Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~41

【恐王、再臨】

 深夜の城下町は、とまどう市民と兵士達で混乱のるつぼと化していた。
 十年前の悲劇を知る大人達は、現れたモンスターをひと目見ようとする子供や若者達を怒鳴りつけ、襟首を捕まえて引きずり戻す。家の中に閉じこもって出てこない者、家族ぐるみでどこかへ逃げようとしたがどこへ行ってよいのかわからず、ありったけの荷物を抱えて右往左往する一家。道を空けろと怒号する兵士や士官達――。
 人をかきわけ、通りをひたすら街門へ向かって急ぐ途中、ロジャーは奇妙な人だかりを見つけた。どうやら、数人の男女と市民が小競り合いをしているようである。さすがに見捨てておけず、ロジャーは人だかりの間へ入った。
「どうしたんだ? 何を争っている?」
「なんだ、あんた――」
 どこかの店の主らしい、恰幅のよい男がロジャーを睨みつけた。囲まれているのは、この街に滞在していたハンター達だった。
「あんたら、ハンターなんだろ! だったら今すぐ、街の外へ行ってあのモンスターを退治してきなよ!」
 中年の女が指を差してハンターに怒鳴った。ジャギィ一式を身に着けた剣士の男が「バカを言え」と怒鳴り返す。
「俺達は雇われているんだ。それに、いくら金を積まれたってイビルジョーだけは御免だ!」
「それでもハンターか! ハンターなら、モンスターを狩るのが仕事だろう!」
 取り巻きの男が言い、まわりの者もそれに合わせる。ハンター達も感情にまかせて反論し、事態は悪化するばかりだった。
「――やめたまえ!」
 ロジャーが一喝した。
「ここで言い争っている場合じゃないだろう。あなた達は早く安全なところへ避難してください。君達は、依頼主がいるなら彼らを守りに行くんだ」
 市民とハンターを交互に見て、ロジャーは説得した。
「逃げろって、いったいどこにだよ」
 取り巻きの誰かが、皮肉に言い捨てる。ロジャーは言葉に詰まったが、顔には出さなかった。
「あんたもハンターの仲間か。だったらあんたが怪物をなんとかするんだろうな?」
 屈強そうな街の男が、ロジャーの襟首をつかみにかかった。憎しみが燃える目だった。彼も過去の被害者なのだ。ロジャーは男の手を払わず、あえて目を見つめ返した。
「そうだ。私が奴を狩ってみせる」
「何……?」
 激情のままハンター達を私刑する寸前だった街の人々の顔に、初めて理性が浮かんだ。ロジャーは繰り返した。
「私が守ってみせる。約束する」
「無茶よ!」
 ルドロス一式の女ガンナーが悲痛な声で叫んだ。
「相手はあのイビルジョーだって言うじゃない。かなわないわ、あなたひとりじゃ!」
「ありがとう」
 穏やかに、ロジャーは女ガンナーに微笑んだ。それだけで、襟をつかんでいた男ですら、毒気が抜かれたように手を放した。
「大丈夫だ。私が必ず、この街を守る」
「ロジャー殿!」
 ふいに人波がかきわけられ、一騎の騎馬が姿を現した。騎乗したジルの姿に、ロジャーもさすがに目を丸くする。
「ジル殿、どうしてここへ!」
「こんな時にじっとしてはいられません。我々も、やれることをやらなくては!」
 そしてジルは、ぐるりを見渡して力強く言った。
「みな、よく聞け。今から城内に市民全員を避難させよと陛下の仰せだ。民は今すぐに必要な物だけまとめ、城へ向かえ。急ぐのだ!」
 おおっ、と居合わせた全員がどよめいた。ジルは率先して兵の前に立つ勇将であり、今やハンターに代わって国を守る英雄でもあるのだ。市民だけでなく動揺していた兵士達までもが、みるみる勇気づけられていくのをロジャーは見た。
「この場はお任せを。ロジャー殿にすべてを託すのは心苦しいが……どうか、頼みます」
 ロジャーは唇を結び、うなずき返した。ジルは街門へ向かって声を張り上げた。
「門を開けろ!」
 巨大な大扉が、歯車のきしみを伴ってじりじりと開いてゆく。その向こうで、黒い闇が吼えた。人々が恐怖にかられ、一斉に悲鳴をあげる。その悲痛な響きを背に受けながら、ロジャーは死の舞台へ踏み出した。

 背後で門が閉じてゆく。ロジャーは大きく息を吸い、吐いた。腰のポーチから黄色い液体の入った小瓶を取り出し、一気に飲み干す。強走薬グレートは、ここぞという時のとっておきだ。飲めば、数時間は全力で動いても息が切れることはない。
 瓶を傍らに投げ捨てると、ロジャーは目の前の魔物を睨みつけた。
 ゴオオオオッ!
 自らの存在を誇示するように上体を反らし、モンスターが咆哮した。顔面に黒く取り巻く煙のようなものは、身体からあふれ出した龍気だ。その奥で、禍々しい赤光がふたつ燃えている。傷だらけの肥大した胴体に長く続く太い尾を支えるのは、極端に細い後ろ足だ。前足は退化して小さく、用をなさない。その異様な姿と忌まわしい生態ゆえに、邪教を信じる集団からは魔神の使いとされてきたほどだ。
「ここを通すわけにはいかない!」
 ロジャーは背中の双剣を抜き放つと、相手の懐めがけて走った。イビルジョーは前のめりになって、自ら飛び込んできた餌にかぶりつこうとする。下顎から突き出た無数の牙が、夜光にぬらりと光った。
「――っ!」
 むっとした悪臭を放つ顎をかいくぐり、ロジャーは巨大な足の間に滑りこんだ。即座に双剣をかざすや、全身の気を剣に集中させる。鬼人化したロジャーの剣撃が汚れた緑色の皮膚を切り裂き、血しぶきをあげた。だが発狂状態にあるせいか、モンスターはそれを痛手とも思っていないようだ。四股を踏むように右後足を振り上げたのを確認すると、ロジャーは即座に反対側の足へ身をひるがえす。
 ズゥンと地面が震動した。あれに踏み抜かれては即死する。だが、立ち位置を間違えなければこちらの攻撃のチャンスだ。ロジャーは回りこんだ左側の足へ激しく斬りつけた。とにかくは、相手を転ばせないと始まらない。体高の高いイビルジョーは、攻撃範囲の狭い双剣には不利な相手とされる。弱点部位は腹部や頭部だが、ガンナーの遠距離武器やランスなどでないと、とても届かない。
 イビルジョーは小うるさいといわんばかりに足を踏みかえ、うなりながら身体を回転させた。巨体に比例したすさまじい速度である。これにわずかでも巻き込まれれば、それだけで致命傷となりかねない。ロジャーは巧みに動きを見切り、安全な方の足へ貼りつくようにして剣を振るい続ける。だが分厚い皮膚は容易に切りがたく、切り傷こそつくものの、致命傷にはいたらない。
 本来イビルジョー狩りというものは、ほかのモンスターを狩る以上に入念な準備が必要だ。動きを止める罠肉やトラップに加え、ガンナーを交えた集団での狩猟が理想である。
 最初から勝ち目のない戦いを挑むつもりはなかった。今自分が持っている道具、培ってきた経験と実力が決断に結びついている。
 ロジャーは勝つ自信があった。揺るぎない目で恐怖の権化と化した怪物を見上げ、剣を振りかざして斬りかかる。
「――しまった!」
 走り出したロジャーの足が、躊躇して止まる。
 イビルジョーの巨体が文字通り壁となって猛然と目の前に迫ったのだ。次の瞬間、衝撃が襲った――。

 

アバター
2012/11/29 10:48
小鳥遊さん、コメント感謝です。

毎回の更新も半年を過ぎ、つねに熱血で書くわけにもいかず、毎回「ようし、書くかぁ~…」ぐらいのテンションなのですが、たまに勢いづいて筆が乗ることもあり、今回はちょっと多めに書けたので一度に2回載せましたw

街の描写は、やはり必要だと思ったので。
ハンターに厳しい街なので、滞在してるハンター達も肩身が狭いですよね。なおかつ、過去に嫌なことがあった住人にしたら、うっぷんを晴らすチャンスなので、こういう暴動も起こりうるわけです。

ロジャーの勝算は、彼が牢屋につかまった判断でもいえることです。必ずなんとかなる、と。
あえて投獄されたのも脱出手段が備わっていたからですし、モンスターと戦うにしても、死ぬために戦う勇者じゃないので、勝つこと=生き残ることを第一に考えます。そこがプロ、ハンターの考え方です。
なので、もしもかなわないと本当に悟っていたら、住民を逃がす手段を考えていたでしょうね。

とはいえ、普通に勝ってしまうと話が盛り上がらないので、ピンチも作りました。
どうぞ続きをお楽しみください^^
アバター
2012/11/28 23:51
あわわわわっ……ここで終わりですかっ?!
と思ったら、次があった! よかったぁ~~です^^

このモンスターがどれほどのものか、モンハンを知らない私にもヒシヒシと伝わってきて恐ろしいです。
モンスターそのものの描写もですが、城下の混乱ぶりをきちんと描写されている事でも伝わってきます。
ただ、そうは言っても「ロジャーなら無謀なことはしないハズ」思って読んでいました。
ちゃんと彼なりの勝算があっての「街を守る宣言」だと思ったんです。だって、ロジャーだからw
そうしたら、最後から4行目にちゃんと「勝つ自信があった」とあって、おぉ! と思ったのも束の間、やっぱり自信なんて単語を出すと起こってしまうのですね、思わぬアクシデントが;;
ということで、続きが気になるので読んできますっ。
アバター
2012/11/28 11:04
イカズチさん、コメント感謝です。

この話を書くために、ギルドバード装備で何回か3rdのジョーを狩ってきました。
スキルは、神おま「スタミナ5攻撃8」のランナーと攻撃力小発動です。
ジョーに対しては、強走薬があれば鬼人化しての貼りつきが有効なので、斬っては離れ、また腹下にもぐって斬って…の繰り返しです。
プレイすると緊張感があって楽しいのですが、これで見せ場を書くのがけっこう大変です^^;

街や村の防衛は、あまり直接のクエストではお目にかかれませんが(古龍戦以外)、
依頼書を見れば「村にティガが接近中、助けて!」みたいな内容が多いです。
何かを守る戦いというのはドラマとして書きやすいので、このシーンでもロジャーの活躍が書けると思ってやってみました。
(こっそり言うと、いきあたりばったりのアイデアなのですが、長期連載しているとやむを得ない事情です)
ロジャーのセリフは、最初はもっとヒーローっぽく「いくぞ!」とか言ってたんですが、あまりに善人過ぎるので却下しました。
100パーセント真っ白な英雄って、昔の漫画などには多かったですが、そういう人って、かえってうさんくさいですよね。
今の政治で言えば、「消費税と原発撤廃!」ていう政治家の公言と同じで。撤廃したあとどうするのよ、現実味がないよって思いませんか?^^;
まあそんな感じで、ロジャーをただの良い人には書きたくなかったので、「通すわけにはいかない」で、ぎりぎりでした。
アバター
2012/11/28 04:56
始まってしまいました。
しかもロジャーは双剣のみ。
双剣は連続攻撃が売りですから、一定時間で与えられるダメージは全武器種中最高です。
が、仰る通りリーチが無く、相手に突っ込んで行く『武器出し攻撃』以外では、ほぼ密着した状態でしか相手にダメージを与えられません。
しかもイビルジョーは密着した状態が一番危険。
本編でも何度かロジャーがかわしている踏み付け攻撃。
これを喰らうと致命傷にも成りかねず……。
私も何度、煮え湯を飲まされた事か。

モンスターが一般の生活圏内に現れると言う事は稀かもしれませんが、無い事ではありません。
ラオやシェンは城塞を突っ切ろうとしますし、クシャルダオラは文字通り『襲って』きます。
モンハン小説や漫画では村を守るハンターの活躍がしばしば描かれていますし。
今回のロジャーのように護るものを背に
「ここを通すわけにはいかない!」
男なら一度は言ってみたい台詞ですねぇ。



月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.