モンスターハンター 騎士の証明~44
- カテゴリ:自作小説
- 2012/12/07 12:23:54
【命の意義】
「民はみな、城へと避難したか」
「はっ。城内に入りきらない者達は、やむをえず、庭園に天幕を張ってしのがせております」
「何か温かいものでもふるまってやってくれ。すべての者にいきわたるようにな」
「急ぎ、そのようにいたします」
玉座に腰かけた老王と宰相のやりとりを、傍らでジルは定めるように見つめていた。
宰相によって反逆罪の罪を着せかけられた身ではあるが、それを知るものは宰相本人とジル、隣に立つリトル、そしてそれにかかわったごく少数の者達だけである。寝間着に毛皮のガウンを羽織った国王は、そのことを知らないようであった。
(もしや、陛下はまったくこの件についてご存じないのか?)
ジルが見る限り、国王の表情は普段と変わらないようだった。かつてガル国だった頃から善政を敷き、情深き王として誰からも尊敬を集めていた。それはエルドラ公国として成立したあとも変わらなかったように思う。
(異変は前からあったはずだ。それなのに、私は……)
軍人としての気質が仇になった。ジルは胸の内で戦慄した。国王の命令が国のためになるという己の考えに疑問を抱かなかった。もし、あのギルドナイト達が介入してこなければ、自分は何も知らないまま国家の尖兵として命を落としていただろう。
宰相はジルの方を必要以上に見ようとしなかった。まるで、今までのことなどなかったかのようにふるまっている。
城下の住民を城内に避難させるべしという、ジルの部下リトルの進言を最初に聞き入れ、王へ申し出たのはこの男だ。イビルジョー出現の報告があった時点では、王は寝所で眠っていた。
ジルはわからなくなった。国民をないがしろにする犯罪を裏でしているかと思えば、こうして民を気づかう様子も見せる。そもそも国民あっての国家なのだから、執政者が彼らからの信頼を買うために、見せかけでも温情を示すことはよくあることだが。
「今夜は冷えるな」
国王が、小柄な背を丸めるようにしてしわぶいた。年齢のせいか、身体の調子が悪いと聞いている。宰相がうなずいた。
「ここは私におまかせを。陛下はおやすみくださいませ」
「……うむ。ときに、アラムよ。あの毛皮の外套はどうした? そなたもあれを着るとよいだろう」
「ありがとう存じます。ですが、あの外套は処分いたしました。陛下のお気に召さぬようでしたので」
「そうか。それは悪いことをした」
「いいえ」
国王は肘掛けに両手をついて立ち上がると、侍従に身体を支えられるようにして謁見の間を出て行った。宰相がジルを振り向き、皮肉に笑った。まわりには誰もいなかった。
「何か言いたそうだな?」
「それは……」
「あのギルドナイトめ。あやつが言わなければ、陛下にはただの珍しい獣の皮とだけ知られておったものを」
ロジャーを指していると気づき、ジルは息を呑んだ。
「陛下は、本当にモンスターがお嫌いなのですね」
しれっとしてリトルが言うと、宰相は「ふん」と鼻を鳴らした。
「当たり前だ。モンスターによって我が国は滅ぼされたのだ。恨まぬほうがおかしいわ」
「その国王に一番近きあなたが、モンスターの産む宝に魅せられるとは皮肉なものですね」
ジルはリトルの前に出て宰相を睨んだ。
「口のきき方に気をつけたまえ。貴君の命など、私の命令でいかにでもできるのだぞ、ジル将軍」
「ならば、なぜそうしないのです。私が邪魔なら、いつでも消してしまえたでしょうに」
挑むようなジルのまなざしを、宰相は笑みを消して受けとめた。思いのほか真摯な目に、ジルはどきりとした。考えてみれば、この宰相とて最初からあくどい男ではなかったのだ。それがいつの頃からか、目つきが険しくなり、言葉やふるまいに棘が目立つようになった。
「この国は、一枚岩ではない。そういうことです」
ジルの考えをくんだリトルが、眼鏡を中指の先で押し上げて言った。
「ジル将軍は、今やこの国になくてはならない存在になっています。無闇に葬ったとあれば、国民の不信と不満は爆発するでしょうね」
だから今まで、ジルには謹慎というぬるい処断しかできなかったのか。リトルの深い洞察に、ジルは目を見張った。ただの我欲ではなく国益を重視したからこそ、宰相はジルを殺せなかったに違いない。
宰相は、どこか疲れたように目を逸らした。額の生え際には、白髪がことさら目立って見える。険をなくした目元は、くたびれた皺が寄っていた。
「モンスターは危険な存在だ。だが、奴らの産む利益は計り知れないほど大きい」
宰相がつぶやいた。ジルではなく、主のいない玉座を見つめていた。
「我が国はもっと豊かに、強くあらねばならん。すべては、この国の未来のために。そうではないかね?」
宰相が振り返った。途端、ジルの中で何かが切れる。
「やはり、あなたがっ――!」
気がつけば、激情のままにぶちまけていた。
「民をモンスターの餌食にして得た未来に、何の意味があるというのですか! 家族を失った者達の慟哭を、あなたは、その耳で聞いたことがないのですか!」
「将軍! 落ち着いて!」
「放せリトル!」
止めようとしたリトルの腕を乱暴に振り払い、ジルは鉄面皮を貫く宰相に怒鳴った。
「今この時も、ロジャー殿は……あの勇敢な騎士は、本来なら無関係の我々のために、たったひとりで、命を懸けてあの怪物と戦っているのです! それなのに、あなたは……あなたはっ――!」
ジルの両目から熱い涙があふれていた。今もモンスター討伐に駆り出された兵士達の悲鳴と断末魔が耳から離れてくれない。
「将軍……」
後ろからジルをおさえるリトルの目にも涙がにじんでいた。
「貴君にもいずれわかる。我々のやり方が正しかったとな」
宰相は無情に言い捨てると、背を向けた。
立ち去るその背に、ジルはなおも叫んだ。
「人間が生きているのは、モンスターに食われるためではない!!」
扉は、無情に閉まった。それを呆然と見つめ、やがてジルは力尽きたように膝をつく。
「リトル……私は、いったい、なんなんだ。なんのためにここにいる!」
「将軍……」
「私は……私には何もできないのか……!」
どこからか、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。落とした肩に、そっとリトルが手を載せる。
「ありますとも」
ジルは泣き腫らした目で見上げた。リトルの小鳥のような愛らしい顔立ちが、春の日差しのように微笑む。
「今は、信じましょう。あの誇り高き騎士を……ロジャー殿を」
「リトル……お前」
「あなたが信じるものを、僕も信じます」
リトルに見つめられ、ジルは力強くうなずき返した。
振り上げた武器がイビルジョーの腹部の鱗に弾かれ、ロジャーの肘が一瞬伸びきった。
「くっ!」
体制が崩れてよろめいた瞬間、 獲物を踏みつぶさんとイビルジョーが片足を高く上げる。
足が振り下ろされる寸前、ロジャーは範囲外へ逃れようと身をひるがえした。しかし間に合わず、力任せの足踏みによる振動で立っていた地面から弾かれる。
「うあっ!」
今度は受け身が取れず、背中から落ちた。強く背を打って息が詰まったところへ、すかさず黒い巨体が飛びかかる。
(――喰われる!)
勝ち誇ったようなイビルジョーのうなり声が頭上へ降りてくる。ロジャーの目が見開かれ、背筋が凍った。
ドオン。
大地が割れるかのごとき轟音が、夜のしじまに響き渡った。
そうですか、そうおっしゃって頂ければ書いて良かったです。ありがとうございます^^
やっぱり誰かが言ってあげないと、ひとりで戦うロジャーのつらさが表しにくいんですよ。
それと、宰相(敵側)のカメラ視点が存在しないので、そちらにより近いジル達を出さないと、敵方の考えが読者に伝わらないんです。
小説を書く上での決まりとして、「視点を持たせるキャラは最初から決めてそれ以上増やさない」というのが基本です。
どうしても、状況の大きさを説明するために、一度きり限定でモブキャラ(主人公でないその他大勢)に視点を持たせることもありますが。
それと、敵と主人公との心理を描くドラマでは、敵もまた主人公なので敵視点での描写もありうるのですが、それでも「絶対に明かしてはいけないキャラの視点は書かない」という鉄則があります。
なので、そういった説明のためにもジルの描写は必要でした。
宰相については、もう少し先ですべて明らかになります。
どうしても年内には終わりそうにないですが^^;
じっくりお付き合い頂ければ幸いです。よろしくお願いします^^
>「今この時も、ロジャー殿は……あの勇敢な騎士は(以下略)」
これは胸に迫りました~~><
いや、もう、ホントに……孤軍奮闘ロジャーさんを応援していた私は、闘いのその後も気にって仕方なかったのですが、この台詞を読ませて頂けて、なんだか嬉しかったです。
良かったね、ロジャー。ジル将軍が貴方のためにこんなに熱い涙を流しているよ……ってw
宰相については、まだ何とも言えません。
彼が言うように、いずれ私にも分かるのでしょうか。彼らのやり方が正しかった、と。
核心部分を小出しにされるのは、良い意味で先が気になって楽しみです。
それにしても、また、こんな場面で終わってしまうとは~~~と思ったら、次もあって良かったです^^
あー、ちょっと強引な場面転換でしたかね?すみません^^;
この次の回で戦いの決着がつくのと、それから先の展開でジルの出番がなくなるので、ここで城内(敵となっている宰相側)の描写を入れないと、話がわからなくなるかと思ったんですよ。
それとどうしても、イカズチさんの涙腺を刺激した「ロジャーがたった一人で戦ってるんじゃ~!かわいそうだろうが!」という視点とセリフを入れたかったんですよね。
これがあると、ロジャーの現在の孤立無援さが強調されるのでは、と。
しかし、ここで泣いてもらえるとは。筆者としてはうれしいですね。ニヤニヤしてしまいます。
どうぞ、職場でこっそり泣いちゃってください…なんて、アハハw
フランダースの犬、みなしごハッチ、あしたのジョーはお涙頂戴の3本柱ですね~(ちょっと違うか)
宰相の性格は、裏の裏のそのまた裏、ですね。キャラのブレはないと思います。
彼も理由があるんですよ。
そもそも、善政を敷いていた王が、悪い大臣をそのまま見過ごすでしょうか?まあ、こいつがずるい奴で王を出し抜いていた、という設定もありですが。
完全な理由は、もう少し先の方で明かされます。たぶんそれで、すべてに納得がいくかな…納得してくれないと私の未熟ですね。
ただ悪い奴にしてしまうと、人間の闇みたいな部分が浅くなると思ったので、複雑にしています。
うまく伝えられるかどうか、ちょっと心配になってきましたが、なんとか頑張ります。
後半の展開ですが、限りなくゲームに近い描写で、でも小説のオリジナルを出すつもりです。
なんだかこうして毎回連載をアップしていると、小説を書くというより文章でマンガを描いている気持ちになってきます。
この回の終わり方も、連載少年マンガっぽいですね、今見るとww
「切れ味が!」
の後はどうなったんやぁ!
と思ったのは私だけではないはず……。
しかし読み進むにつれジル将軍の言葉に目頭が……。
特に
「あの勇敢な騎士は、本来なら無関係の我々のために、たったひとりで、命を懸けてあの怪物と戦っているのです! それなのに、あなたは」
コレ、ヤバいって。
こ~言うのダメなんだって、私。
今だにフランダースの犬で号泣する男に反則でしょ、この台詞は。
今(夜中の一時)は良いけど、明日、仕事中に思い出しちゃったらどうするんですかァ。
それにしても……です。
宰相も根っからの悪人ではない?
富国強兵の為と正当化した理由があるのかも知れませんが、これでは……。
まだ二転三転するのでしょうか?
今だ真理が見えず……。
と思ったらロジャーの状況はますますヤバくなってるじゃないですか!
切れ味が鈍って刃が弾かれた所に『踏み付け』『捕食』まともに喰らえば確実に『ネコタク行きコンボ』でしょう。
だから私は常に心眼を付けているのです。
……まぁそれでも時々喰われますが。
まず最初にアップしたときは、宰相が黒だと証明する描写がなかったので、ジルが思い込みで糾弾するような場面になってしまってました。お前ひとりで勘違いしてるんじゃないよ、っていう様子で^^;
なのでいい加減、宰相もここで開き直ってます。
リトルは童顔の美青年にしました。童顔といえば、ロジャーもなのですが、彼の方が凛々しい顔立ちというイメージです。
リトルは、ほんわかした印象だけど、目は鋭い理知的な顔ですね。字数と流れの関係で、詳しい容姿の描写ができなかったのですが…わずかでも感じ取ってもらえるような言葉は選んで書いてます。
テンションをあげるために、映画音楽のメタルアレンジなどを聴いていました。
これは文句なし、とてもカッコいいのでやる気も出ます^^
パイレーツ・オブ・カリビアン
http://www.youtube.com/watch?v=9ogTMzGeVqc
ロード・オブ・ザ・リング
http://www.youtube.com/watch?v=9GRIflyG8to
モンハン音楽のギターアレンジといえば、ニコ動でサウンド担当の人達がギターで弾いていた「英雄の証」がカッコよかったな。
クラシックの曲調が多いですが、モンハンはメタルも合うんですよね。