モンスターハンター 騎士の証明~49
- カテゴリ:自作小説
- 2012/12/31 10:30:42
【炎の中を飛ぶ鳥】
「うん……。ありがとう」
けれどユッカは、あまり嬉しそうではなかった。むしろショウコを気遣うように微笑んで、彼方の地平線へ目を向ける。
「明るくなってきたわ。そろそろ行かなくちゃ」
ショウコは何か言いたげに口を開きかけたが、ばつが悪そうに短めの髪をかきあげる。
「……せやな。連続狩猟や、早めに出んとな」
「――ああ、そうだ」
ボルトもユッカの複雑な横顔に何を言ったものか迷っていたが、ふいに重要なことを思い出した。
「開始する前に、俺にもモンスターの配置を教えてくれないか? ショウコの千里眼で全部把握してるんだろ?」
「ああ、かまへんで。ユッカ、地図」
「わかった」
ユッカが地図を出して広げた。ボルトは彼女の記したモンスターの印を、素早く自分の地図に書き加えた。ジルが狩猟依頼してきたモンスターの種類と数はぴたりと一致した。
すでにこの地で縄張りが築かれているらしく、どのモンスターもある範囲からほとんど動こうとしていない。順番に狩っていけば、指定の日数で達成できそうだった。
「よし。ありがとな。これで俺もお前達に同行できる」
「えっ」
「なんや、おっさんついてくるんか?」
きょとんとこちらを見る二人に、ボルトはえへんと胸を張った。
「当然だ。お前達も知っての通り、大連続狩猟はギルドの監視と支援が不可欠だ。不正があってはならないし、万が一に備えて救援の者が待機するのが義務付けられている。ここにはギルドと契約している現地のアイルー族もいないし、何かあったら誰もお前達を助けられないからな」
「それで、ギルドナイトであるボルトさんがわたし達のお目付け役というわけですね」
「そういうこと。直接手助けはできないが、万が一のことがあったらすぐに駆けつけるからな」
ボルトがにっこりすると、ショウコがげんなりして肩を落とした。
「これからおっさんに見守られながら狩りするんか……やる気そげるわ」
「なぁにい~?!」
ボルトが歯をむき出しにすると、べーっとショウコは舌を出してつっぱねた。ユッカが、まあまあと双方をなだめる。
「ボルトさんがいてくれて心強いわ。それに、ランマルもきっと戻ってきてくれる。大丈夫よ」
「ふむう……」
ショウコは、まだちらちらとこちらを見ている。かわいくねえ、とボルトは内心むっとした。女性全般は好みだが、こういうはねっ返りは苦手かもしれない。
「さあ、いきましょう。ショウコ、ボルトさん、よろしくお願いします」
ユッカは立ち上がり、王牙弩【野雷】を背負って丁寧におじぎした。ショウコもたき火を消して、暴風槌【裏常闇】を手にする。
「ほいじゃ、ウチらの邪魔せんといてな、おっさん!」
「だから、おっさん言うな! 俺はまだ27歳だ!」
ついにボルトが肩をいからせると、ショウコはぷっと吹き出した。
「あ~、そら悪いことしたな。じゃあ、改めてよろしくな、おっちゃん!」
「変わってねえだろ!」
「ちゃん付けや。若くなったやろ?」
くすくす笑いながら、ショウコはユッカの背を押すようにきびすを返す。その後をコハルが振り返りながらついていく。
「むしろ格下げだろ! 年上に対する敬意はねえのか!――って、おい待てコラ!」
ボルトも慌ただしくガンランス【ソルバイトバースト】を担ぎ上げ、怒鳴りながら後を追った。
負けられない、絶対に。
ユッカは目的地へ足早に歩きながら、背負ったボウガンの革ベルトをぎゅっと握りしめた。
昨日一日歩き回って、さすがに頭も冷えた。数年ぶりにロジャーの顔を見て浮かれきっていた気持ちが、今は鉄のように固くなっている。
自分は何のために、この狩りに赴くのだろう。勢い込んで依頼を受けた時には、考えもしていなかった。自分の選択が、様々なものや人を巻き込んでいるということを。
ショウコは、深く探らずに狩りについてきてくれた。ユッカが傷つくような深みまで詮索しない。そうと気づけば、すぐに態度を改めて距離を保ってくれる。豪快な言動に反して、とても繊細な気遣いのできる娘だった。
得難い親友。大切な相棒。そんな彼女を、自分のわがままに付き合わせているのだと思うと、罪悪感で足がすくみそうになる。
だが、ここですべてを投げ出したら、ショウコだけではなくロジャーの期待も裏切ることになる。そして、これから狩ろうとしているモンスターの生命への侮辱でもあった。
何度も迷い、鈍る決断を食い止めるために、ロジャーの面影を思い浮かべる。
(あなたはきっと迷わない。どんな時でも、自分の信じた道を進むんでしょう。だからわたしも、もう立ち止まりません)
あなたがわたしを信じてくれた気持ちを、わたしも信じる。
ギルドナイトが動くということは、そこに人々の苦難があるからだ。ならばこの狩りには大義がある。けれどユッカは、正義より何より、誰かのために戦いたいと思った。
ロジャーのために命を懸けようと思った。
肩に背負うジンオウガのボウガンが、ずしりと重みを帯びた気がした。まだ十四・五歳の少女だった頃、兄グロムと幼なじみのミーラル、そして恩人のオトモであったランマルとともに、初めて狩ったジンオウガの素材が使われた銃だ。
ボウガンの名の通り、ライト・ヘビィともに普通は銃身に弓が合体した形状をしているが、この王牙弩だけは弓の機構が内部に格納されている。そのため、碧色の甲殻で覆われた細身の銃身は、全ボウガンの中でも屈指の機能美を誇る。
これは思い出の銃であり、ユッカの覚悟が込められているものだった。
ハンターを始めた頃は、命を刈り取るという行為が、ただの恐怖と嫌悪でしかなかった。空腹にあえいでも、食料となる丸鳥も狩ることができなかったくらいだ。
そんな甘えを吹き飛ばし、本当にハンターとして生きる決意をくれたのが、恩人とランマル、そのきっかけとなったモンスターのジンオウガである。
多くのハンターは、自力で狩った思い入れのあるモンスターの素材を、生涯大事に使う。ユッカにとってもまた、ジンオウガは特別な存在だった。
命を狩るということは、狩ったもの達とともに生きるということだ。彼らは文字通り自分の一部となって、自分を守ってくれている。
――たとえ翼が焼け落ちても、目指す星に向かってわたしは飛ぼう。
ユッカはボウガンのベルトをきつく握りしめ、毅然と面を上げた。
それが、すべてに報いることができるただひとつの方法だった。
必ず勝って、生きて帰ること。そのことが。
お褒めのお言葉ありがとうございます。
生きたキャラというのは、頭の中で勝手に漫才もしてしまうので、ついリアルに自分がふきだしてしまうことが多いです。構想中はまわりに誰かいると大変です。変な人に見えてしまいます(笑)
ショウコとボルトは漫才コンビですね。深く考えずに、自然と出た掛け合いです。
このふたりの会話を放っておくと延々どつき漫才になります。
ユッカの一途さは、のちの展開の伏線でもあります。彼女の人間的成長を描きたいので、とにかく一生懸命の様子を書かなければならなかった。
応援したくなるキャラとは、これまたうれしいお言葉です。ありがとうございます^^
しかもいつもとは。それはきっと、蒼雪がいっぱいいっぱいの状態で書いてるからでしょう(苦笑)
でも余裕しゃくしゃくで書いた文章って、なぜか他人の心に響かないんですよね。
あ、ボルトはおそらく、永遠にショウコから「おっちゃん」と呼ばれ続けるでしょう…ダメ?w
書いていてセリフがぽぽーーんと勝手に出てくるキャラって、いるんでしょうねw
炎の中を飛ぶ鳥、たとえ翼が焼け落ちても目指す星に向かって飛ぼう、とは……。
ユッカは、本当に一途なんですね。
彼女のそばにショウコが居てくれて、本当に良かったです。
ユッカだからみえること、ショウコだからみえること、ってきっとあると思うんです。
今回の狩りを終えたときには、ユッカはまたひとつ成長しているのかなぁ~。
いつも思うのですが、蒼雪さんの物語は、登場人物を思わず応援してあげたくなります。
だから思わず「ショウコさん、ボルトを『おっちゃん』呼びからも格上げしてあげて~~」
なんてコトも言ってみたくなったりして(笑)。
なんて冗談はさておき、読み手をそういう気持ちにさせる書き方ができるって、
素晴らしいことだと思っています。
続きも楽しみにしていますね~~^^
いつもお忙しい中時間を割いていただき、ありがとうございます。
実は大晦日に更新してます(笑)
今年最初の更新は今週になります。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
ボルトとショウコはすごく相性が良いですね。会話も自然と弾みました。
苦労しないでセリフが出るので助かっています。
かといって、このふたりが恋人同士になるかということは全く考えておりませんが^^;
ユッカのジンオウガ好きは、初めて苦労して倒したモンスターということで、なんだろう、初恋の人に近いような?いや、初めて飼ったペットのような…言葉にできない思い入れの現れでもあります。
武器を最高にまで高めたのも、その思い入れがあるからだ、ということです。
迅雷の称号を得るほどなので、数は相当狩っているために逆鱗はうまく出てくれたのでしょうww
もっとも、ガンナーは弾代、調合分素材費用など非常に金がかかるので、ユッカはあまり裕福ではない設定ですね。
上位なので(G級か?)相当稼ぐのですが、防具にも気を使っているために、手元にあまりお金がないという。
ショウコと組まない期間に、こっそり火山などで採掘して小銭を稼いでいるんでしょうね。
もし機会がありましたら、イカズチさんの筆でその小話読んでみたいですね^^
新年にふさわしくボケとツッコミを効かせた楽しい回を有難うございました。
ボルトとショウコはこう言う会話が良く似合うコンビですねぇ。
立ち位置で言うと二人ともボケなのですが脇にユッカが居てくれるので安心して(?)ボケ倒しています。
二人の性格を把握して自分のモノにしている蒼雪さんならではのシーンではないかと感心しきり。
ユッカの決意は武器にも表れているんですね。
王牙弩【野雷】かぁ……。
生産でも強化でも獲得できるモノですが、生産に『碧玉』が、強化に『逆鱗』が三つも必要なレアウエポン。
作るのに二の足を踏みます。
しかし、ユッカは勇気の証明で霊弓ユクモ【破軍】や大鬼ヶ島も使ってますから結構な武器持ちですねぇ。
一流になる為には獲物も一流でなければならないのはどの道でも同じですから。
でも結構、裏では苦労してんだろうなぁ。
必死にユクモで木をはぎ取ったり、火山で塊を採掘したり。
機会があればそんなお話も書きたい読みたいですねぇ。
ボルトはお笑い担当なので…どんなにシリアス展開でも、何かやってくれる男です。
狙ってるわけじゃなくて、キャラが勝手に動いてるんですね。だから、ディア戦で見せた男前も、このユーモアあるふるまいも、全部彼の持ち味です。
セリフ考えるの楽で助かります。
肉の描写は、ティガ戦の後に「あ~肉くいてぇ」を伏線にしています。
ちなみにこのセリフは、書いていた当時の私の本心です。
今3Gをプレイ中なのですが、料理ネコに作ってもらう食材がようやく整ってきて、変な味噌汁みたいなスープから解放されました(笑)
2Gでは、キッチンアイルーが作る料理は食べきれないほどのごちそうが出てきたものですが、3Gはさすがにそれはないかな?
作ってる様子も3Gはカットされてるので、それはそれでさみしい…。2Gプレイ中は、料理デモを速攻カットしてましたけど^^;
オウガはP3でセンターモンスターなので、どれもカッコいい武器ですが、ヘビィは笑いましたww
あれってバイクの本体なんですよね。
おそらく、カミナリ=バリバリ→罵理罵理全開仏血義理、というノリなのでしょう。
そのせいか、アニメ「ぎりぎりアイルー村2」では、ゲスト出演した時にヤンキー口調でしゃべってましたw
年末に急いで書いちゃったもので、雑な部分があり申し訳ございません。
字数も大幅に余っていたので、段落下げなど修正して少し文章を足してみました。
やっぱり落ち着いて取り組まないといかんなぁ…。
会話を聞いているだけで楽しいです。
「おっさん」から「おっちゃん」……う~ん若くなっているのかな。そう聞こえないなあw
47話の冒頭でも思ったんですけれど、ロジャーたちのシリアスパートからの落差が素敵でした。
がくがくっとしてしまうのがいっそ爽快で。
メリハリのお手本のようですね。
勿論ただ軽口をたたいているだけではなくて、大変な連続狩猟を控えた緊張感もありますし。
でもやっぱり、このメンバーなら明るくしているのが似合うと思います。腹が減っては~、とばかりにお肉を焼いたり食べたりして。
元キッチンアイルーコハルのお料理、食べてみたいです♥
狩ったモンスターと共に生きる、というユッカの考え方にも共感できました。
それにしてもジンオウガのライトボウガンは格好良いですよね。
ヘビィは尖り過ぎていて走り出しそうですけれどw