モンスターハンター 騎士の証明~38
- カテゴリ:自作小説
- 2012/11/14 10:22:20
【ギルドの闇に見捨てられたもの】
壁に備え付けられたランプの燃える音すら聞こえてきそうな沈黙が、部屋を満たしていた。
「エルドラ公国が成立するおよそ十年前、かの地はガル国と名乗っておりました」
一同を見渡しながら、ギルドマスターはおもむろに話し始めた。
「未曽有の大地震が、当時の首都であるクド一帯を襲ったのです。震源地は不明。死者も出たほどの大災害でした」
「噂は聞いたことがあります。あまりの被害に、ロックラックや近隣の街からも支援物資を届けたとか」
ブルースが相槌を打つ。
「ええ。あの国一帯は西へ向かう重要な通商路でもありましたからね。商人ギルドもやっきになって復興を援助しておりました」
「なんかヤな言い方……。そりゃ、利権だのはわかるけどさ」
ランファが露骨に眉をひそめる。トゥルーも深刻な面持ちでうなずく。
「しかし、真の災厄はそのあとにやってきました」
やや目を伏せて、ギルドマスターは続けた。
「震災から数日たったある夜、怒り喰らうイビルジョーが首都に迫ったのです」
「なんですって?」
ブルースが思わず声をあげた。実際に名を聞くのは初めてだ。かつてモンスターの資料から名前を知るだけである。
イビルジョーは身体を維持するために、尋常ではない量の食料を必要とする。たった一体出ただけで、周囲の自然環境が破壊されるほど食い尽くすのだ。
常に恐ろしいほどの飢えに苦しんでいて、時には同族も襲って食べるほどである。よって、およその個体が短命だ。
しかし、まれに同族殺しを生き残ってきた個体も存在する。それが、怒り喰らうイビルジョーと呼ばれている。
全生物で最も凶悪とされるイビルジョー。その中で生存してきた個体が、どれほど凶暴で強力なものなのか。ブルース達は息を呑んだ。実感はないが、感覚で恐ろしくなったのだ。
「……結論から申し上げましょう」
しばし言葉を切り、ギルドマスターは面を上げて言った。
「我々は、かの国を――救うことができませんでした」
「なっ……」
ブルースも初めて知る真実だった。ふいにガレンが抑えていたものを吐き出すように叫ぶ。
「――ギルドを恨んではいけない、我々は懸命にそう思おうとした。だが、あなた達はもっと全力を尽くすべきだった。我々を救うために」
「ごもっともです」
ギルドマスターは重々しくうなずいた。
「しかし私はギルドを預かる者として、そうせざるを得ませんでした。ハンターを守るのも私の使命だからです」
「納得できない! そちらが派遣したハンターが逃げ出したりしなければ、あのような惨事にはならなかった! お前達が我が国を見捨てたんだ!」
「――!」
ブルース達は再び耳を疑った。
絶対の信頼を置くハンターズギルドのハンターが逃げた? 見捨てたとは、どういうことなのか。
「私は貴国に、避難勧告を出しました」
憤るガレンに、ギルドマスターは毅然として言い放った。
「ハンターは義勇兵とは違います。あくまで仕事として危険なモンスターの狩猟を行うのです。よって、彼らの人権と生命の保証は他者に左右されるものではありません」
「だが、ハンターはモンスターを狩るためにいるのだろう?」
「強大なモンスターは天災と同じです。人の力ではどうしようもないこともある。あの時貴国を襲ったのは、モンスターの中でも最も呪われた種族、イビルジョーでした。それも年を経た狂える個体……飢餓状態のジョーです」
「それが、どうしたと――」
「年を経たイビルジョーは長年の飢餓に気が狂っており、凶暴さは通常個体の比ではありません。それこそ、古龍にも匹敵する強さを持つのです。伝説の古龍に勝るハンターは、そう多くない。ハンターなら誰でも狩れるというわけではないのです」
答えたのはティオだった。ガレンは苦渋に満ちたまなざしでティオと、ギルドマスターを睨んだ。
「だが、何かできたはずだ。逃げる前に、代わりのハンターを寄越すことはできなかったのか? あの恐ろしい魔物に街が蹂躙されるのを許せと言いたいのか!」
なおも理不尽さに怒りを抑えられないガレンに、再びギルドマスターが言った。
「貴国を襲った大地震とイビルジョー出現のさらに4年前、ロックラックを奉山龍が襲ったのはご存じでしょうか」
「今から十四年前……? それは……」
「当時、史上最大級のジエン・モーランがこのロックラックを通過しようとしたのです」
記憶をたどるガレンに、静かにギルドマスターは答えた。
「通常の個体ですら、街に直撃すれば甚大な被害を及ぼします。出現したのは通常個体の倍ありました。これがロックラックへ直進する回遊路を取ったのです。
何としても街への直撃は避けねばならない。私は他国のギルドにも働きかけて、多くのハンターを募りました。その数、およそ千人。ですがモンスターの討伐はならず、彼らの尊い犠牲によって街への直撃は免れました。が、街もまた大きな被害を受けたのです」
「……」
「その時犠牲になった人数があまりに多く、それから数年は優秀なハンターが激減していたのです。貴国へ派遣されたハンターは、その数少ないG級ハンターでした」
ガレンは黙ったままだ。彼にもわかっているのだ。ハンターズギルドが最善を尽くしてくれたことは。だが、国王もまた、王として果たすべき義務を行ったに過ぎない。
すべてを捨てて逃げろと言うギルドの避難勧告を、ガル王と、彼の息子であるたった一人の若き王子は、断固として拒否した。
大地震で家や職を失った者に、これ以上悲惨な思いをさせまいとしたのだ。そして、相手に適わぬと知って依頼を放棄し、逃亡したハンターに憤った。自分の国は自分で守ると。
「ガル国王の憂慮、お察しいたします。ですが、派遣された4人ずつの3パーティのうち、2つのパーティが全滅していることを、彼らは知らなかった。これでも撤退は愚行とお思いになりますかな?」
「……っ」
ガレンは手錠がかけられた両手を、関節が白くなるほど固く握りしめてうつむいた。
「それでも、我々に街を捨てることは死をうながすのと同じことだったのだ。故郷を捨ててどこに行けというのだ? 都合よく受け入れてくれる土地などどこにある?」
「ガレンさん……」
トゥルーが痛ましげな目を向ける。だが、何も言葉をかけることができなかった。
「王子は自ら兵を率いてイビルジョーに立ち向かい、自分が食い殺されるぎりぎりまで城下の市民を逃がしておられた。だが私は目の前で、かの忌まわしき魔物に王子が食い殺されるのを見たのだ。部下が恐怖と絶望のあまり恐慌状態に陥り、私は上官として、部下の命を最優先した。残った王子の兵も連れて、むざむざ逃げ帰るしかできなかった」
語るガレンの虚空を見つめる目から、小さな雫がぽとりと落ちた。
ガル王はそれを責めなかった。ただ王子の死を名誉だと讃え、無事に生き残ったガレン達を労ったのだ。ガレンや忠臣達は、なんと温情深き王かと涙を流して感じ入った。
それからガル王は滅びた首都を捨て、当時からガル国の宰相を務めていたアラム=エルドラ公の所領地に居城を構え、土地の名でもあるエルドラを新たな国名とした。そして自らはエルドラ国王として玉座に座った。
みな、王が再び君臨することを喜んだ。正当な後継者である王子はこの世におらず、王が存命である以上、ほかにふさわしい者もいなかったからである。
3Gをプレイしたことがないので、怒り喰らう~」の描写はプレイ動画で確認しました。
あの見た目と強化能力で、恐れおののくプレイヤーは多いでしょうね。
私も2Gで激昂ラージャンと初めて対峙した時はガクブルでした。
そういえば繁殖の方法までは想像したことなかったなぁ。
私的には、2番ですかね?
前にテレビで見たんですが、砂漠に住むあるトカゲは、食料が見つからないと、目の前の子どもも食べてしまうんです。あれはショックでした。
卵は産み捨ての状態なので、親は子供を育てないし、よって愛情はそこにないんですね。
だからイビルジョーも、自分で生んだ子供ですら、飢えていれば食べちゃうんじゃないでしょうか。
子供は生まれた直後から自立しているので、親に育ててもらう必要がない。生まれたときから親子は敵同士になりますね。
で、その過酷な状況を生き残った個体が交配して種の保存が行われているという…。
あぁ、救いがない^^;
この作品の内容に、東北の震災を反映させて書こうとは、最初から思っていませんでした。
でも無意識に出てしまったところもあるようです。
そういうふうに察して頂いたイカズチさんの優しい心、嬉しいです。ありがとうございます。
でも本当に震災をテーマにして書く!とはこれっぽっちも考えてなかったんですよ。
もちろん震災の慰霊塔としたつもりもありません。内容が重なったのは偶然です。
(ネタバレになってしまいますが、モンハンはラスボスが災害をもたらす緊急クエが多いですよね。これもその一環みたいなもので、作中に出てきた地震もちゃんと原因があります)
ただ純粋に楽しんで読んでもらいたいので、逆に震災は関連付けてほしくない気持ちです。
しかし無意識に思い出して教訓となるなら、それを止めるいわれもないわけで。
ただ…3.11以降に出版された年内の書籍の中には、作者のあとがきに「震災にあった人も楽しめるように」とか書いた作家が何人かいて、それにはムカつきましたな~。
娯楽のために本を読む人が、逆に悲劇を思い出すじゃないですか。
記念碑にするんじゃねえよって思いません?(^ω^♯)
自分のブログか何かでそれを表明するならともかく。本はいつの時代も、誰にでも開かれたものであるべきだと私は思ってます。
頭部を覆う龍気。
赤く燃える目。
恐怖を感じずにいられませんでした。
しかし思うのですが『自分以外の生命を糧としか見れない』ジョーはどうやって繁殖するんだろう?
可能性①:繁殖期があり、その間だけは異性個体を食欲の対象外とみる。(救いが無い……)
可能性②:カマキリのように雌個体が何らかの方法で雄個体を拘束し、受精。その後、捕食。(さらに救いが無い)
可能性③:ナメクジのように雌雄同体で単一生殖を行う。(究極に救いが無い。だとしたら食欲だけの一生だもん)
ガル国を襲った悲劇。
天災とそれに続く抗えない悲劇。
未曽有の厄災。
蒼雪さんのお住まいを考えると勝手な想像ですが。
ガレンが吐露する言葉は蒼雪さんの、あの被害に遭った全員の言葉だと思います。
心が痛みます。
風化などさせてはいけません。
私も3Gを持っていませんので、サイトや動画などの資料から見ただけですが^^;
怒り喰らうジョーさんを出してみました。
このジョーって、2Gで出た「激昂ラージャン」と同じ立ち位置なんですね。
動作パターンは同じだけど、パワーが桁違いという。
動作が同じなら怖くないだろうという考えは甘いんだなということは、一度立ち向かったら消し飛ぶんですよね。ちょっとのミスも許されないから、プレイヤーのプレッシャーが半端ない^^;
本当のところをいうと、ここに出てくるジョーはテオ・テスカトルという古龍をもってくる予定でした。
でもテオが新大陸(3、3rdの舞台)に登場しないので、生息しないんだろうなと。
ふだんは旧大陸の封龍という地にひっこんでるらしいので、気まぐれに飛来するのもどうかと。
悩んだ末、神出鬼没のジョーなら恐れられるかと思い採用しました。
ガレンはいろいろ背負う人の一人ですね。過去に関する。
ギルドが逃げろって言ってるのに逃げなかった王様の命令に従うしかなかった。命令に反していたら軍人じゃないですし。彼なりに頑張ったんだけど、それが…という。
まだこの話には続きがあります。来週アップのお話もまだ暗いですが、どうぞよろしくです。
わたしはまだあいまみえたことがありません(ソロのときもP3ばかりやってしまうもので)。
なので漠然と「怖いんだろうなぁ」と思っていましたが、読んでますます怖くなりましたw
ガレンさん、よく生き残ったなぁと思います。部下まで連れて。
正しいと信じた道で犠牲が出てしまうのは悲しいですね。その犠牲の数だけ退くのも難しくなるでしょうし。
うーん、ガレンさんも応援したくなってきました。