モンスターハンター 騎士の証明~48
- カテゴリ:自作小説
- 2012/12/24 11:18:25
【思わぬ邂逅・2】
心当たりはないかと問いかけるユッカのまなざしだった。ボルトはどう答えようか迷った。憶測でしかないが、心当たりはひとつしかなかった。
「……ボルトさん?」
「ああ、大丈夫だ」
ボルトは勇気づけるように微笑んだ。
「きっと戦った奴は、よほどの腕だろうな。たぶん、ロジャーじゃないか?」
「やっぱり!」
まだ予想の範疇でしかないというのに。ユッカが瞳を輝かせたので、ボルトは苦笑した。
「はっきり決まったわけじゃない。他の凄腕かもしれないぞ」
「でも、ロジャーさんならやり遂げる気がします。わたしもいつか、あんな風になりたいな」
「なあ、もしかして君、ギルドナイトになりたいのか?」
もしそうなら、やめておけと言うつもりだった。しかし、ユッカの目は真剣そのものだった。
「はい。それが今の私の、目標です」
「なんでだ? ナイトの俺が言うのもなんだが、普通のハンターでいる方が、よっぽど楽だぞ」
「前から知りたかったんやけど」
ショウコが薪を火につぎ足しながら言った。
「なんでそんなにナイトにこだわるん? ウチもおっさんと同じ気持ちや。今まで通り、好きにモンスター狩っとったらええやん」
するとユッカは膝に目を落とし、どこか苦い微笑を浮かべて黙りこんだ。しばらく、たき火が燃える音だけが響いていた。
「初めてロジャーさんを見たときにね。ああ、この人はわたしなんだ、って思ったの」
唐突なユッカの告白だった。しかしボルトは驚かず、黙って言葉を待った。
「前にショウコが、わたしのこと優等生だって言ったことあるでしょ? あれ、図星だったから、わたしも本気で怒ったことあったよね」
「ああ、あったなあ。まさかあんたがウチに殴りかかってくるとは思わへんかったけど」
ショウコが照れくさそうに笑う。ユッカも苦笑した。
「でも、あれはうれしかったんだ。わたしのこと、本当に見てくれる人がいたんだって知って。もしあのままショウコに会ってなかったら、今頃もっと苦しんでたと思う」
ふたりの間に何があったかは、ボルトでも察することができた。彼女達が互いに命を預け、名だたる上位ハンターとして活躍できるのも、培った強い信頼関係があってこそだろう。
「でも、それがナイトとどう関係するん?」
「いろいろあるのよ」
ユッカはまた、恥ずかしそうに笑った。
「わたしね、昔はミーラルさんのこと、大っ嫌いだったの」
またも話題が飛んだが、ユッカの大っ嫌いという言い方に、ボルトはぎょっとした。
「ミーラルっていえば、あの『ユクモの英雄』グロムの嫁さんだろ? グロムと組んでた片手剣の名手」
「英雄じゃなくて、護り手ですよ。今じゃ、そう呼んでくれる人も多いですけど」
口元に拳を当てて、ユッカは笑った。
「今は、ミーラルさんがお兄ちゃんと一緒になってくれてよかったと思ってます。でも昔は、ミーラルさんのこと認める気になれなかった」
「なんで?」
ショウコが慮るように、そっと尋ねる。ユッカは「だって」と、強くにらみ返す。
「ミーラルさんったら、すぐにお兄ちゃんのこと殴るし蹴るしバカって怒鳴るし! あの人のせいで毎日お兄ちゃんケガしてるんだよ? 嫌いよ嫌い、大っ嫌い!」
まくしたてるユッカの剣幕に、ボルト達はあっけにとられて彼女を見つめた。するとユッカは、一転して朗らかに笑ってみせた。
「でも、そうさせるお兄ちゃんも悪いんだけどね。だけど、小さい頃はお兄ちゃんをいじめる人だって思ってた。だから、お兄ちゃんの前で言っちゃったんだ。さっきのこと」
「ミーラルはんが大っ嫌いって?」
ショウコが尋ねる。こくんとユッカはうなずいた。
「そしたらね、お兄ちゃん、わたしのことぶったの。拳骨で思いきり、ごつんって。わたし、思いきり泣いちゃった」
まだ小さかったユッカが、当時肌身離さず持ち歩いていたアイルーのぬいぐるみを抱いた姿で向こう5軒まで聞こえる大声で泣きわめき、近所で大騒ぎになったことや、兄妹ゲンカとはいえ、妹を殴ったグロムの罪は重く、父親からは同じように拳骨をくらい、母親からは一週間の店での重労働を命じられたことを、ユッカは笑い交じりに話した。
「でもお兄ちゃんは、絶対に謝らなかったの。わたし、それがすごくショックで、しばらく口もきけなかった。ぶたれたことより、そのくらいミーラルさんが好きなんだってことがわかっちゃったから」
「ユッカ……」
ショウコが唇を噛んだ。ユッカは軽くかぶりを振った。
「お兄ちゃんはあの時、初めてわたしを拒絶したんだ、って。すごく寂しかった。――今はそう言葉にできるけど、あの時はよくわからなくて。どうすれば、お兄ちゃんがわたしのこと見てくれるのか、そればかり考えてた。だって3人で遊んでも、すぐにお兄ちゃんとミーラルさんだけで夢中になっちゃうんだもの。……わたし、いつも取り残されてた」
「……」
「だけどもう、お兄ちゃんの前でミーラルさんが嫌いって言えなかった。あの時わたしをぶった時のお兄ちゃん、すごく悲しそうだったから。だからわたし、もうわがままは言わないって決めたの。自分の感情は出さないようにしよう、って」
「それで、あんた……ずっとええ子でいようとしてたんか」
ショウコの声が潤んでいた。ユッカはあくまで、笑って答えた。
「うん。お父さんとお母さんは、お兄ちゃんよりわたしの方に期待してたから、それに応えなきゃならなかったし。お兄ちゃんの分までわたしが頑張らないとって、気負ってたんだ」
「そうか、それで……ロジャーに憧れたのか。健気だなぁ」
ボルトもつられて涙目になっていた。ぐすっと鼻を鳴らし、しきりにうなずく。
「確かにあいつは、気持ちの制御ってところは完璧だからな。俺なんてすぐに熱くなっちまう。すごいなって俺でも思うよ」
「わたしもそう思います」
まるで自分のことのように、ユッカは誇らしげにうなずいた。
「ロジャーさんと初めて会った時、ああ、この人になりたいって思ったんです。自分の気持ちを暴れさせて、誰かを傷つけたりしない、そんな完璧な人に……」
うまく言えないけど、とユッカは苦く笑った。
「ギルドナイトになれば、わたしもロジャーさんのように強くなれる。そう、思ったんです」
「そうか……」
ボルトは、ユッカが持つ強さの理由がわかった気がした。彼女は、驚くほど一途なのだ。こうと決めたら、ただひたすら前に向かって突き進む。他の可能性など考えもしていない。哀しいくらい無垢で、不器用な生き方だった。
「やっぱ似とるわ」
ショウコがくすりと笑う。きょとんとするユッカに、指を指して言った。
「あんたとグロムはん。アホなくらい猪突猛進のとこ、そっくりやわ」
「え、ええっ?」
不本意だったらしく、目を丸くするユッカに、ショウコはけらけらと笑った。
「グロムはんもなんだかんだ言って、結局ミーラルはん射止めてるやろ? ここに美女(ウチ)がいるにも関わらず。見上げた根性やで」
「ショウコ……」
ユッカがどこか複雑な視線を投げかけた。ショウコは、ふっと微笑んだ。
「――好きなら好きで、ええやん」
「えっ?」
「あんたがナイトになりたい理由はわかった。けど、女ならもっと単純でええんとちゃう?」
「わ、わたしは……」
ユッカの頬がみるみる赤く染まった。ショウコは何も言うなと肩を叩いた。
「素直になりぃ。その方が、ウチもあんたのこと応援できるで」
こちらこそ、原案者であり原作者でもあるイカズチさんには心からお礼申し上げます。
狩りに小説に、いろいろお力添え感謝しております。毎回の集会や頂くコメント、とても楽しいです^^
なにとぞ来年もよろしくお願いいたします。
ここでようやく、ユッカとロジャーの共通点が明かされました。
動機が微妙に違うけど、目指すところは同じです。自分が感情を暴発させやすいことを自覚しているので、それを正そうという思い。強い心を持ちたい一心がこうなったという。
イカズチさんの書いた章で、ショウコがユッカに性格を指摘したシーンがここに生きてます。
あの場面があったおかげで、ユッカの人となりが掘り下げられました。感謝です^^
ショウコの存在は大きいですね。彼女がいてくれなかったら、今頃ぐれてたかもしれないです。
ロジャーも仲間がいなければ、どこかで壊れていたかも。ひとりじゃないことが救われてますね。
ボルトへのショウコの「おっさん」呼ばわりですが、すみません、これへのツッコミは次回に書く予定なんですよ^^;
本当は「思わぬ邂逅・3」で、ようやくボルトが我に返り「おっさん言うな! 俺はまだ27歳だあ~!」と怒るという…。本来なら、目が覚めておっさん呼ばわりされた時点で怒鳴るはずだったんですが、ユッカの美貌とコハルの愛らしさに忘れていたようです。
しかし、この2回分で書く力が尽きたために、来週へ持ち越しになりました。
あ、ご本人が傷ついていらっしゃる!w
すみません、ほんとに次回でボルトが怒りますから。どうかそれまでお待ちください…あはは(笑)
2012年はあと少しありますが、本年はこの『騎士の証明』と週末狩りのお蔭で有意義な時間を多く持てた気がします。
蒼雪さんには感謝の言葉もありません。
勿論、いつも一緒に狩りさせて頂いてますトゥさん蘭さんにも、心の狩り師匠でありますGRさんにも。
楽しい一年だったなぁ。
そうかぁ……。
他人を護るために完璧を、最強を目指すロジャー。
周囲の期待と兄への憧れから良い子に育ったユッカ。
なるほど動機は同じですね。
思えばショウコと言うキャラを出したのは、単にグロムとミーラルの鞘当てに過ぎなかったのですが……。
彼女が居なかったらユッカは鋭く尖り過ぎる針のように孤高となっていつか折れてしまったかもしれません。
同じ意味でロジャーにもブルースやボルトの存在が大きいのかもしれませんね。
ところでショウコさんや。
確かにボルトは年齢的にも外見的にも『おっさん』かもしらんが、面と向かって呼ぶのはやめておくれ。
スルーしてるけど結構傷ついてるぞ。
とか言いながら、年末にこの話の続き(思いがけない邂逅・3。つまり、まだこの3人の会話が続きます)を書くかもしれませんが。
物語はまだまだ続きますが、とりあえず年内のごあいさつを。
予想はしていましたが、やっぱり相当長くなりました。
一応、完結は来年の三月くらいまでと考えております。一週間に一度のペースでアップという流れが自分に合っていることもあり、これからもこの調子で上げていこうかと思います。
もう半年以上も書き続けたことになりますが、こうして長く連載していると、書けば書くほど自分の欠点が見えてきて嫌になり、このまま失踪してしまおうかと冗談交じりに考えたこともありますww
しかし、いつも拙作を読んでくださり、細やかなコメントをくださるイカズチさんとトゥさん、今ちょっとおられないですけどGRさん、ランファのモデルでよき狩り友の蘭さん、そしてモンハンをご存じないのに楽しんで読んでくださる小鳥遊さん。
みなさんのコメントに支えられ、励まされ、なんとかここまで書くことができました。
この場を借りて心からお礼申し上げます。ありがとうございます。
皆さまに少しでも楽しんで読んで頂けるよう、これからも精進いたします。
引き続き、来年も「騎士の証明」を、どうぞよろしくお願いいたします^^