Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~32

【水面下の戦い・2】

「さて、何を言い出すかと思えば。何を根拠に不遜な発言をするのかね?」
 あくまでしらを切るつもりだ。ジルはますます激昂して、宰相に言いつのった。
「国を守るべきあなた方が、民の意識を疑惑から逸らし、国家の威信を見せつけるためだけに、凶暴なモンスターを我々に狩らせたのは、民の服従をうながすためだったのでしょう? よそ者が介入することなく事が解決すれば、民はみな、国の言うがままに従えば安泰だと刷り込まれますからね。しかし、民の敵とされていたモンスターは、実は国政者が買い求めていた……違いますか?」
 宰相は顔色を変えず、黙っていた。ジルにかわって、ロジャーが再び言った。
「ひとつ、わからないことがあるのですが。なぜあなた方は、そこまでしてあの鉱脈を隠そうとなさるのですか? 大型モンスターが人間に懐かないことは、あなた方もご存じでしょう。むしろ、モンスターさえ呼び込まなければ、この事実はギルドに悟られることもなかったはずです」
「……答える義務はない」
 辛辣な表情は、未だ揺るがなかった。これは手強い、とロジャーは胸の内で舌を巻く。目の前の男は、ただの金目当ての悪党とは違うようだ。
「ハンターズギルドが、世界規模の連携で国家も調停するのは、何も資源を共有化させるだけが目的ではありません」
 やや厳しさを改め、ロジャーは自分の両胸についた銀色の六角形の紋章を示してみせた。見事な彫金で、首と胴の長い不思議な竜が刻印されている。
「これが、何の紋章か、あなたはご存じですか?」
「知らん。なんだね、それは?」
「――人類の敵、と称される龍の一族です。その名も――ミラボレアス」
 ひそやかにロジャーはその名を告げた。この世界に住む者なら、誰でも一度は耳にしたことがある。むしろ口に出すのも禁忌とされるそれに、さしもの宰相の眉も動く。
「そんなものはおとぎ話だ。ただの伝承がどうした?」
「我々ハンターズギルドは、全世界の生態系を守るためにあります。それは、この邪龍が再びこの世に出現しないようにするためなのです」
「ばかな。かの邪龍はとうに滅んだと言い伝えにあるではないか。それも数百年も前のことだ。貴殿らは、本当にそれが実現すると思っておるのかね?」
「この龍は、かつて人類が文明に溺れて世界の生態系を狂わし、あらゆる竜族が人類によって死滅に追い込まれた時に、突如出現したと言われています」
 大臣の皮肉に構わず、ロジャーは続けた。
「モンスターはただ生きるために人を襲いますが、ミラボレアスだけは違いました。この龍は明確に人類を憎み、復讐のために滅ぼそうとしたのです。両者は大戦となり、お互い多くの命が失われました。どちらが勝利したとは歴史書にはありません。戦いが終わると、かの龍はいずこかへと姿を消しました。しかし、大戦の場所となった旧大陸の西シュレイド城跡は、今も禁忌の地として、いかなる者も立ち入りを許されていません」
「ふん。つまり、こう言いたいのかね。我々が仮に、モンスターを密猟しているとして、その事がいずれ、邪龍とやらを復活させる兆しになりかねんと?」
「生態系の狂いが、過去の悲劇を招くおそれもある、ということです。世の永続のため、我々はモンスターと共存していかねばならない。そこをどうかご理解いただきたい」
「その紋章は、人類の戒めというわけか。あえて人類の敵とまで呼ぶモンスターを象徴にするとは、ますますもって理解しかねるね」
「宰相殿……」
 ロジャーの傍らで、ジルが唇を噛んだ。のらりくらりと言及をかわす宰相は、はなからこちらの言い分を聞く気などなかったらしい。
「――連れて行け。貴殿らの処遇は、追って沙汰する」
「宰相殿!」
 ジルが食い下がったが、数名の衛兵に取り押さえられた。ロジャーは、動揺することなく宰相を見すえた。
「あなたも何かの信念にもとづいて行動されているようだが、どうか、道を違えなきよう」
 宰相は目を合わさなかった。やがて訪問者が部屋から去ると、ドアから背を向けてひとり苦々しげに毒を吐く。
「……ハンターごときに、何がわかるというのだ。……我らの、あの方の苦しみが」


「申し訳ない。こうも宰相が石頭だとは思ってもみなかった。これでは、あなたの身が危うくなってしまう」
 廊下に連れ出されると、ジルは真っ先にロジャーへ頭を下げた。連行を命じられた衛兵達は、無体に手を出すことなくなりゆきを見守っている。汚名を着せられた貴族出の大将軍は、それでもなお、兵卒に尊敬されているらしかった。
「いいえ。必要なことはすべて伝えました。今はそれで良しとしましょう。それよりもジル殿、あなたこそ身辺にお気をつけなさい。依頼主がいなくなられては、ギルドは依頼を遂行できなくなってしまいますからね」
「……心得ました」
 肝に銘じたという面持ちで、ジルがうなずいた。
 飢えたモンスターはそれだけで脅威だ。本来の環境ではなく、よそから強引に連れてこられたモンスターの徘徊は、この地帯の生態系を狂わせる一因にもなる。
 ロジャーが討伐をユッカ達に急がせたのは、それが理由だ。ジルの依頼はロジャーの目的とも一致していたのである。
 それがこんなことになってしまい、ジルは本当に後悔していた。しかし、個人の事情で依頼を撤回されても困るのだと、ロジャーは暗に釘を刺したのである。
「ロジャー殿、この借りは……いや、恩は必ず」
 兵士がジルと引き離し、ロジャーを地下の牢へ連れて行こうとするとき、ジルが悲壮なまなざしで言った。ロジャーは、にこりと目元をゆるませた。
「私のことはご心配なさらず。あなたはくれぐれも、軽率な行動をなさらぬように」
 別れ際、ジルが兵士達に、ロジャーを丁寧に扱うよう厳命したおかげで、ロジャーはこの国始まって以来の慎重さで地下牢に入れられた。
「武器は、お預かりします」
「どうぞ。ああ、うかつに刃に触らないように。指が落ちますよ」
 年若い牢番は、ロジャーから受け取った長剣ほどもある双剣を、まるで至宝を得たように見つめていたが、ぎょっとしたように青ざめた。
(――とりあえず、手札(カード)は見せた)
 牢番が去り、冷たい石の床に腰を下ろすと、ロジャーは湿った天井を見上げた。
(あとは向こうがどう出るかだが。単なる金銭目的なら、いずれギルドに妥協してくるだろう。こちらを殺すつもりなら、わざわざ宰相本人に会わせることはしない)
 つまり、宰相はあくまで、この国を善意ある国家だと見せたいのだ。独裁で国民を牛耳ることはせず、正義の名のもとに軍隊を自国で買ったモンスターと戦わせるくらいである。茶番もいいところだが、むしろ体裁にこだわりすぎるといっていい。
(やっぱり、モンスターを密猟者から購入する理由がわからないんだよな)
 首を戻して、ロジャーは息をついた。モンスターにかかわればギルドが首を突っ込むことは、いくら世情に疎い執政者でも知っているはずだ。
「と、なると、別の目的があるのか……」
 少し考えを巡らせてみたが、何も思い浮かばなかった。
 ロジャーはひと眠りすることにした。かび臭い寝台に体を横たえると、帽子を目の上にかぶせる。投獄された身で豪胆もよいところだが、休める時に休むのが信条だ。
 意識はすぐに闇に落ちた。眠りは深かった。
 

アバター
2012/10/09 10:01
イカズチさん、コメント感謝です。

ミラボレアスの説明は、あくまでハンターズギルドの存在意義の説明として書いたもので、今回の話には、奴は登場しませんw
世界観の一助として、どうしても書きたかったので入れてみました。
私はギルドバードの装備が好きで、ゲームでもいろいろ組み合わせて実装しているのはご存知かもしれませんが、あれを見るたびに胸と腰につけてる竜の紋章が気になって気になって。
モンハン辞典からロジャーの説明を引用させてもらいました。
密猟しすぎて世界のバランスを崩せば、「奴(ミラ)」が出るかもしれないよ、という、ロジャーなりの宰相への警告だったんです。
アカムやウカム、レウス希少種なども、人生で一度目にするかしないかというレア度なので、リアルに考えるなら出会うこともないでしょう。ミラも神話みたいなものですし。
なので、あくまで今回は「象徴」としてセリフのみの登場です。

2Gにおけるミラ戦は、本当にGRさんとイカズチさんなしではクリアできませんでした^^;
今思い出しても、ウカムと並んで、ひとりで二度とやりたくないクエですww
けど、またお2人とミラ倒しに行きたいなあ、などと思ったりします。またいつかやりましょうね。

もう一段階の謎は、ラストに向けての伏線です。
けっこう複雑になってしまったので、うまく書けないと思いますが、自分なりに書きたいことを書いていこうと思ってます。最後までおつきあいくだされば幸いです。

イカズチさんは、我がパーティー最強のガンサーなので、「爆砕の守護神」はふさわしいと思います。
いろんなクエをガンス1本で切り抜けるなんて、そうそうできませんよ^^

ボルトが最適な称号を得たので、今度はブルースの称号もひとひねりしたいのですが、まだいい文句が浮かばず。ロジャーも、もうひとつほしいですよね。称号表を見ながら考えてると楽しいです。
アバター
2012/10/08 23:05
更新ご苦労様です。

ミラボレアス……シュレイド城……。
ヒィーッ!
あそこには……あいつにはトラウマな思い出が多すぎるぅ。
翼の風圧で舞い上がる砂埃、弾ける火球、這いずる恐怖。
ああ~怖い。
GRさん、蒼雪さんが居なければクリアもおぼつきませんでした。
あいつはおとぎ話の怪獣とも称されているそうで。
人間の相手じゃないんですよね、本来。


う~む。
確かに、鉱脈を秘密にしたいなら事を荒立てる必要はありませんね。
ロジャーの疑問に答えは?
もう一段階、謎があるのですね。
一筋縄では行かない国だ……。

トゥさんの『もし腕に覚えのあるガンサーだったら憧れて称号を変えてしまったかもしれません。』
私なぞ腕に覚えなど微塵もありませんが、カッコいいので変えました。
エヘン(威張る所ではない)
アバター
2012/10/05 16:31
トゥさん、コメント感謝です。

お忙しい中時間を割いてお読みくださり、本当にありがとうございます^^

この31,32の回は、書いたあとそのまま載せるかどうか、かなり悩みました。
トゥさんのご感想のように、読んだ人が「うーん、なんだこれ?」と思わざるを得ない状況だからです。
情報が錯そうしているのは今後の布石のためなのですが、正直長すぎたかなと…。
ただ、どうしても宰相の行動に矛盾点があるのは、ある理由のためだと理由づけたかったんです。
この回の宰相、いったい何がしたいんだというのは、彼の抱える何かのせいです(苦笑)

この後の展開で、さらに状況の整理と説明がなされる予定ですが、ちゃんと「ああそうだったのか」と納得してくれるかどうか、作者としても心配だったりします。
でも一度決めたラストに向かって書いている以上、今変えてしまうとさらに物語が転倒してしまうため、このままの方針でいこうと決めました。

鉱脈の番人がわりというご推測は正しいです。確かに、そのままモンスターの巣になっていたら鉱石が掘れませんが、その辺はわりと単純な方法で解決されてるんですよ。この説明も後ほどする予定です。
ロジャーがすぐ寝つくのは、ゲームそのままですねw
ベッドとあらば、すぐ眠ってしまうハンターの大胆さが、寝つきの悪い蒼雪にはうらやましいですww

ボルトの回は、自分も書いていて楽しかったです。描写には苦労しました。嘘が書けないから。
実際にpspを脇に置いて凍土のティガと闘いながら書いていたんですが、pspのパッドが壊れかけてるので言うことを聞かず、思い通りに動けなくて2落ちしてしまいました^^;
「爆砕の守護神」は、モデルのイカズチさんにも気に入って頂けたようでうれしかったです。
爆砕の称号はウラガンキン亜種50頭討伐なので、私でも未入手の称号です。守護神は、ジエン20回討伐で得られます。もし討伐数が達しましたら、ぜひこの称号をつけてくださいw

回避ガンサーに一時期私も憧れましたが、盾で防いでこそランス、ガンスなんですよね。
イカズチさんのギルカのコメで、自分だけじゃなくて仲間を守る、そんな雰囲気が「全てを防ぎ~」の言葉に感じられたんです。守護神の発想はそこからきました^^
アバター
2012/10/05 13:38
うーん、むずかしいですね。
ロジャーと宰相の会話が着地点を見つけられないのは、きっと根幹の何かが噛みあっていないから。
洞窟でのエピソードを読んで、最初は、鉱脈を独占するために密猟を利用しているんだと思ったんです。モンスターたちを番人、番モンスターとして放し飼いにすることで。
でもそれだとしっくりこないんです。あれ、自分たちもその鉱脈使えなくなるんじゃ……ってw
まだ何かあるかも、と思っていたところに意味深な宰相の台詞。あの方、と呼んでいるし、欲より忠義や信念を感じます。そういうものがあると、道を踏み外したときはより怖ろしいこともできそうで、はらはら!
これからどうなるのか、また楽しみにしています!
余談ですけれど、寝られるときに寝て、起きるべきときにしゃっきり起きるのは大事な基本。プロの姿ですね♪
わたしは苦手です、あはw

本当は毎回感想を書きたいんですけれど、時間がとれなくてごめんなさい。
でも楽しませてもらっています✿
そして前々々回の内容ですが、これだけは言わなくちゃ。ボルト、とーってもかっこよかったです!
「爆砕の守護神」、もし腕に覚えのあるガンサーだったら憧れて称号を変えてしまったかもしれません。今の実力では称号負けするので使えませんけれどw 砲撃、外してばっかりなんですw
盾という道具っておもしろいですよね。攻撃にはほとんど使えないから地味な印象があって、でも後ろに仲間や守るべき存在を抱えると、最高に心強いものになる。
ガンランスだと防いだ後の反撃も魅せるし、これまででいちばん騎士らしいボルトでした。



月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.