」
「宰相殿、どうかお教えください」
 ジルが、鉄面皮を貫く宰相に、なおも進言する。
「王の命で国土を蹂躙するモンスターの狩りに向かわせられたのも、すべて鉱脈の秘匿のためだったのですね?」

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2012/10/09 09:46
イカズチさん、コメント感謝です。

竜人族の存在は、この世界において大きいですよね。
まず彼らがいなかったら、モンスターに対抗できる武器防具が作れないですし。(ムービーを見ると、人間が作成しているシーンが一個もない。ということは、人間の技量では作れないということ)
ギルドの長も竜人ですし、いったい彼らはどこから来たんでしょうね。ふと考えてしまいます。
精神的に上の彼らがいなければ、まず「世界の保持と調和」はできなかったでしょう。偉大な存在です。

私もモンハン世界には憧れますね。住んでみたいと思います。のんびり採取して、農場経営。実際に戦うとしたら、真っ先に食われて終わりだろうけどww
昆虫は、幼虫じゃなければ大丈夫なんですが。あ、釣りエサのミミズと幼虫に触れないwww
こやしの採取も、素手でやると厳しいですね。せめてスコップ欲しいです。ゲームではどうしても必要なので採取してますが、ごそごそ拾い集めてる姿を見ると、いつも複雑な気持ちになります^^;

イカズチさんのご推察、その通りです。でももう少し裏もあります。裏というか、事情ですね。
しかしそれも個人的なことなので、やはり許されざることなのです。
今回のテーマのひとつに人間の業もありまして…。重い展開が待ってますが、こちらも逃げずに書こうと思ってます。
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2012/10/08 22:46
中東の石油はあと何十年かで枯渇するそうです。
生物も何分かに一種の割で絶滅し続けているのだそうな。
それも全て人間と言う一種が欲と言う超能力を使い、恵みを独占している結果なのです。
深遠なる知恵を持つ竜神族によって自然との調和を保たれているこの世界こそ、ある種の理想郷なのかもしれません。
『良いなぁ……。こんな世界に住んでみたいなぁ』
と、何度思ったことか。
でも毎回、こやし玉の材料採取や超でかい虫の存在で思い直すのですがw。

王はピュアクリスタル大鉱脈の周辺に、違法に入手した危険なモンスターを放ち、他者を遠ざけようとした。
周辺国やギルドから、その存在を秘匿するために。
モンスターの存在だけを知らしめるためだけに兵士に犠牲を強いた。
と言う事でしょうか?
あんまりですねぇ……。



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