Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~47

【思わぬ邂逅・1】

(あ~、なんかいい匂いがする……。それに頭がなんだか気持ちいい……)
 幸せそうに鼻をひくつかせ、ボルトはうっすらと目を覚ました。
「あ、気がついた!」
(え――?!)
 鈴の音のような声に、ボルトはぎょっとして目を見開いた。見上げた先には、リオレウスの軽鎧を着た清楚な美少女が、花のような笑顔でこちらを見下ろしている。
 まばたきをして、ボルトは状況を飲み込んだ。瞬間的に心臓が跳ね上がる。
(はうわ! ひ、ひざまくら~ッ!)
 パチパチと薪が爆ぜる音が聞こえる。しかしボルトの耳の奥では、それを打ち消すくらいドキドキと心臓が高鳴っていた。
「なんやおっさん、今頃気がついたんか。あと少し遅かったら、ここに置いてけぼりするとこやったで」
 伝法な娘の声に顔を向けると、たき火の向こうでレックス一式に身を包んだ少女が不敵に笑う。その隣では、ナルガの装束に身を包んだ一匹の黒猫(メラルー)が、肉焼器にセットした大振りの肉をせっせと焼いていた。
(ここは天国か?)
 両手で肉をセットしたハンドルを持ち、伸びあがるようにして炭火にあぶった肉を回す猫の仕草ににんまりしながら、ボルトはのんきに思った。そこへ、少々イラついた声が飛んできた。
「こら、おっさん! いつまで相方の膝借りとるんや。さっさと起きんかい!」
「うおっ! こ、こりゃ失礼!」
 ギルドナイトとしての自覚で、ボルトは跳ねるように飛び起きた。膝を貸していた娘が、おかしそうに吹き出す。
「よかった、元気そうね」
「礼を言う。なんか、助けられたみたいだな」
 屈託なくボルトは笑った。隠密を常とするギルドナイトが一般ハンターに助けられるなど本来あってはならないのだが、何事も例外はあるものだ。どうやら、あの後知らずに眠りに落ちていたらしい。そこを彼女達が引き上げてくれたようだ。
 ディアブロス亜種との死闘の後、うっかりボルトはディアブロスの巣である洞窟へ落ちたのだが、今いる場所はその地上部分にあたる所だった。ボルトが狩ったディアブロスが、ショウコの背後に黒々と横たわっている。
「ショウコの千里眼で、この土地一帯のモンスターの居場所を調べて回ってたんですけど、そこへ戦闘反応があったから、誰かが襲われてるんじゃないかって思って」
 助けるために向かったら、ボルトが洞窟の底で倒れていた、とガンナーの少女、ユッカは微笑んだ。ショウコは不本意だとばかりに鼻を鳴らした。
「ウチはほっとけゆうのに、お人よしもええとこやで。しかし、おっさん引き上げるのはほんまにしんどかったわ」
「お肉、焼けましたニャ~」
 ショウコのオトモのコハルが、焼けあがったこんがり肉を火から外した。可愛らしい両手で持ってくると、ボルトに差し出す。
「えっ、俺にくれるの?」
「腹へっとるやろ?」
 ショウコが小首を傾げてにやりとした。
「ウチのコハルの焼いた肉はうまいで。もとはキッチンアイルーやったからなあ」
 キッチンアイルーとは、ハンターが個人で雇う料理番のアイルーである。最初は腕が未熟で、食べたハンターの体調をおかしくすることも多いが、技術が身に着けば人間の料理人より美味に作ることもできるのだ。
(うまそう~!)
 香ばしく焼けた脂の香りが鼻腔をくすぐり、ボルトの腹が盛大に鳴った。ユッカ達が噴き出したが、構わずボルトはコハルから肉を受け取っていた。
「いっただっきま~す!」
 ギルドナイトはみだりに饗応を受けるべからず、という規則は頭からふっとんでいた。両手で熱々の骨を持ち、大口を開けて思いきりかぶりつく。パリッとした皮が歯の間で弾け、甘い肉汁とともに、ほろりと肉が口の中でほどけた。
「うんまあ~い!」
 子供のように叫んで、ボルトは夢中で肉をむさぼった。その無邪気な様子に、ユッカ達の笑顔もほころぶ。
 美しい娘達と可愛らしい猫、大好物の肉。これだけで、殺伐とした荒野もボルトにとっては天国だった。
(うー、やっぱりユッカたんは可愛いなあ)
 ほほえましそうにこちらを見守るユッカと目が合い、またもデレっと鼻の下が伸びる。
 ボルトも数々の有名女性ハンターを見てきたが、ユッカはその誰とも雰囲気が違った。
 こちらをまっすぐに見つめる黒い瞳には意志の強さが宿り、背筋を伸ばした姿は凛とした気迫のようなものが漂っている。化粧っ気のない肌は白く、荒れたところもない。栗色の髪は襟足で短く切っているが、決して女性らしさを損なうものではなかった。
 加えて、装備も独特だった。彼女の装備するスカラーSは、本来ハンターズギルドの受付嬢が身に着けるものである。ただし大きな功績を残したハンターには、特別に複製を装備することが許されるのだ。
 防御力は希少素材のおかげで並みの鎧より高いが、お世辞にも戦闘向きの装備とはいえない。それをあえて組み合わせるところに、彼女のこだわりが感じられた。攻撃的なレウス装備の見た目と、女性らしさを追求したベレー帽とフリルのある短めのスカートが、猛々しさと優美さを演出している。ロジャーが「良い趣味だ」と言ったのもうなずけた。
「その装備、珍しいやろ? ほんまはシルバーソル一式がこの子の本気装備なんや。けどウチと組む時は、支援に回る言うてその組み合わせ。ウチなんて見てみい、このごっつい装備」
 ユッカを見つめるボルトに、ショウコが笑って自分を指した。ティガレックスの素材で出来たレックス一式は、女性用に作られていても豪快な見た目である。しかし、その派手な色彩と相まって、ショウコのさばさばした気風もうかがえた。美貌ではややユッカに劣るところがあるが、彼女もまた、人が振り向くような存在感と魅力があった。
 ふたりの持つ独特の雰囲気は、やはり上位ハンターとしての自信と貫録から来るものだろう。町や村の娘にはない迫力が、美しさに別の色を醸し出している。
 内心でニヤニヤしながら、しかしギルドナイトの体面もあって、表向きボルトは威厳を保ちつつ咳ばらいをした。
「いや、装備を見れば、そいつがどういう狩りをするのかわかる。ユッカた……ユッカは後方支援向きだし、ショウコは飛竜と前衛で戦うんだから、そいつで決まりだろ。しかし、シルバーソルをそろえるとは、さすがだなあ」
「ありがとうございます」
 謙虚にユッカが頭を下げる。正座した膝の上にそろえた両手も奥ゆかしい。ついでに、スカートからのぞくむき出しの白い膝を見て、猛烈にボルトは後悔した。
(ああ~っ、なんで慌てて飛び起きたりしたんだ! 俺のバカバカバカ!)
「ところで、あの……ロジャーさんは?」
 ボルトが肉を食べ終えたところで、遠慮がちにユッカが尋ねてきた。口のまわりの脂を手の甲で拭い、ボルトは目を上向けた。聞かれるまですっかり忘れていた。
「ああ、あいつは今、別行動だ。こっちの仕事は終わったし、どこかで合流しないと」
「そうなんですか……」
 ユッカはショウコと顔を見合わせた。ボルトは食べた骨を地面に置いた。
「何か、気になることがあるのか?」
「少し前、街の方で大型モンスターが出現した気配があったんや」
 やや険しい面持ちでショウコが言った。
「ウチの千里眼でもわかる、なんやおぞましい気配やった。それが、ついさっき消えてもうたんや。さっきまで戦闘反応があったから、おそらく……」
「誰かが戦って倒した。そういうことですよね?」
 と、ユッカがボルトを見た。

 

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2012/12/26 11:21
イカズチさん、コメント感謝です。

年齢は21歳の二人なんですが、美少女という表記です^^;
昔ストⅡのCDドラマで、春麗が「21歳なのに自称美少女かよ」というツッコミを受けていましたが、見た目が老けてなければぎりぎり許される表現なんだなあと思い、今回使わせて頂きました。
実際、ユッカもショウコもすれたところがなくて、若々しいですから違和感はないと思います。

ハンマー使いに耳栓は必須ですよね。あと高級耳栓が発動するのはファメルやアカムですが、手に入れやすい装備でしかも強い、千里眼付きという高性能でティガに決まりです。
亜種の装備にしなかったのは、見た目が怖いからです(笑)
あの腕みたいなデザイン、色、どうも使う気になれない。足装備はまじまじと見てしまいますが。

私もルーレットではもっとハンマー使ってみたいですが、なかなか出ませんね。
あと、モンスターによっては近接の相性が悪かったりするので、その場合は今度からルーレット選択し直しを要求したいなぁ…と思いました^^;
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2012/12/25 23:54
おお、久々のユッカ&ショウコ。
美少女二人組はさぞや絵になりますでしょうねぇ。
ここにトゥルーとランファが加われば、まさにハンティングハーレム状態……って、はっ、しまった狩りパーティーは四人までだった!

ユッカの装備もさることながら、ショウコのレックス装備はハンマー使いにはうってつけですよね。
『よくぞ選択してくれた』と拍手喝采です。
なんせ揃えるだけでスキル『耳栓』が発動。
溜めながら間合いを詰め、大きな一撃を見舞うハンマーにとって咆哮は最大のお邪魔と言っても良いでしょう。
レックスSになればこれに『ランナー』が加わりスタミナの減りを抑えられます。
さらにレックスUになれば『溜め短縮』が発動。
楽にⅢまで溜められる上にスロット8の優れもの。
私もハンマー装備の時は愛用してます。
でもなぜかルーレットでハンマーが出ないんですよね~。
これもセンサー?
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2012/12/24 12:41
ボルトのアホの子ぶりが、いかんなく発揮されているかもしれない回です。
しかし書いてて実に楽しかった。ww
もっと暴走した部分(ユッカた~んと叫んでユッカに抱きつき、ショウコから死ぬほどどつかれる等)もありましたが、モデルとなるご本人を考慮して控えさせていただきました。
さすがにキャラ崩壊にもなりかねないですし^^;
会話を削りたくなかったので、2回にまたがりました。字数の制約を気にせず、のびのび書くのも良い気分転換になりました^^



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