Nicotto Town



お父さん

閲覧注意!!
インターネットにあったものをそのまま書いています。
また、この作品には「グロテスク・ショック」な表現が含まれています。


 ミクミクの奴が自殺したと聞いた時、俺はアチャーッ、と思った。

 まずったな。死ぬとは思わなかったな。鬼倉(きくら)なんてごつい名字なのに意外に弱かったな。未来(みらい)なんて名前だけど男じゃないか。男のくせにあの程度のことで。ちょっとからかったくらいじゃないか。あんなものいじめには入らない。なでたくらいのもんだ。あの程度なら誰だってやってる。よくあることじゃないか。なのに死にやがるなんて。参ったな。俺のせいになっちまうんじゃないか。仲間の中じゃ俺が割と仕切ってたもんな。

 遺書は書いてやがんのかな。そん中に俺の名前なんて入ってねえだろうな。自殺する時にいじめた奴の名前残してる奴は多いもんな。死ぬならだれにも迷惑かけずにひっそり死ねってんだよ。わざわざ嫌がらせを残していきやがる。クソ野郎め。いや、俺じゃなくてタカシの名前のほうを書いてやがるかもしれないな。あいつも先頭を張ってミクミクをいじめてたもんな。どっちかというとあいつの方が俺よりひどいいじめをしてたよな。そうだ、俺よりひどかった。いやそもそも遺書なんて書いてないかもしれないな。ミクミクは気が弱かったからな。俺たちの名前を出す度胸もないかも。

 公園で首を吊っていたらしい。夜中に通行人が見つけて、病院に運ばれたけど助からなかったと。それで、今日の朝刊に載ったんだ。朝食食ってたらママが、

「鬼倉未来君って翔君のクラスの子よね」

 と言ってきたんだ。それで、日頃新聞なんて読まない俺もミクミクの自殺を知った訳だ。高校の名前も同じだし間違いなかった。

「いじめかしら。翔君はいじめの心当たりなんて、ないわよね」

 顔色をうかがうようにママは俺に聞いた。ちょっと俺はムカついた。なんだよその態度は。俺を疑ってやがんのかよ。

「知らないよ。今日は気分悪いから学校休む」

 俺は答えた。どうせ学校では騒ぎになってるだろうし、全校集会とかで校長のうっとうしい話があるかもしれない。今日行って得する事なんて何もないもんな。

「そ、そうね。同じクラスの子が死んじゃってショックなのは分かるわ。こんな時に無理して登校する必要ないわよね。学校にはママが電話しとくからね」

 ママは遠慮がちにうなずいた。

 朝飯を食い終わって自分の部屋に戻ったところで携帯にタカシからのメールが来た。

 『知ってるか。ミクミクが自殺したって。ちょっとヤバいかな』という内容だった。俺は『新聞読んだ。俺は今日学校休む。様子見だ。余計なことしゃべるなよ』と送る。

 5分くらいして返事が来た。

 『分かってる。でも他の奴らはしゃべるかもな。俺も今日は休む。メールはもうやめとこう』という内容だった。確かにメールはまずいかも。記録が残るからな。警察が調べたりするかもしれないもんな。ならそもそもメール送ってくんなよタカシの馬鹿が。

 学校から呼び出し食らわないかな。でも風邪とか体調不良とかってママが説明したんならムリヤリ呼び出しとかはないよな。でもいずれは学校行かないといけないもんな。担任の小山にいじめのこと聞かれるんだろうな。ハッ。自分も見てみぬふりしてやがってよ。担任のくせに見殺しにしたんだからあんたも同罪じゃないか。クラスの奴らもそうだ。

 でも奴らチクるかもな。何もかも俺のせいにしてペラペラしゃべりやがるかも。畜生。釘を刺しておきたいが、今メールしても記録が残っちまうしな。これまでのやり取りしたのも残ってるだろう。携帯に保存したメールを消したって、どうせ警察は携帯会社に問い合わせるんだろうな。刑事が聞きに来るのかな。それか警察官か。いやでもそこまではないかもな。いや、来るのかな。「鬼倉君をいじめてましたか」とか刑事に尋問されるのか。ああ、嫌だな。畜生。もしかしてタカシの奴が真っ先にしゃべるんじゃないだろうな。「大村翔太郎君がいじめのリーダーでした」って、きっと泣きながら言うんだ。いかにも反省してます、僕も被害者ですって顔をしてな。畜生。先に言ったもん勝ちかよ。

 考えているとジリジリしてくる。足の感覚が鈍くなったみたいで気持ち悪いし、イラついて何かを殴りたくなる。どうして俺がこんな思いをしなくちゃならないんだ。まったく、とんだ災難だ。

 まあ、でも、大したことには ならないよな。よくある話だもんな。俺のことがばれたって、まあ停学二週間とか一ヶ月とかそのくらいだろうな。未成年だし名前も出ないもんな。こんなことで人生台なしにさせられるなんてないよな。本当に、ちょっとしたことじゃねえか。誰でもやってるじゃんか。皆で机と椅子を隣の教室に隠したり、ちょっと人間サンドバッグごっこしただけじゃんか。パンツ脱がしてケツに画鋲刺したり根性焼きしただけじゃんか。素っ裸にして携帯で撮って、ネットに流しただけじゃんか。

 私服に着替え、ゲーム機で格闘ゲームをやり始めたが集中できなかった。やはり今後のことが気になってしまう。ミクミクの奴が勝手に自殺なんてしやがるからだ。考えてるとますます腹が立ってくる。あんなことくらいで死ぬなよ馬鹿が。なんでそんな弱え奴のために俺が被害受けなきゃならねえんだよ。やっぱ、遺書書いてやがるんだろうな。俺たちの名前をネチネチと書き残してやがるんだろうな。蛆虫(うじむし)が。

 グルグル同じことばかり考えてしまう。今のところ電話のベルは聞こえない。学校からの呼び出しはないみたいだ。

 今頃全校集会やってんのかな。校長がいかにも悲しそうな顔をして、「鬼倉君は真面目で明るい生徒でした」なんて言ってんのかな。ハッ。あんな根暗で弱々しい奴。だいたい自殺するくらいなら退学しろってんだよ。弱い奴が俺のまわりでさばんなってんだよ。クソッタレ。

 チャイムが鳴って俺はビクリとした。チャイムくらいで驚くなんて情けないけど、刑事が来たんじゃないかと思ったのだ。新聞記者……なんてことはないよな。遺書の中身なんてマスコミにもれたりしないよな。ママが出てくれるだろう。もう一度チャイムが鳴った。イラつかせられる。早く出ろよ、クソババア。ママがインターホンとしゃべる声が聞こえた。気になるが、ドアの向こうなのでママが何と言っているかは分からない。ちょっと困っているような感じだった。俺はゲームの音声を切り、身動きもしないでやり過ごすことにした。

 インターホンのでのやり取りは二分くらいだったと思う。少しして廊下を歩く足音が近ずき、ドアがノックされた。


今回はここまでです。
次回からグロイ表現が出てきます、ご注意ください^^




Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.