モンスターハンター 騎士の証明~39
- カテゴリ:自作小説
- 2012/11/21 08:34:10
【静かなる狂気】
ガレンが語り終えると、また、沈黙が降りた。しばらくは誰も口を開かなかった。
どちらが間違っていたわけでもない。ただ、お互いの正義を信じた結果、どちらも報われることがなかった。
そんな悲しい出来事があったとは知らず、ブルースは視線を落とした。
「ロジャー隊長はもしかして、それをご存じなのでは?」
「それは当然でしょう」
誰ともなしに問いかけたブルースに、ティオが答えた。
「こういった事実を記した書類は、ギルドナイトの長も読むのが義務になっていますから」
「ならば、隊長が独断で事件の解決にあたったのもそのためでは?」
ブルースは面を上げて副隊長を見た。ティオは淡々とした表情でそれを受け止めた。
「おそらく、そうでしょうね。だから彼は、我々の指示を仰がずに現地のモンスターの排除に向かったのでしょう。失われたギルドの信頼を、かの国に取り戻すために」
「先輩……」
ブルースの瞳に、喜びとも悲しみともつかない感情がゆらいだ。ギルドマスターは、穏やかに言った。
「先ほどは、ロジャーの独断専行を責めるような言い方をしましたけどね。しかし我々は、嬉しくもあるのですよ。その決断こそがナイトに求められるものだからです」
「マスターのおっしゃる通りです。彼がいちいち我々に判断をゆだねるような男なら、きっとナイトの長にはなれなかった。いや、ナイトにすらなれなかったでしょう」
ティオも同意する。いつもは表情の薄い男だが、今はどこか喜ばしそうに見えた。
「それこそが騎士の資質。私はロジャーを信用しておりますよ。もちろん、同行したボルトもね」
ギルドマスターはにっこりした。好々爺そのものの笑顔が、ふいにくもる。
「しかし、今回の事件は並々ならぬ事情がからみあっていますね。とてもロジャーひとりの手には重すぎる気がするのですが――ガレン殿、そもそもどうしてあなたは密猟者になどなったのですか?」
見つめられ、ガレンは自分より小さい竜人族の老人を見返した。
「……陛下は、正気を失われておられるのかもしれない」
「どういうことですか?」
「陛下は王座をエルドラに移したあと、我々を近衛兵の地位から外してしまわれたのだ」
そして、もとガル国王ハウフリード・ガル3世は、王子とイビルジョー討伐に同行した部隊全員に、ギルド不認可のハンター、つまり密猟者としてモンスターを狩り、捕獲して帰るよう命じたのである。
栄誉ある親衛隊から密猟者に堕ちることを、ガレン達は反対した。だが、王は決してその理由を言わなかった。ただひと言、こう告げたのだ。
――これは、そなた達全員の義務である。
「私は悟った。陛下は、あの時王子を助けることができなかった我々を恨んでいるのだと」
「そんな……。じゃあ、王様はあなた達を苦しませるために密猟をやらせているのか?」
ランファが青ざめて言った。ガレンは苦渋を刻んで、かぶりを振った。
「わからない。おそらく、そうかもしれない。だが、それだけではない何かを、陛下には感じるのだ」
「ブルースの報告では、あなた方は密猟したモンスターを大枚の報酬と引き換えていたそうですね。その報酬も、王が支払っているのですか?」
ギルドマスターが尋ねた。ガレンはうなずいた。
「そうだ。陛下はあくまで、温情深き王であらせられる。我々が密猟してモンスターを国土にはびこらせることを、国のためだと言ってはばからないのだ。私はもちろん、意を反する臣も多かった。誰もが陛下に諫言をした。だが……」
ガレンは言葉を切った。のしかかる過去の重さが、それ以上言葉にすることを恐れさせていた。かわりに、ティオが言った。
「諫言をした者は、もうこの世にはいないのですね」
ガレンは重々しくうなずいた。
「それが陛下の復讐の始まりだと知ったのは、密猟に反対した臣や部下の家族が、次々と冤罪で処刑されてからだ」
「なんてことを……! どうしてガレンさん達は、それでも従うんですか?」
「そこまでする義理はないと? たしかにそうだな」
真っ青になって憤るトゥルーに、ガレンは弱々しくほほえみかけた。
「だが陛下の心の痛みを思えば、罪の償いも当然だ。これは我々の責任であり、義務なのだ」
「……そんなの、おかしいニャ……」
苦りきったように、ランファのオトモのミイがつぶやく。ガレンはやさしく言った。
「しかしあの時、王と王子が決断されなければ救われなかった命もあるのだよ。そしてきっと、今行っていることも陛下のお考えあってのことだろう……」
「その考えとやら、ぜひにでも知りたいですね」
ギルドマスターが言った。いささか厳しい視線で、ガレンを見やる。
「まだ根本的な謎が解決しておりません。なぜ王はモンスターを密猟し、国内へ運ぶのか? モンスターやハンターに恨みを持って根絶やしにするほうが話が早いでしょう?」
「それは……」
ガレンは冷や水をかけられたように顔を上げた。悲しみに酔いしれていて、肝心なところに気づいていなかった。
「なんでもいい。心当たりを教えてください」
ティオも尋ねる。ガレンはあからさまにとまどっていた。もしや、本当に何も知らないのかとブルースが焦れた時、ようやく思い出したように口を開いた。
「そういえば……。我々が狩ってくるモンスターだけでは足りないと、陛下が宰相に命じて他国から密猟者を募り、モンスターを買い入れていたが……それと同時期に、学者とか、研究者と名乗る者達も多く入国するようになっていた」
「学者?」
ティオとギルドマスターが顔を見合わせる。どちらも今までにない険しい表情に、ブルースもはっとした。
「しかし、まさか……。それは絵空事に過ぎないのでは?」
「絵空事と思わないからこそ、実際に行われているかもしれませんよ」
「な、何のことだニャ? さっぱり意味がわからないニャ!」
ブルースとティオの会話についてゆけず、ランマルが声をあげる。ギルドマスターが厳しい表情を崩さず、つぶやくように言った。
「失われた技の再生を、未熟者達が面白半分に行っているとしたら……これは恐ろしいことです」
ギルドマスターは改めてブルースを見上げた。その鋭い視線に、ブルースはきりりと姿勢を正した。
「任務です、ブルース。これからすぐに、あなたもエルドラへ向かってください。そしてロジャー、ボルト両名と合流し、国内にいる密猟関係者全員を確保するように」
「了解いたしました」
踵をそろえ、厳かにブルースは敬礼する。それからギルドマスターは、トゥルーとランファを見た。
「お2人にも急ぎ、頼みたいことがあります。これは、あなた方が所属するミナガルデギルドおよび王立古生物書士隊からも一致した命令です」
「わかりました」
かしこまるトゥルーとランファに、ギルドマスターはある指示をした。
「――ブルース」
一斉検挙に向けてギルド内の職員が慌ただしく動き回る中、ティオがブルースの背を呼び止めた。
「はっ、なんでしょう?」
振り返ったブルースに、ティオは穏やかに微笑んだ。
「ちょっと、ことづけを頼まれてくれませんか。ロジャーにね」
ティオはブルースの耳元で何ごとかささやいた。一瞬ブルースは驚いた顔をし、すぐに心得たようにうなずいた。
「必ず、申し伝えます」
生真面目にブルースは敬礼すると、足早に飛行船発着場へ向かっていった。その後ろ姿を、ティオはいつもの微笑で見送った。
深まる謎というよりは、大きな謎がちょっとずつ明らかになる展開にしました。
読む人には、一体何なのさーと思うことが逆にストレスにならないか心配ですが、これが今の私の限界なので、、、^^;
考えながら書いているので、細かいことはまだ決めてな、、、いえ、考えてる途中です!(笑)
イカズチさんの予想は、たぶんこちらの考えと同じかもしれませんw
でもストーリーが先に進むまで、内緒にしておいてくださいねww
うん。
『モンスターを生け捕りにして国内に放つ』
これは初期からの謎ですね。
誰がやっているかはわからなかったのですが国王が……。
ますます謎が深まっただけで理由がはっきりしない。
想像も付きません。
ちょっと気になるのが……。
『モンスターがまだ足りない』
『学者や研究者を招き入れていた』
う~ん、でも外れてたら恥ずかしいから言わな~い。
それにしても謎が深まるにつれ、情報が明らかになるにつれ、ドキドキ度がハンパ無く上がってきます。
ダラダラ書いてるどころじゃないですよ。
拝命というと、一般的には官職を任命された時に「拝命する」と使う場合が多いです。
というか、それが正しい使い方みたいに通ってますよね。
命じられた任務を謹んで受ける=拝命なので、使い方としては間違ってない…はずですが^^;
英語だとyes sir なのでしょうね。しかし、イエッサーだとちょっと軽いですかね?
ちなみにラジャーは無線用語だそうですよ。
「了解いたしました」
のほうが、一般的には通じますよね…。というわけで、こっそり直しておきます。
あはは、すみません、わからなくって^^;
でもここで全部明かしてしまうと、ストーリーが一本道になっちゃうんですよ。
読む人も、「ああこれから先はこうなるんだよね、あとは、この目的に向かってまっしぐらですよね」って思いながら読むでしょう。
それを避けるために、あえてここでは隠しました。フラストレーションがたまってたら申し訳ない^^;
この先は重い展開が(またかよという)待ち受けていますが、どうか見捨てずにお読みいただければ幸いです。
モンスターハンターというゲームは、そもそも「大自然を満喫しつつ、大きなモンスターを楽しんでハントする」っていうおおらかなコンセプトがありますよね。
でもこの小説だと、ナイトという立場のために使命とか義務とか、重いものを背負わないとならなくなる。
その辺が書いてて時々つらくなりますが、選んだテーマだからしょうがないです(笑)
逃げずに頑張って書ききろうと思います。
ガレンや王様たちとの関係は、小さな国だからこそですね。大きな民主国家じゃないから、ある意味馴れ合いみたいな空気がある。
だから、みんな恩や義理があるんですよね。お互いに。国と言うより、村社会みたいなものです。
なのでガレン達は、王が道を踏み外しても反乱を起こさないわけです。そういうもどかしさがこの事件の原因のひとつでもあるわけで。
いろいろ苦労してるガレンですが、最後はちゃんと救われる予定ですのでご安心くださいませ。
さすがに…元凶の人はそれ相応の償いをしてもらいますが、それでも、全員が何かしら救われる結末となっております。
あまりに大団円っていうハッピーエンドは好きじゃないんですよ。都合よすぎて^^;
だけど、みんな幸せになる予定です。
そんな気分ですw
失われた技の再生。いったい何が行われようとしているのか、とっても気になります。
命を蔑ろにしながらの研究なんてよいことではなさそうで、先を知るのが怖いと思いつつ絶対知らずにはいられませんね。事態はわからぬまま伝わってくる緊迫した空気。お見事です。
そして、忠誠を尽くすべき王の心に翳りが見えたときの家臣の姿が悲痛で。
従うのも、嗜めるのもさぞつらいのでしょうね。嗜めて改めさせることができるならまだしも、自分が死んでも何も変わらないことも、その原因もわかっていては。
ガレン将軍にはいつかしあわせになってほしいものです。
やっと物語の核心に触れることができました。
でもここで全部書くとあらすじで終わってしまうので、まだまだ続きますw
蒼雪、いつまでダラダラ書いてるんじゃ~とか思われてないかヒヤヒヤですがww
核心の先延ばし技法は、まだまだ勉強中ですので、なかなか、場面の切り替えや見せ方に悩むことが多くて。
これでいいのかなと試行錯誤ですよ。
でも褒めて頂いてうれしいです。ありがとうございます^^
絵空事その他については、この先(次回ではないですが)明かされます。
このシーンで全部書いてしまうと、現場に行ったときに衝撃が薄れますので、あえて隠しました。
小鳥遊さんのおっしゃる通り、ティオの伝言はロジャーに何かを与えるものです。
これもお楽しみにしていてください^^
ガレンが語った過去の経緯。
今、エルドラで行われている事。
すべてがどのように絡んでいるのか、その全貌が見えそうで見えないというのは、蒼雪さんの書き方がお上手なんだと思います。
筆者の思うツボ状態で続きが気になっていますから~~^^
絵空事うんぬんに関しては、私もランマルと同じく
「な、何のことだニャ? さっぱり意味がわからないニャ」ですw
ティオからの伝言は、ここぞという時にロジャーを救ってくれそうですね^^