モンスターハンター 騎士の証明~35
- カテゴリ:自作小説
- 2012/10/25 07:51:32
【ブルースの餞別(せんべつ)】
ボルトの構えたソルバイトバーストの銃口が青白く光り始める。竜撃砲だ。目の前に迫るディアブロスに対して無謀ともいえる行為だった。
だがボルトは迷わなかった。
「うおおお!」
ディアブロスの顔が目前に迫った瞬間、ボルトの怒号とともに手にした銃槍が咆哮を上げた。最大火薬のすさまじい爆炎がモンスターの顔面に炸裂する。
ガアアッ!!
至近距離の爆発で、右の黒角が一本折れ飛ぶ。ディアブロスは頭部のバランスを失って大きくのけぞると数歩後ずさった。
本来なら、ただの一撃で屈強な角は折れない。おそらくこれまでの縄張り争いなどで、根元にヒビが入っていたのだろう。だがその一撃は、まるでボルトの気炎が折り飛ばしたかのようだった。
相手が怯んだ隙に、ボルトは銃槍を構えて突き進んだ。そして、たたらを踏む足に大きく切り上げる。ディアブロスは態勢を整えると、強靭な尾でボルトを薙ぎ払おうとした。
ハンマーのようなディアブロスの尾を盾で受け止め、ボルトは素早く銃槍を繰り出す。小ぶりな突きは与える痛手も浅いが、こちらの隙も少ない。相手の部位の比較的柔らかな部分を見定め、何度も突きを繰り返す。
こざかしい人間の攻撃にディアブロスは苛立ち、猛然と足を蹴り上げた。しかし瞬時に見切って後方にステップすると、太い尾の付け根めがけて切っ先を突き上げる。
「ふんっ!」
ザクリとした手ごたえがあった。急所のひとつを突かれ、ディアブロスが声をあげて上体をのけぞらせる。そこへ続けざまに上方へ砲撃を放った。着弾した砲弾が激しく爆炎をあげるが、痛手には一歩及んでいないようだ。
(今が辛抱のしどころだな……)
ディアブロスが何度めかの咆哮をあげた。盾で音圧を防ぎながら、ボルトは腰のポーチから薬を取り出したい欲求を必死にこらえる。
ディアブロス戦は、とりわけ忍耐が必要とされる。大地を縦横無尽に駆けまわるこのモンスターに、強引な戦法は通用しない。動きが鈍いガンランスは、反撃こそが攻めのすべてだった。数少ないチャンスに手数で攻めないとならないため、薬を取り出すいとまさえも今は惜しい。
ボルトは懸命にソルバイトバーストを持ち直す。通常型のガンランスとしては申し分ない威力と性能だが、ディアブロスを相手にするには、やや物足りないことは否めなかった。
ましてや、対峙するのは、産卵期を迎えて凶暴化した黒いディアブロスである。オスを受け入れるには激しすぎる気性だが、むしろそれくらいねじ伏せなくては伴侶にふさわしくないというのだろう。過酷な環境で生き抜く生物の熾烈(しれつ)な本能だった。
「くっ!」
かろうじて盾で突き上げを受け止め、相手が正面を向いた瞬間に再び切り上げる。だが、切っ先が固い感触とともに弾かれた。太刀筋がわずかにそれたのだ。
「しまった!」
思わず舌打ちをしたその時、すかさずディアブロスの体当たりが襲った。
「ぐあっ!」
半身をそらして衝撃を逃がしたが、またも強烈な打撃が全身を襲い、ボルトは地に投げ出された。まるで身体が砕けるような感覚に、今度こそ一瞬気が遠のく。
――お前、その武器で行くのか?
(ああ、ブルース?)
なつかしい声が聞こえ、ボルトはそれが幻聴だと知った。気を失ったのは一瞬だったらしい。頭を振って意識を保とうとするが、まだ目の前が黒い枠にかすんでいる。狭い視界で正面を見すえると、ディアブロスはしきりに地面を蹴り、突進の構えに入っていた。
――お前らしくもない。どうしていつもの武器でいかない?
「……うっせえよ」
幻聴はまだ続いていた。思わずボルトは見えない友に悪態をつく。もうろうとする意識を叱咤して立ち上がろうとした時、地面に落ちている小さな袋を見つけた。
「あれは……!」
手のひらにおさまるくらいのそれは、この任務におもむく際に、ブルースがよこしたものだ。だが、幾度となく食らった攻撃のせいで、ポーチから中身が散らばっていたらしい。
――餞別だ、何かあったら使え。
この地に出立する日のことだ。飛行船にロジャーと乗りこむ間際に、ブルースがその小袋を無造作に放り投げてきたのだった。ボルトは何気なく片手で受け取って、中身を見ずにポーチへ押し込んでいた。それ以来どさくさで忘れていたのだ。
袋は口が半ば開いて、地面に中身がこぼれていた。目に鮮やかな赤い小さな粒を、食い入るようにボルトは見つめていた。
遠くでディアブロスが咆哮した。ボルトを轢き殺そうと土煙をあげて突進してくる。ボルトは地面に落ちた粒をつまむと、ためらうことなく口へ放り込んだ。
ディアブロスが迫る。折れそうな膝に力をこめて立ち上がると、ボルトは銃槍と盾を構えて待ち受けた。
(やるじゃねえか、ブルース)
ボルトは唇を押し上げて笑っていた。迫りくる黒い暴竜を見つめる相貌は、壮絶に冴えていた。
巨体が目前に迫ってきた。それでもボルトは不動の態勢を崩さない。
「だああっ!」
ディアブロスの腹が頭上に来た瞬間、ボルトは満身の力で銃槍を突き上げていた。切っ先すべてが腹部に刺さり、どっと赤い血が吹き出し、銃槍をのたくりながら落ちる。
ボルトは奥歯で思いきり、口に含んだままだった怪力の丸薬を噛んだ。そのとたん、カッと灼熱が舌の上に広がり全身を駆けめぐる。
「おおおお!」
爆発的な筋力が両腕に宿ったのを感じた。ボルトは突き刺した銃槍を、さらに深々とディアブロスの体内に押し進める。地獄の苦痛に、ディアブロスがもがき、断末魔の絶叫をあげた。それでもボルトは銃槍を放さなかった。
「これで――しまいだ!」
ズン、と槍身が半ばまでめり込んだ。そこで勢いよく槍を抜いて跳びすさる。ドッと血潮が滝のように吹き出し、黒い巨体は地響きをあげて地面に沈んだ。
「――終わった……か」
相手が動かないのを確認してから、ボルトはようやく武器を背にしまった。ほうっと息をつく。ずっと食いしばっていた顎が、ひどく疲れていることに気がついた。
ひと休みしようと、ボルトは後ろを見ずに近くの壁に寄りかかろうとした。と、ふいにその足元が空を踏む。
「おわぁー!?」
ぞっと背筋がそそけ立った刹那、ボルトは長い悲鳴をあげて落下していた。
「ぐお!」
大量に積もった土砂の上にどすんと尻餅をつき、ボルトは顔をしかめて辺りを見回す。どうやら洞窟のようだった。
自然に発生したそこに、ディアブロスが掘り進んだトンネルも加わっている。ボルトが落ちてきた穴も、先ほどの戦闘でディアブロスが空けた空洞だったのだ。通常、モンスターが空けた穴は排出された土砂で瞬時に埋まるが、これはまだ空洞が生き残っていたらしい。
「ん? 卵……?」
見渡した先に、大きな灰色の卵が3つ、柔らかそうな砂の上に納まっていた。ボルトの目に痛切な光がよぎる。
「そうか……。あのディアブロス、これを守ろうとしてたのか……」
ボルトはどこか力のない足取りで卵に近づくと、疲れたようにそこへ座りこんだ。
「……餞別の使い方違うって、あとでブルースに教えてやらないとな。本気でアホな間違いしやがって。俺が死ぬとでも思ったのか?」
ボルトは面を上げる。餞別の言葉で思い出した。鉱脈の洞窟へ置いてきた犠牲者のことを。
「……」
ボルトは帽子を目深に引き下げ、長く重い吐息をついた。それが、彼の死者への哀悼のしるしだった。
お褒めのお言葉ありがとうございます!
はい、ボルトは良いやつですよね~。ボルトなら結婚してもいいですwww(爆笑)
やっぱり、自分で「こう書こう」とはっきり決めたシーンは、何かしら読む人に伝わるものなんですね。
今回の見せ場もちゃんと伝わったみたいでよかったです。ありがとうございます^^
ブルースは不器用な上に、ちょっと世間知らず(餞別の意味違いを本当に知らなくてふつーに使う、など)という性格です。
でも初めからそう書こうと思ったわけじゃなくて、彼らが語る光景を写したらこうなりました。キャラが勝手に動いたんですね^^
作中の「その武器で行くのか」というのは、過酷な狩りに立たされることが多いナイトにしては、ソルバイトはちょっと控えめな威力の武器だからです。
それじゃいざという時に威力が足りないだろうと、丸薬をくれたんですね。ぶっきらぼうですが、つねに仲間のことを気にかけている性格が出てくれたと思います。
この回の終わり方も、ただやっつけました!っていうと軽くなるので、少し重くしてリアリティを出してみました。それと、今まで軍隊に倒された方のティガに対して嘆き悲しんでいたのに、まるで忘れてたらひどいじゃないですか(笑)
なので、どうしてもこのシーンでボルトがいろいろ思ってあげないとならなかったんですね。
息をつかせぬアクションシーンは、ぐんぐんと引きこまれるように読みました。
そして、今回は、最後にほろっとしながら読み終わりました。
ボルトって、いいヤツなんだなぁ~~、本当に。
そして、ブルースの伝わりにくい優しさとか、生真面目さと思いやりの絶妙なバランスとか、キャラが生きていてがいいですね^^
ロジャー、ボルト、ブルース。三者三様の見どころがあって、これからも楽しみです^^
いえいえ、読み間違いはよくあることで。どうかお気になさらずにw
私も最初は、丸薬じゃなくて種を出そうとしたんですが、瞬間的な火力は丸薬が高いですよね。
なので、「一瞬しか効果はないけど強力なスイッチ」として丸薬をチョイスしたんです。ボルトが口に入れたまま、ここぞという時で噛み潰すっていうシーンに、種だと弱いからw
丸薬の説明を入れようと思ったんですが、文章の流れが衰えるし、上記の効果を狙ってこうなりました。
丸薬ってアイテムランクが1しかないんですよね。作ると意外と高価なんですがww
なるほど、やっぱりレウスおびき寄せするためだったんですね。
効率重視するなら、ゲームのテクニックとしてありなのかもしれませんが…。
相手も悪気があったわけじゃないんだろうけど、イカズチさんのおっしゃる通り、「されどゲーム」ですよね。モンハンのモンスターは、動きがパターンとはいえ、まるで本当に生きているように見えますから。
リオ夫婦が相方のピンチに気づいて顔を上げる、あの動作はいつ見ても感情を感じます。
現実での狩猟行為も、実はこれと同じようなことやってるんですよね…。
それを言っちゃうと倫理観の問題になるので、話が複雑かつ重くなってしまいますが、ゲームでも正義感と相手の痛みを思う気持ち、忘れたくないなと思います。
まどかは、実は5話から見ちゃったんですよ…問題の頭バリバリは見てなくて。
再放送かレンタル屋探して、いつか見なくては。
でも、途中から見ても話に引き込まれました。よくできてる語は、途中からでも面白いんですよね。続きが見たくて仕方なくなります。
昔、キングダムを雑誌で読んだとき、まったく話の途中なのに何度も読み返したことがありました。単行本は買わなかったけど、たった一度読んだのに面白かった記憶が。あれと同じだなあ。
普遍的な設定の逆を突いたまどかの手法は、切り札でしたよね。一度商品として出したら二度と使えない設定です。それを上手く完成させた唯一作品かと。世界観もいいけど、キャラの心理描写もさすがでした。
はい、未来への咆哮はそれです。たまたまモンハン動画を探していて見つけました。
曲調と、弱きものの盾となれ~って歌詞に惹かれ、自分的にボルト達のテーマソングその1に決定しましたw
失礼いたしました。
私も『ここ一番』の狩りには事前に硬化薬グレートと鬼人薬グレートでドーピングして挑みますが、丸薬、種はあまり……。
時間がネックですよね。
でもそれ故にお話の盛り上がりとしては持ってこいのアイテムかもしれません。
何気に丸薬を持たせたブルースの心配りも垣間見えてグッな展開でした。
わざとやってたんですよ、そのパーティ。
「えっ!?」
と思って立ち尽くしてたら
「レウス呼び寄せるんで、イカズチさんも早く卵、割って下さい」
とコメントされましたから。
ううむ……。
『たかがゲーム』ですがモンハンほどリアルに描かれちゃうと、こう言う行為は
『されどゲーム』ですねぇ。
まどかに関しての接近遭遇は蒼雪さんとまったく一緒でした。
だってタイトルがタイトルなんだもの。
一話二話はまぁ……でも三話でのあのマミの『頭むしゃむしゃ』シーンから
「えっ!? ええ~!?」
と成り、あとは一気に最終話まで見てファンになってしまいました。
仰る通り『裏をついた斬新な作品』でしたね。
同じように『戦隊モノ』や『時代劇』など、パターン化したドラマも視点を変えれば新しいモノが生まれると言う良い例だったのではないでしょうか?
未来への咆哮、これですか?
http://www.youtube.com/watch?v=PIExWEF8qK8
これは燃えるなぁ。
アハハ、種じゃなくて丸薬ですが^^;
締めにフルバーストやロマン砲ですとよくあるパターンなので変えてみました。
前回がドラマチックな雰囲気だったので、楽勝したらいけないと思ったのと、ずっと出番のないブルースの見せ場を作りたかったからです。
卵の描写は迷ったけど、やっぱり入れました。
この作品が悲劇的な要素を含んでいるので、必要性を感じたからです。
イカズチさんが出会った卵運びのパーティーって、レウスを誘き寄せるためにわざとやってたんでしょうか?
マップ移動の手間省くにしても、心痛みますね。ゲームとはいえ。。。
まどか☆マギカは、萌えアニメだろうと敬遠していたのですが、見たら目から鱗が落ちましたw
魔法少女物の裏をついた斬新な作品でしたよね。賞獲るだけあります。
キャラクターの心理描写や敵の造形も良かったです。
最後にまどかが変身するシーンは涙ポロポロでした。ほむらのセリフでまた泣いて。
(まどかがひとりぼっちになっちゃう!ってとこで号泣)
友情って良いなあと感動しました。なので、この回はボルトの友であるブルースを出そうと決意したわけです、はい(笑)
この回を書くテンションを上げるために、胸熱ソングを探していたら「未来への咆哮」という歌を見つけて、それを聞きながら書いていました。
でもこの歌、18禁ゲームの主題歌だそうで…なんてこったwww
ラストは怪力の種での力押しですか。
いかにもボルトらしい。
連戦に見事な勝利っと思いきや……。
卵やヒナはねぇ……反則ですよ。
戦った後にコレを見せられると。
wiiの3、孤島のエリア8で火竜の卵が取れるのですが。
コレを取ると親の火竜が慌ててエリア移動してくると言う習性がありまして。
ネットで遊んだ時に集団でこれをやってるハンターたちと狩りに出ちゃいました。
いや~な思いをした事があります。
でも『単にアクションだけの見せ場ではない』と言う所が蒼雪さんのお話らしいですね。
考えさせられる展開でした。
まどか☆マギカ、私も見ましたよ。
好きな作品です。
最後の最後まで主人公の少女が○○しないって……どんな魔法少女やねんっ!
って思ったのは私だけじゃないはず。
という不調続きで、それでもなんとか気持ちを奮い立たせて書きましたが、前より勢いが衰えていることは否めません。
でもこの回でディア戦はシメなので、まあいいかと思っております。
いかにも蒼雪が考え付きそうなしめ方です。ついこういう方向へ持って行きたがる。
まどか☆マギカの最終回見て泣いたのがよくなかったかもしれない。そのせいか熱いバトルものを書くテンションが下がってしまったようです。(見た目で侮っていたけど傑作でした)
しかし、この章のラストは最初からこう書こうと決めていたので、蒼雪らしさと思っていただければ幸いです。
それにしても、何度やってもガンランスでディア20分針を切れない蒼雪でした。