Nicotto Town


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モンスターハンター  騎士の証明~37(初稿※正

【凍りついた過去・2】

 長く息をついて、ロジャーは身体を起こした。脇に落ちていた帽子を頭に乗せると、ベッドに座り直す。
「……どうして今、思い出すんだ……」
 それは、ロジャーがギルドナイトを目指すきっかけであり、恩人のティオとの出会いでもあった。しかし決して、記憶は胸を温めてはくれない。
 むしろ触れるのも怖い記憶だった。断片が脳裏にかすめるだけで、心が冷たい刃で薄く削られるような気がする。

 十年前。
 まだ駆け出しのハンターだったころ、ロジャーは3人のベテランハンターと森へ狩りに出たことがあった。
 そこでロジャーは、人として目を疑う恐ろしい光景を見た。
 同行してすぐ、ロジャーは違和感に気づいた。パーティを組んだ3人のハンターは明らかに上位者であった。狩猟対象のイャンクックも、そう強い個体ではない。
 しかし上位ハンターといえども、断れない依頼などで下位の依頼も引き受けることがある。この狩りもそうなのだろうと、少年だったロジャーは自分を納得させていた。
 だが、その淡い希望はもろくも消し飛んだ。3人のハンターは目標を見つけるや否や、モンスターをなぶり殺しにかかったのである。
 悲鳴をあげるモンスターを前に、ハンター達は残忍に笑っていた。モンスターが逃げ惑う様子を、明らかに彼らは愉しんでいた。
 現在では、モンスターへの虐待は大きな罪として固く禁止されている。しかしその当時は、狩猟さえ完遂すれば何をしようと咎められることはなかった。
 息絶えたモンスターの遺骸にも執拗に武器を振るうケースが跡を絶たず、それに比例してハンターの人間性すら歪めていった。
 各地のギルドはその事態を憂慮し、モンスターにも命の尊厳があるとして、狩ったモンスターの身体に剥ぎ取り以外で傷をつけることを固く戒めたのである。
 どういう狩猟が行われたかは、モンスターの検死でわかる。あまりに残忍な狩猟法をするハンターには、警告もしくは厳罰も辞さない。だがこのころは、まだその法が確立されていなかった。
 ――やめろぉおお!!
 目の前で行われる非道な行為に、ロジャーは怒りに我を忘れていた。気がついたら、モンスター用の双剣を抜き放ってハンター達に斬りかかっていた。
 だが、剣がハンターの一人に振り下ろされる直前、光のような剣閃がロジャーの剣を叩き折っていたのである。
 ティオだった。
 ギルドナイトのティオが、直々に犯罪者を裁きに来たのである。
 ――ハンターは、いかなる場合でも仲間に向かって武器を抜いてはならない!
 ロジャーの剣を折ると、ティオは激しく一喝した。ロジャーは頭がまっ白になった。自分が間違っているのだと言われた気がした。
 ――どうして……。悪いのはあいつらなのに!
 折れた剣を手に立ちつくすロジャーを背に、ティオは逃げようとするハンター達を片手剣【ミストラル=ダオラ】の一刀のもとに斬り伏せていった。
 後からティオに聞いたところでは、彼らはモンスター虐待の常習犯だったらしい。度々の勧告も聞かなかったためにギルドから裁定が下り、今度の処罰に及んだのだという。
 剣についた血をひと振りで払いこちらを見たティオに、ロジャーはごうごうと泣きだしていた。
 何もできなかったのが悔しかった。いたぶられるイャンクックを、ただ見ているしかできなかった。無力で弱い自分がみじめで、許せなかった。
 そして、平気で非道を行う彼らが憎くて、ただ憎くて。
 ――どうして、僕はだめであなたなら許されるんですか?
 泣きながら、ロジャーはティオを見上げた。ティオは静かににロジャーを見つめ、答えた。
 ――それは、私がギルドナイトだからです。
 噂には聞いたことがある。悪事を行うハンター達を、闇から闇へ葬り去る者。ギルドナイトなら許されるのだ。悪人を裁く権利を得られるのだ。そう思ったら、無心にティオにすがりついていた。
 ――どうしたら、僕もギルドナイトになれますか?!
 するとティオは、哀しげにロジャーを見つめて、薄く微笑んだ。
 ――あなたがその気持ちを忘れなかったら、また出会うこともあるでしょう。ただ……。

「ただ……、なんだっけ……」
 夢を思い返していて、そこだけ言葉が抜け落ちていた。とても大切なことを教えてもらったはずなのに、どうしても思い出せない。
 ロジャーはこめかみに手を当て、しばらく記憶を探ったが、ティオが話した続きは出てこなかった。
 そのかわり、ユッカの顔が脳裏に浮かんできた。
(あの時は、けっこうひどいことを言ったよな)
 自分もギルドナイトになりたいと、頬を赤くしながら申し出た彼女に、自分は何と言ったか。
「女の子は、ギルドナイトにはなれないんだよ、か……」
 ナイトの任務は、ただ危険で過酷であるだけではない。普通に暮らしていれば見ることのない悲しい現実に直面せざるを得ないことがたくさんある。
 だからあの時は、安易な嘘をついてごまかした。ユッカのような前途有望なハンターの未来を、自分のひと言で決めてほしくなかったからだ。
 それが嘘だと知って、どれだけ彼女は傷ついただろう。それを思うと胸が痛んだが、激務の日々で忘れてしまっていた。
 だがユッカは、まだ希望を忘れていなかった。だからロジャー達から依頼を受ける時に「チャンスだ」と言ったのだろう。
 この依頼がギルドナイトの信用を得られるとばかりに……。
「君は……どうしてそこまで」
 これがナイト採用試験だとは少しも言っていない。狩りを成功させたからといって、すぐにナイトになれるわけではないのに。
 哀しくつぶやいて、ロジャーは今のユッカが、かつての自分そっくりだったことに気がついた。
 ギルドナイトになるには、ギルドからの評価が一番の決め手になる。だが、どんなに功績を収めても一生ナイトにスカウトされない者もいる。
 ロジャーはどうしてもナイトになりたかった。これ以上、あくどいハンターによって自然やモンスターが汚されるのが見過ごせなかった。
 何よりも、あの時自分をいさめてくれたティオに近づきたかったのである。
 ティオとの遭遇から数年後、ロジャーのもとにギルドからの使者が訪れた。ギルドナイト採用試験の通達だった。
 同時期にスカウトされたボルト、ブルースとともに、晴れてロジャーはギルドナイツの仲間入りを果たした。
 当時隊長だったティオは、入隊してまもないロジャーを見て、なぜか寂しそうに笑った。
 ――来るべくして来た、のですね。けれどあなたは……。
 「だめだ……思い出せない。あの時もおなじことを言っていたはずなのに」
 どうして忘れてしまったのだろう。ロジャーは唇を噛んだ。
 なぜだろう。忘れてしまったその言葉が、今の自分に必要な気がした。
「もう、夜なのか……」
 牢獄の空気が一段と下がったようだった。ハンターとしての体感で日没時とわかる。
 ふいに荒野に残してきたボルトやジル達のことを思い出し、ロジャーは胸が曇った。
 強引に事を進め過ぎたのではないか。今まで押さえつけていた不安が頭をもたげ、ロジャーはかぶりを振って感情を追い払った。
(それでも、ナイトならこうするべきだったんだ)
 ロジャーは胸に拳を当て、自分に言い聞かせる。
「そうですよね……ティオさん」
 

アバター
2012/11/16 12:37
そうですか^^
何を伝えよう、書こうとしたのか。最初の気持ちは忘れたらいけませんってことが、この改稿でよくわかりました。
つい、昔の失敗の克服のために、がむしゃらに直すことだけを考えていたんですが、改稿でその筋が曲がってしまったら本末転倒かもしれません。
2稿は読みやすくなっている分、ちょっと本筋から逸れてしまった気がしていましたし…。
トゥさんのご意見のおかげで気づくことができました。こちらこそありがとうございます^^
アバター
2012/11/16 07:02
蒼雪さんこそ、改稿おつかれさまでした。
そして一読者の声に、真摯に向きあってくださりありがとうございます。

うん、やっぱりこちらのほうが好きです♥
アバター
2012/11/10 08:20
前回のトゥさん、小鳥遊さんのご意見をいただきまして、初稿を再び載せました。

ただ、あの…最後のほうの

>――来るべくして来た、のですね。けれどあなたは……。

から下は、データを確かめてみたらその部分だけ書いてませんでしたΣ(゜Д゜)
ニコタのブログ上でその部分だけ書いてたんです。
うすぼんやりとは思い出せるのですが、詳細は思い出して書けないので、2稿をコピーして、少し直して書きました。

それと、2稿で登場したティオの片手剣の名称の追加(ミストラル=ダオラ)と、ロジャーの返り血の描写の削除、その他細かい語尾や接続詞が変更になってます。

また時間がたって読み返してみて、おかしいと思ったら全体に影響が出ない程度に直していきます。



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