お父さん (2)
- カテゴリ:小説/詩
- 2012/12/04 20:20:50
グロ・閲覧注意!!
「翔君」
「何」
わざとそっけなく返す。誰だったの、と聞きたかったがストレート過ぎるので我慢した。
「今ね、鬼倉君のお父さんって方が来てね、翔君と話がしたいって言ってたの。ママは、翔君は体調が悪いからって断ったんだけど、どうしても話がしたいってしつこかったわよ」
まさか。俺は信じられなかった。ミクミクの親父が直接来るなんて。やっぱりあいつの遺書に俺の名前が入ってたのか。もしかして俺に仕返しするつもりなのか。息子の仇(かたき)とかなんとか言って。でもいきなり来るかよ。だいたい葬式もすんでないじゃないか。解剖とかもしないといけないかもしれないのに。事情聴取とか、マスコミの取材とかあるだろ、普通。なのに、なんでいきなり俺の家に来るんだよ。ゾワゾワ、と、不気味な感触が背中からふくらはぎまで下りていった。
「そ、それで、帰ったの」
俺の声は自然に震えてしまっていた。
「帰ったわよ。残念そうだったけど」
良かった。何だよ、気持ち悪いな。
「どんな感じだった。泣いてたとか」
「そういえば、別に……普通、だったわね。落ち着いた感じの声で。息子さん亡くなったっていうのにね。別人の悪戯だったかもしれないわね」
そうか。新聞記者とかかもしれないよな。でも、新聞記者がわざわざミクミクの親父を名乗ったりするかな。
「それで、翔君……。鬼倉君の自殺のことで、翔君、何か、知ってるのかな」
ドア越しだったが俺はママの顔が想像できた。こちらをうかがうような上目づかいで、ごまかしの愛想笑いを浮かべているのだ。畜生。クソババア。俺がいじめてたっていうのかよ。
「知らないよ」
俺は答えた。
「そう。そうよね。そうならいいんだけど」
ママの足音は去っていった。
また落ち着かない感じがぶり返して着た。ミクミクの親父かよ。本当だったら、何しに来たんだろうな。仕返しするつもりだったらもっと激しい怒鳴り合いとかになってるよな。ミクミクは遺書を残してなくて、手当たりしだいに聞きに回ってるのかな。俺はミクミクの親父のことなんてほとんど知らない。たぶんサラリーマンやってるんだとは思うけど。ミクミクの奴から父親の話を聞いたのは一度くらいかな。なんか怖い人だとかどうとか。別に親父に殴られてるとかそんな話じゃなかったと思うけど。その時は「俺より恐いのか」って、三十発くらい殴って間接を極めてやったな。あいつが親父の話をしたのはそれきりかな。
ああ、面倒臭え。なんでこんな細かいことまで考えなくちゃいけねえんだよ。なんで俺がこんなことで振り回されなきゃならねえんだよ。ゲームを再開しようとリモコンの音声ボタンを押しかけたとき、またチャイムが鳴った。何だよ。またミクミクの親父かよ。それとも今度は新聞記者か、刑事なのか。神経がビリビリしてくる。
足音。ママがインターホンと話しているようだ。足音が廊下を進み、俺の部屋の前を過ぎていった。玄関に向かってるみたいだ。玄関開けて応対するのか。親父は追い返したんならもう開けたりしないよな。もしかしてただの宅急便とかか。
俺の部屋から家の玄関までは十メートルくらいあるから、玄関のドアの開く音は聞こえなかった。話し声。俺は耳をすませる。ゴズン、と重いものが床に落ちる音がした。な、何だ、いきなり。荷物落としたのかよ。重かったのかな。ズズー、と、重いものを引きずる音。ママが荷物を押しているのか。床に傷がつくんじゃないか。いや、俺は正直なところ、別のことを考えていた。ママが客に殴り倒されて、引きずられてるんじゃないかって。映画とかじゃよくある話だ。いや、でも、現実にはまずないよな。考えすぎだよな。もし襲われたんだったら悲鳴とか聞こえてるよな。足音も、俺の部屋まで近づいてくるはずだよな。でもママの足音も戻ってこないのはなんでだ。話し声も聞こえない。
「ママーッ」と読んでみるのも恥ずかしい。ちょっと部屋から顔を出してみてみるか。そうも思ったが俺は身動きとれなかった。確かめるのが怖い気がしていた。どうしてこんなことになったんだ。昨日までは何ともなかったのに。なんで俺がこんな目に合わないといけないんだよ。
コンコン、と、割と近く出かたい音がした。びっくりして窓をみると、人影が窓ガラスを叩いているのだった。窓は薄い白のカーテンをかけているので相手の顔までは分からない。男……かな。窓のロックは掛けていたっけ。俺は急に心配になった。でも、身動きが取れない。心臓がドキドキして息苦しくなってくる。ママはどうしたんだろう。ママは……。
「翔太郎君」
窓の人影が声を出した。その声に俺は、体中の皮膚が、ぞわわっ、と来たのだ。大人の男の、穏やかな声で、猫なで声といってもいいくらいだった。それがすごく不気味だった。人影が動き、また、コンコン、と、窓が叩かれた。落ち着いた、余裕のある叩き方だった。
「大村翔太郎君、いるよね」
ヤバい。これはヤバい。見えない力に押されたみたいに俺は立ち上がっていた。逃げないと。俺はドアを開けて廊下へ飛び出した。右を見るとママが倒れていた。玄関の上がり口に、ママがうつぶせになっている。ピクリとも動かない。赤い。床にものすごい血が広がっていた。やっぱり殴られたんだ。いや、刺されたのか。切られたのか。ここからはママの髪が見えなかった。長い髪だったのに。おかしい。いや、まさか。俺は怖くて近寄ることでも出来ず、その場で目を凝らした。ママの首がなかった。信じられない。でも本当に見えない。首が下に曲がっているだけかも。いや、胴体はピッタリ床についているからそんな隙間はない。血がたくさん出ている。閉まったドアに血がついている。これって夢じゃないよな。それかママと何人かでグルになって俺をからかってるとか。今日は俺の誕生日だったか。いや、違う。
また、コンコン、と、窓が叩かれた。
「翔太郎君。君に見せたいものがあるんだ」
まだまだ続きます✡
感想とか待ってます^^