Nicotto Town


黒曜のアジト


neve

彼がそれを見つけたのは、秋も終わりかけ、日に日に寒くなる頃だった。
沢田家のママンこと奈々が、衣替えだとタンスを漁っていたとき。
「あらあら…これ、まだ残っていたのね」
奈々が取り出したのは一抱えの編み物かご――の中に、沢山の毛糸。
隣で手伝っていたフゥ太がのぞき込んで不思議そうな顔をする。
「これ…どうしたの…?」
「うふふ…母さんがね、初めて家光さんに手作りのマフラーを編んだときに使った道具なのよ。」
頬をわずかに染めて愛おしそうに毛糸を見つめる奈々を見て、フゥ太は自然に笑顔になった。
「僕も…編み物、してみようかな…?」
「あら…それならこの道具、使っていいわよ?」
編み物かごの中には毛糸の他に、かぎ針や棒針など一通りの道具がそろっている。
「いいの!?ママンの大事なものだよね?」
「ううん、きっと使った方が、道具も喜んでくれるわ。教えてあげる。」
奈々がくるくると器用に編み針を動かすと、みるみる編み上がっていく一目一目に、フゥ太は目を輝かせる。
フゥ太に編み針が渡ると、奈々の真似をして編み針を動かすも毛糸が針からはずれてしまって上手く編めない。
「むー…上手く編めないよー」
奈々はクス…と穏やかに笑う。
「大丈夫よ。編むうちに上手になるから。…私も最初は下手だったのよ?…でも家光さんの事を考えながら編んだものね…」
何とも言えない…でもとても嬉しそうな顔をしてそう言う奈々を見て、フゥ太は年上のその人を思い浮かべる。
ふわふわと柔らかいくせっ毛を跳ねさせて、笑う…お兄さんも同然の彼――綱吉。
近頃とっても寒くなって、体を小さくして帰って来ていたっけ…
(ツナ兄に…編んであげたいな…)
そんな事を思い浮かべながら編んで居ると、フゥ太自身が思ったよりもずっと、沢山編めていた。
淡い橙と黒の毛糸が、規則正しく模様になっている。
「…頑張ろう…」

「行ってきまーす!」
あわただしい朝、沢田家の長男、綱吉が学校へ駆けていく。
それを見計らってフゥ太は、タンスの奥にしまってあった編みかけのマフラーを取り出して編み始める。
その様子を奈々は朝食の片付けの合間ちらりと見やり、ほほえむ。
「頑張ってね、フゥ太君。きっと喜んでくれるわよ。」
時折鋭い奈々の一言に頬を赤くしながらも、編み針を進める。
淡々とした作業をする午前中はゆったりと過ぎていく。
「あら、フゥ太君…ここ目が抜けてるわよ?」
「あーっほんとだ…ほどいて編み直さないと…」


それは初雪の降る朝のことだった。
いつものようにツナが制服を着込み、部屋を出ようとすると、小さなノック音。
「…どうしたの?」
「…ツナにぃ…」
フゥ太はドアを開けると、ぽてぽてと小さな足音を立ててツナのもとへ向かう。
「あのね…ツナ兄…僕、ツナ兄のためにマフラー編んだんだ!」
そう言ってフゥ太は両手にマフラーを持ってツナの前へ立った。
「へ!?オレのために…編んだの?凄いじゃんフゥ太!!」
ツナが軽くかがむと、フゥ太がツナの首へマフラーを巻き付ける。
「ありがとうフゥ太。」
ツナは、そのマフラーを身に纏い、いつものように家を出た。
「10代目!お迎えにあがりました。」
「よっ!ツナ…朝からけっこう振ってんのな!」
「…?10代目、なんだか今日、嬉しそうっすね…何か良いことでもあったんすか?」
「うん…まあね…内緒。」

ふわふわと舞い落ちる雪…が、マフラーに、手に着いて一瞬で解けていく。


寒くなる季節の中…君のマフラーだけは暖かかった。

fin

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2012/10/22 16:18
ほのぼの(*´`*)
可愛いねー(*´∀`*)
gjbb




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