モンスターハンター 騎士の証明~40
- カテゴリ:自作小説
- 2012/11/22 16:09:42
【運命は繰り返す】
ロジャーはベッドに腰かけたまま壁に背を預け、腕組みをして、目を閉じていた。
眠っているのではない。頭の中ではめまぐるしく思考が巡っている。
(これからどうするべきか……)
ギルドの体面を考えて、あえて敵方に捕まったのは軽率だったろうか。このまま状況に甘んじていれば、拷問の末に人知れず抹殺されることは想像にかたくない。
ロジャーは右のブーツを飾る金属の細工に手をやった。その留め具には、ごく細い特殊な鋼線が仕込まれている。それをもってすれば、牢の鉄格子などたやすく切断することが可能だ。
(脱出するのは簡単だ。でも……)
ロジャーは軽くため息をついた。ジル将軍とともに逮捕されたのは、その方が宰相ないし国王に目通りし、説得できるチャンスと考えたからだ。事実その通りになったのだが、対面した宰相はこちらの話をうろんに聞き流すだけで、収穫はなかった。
もし逃亡するにしても、相手がこちらに危害を加えようとするその時でなければ申し分がつかない。
この閉鎖的な国の主に対してどれだけの言い分が通用するかは疑問だが、ロジャー達は公式にギルドからの使節として王に謁見した立場である。その使者を無残に殺したとあっては、近隣の都市や国家からの評判は下がるだろう。
(やっぱり、意図がわからないな)
この国の執政者達は、自分で自分の首を絞めているとしか思えない行動ばかりする。
(モンスターをわざわざ国土に野放しにする理由が、鉱脈の目くらましにしてはずさんすぎる。あの洞窟を口封じの処刑場にしたのも、おそらくなりゆきからだろうな)
欲を出した者達が盗掘するのを防ぐために、あえて兵隊を配置しないのは、その兵士達まで盗掘者になることを恐れてのことだろう。
この国の経済事情を見る限り、誰もが豊かというわけではない。目の前に宝の山があれば、忠誠を誓う軍人でも、家族のために手をつけようとするだろう。
(だからこそ、見せしめのためにモンスターを放して番人がわりにさせたということか。必要な分の採掘は、処刑される人を外に出して、囮にしている間に行っていたんだろうな)
洞窟でティガレックスに襲われた時、宰相のスパイだった商人は、おののく兵士達に「モンスターの餌になりたいのか」と言っていた。口封じのためにあの洞窟へ放り込まれた者の末路を知っているから出た言葉だろう。
それに、宰相と2度目に対面した際、彼はロジャーやジルの告発を聞くだけで真っ向から否定はしなかった。つまり、無言ですべて肯定していたことになる。
もしも宰相が欲に目がくらんでいるだけなら、こんなぬるい真似はせずに、真っ先にロジャーを殺すはずだ。それをしないのは、できないからだろう。
宰相は愚かではない。頭の悪い兵士しか手ごまに使えなかったのは、兵士達の人望が人徳厚いジル将軍に集まっているせいだ。他の臣下が宰相に口出ししないのも、何か弱みを握られているからに違いない。
まるで、宰相ひとりが柱となって何もかも抱え、支えているようだった。空洞だらけの今にも倒れそうな国を、たったひとりで。
「もう一度、宰相殿に会わないと……」
でもどうする。面を上げると、ロジャーは目をすがめて錆びた鉄格子を見た。
やはり、強引に脱出してでも面会を図るか。しかしその前に、取り上げられた武器を取り戻さなくてはならない。長年使い込み、手入れをしてきた愛剣だ。命には代えられないが、捨てていくには忍びない。
ロジャーは立ち上がると、鉄格子に歩み寄って辺りをのぞきこんだ。壁に備え付けられた灯が揺らめくばかりで、人影はない。
「仕方ない、やるか……」
いよいよ特殊鋼のワイヤーの出番かと、心を決めたその時である。
「鳴き声……?」
ロジャーのハンターとして鍛えられた聴覚が、ものものしい咆哮を聞き取った。かすかな、風鳴りにも似た響きである。
まさか、と懸念する前に、いきなり廊下の奥が慌ただしくなった。さかんに人が走る靴音、狼狽した指示の声。ロジャーに嫌な悪寒が走った。
「おいっ、誰か! いったいどうしたんだ!」
鉄格子に顔をぐいと近づけて、ロジャーは声の限りに叫んだ。
「誰か! 教えてくれ!」
何度目かに怒鳴った時、まだ青臭さの抜けない兵士が、おろおろしながらこちらに走ってきた。ロジャーを牢に入れた牢番だった。
「あのっ、あまり騒がないで……! 一応あなたは罪人なんですから」
「僕は何もしていない。――いや、それより、おもてで何があった? 何か吠え声のようなものが聞こえた気がしたが」
「そ、それは……」
兵士はまだ視線をさまよわせていたが、ロジャーに鋭く睨みつけられて、ようやく観念した。
「み、見たこともない大きなモンスターが街の外に現れたそうです。じ、地面からいきなり出てきたそうで、城下は大混乱になってるらしくて」
「地面から? どういう形態かわかるか?」
「しっ知りません! ただ、物見の言う話では、顔中が真っ黒な光みたいなのに包まれてて――目撃した何人かは恐ろしさのあまり気絶したって」
「――地面から……黒い光……」
ロジャーの脳裏に、ギルドの資料室で読んだある報告書が鮮明に浮かんだ。
十年前ガル国の首都を襲った、飢餓状態のイビルジョー。まさかあれが再来したというのだろうか。
(いや、それはない。当時出現した個体は、首都の4分の1の人口を食らったあげく、別の地へ姿を消したと報告書にはある)
そして新たに出現した土地で、改めて派遣されたG級ハンターに討伐されたのだ。その記録は違えようがない。
(別の個体なのは間違いない。なのに、またこの国を襲うなんて……)
運命は繰り返す。まるで災厄を自ら呼び込んでいるかのように。この国が背負い続ける不運さに、ロジャーの胸が鋭く痛んだ。
「君! 今すぐ僕をここから出してくれ。現れたモンスターは、君達では無理だ。僕が行って対処する!」
「ええっ! そ、そんなこと言われても……!」
牢番は無意識に腰につけた鍵束に手をやった。ロジャーは鉄格子から手を伸ばし、その手首をつかんだ。
「ひっ!」
「なら、僕が脅したということにすればいいだろう! 時間がない、頼む!」
「で、でも――」
「僕の剣を持ってきたまえ! 早く!」
業を煮やして怒鳴ったロジャーの迫力に、牢番は悲鳴のような返事を返して、転げそうな勢いで走って行った。よもやこのまま逃げ出すかと思いきや、よほどロジャーに気圧されたらしく、ロジャーから預かった二ふりの剣を両腕に抱えて戻ってきた。
「あのっ、これで何を――」
「離れていろ!」
鉄格子ごしに剣を受け取ると、ロジャーは一喝して双剣をひらめかせた。驚愕に目と口を目一杯開けて棒立ちになる牢番の前で、数本の鉄棒が滑らかな切り口を見せて宙を舞う。
「協力、感謝する」
燃える鋼のような視線を向けられて、牢番は呆然とうなずいた。石張りの床に次々と落ちる金属の耳障りな音も、彼には甘美に聞こえたに違いない。
その場にへたりこむ牢番を背に、ロジャーは地上への階段を駆け上がった。地下牢から続く城内の廊下には、誰の姿もなかった。ただ遠く、あちこちから混乱の声が聞こえてくる。
ロジャーは開きっぱなしの一室を見つけると、その窓から庭に下り立った。そして兵を送り出すのに忙しい城門を、混乱に乗じて一気に駆け抜ける。
(二度と悲劇は繰り返させない!)
今回は連休二本立てスペシャル!というのはうそで、体調が悪くなる直前は、なぜだか筆が進むんですよ。この原稿書いた後に風邪が悪化して具合悪くなりました。
という話はさておき、悩んだ末のこの展開は、いつも華麗なロジャーに、思い切り苦戦させるためのものでもあります。
いい加減彼も大変な状況ですが、さらに奮闘してもらわないと話が盛り上らないので^^;
取材のために双剣で3rdのジョーを狩ってきましたが、こいつは足しか攻撃するところがなく、プレイは楽しいけどお話は盛り上げにくいんですね。
イカズチさんの書いたジョー戦に追いつけるように、頑張って書きます。w
ギルドの最終兵器の異名を持つロジャーですから、ただ苦戦するだけじゃなくて、狩りの見せ場もあります。
その辺、GRさんの狩りの姿も、多分に参考にしていますよ。
ジョーの咆哮のフレーム回避とか、いつか私もマスターしたいですw
と、喜んだのもつかの間。
うええぇぇ……。
あいつがぁ。
『突如何の告知もなしにフィールドに現れ、狩猟対象を易々と追い払った挙句、ハンターをキャンプ送りにするその姿は正しく「暴君」であり、イビルジョーに癒えぬ心の傷を植えつけられたハンターの中には、「乱入自体がトラウマ」などという者も存在するらしい。』(モンハンwikiより抜粋)
ゲーム中でもこう表記されているジョー。
タダでさえ厄介なジョーの更に凶悪な『怒りをお召し上がりになるイビル・ジョー』(恐怖のあまり敬語状態)。
あいつが出てきましたかぁ。
かく言う私もトラウマを与えられた一人です。
『振り向けばヤツが居る』
って嫌な言葉だなぁ……。
ロジャーはこいつに十分な準備も無く立ち向かう事になるのでしょうか?
確かに小鳥遊さんの仰る通り格好良いんですが。
コイツに一人で挑むのは……。
でもロジャーの格好良さはモデルが良いからなんでしょうね。
だからあの人の分身のロジャーもきっと大丈夫……だと信じたい。
ロジャーはカッコいいんですよ…。自分で作ったキャラに対してここまで思い入れるのは初めてなんですが。
イカズチさんが、「勇気の証明」ですごく熱いロジャーの一面を書いてくださったことがきっかけで、ここまでヒーローになりましたね。
あのシーン(終焉を食らうもの)がなければ、こんなに行動的にはならなかったでしょう。
キャラ立てのうまいイカズチさんに感謝です。
ロジャーを牢屋に入れたは良いものの、出し方がわからなくて数か月悩んでました。
こういう時、名作はどういうパターンで解決するか…と。
頭に浮かんできたのは、「24」(トゥエンティフォー)でした。
あのドラマは、次から次へとめまぐるしく何かが起こり、主役のジャックが毎ターンピンチに陥るわけですが、彼の機転または外部の要因がきっかけで脱出とかしてますよね。
なので、24のモンハン版だったらロジャーはどうしたかな~という思考で考えた結果、外からモンスターが出てきてしっちゃかめっちゃかになった隙に逃げ出す、でも彼なりの正義感に基づいてるからただの逃走ではない、という展開を思いつきました。我ながらいいアイデアじゃないかと^^;
名作に学ぶところは大きいですね。
ロジャーがかっこいいと終始おっしゃってくださるなんて、作者としてはうれしい限りです^^
ええ、もっと言っちゃってください。彼も頑張りますからww
ところで…牢番に迫るシーンのセリフが、どうも後の描写と一致しなかったので、ちょこっとだけ変更しました。
冷厳って表現はちょっと合わなかった気がしたので。いつも的確な表現を探すのに手間取ります。
頭の中では映像としてわかってるのに…^^;
迫力ある彼の表情が目に浮かび、わくわくしました^^
牢を出るときの思慮も、技量も、どちらもロジャーらしくて素敵です。
こういう見せ場も、ファンタジー作品ならではの要素でいいですね~~。
はっ、しまった……。
ロジャーが登場すると、感想が『ロジャーかっこいい』で終始してしまってる^^;