Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~33

【強者の連鎖】

「ずいぶん移動してやがるな……」
 洞窟の外に出たボルトは、動物がするように顔を上向けて臭いをかいだ。風に乗るかすかなツンとした臭いは、先ほどティガレックスにマーキングしたペイントボールのものだ。
 臭いの方角は北と判別できた。ボルトは一瞬空をあおぎ、急いで目的の方角へと走り出した。
「急がないとやばいな。間に合わなくなる」
 ボルトもプロ中のプロだ。自分がどのくらいの速さで相手を倒せるかは、ほぼ正確に判断できる。あのティガレックスも、そう長くはもたない。次に対峙すれば決着がつくだろう。
 ただそれは、標的のところへ移動する時間を考えないでのことだ。逃げたティガレックスは、ここからかなり離れた場所へと飛行していた。自分の足しか移動手段がない以上、走って追いつくしかない。
 荒涼とした砂礫地帯をしばらく走ると、やがて、岩壁がそそり立つ一角へとたどりついた。太陽はすでに、西へ傾きかけていた。
 そこは四方を岩で囲まれて、大きな部屋のようになっている。ボルトは空き地の入り口付近に、いったん身をひそめた。壁越しにそっと様子をうかがうと、はたして目的のモンスターはそこにいた。
 どうやら餌となる草食竜を求めて来たようだが、目的のものが見つからず苛立っている。確かに、空き地には灌木(かんぼく)や丈の短い草が風に揺れ、彼らの卵らしき殻も見受けられた。乾燥地帯に住むリノプロスの巣のようだったが、今はその姿はない。
「ん?」
 ふと、ボルトは何者かの視線を感じて背後を振り向いた。だが視界には荒野や岩場が広がるばかりで、誰もいない。
 宰相の差し向けた追手だとしたら厄介だが、ここは目の前のモンスターに集中するしかなかった。銃槍を構え、素早く相手に向かって突進する。
「うおおっ!」
 ボルトはティガレックスの後ろ足まで詰め寄ると、思いきり銃槍の切っ先を突き立てた。
 ふいを突かれ、ティガレックスは絶叫をあげて躍り上がった。だが激昂はしなかった。口から流れる涎の量が多い。どうやら相当弱っていたようだ。
 なんとかしてボルトを仕留めようと、ティガレックスは右腕を手前に向かって地面に滑らせた。剛腕にえぐられた地面が巨大な岩つぶてとなり、うなりをあげてボルトを襲う。即座に盾を構え、ボルトは岩のひとつをやり過ごした。盾の表面で岩が割れ、強い衝撃が襲ったが、ボルトの太い腕で支える盾はびくともしない。
 ティガレックスは躍起になって、両腕両足の爪で地面を蹴立てた。しかし、ありあまる闘争心と、それを支える体のバランスが取れていなかった。四肢が空を掻いたかと思うと、ボルトの目の前で派手に横転してしまう。
「――悪く思うなよ!」
 強者の凋落(ちょうらく)を笑うことなく、ボルトがとどめを刺そうとモンスターに詰め寄ろうとした、そのときである。
「――っとぉ?!」
 突然足元がひどく揺れ、ボルトは転びそうになって踏みとどまった。
「また地震か!?」
 武器を構え直し、もう一度ティガレックスに近づこうとした刹那、ティガレックスの後方で地面が爆発した。そうとしか思えない土の跳ね上がりであった。
 そこから何かが跳躍した次の瞬間、ティガレックスは着地した巨体に背骨を踏み抜かれ、絶命していた。絶対強者と恐れられた彼の、あっけない最後だった。
「――ちっ、やりやがったな」
 派手に舌打ちしつつ、ボルトはティガレックスを殺した相手を睨みつけた。地中から躍り上がった巨大な黒い影は、ボルトにもなじみのあるモンスターだった。
 ねじれた2本の角、飾りのように両脇にせり出した頭殻、もう一対の角が生えたかのような尻尾、両腕に広がる分厚い翼。ディアブロスだ。
 しかし、その体格は通常個体よりひと回り大きく、闇のように黒かった。
 繁殖期を迎えたメスの個体に見られる特徴であるが、ギルドでは亜種として、通常のディアブロスと区別している。
「ずいぶんご機嫌ななめだねえ、奥さん?」
 もう一体の標的が自ら現れたことは、ボルトには幸運でもあった。広い範囲をいちいち探し回る必要がないからだ。つい軽口が出たのはそのためだが、内心は緊張に満ちていた。
 オスの個体よりさらに凶暴化したディアブロス亜種が相手である。一瞬でも油断すれば、たとえナイトでも地獄へ送られかねない。
 黒いディアブロスがこちらを見定めた。主食はサボテンだが、それがないなら草も食べる。ここは彼女の数少ない餌場らしかった。
 縄張りを荒らした敵を見つめる紫色の目が、強い殺気に満ちている。一声うなりをあげるや、猛然と角を向けて走ってきた。とっさにボルトは武器をおさめると、横へ飛びのいた。彼が背負っていた岩場が、暴竜の頭突きを受けて豪快に崩れ落ちる。
「どうして自分がここで暮さなきゃならないのか、お前もわかんねえだろうな……だからそんなに怒ってるんだろ?」
 ロジャーの推測がすべて正しいなら、先ほどのティガレックスも、このディアブロスも、本来あるべき土地から無理に連れてこられたモンスターだ。
(お前はここにいちゃいけない)
 ボルトは強く銃槍を握り、こみあげてきた悲しみを押し殺す。
 元の土地に返すことができるなら、その方がいい。しかし、ギルドの支援を受けられない現状では、命を取ることしか、この場を救うことができないのだ。
 事を焦りすぎたのではないか? という疑問がわき、ボルトはすぐにかき消した。ロジャーがその場で下した判断は間違ってはいないと、自らに言い聞かせる。
 だが、と再び疑念のようなものが頭をもたげてきた。こんな大きな事態なら、ギルドに報告してからでも遅くはなかったのではないか。
(何をそんなに急いでいるんだよ、ロジャー!)
 ディアブロスが後足で地面をしきりに蹴立てる。突進が来ると読み、ボルトは盾を構えて備えた。予測通り敵はボルトに突撃してくる。ぎりぎりのところですさり、回避に成功すると、ボルトは用意していた銃槍を相手の腹めがけて突き上げようとした。
 だが。
「しまっ――!」
 ――ギエエエエン!
 断続的な大音声に、とっさに武器を放り出して耳を抑えた。全身が音波で崩壊するようなショックにひたすら耐える。わずか数秒の咆哮がとてつもなく長く感じられる。
 そしてようやく音から解放されたとたん、横殴りの体当たりがボルトを襲った。
 鉄壁を誇るボルトの、痛恨のミスだった。衝撃が全身を襲い、気がつくと身体が宙に舞っていた。痛みは、地面に激突してから襲ってきた。
「ぐぅっ!」
 地面を数度転がると、すぐにボルトは肘をついて起き上がろうとした。だが、抜け目ない彼女は、角のような突起のついた尻尾でボルトを薙ぎ払う。脇を殴られてボルトは再び宙を飛び、重いガンランスと盾が、まるで埃のように地面を滑った。
「――くそっ、武器が!」
 受け身に失敗し、背中を打ったボルトは激しく咳こんだ。打撲の痛みに耐えながら、ボルトは愛槍を必死に目で追った。銃槍は、無情にもディアブロスの足元にあった。盾は、ボルトから少し離れた左方向に転がっている。
(久々の修羅場ときたもんだ……)
 口の中に入った土を唾と一緒に吐き出して、ボルトは前を睨んだ。モンスターに対する恐怖も同情も消し飛んでいる。
 今はどうやってこの場を生き残るか。それがすべてだった。

アバター
2012/10/15 08:54
どんなに良い装備をしていても、油断してもしなくても、何かの拍子で形勢逆転されてしまうことはよくあります。
私も先日、称号のためにロアルドロス・亜種2頭クエに行ったのですが、うっかり挟み撃ちに遭うわ、マップの隅で突進くらって気絶して毒を食らい、折り返してきた亜種に突撃を食らって1落ちしました。
ピヨッていたので復帰ができず、オトモもこういう時に限って地面に潜るし、孤立無援の悲しさを久々に味わいましたよ。
とても悔しかったですが、「2オチからが本気」という名言を思い出して冷静さを取り戻しました(笑)
いくらプレイヤースキルを上げても負けることもある、そのスリルが面白さの秘訣でしょう。
かのウィズも、レベル100超えてもモンスターのクリティカルヒットで即死しますし。だからあんなに受けたんだと思います。最強になることほどつまらんってことがよくわかりますね。無限の成長が面白いんですよね。

ボルトは筋が通っていてブレがないですからね。竹を割ったようなと言いますか。
グロムも男らしいキャラですし、純粋なヒーロータイプは書いてて楽しいですね。
でもユッカは非常に書きづらいです。優等生キャラは下手すると嫌味になるので、どうやったら人間味を持つのか試行錯誤の繰り返しで…。
ユッカというキャラを思いついてから、ずーっとこの子について考え続けていて、「どうしてそういう性格になったのか」という由来を思いついたとき、この物語に登場させようと決めたんです。

同様にロジャーもそうです。こいつも書きづらい。性格が完璧、スマートで強すぎるから、かえって見せ場が作りづらいんです。なので、今のところ彼の内面にスポットを当てて深みを増そうとしています。今後も彼の内面を描きつつ、成長する姿を描いてみようかと。

物語はようやく山登りで言うと6合目ってところで、今が一番苦しいときですww
でも早く終わらそうとしないで、じっくり書こうと思います。むしろ、書き終わりたくない作品ですよww
アバター
2012/10/15 04:25
トゥさんの仰る『一瞬のミスからたたみかけられてキャンプ送り』
誰でも経験がある事ですよね。
特に相手が強敵だったり、クセのある奴だったりすると。
先日も3Gで火竜の堅殻が欲しいなぁと上位のレウスを狩りに行ったのですが……。
まず食事を忘れたにも関わらず「まぁ、上位だし」とそのまま続行。
ガードの方向を誤ってモロに火球に当たり、体が燃えてる時に突進を喰らって失神。
「あっ、やべ」
と思った時には飛び掛かり蹴りを貰ってあえなく昇天してしまいました。
油断できんなぁ……。
だからこそ面白いのかもしれないですけどね。


ボルトは書き易い。
確かに根が単純なヤツですから。
グロムの時もそうでしたが、こう言うキャラは考えがわかり易いんですよね。
女性で言えばユッカも純な娘なので同様な感想を持ってましたがどうですか?
アバター
2012/10/12 11:13
…あ、ディアの目を「水色の目」って書いてしまいましたが…すみません、紫の間違いでした~><
モンハン辞典の情報と見比べて書いていたので、混同してしまったようです。

あとでこっそり訂正しておきますね^^;
アバター
2012/10/12 11:08
トゥさん、コメント感謝です。

お言葉、おっしゃる通りですよw
私もそう思って、加速感を重視して書いてみました。
前のティガの回は、じっくりガードして反撃するスタイルだったので、このままの戦法で書き続けても面白くないってことに気づき、こうなりました。
それに、いつも優勢な試合見てても退屈ですもんね。どこかでピンチにならないと。

イカズチさんのコメントでも書きましたが、ボルトがディアに食らっているダメージシーンは、実際に蒼雪が食らってきたものでもあります。
取材のため、ガンランスで倒しに行ってきましたが、ほんとに一度のミスが命取りですよね。
ディア亜種一頭倒すのに、いつも回復薬Gが3個以下まで減っていますww
もちろん、キャンプ送りになることもありますよ。(オートガードつけずにいくからだ)

ボルトが素手になって逃げ惑うアイデアは、実際にあるop映像からヒントをもらっています。
モンハンオープニング集↓
http://www.youtube.com/watch?v=_tqmysOitsk

武器を落としてドドブランゴに追いかけまわされるヘビィガンナー、それを守る大剣使い。仲間が協力しあっている名作です。
ゲームでは武器が離れる事態はないですが、実際に戦ったらこうなりますよね。
そのうちゲームでも実装される日がくるのかもしれません。ソロにはきつそうですけど、もしそうなったらリアルで面白そうですよね^^

最後の一文は、自分の心境でもあります。トゥさんだけじゃないですよww
人間って気持ちが一定じゃないから、最初は余裕かましても、土壇場ではみんなこうなりますよね。
私もアプトノスかわいそうと言いながら、こちらに危険が及んでいるときに目の前をうろうろされると「邪魔だあ~!」とか叫んで撃ってしまいますから…(苦笑)
もちろん、倒すべき相手も強敵では、いかに自分が生き残るかしか考えないです^^;

この回の地震は、ディア亜が移動したときの振動です。でも前の回の振動は違います。それは最後のほうで明かされます。

さて、この次はどうしよう…(まだ考えてなかったりする)
アバター
2012/10/12 10:54
イカズチさん、コメント感謝です。

この回は、3回くらい書き直した気がするんですが、けっこう苦心したところでもあります。
3rd(新大陸)がモデルの狩場なのですが、どうしても書くときは旧大陸の旧砂漠が頭に浮かんできます。2Gでよっぽど苦労したもので、そのせいかも^^;
ともかくは、読む人に砂漠のフィールドが浮かんでくれればと思っていたので、イカズチさんのお言葉はうれしいです。ありがとうございます^^

また前回と同じようなティガとの戦いのシーンだと物語が硬直してしまうので、スピード感を求めてみました。というか、正直なところ、「もうティガとの戦い書かなくていいや」ってww

おおまかなプロットはあるのですが、細かいところは毎回書きながら決めているので、前に出した伏線を回収しながら先に進んでいます。
だからこの33回書くときに、「前の回でティガ倒してもよかったよなぁ…」と後悔しました。
なのでティガは早々に退場してもらって、次の標的となるディア亜種に、このように派手に登場してもらいました。
都合よく相手が出るなあとも思いますが、そこは彼女の縄張りだった、という設定なので無理感はないかと。多頭狩猟で登場する奴らが都合よく間に入ってくるのは、縄張り争いが目的らしいですから。

おっしゃる通り、1頭と戦ってる時に別の奴が来ると、本当に心乱れますよね。
ディアはいろいろめんどくさいので、クエ受けるのをためらいますよね。私も狩猟数が極端に少ないです。
今回を書くためにソルバイトで狩りに行きましたが、苦労しました~。
ボルトのやられてるシーンは、まんま私が受けた攻撃でもあります^^;

どうもボルトがカッコ良すぎですね。これじゃロジャーやブルースがかすんでしまうww
3人とも主役なので、ロジャーやブルースの見せ場も考えないとならないです。
それにしてもボルトは書きやすい…。少年誌に出てきそうですよねぇ。
アバター
2012/10/12 06:03
わぁボルトが素手に。
スマートな狩りも格好いいですけれど、読むならやっぱりこういう展開!
ぐぐっと前のめりになって文字を追いました。
一瞬のミスからたたみかけられてキャンプ送りなんてことが多々ありますもんね。ディア亜種は特に危ない。あ、蒼雪さんはないかな……わたしはあるんですw
彼女の目が水色だということも気がついていませんでした。そんなに涼やかな色だったんですね!

「モンスターに対する恐怖も同情も消し飛んでいる。」
うん、自分がに危ないときに同情するのはむずかしいです。できたとしても、甘さになってしまいそうだし。
ついでに、小型モンスターに「巻き込まれちゃう、危ないから早く逃げて」とか思っておきながら、邪魔されると標的そっちのけで攻撃する自分の身勝手さも思い出してしまいました。危ないのはわたしでしたw
ボルトの状況はもっと切実だから、こんなにひどくないんですがw
わたしも応援しなくちゃ。がんばれボルトー!

地震の原因はまだ何かありそうな、そんな気がしています。
アバター
2012/10/12 04:16
凄いなぁ……。
『何が』って蒼雪さんの『状況描写力』ですよ。
冒頭の『ボルトもプロ中のプロだ。』から『今はその姿はない。』までで一気にフィールド全体の様子、状況、心理描写までわからせてしまう。
こう言うのをさらっと書けてしまう筆力、羨ましいなぁ。

多頭討伐のクエでも、いきなりもう片方のモンスターが出現すると、ペースが乱れ、慣れたパーティーでも一気に全滅しかねません。
ゲームでも実際よくある現象です。
しかも黒ディアって……。
過酷だなぁ。
ティガに黒ディアだと普通でも受注に二の足を踏む取り合わせですよ。

(久々の修羅場ときたもんだ……)
こんな台詞、カッコ良すぎですわ。
ボルト、頑張れ!



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