モンスターハンター 騎士の証明~51
- カテゴリ:自作小説
- 2013/01/19 09:45:55
【分かたれた双璧】
太陽が中天に座す下、泥沼を湛える狭いサバンナで、ショウコは両手で握ったハンマー【裏常闇】を豪快に振り下ろした。
「うりゃあああ!」
対峙するのは、土砂竜ボルボロス。水辺のある乾燥地帯に棲み、大型昆虫を常食とするが、縄張り意識が大変に強く、凶暴で知られるモンスターだ。全身から分泌する特殊な体液で泥をまとい、体表の乾燥を防ぐ生態がある。この体表の泥は強力な粘着性があり、体に付着すると身動きが取れなくなるほどだ。
獰猛な性格に違わず、突進による攻撃を得意とする。だがショウコは地を蹴ってこちらに突進してくる土色の巨体を寸前でかわし、気合いとともに手にしたハンマーを振り下ろした。暗い翠色の猛禽の頭を模した豪槌が、うなりをあげてボルボロスの脳天を襲う。
強烈な打撃が額部分に決まり、王冠のように発達した頭殻が衝撃で外れ飛んだ。
急激に軽くなった頭部に身体のバランスを崩し、ボルボロスは悲鳴をあげて派手に横転した。じたばたと後ろ足を蹴り上げているが、うまく立ち上がれないでいる。どうやらめまいを起こしたようだ。
「今やぁ!」
ここぞとばかりにショウコはもがくボルボロスの頭部めがけてハンマーを打ち下ろす。岩を打つような手応えがあったが、怯まず3度叩きつける。
グアアアッ!
めまいから立ち直ったボルボロスが勢いよく起き上がり、後ろ足を踏みならして咆哮した。頭部にある鼻孔からふたつ湯気が噴き出している。激怒した証拠だ。
周囲の者を怯ませる咆哮であったが、ティガレックスの防具の恩恵で、ショウコの耳には届かなかった。すかさずボルボロスの斜め前に陣取り、ハンマーを顔面に向かって勢いよく振り下ろした――が。
「外したっ!」
音高くショウコは舌打ちをした。ごくわずか、拳一個分の隙間が敵との間に空いていた。踏みこむ見切りを誤ったのだ。ハンマーの頭は虚しく地面を叩き、衝撃で土埃が乾いた空気に舞う。
重たいハンマーの頭が土砂にめり込み、引き上げようとショウコは柄を握る腕に力を込めた。しかしその隙をモンスターは見逃さず、すかさず巨体をひねって長い尾をしならせる。
「やばっ――!」
尾による薙ぎ払いの一撃を覚悟して、思わずショウコは歯を食いしばった。が、甲殻に覆われた尾がショウコを打つ直前、ボルボロスのこめかみにまばゆい火花が飛び散る。死角からの思わぬ痛撃に、ボルボロスが硬直してのけぞった。
正確無比な狙撃が続けて3発、急所である尾の付け根を穿つと、ボルボロス全身を弛緩させ、どっと地面に倒れた。
「ユッカ!」
振り返ったショウコの左方向に、ライトボウガン【野雷】を構えたユッカの姿があった。ユッカはボルボロスが動かなくなったことを確認すると、構えていた銃身を下ろした。
「いや~、助かったわ。ほんま、ありがとな」
ハンマーを担ぎ直し、ショウコはこちらに歩いてくるユッカに微笑みかけた。が、ユッカは炎天下だというのに、どこか顔色が悪かった。
「……どないしたん?」
「……ショウコ、調子悪い?」
「はあ?」
どきりとした。ユッカは、やや上目遣いで、案じるようにこちらを見つめている。ショウコはとっさに、強張りかけた顔を笑顔に形作った。
「そんなわけないやん。さっき外したんは、たまたまやで」
「いつものショウコなら、あんなミスしないよ。相手、ほとんど止まってたのに踏み込みを間違うなんて。ハンマー初心者じゃないんだから」
「そ、それは……だから、たまたまや言うてるやろ?」
思わずショウコがにらむと、ユッカも強い目で見返してきた。
「嘘。腰が退けてたもの。ハンマーは専門外だけど、わたしにもわかったよ。ショウコ、怯えてる」
「な、何言うて……」
「――ねえ、気づいてる?」
ふいにユッカは目を逸らした。視線の先を追いかけると、先ほどユッカがとどめをさしたボルボロスが泥の中に横たわっている。
「なんや?」
「この子達、――強いよ。強すぎる」
「それはウチも思てたけど。それがウチと何の関係があるん?」
「このモンスター達、きっとG級だわ」
「え?」
ショウコは驚いてユッカを見た。ユッカは厳しいまなざしでボルボロスを見つめている。
「さっき倒したハプルボッカとディアブロス亜種、すごく体力があった。普通、同じ地域に牽制しあっているモンスターは、縄張り争いで力を消耗しているものよ。だから、立て続けに現れても、2日ぐらいでひとりで狩猟できてしまうこともある。一流ハンターなら、ね」
ユッカはショウコを振り返った。何を言われるか敏感に気づいて、ショウコはきゅっと唇を噛みしめた。
「ショウコ、怯えてるんだよ」
「……そんなことあらへん」
「ううん。あのディアブロス亜種に攻撃を受けてから、ショウコ、おかしくなった。攻撃がいつもより消極的だもの。それに、攻撃を仕掛けちゃいけないタイミングで攻撃しようとしてた。――危ないよ」
「んなわけ、ないやんか。さっきはうまいことやったやろ? ボルボロスの頭殻、剥いでやったやん」
ショウコは笑ってはぐらかそうとした。怒るのは逆に正しいと認めることになる。けれど、長年付き添ってきた相棒の目はごまかされなかった。
「でも、さっき外したじゃない」
「う、それは……。だから、たまたまやて! 次はうまくやるよって」
「……」
ユッカは黙り込んでしまった。ショウコは内心で舌打ちしたい気分だった。ユッカは思いつめると、言葉が極端に少なくなる。しかも、その原因は彼女自身にあると思いこむため、余計に扱いが難しい。
「なあ、ユッカ……ウチ、大丈夫やから。ま、確かにあの黒ディアの体当たりはきつかったで。ウチもとっておきの秘薬つこうてしもうたし。けど、死ぬかと思ったんは今に始まったことやないで」
言い募りながら、ショウコもユッカが黙る原因を痛いほど察していた。ユッカの言う通りなのだ。ロジャー達から依頼を受け、対峙したモンスターが異常に強すぎる。そのせいで、予想以上に道具や体力の消耗が激しかったのである。
ショウコ達も一流ハンターであるが、未だ上位のままであった。ハンターにはおおまかに3つのランク付けがあり、下位、上位、G級となっている。G級認定されるハンターはごくわずかで、それも、英雄なみの活躍をした者に限られる。
(ギルドが無茶な依頼をしてくるんは、いつものことやけど……。今回はいろいろと急すぎたからな。あのギルドナイト達も、ここまで事情を把握してはおらんかったということかい)
ショウコはこっそり背後を振り返ったが、誰の姿もなかった。いざとなったら救援に来ると言っていたギルドナイトのボルトがどこかで待機しているはずだが、完全に気配を消しているようで、ショウコの千里眼をもってしても、まったく見つけることができない。
(正直しんどいのは間違いない……。言われたんは腹立つけど、ほんまのことやし。あのディアの攻撃、心が折れそうになったわ。ユッカがおらへんかったら、今頃死んでたかもしれん)
「……ごめんね、ショウコ」
「うん?」
沈んだ面持ちでユッカが言った。ああ、また相棒の悪い癖が出た。ショウコは苛立つ気持ちを懸命に抑えなければならなかった。
「ショウコが一番危険な立ち位置なのに、わたし、うまく援護できなくて……。ディアブロス戦でショウコが危なかった時、焦ってて」
あはは、ブルースとボルトはしょっちゅうケンカしてそうですね。でも殴りあうと死ぬかもしれないから、口論だけで終わりそうです。ボルトが口で負けてそうな気が?w
ロジャーはそこまでぶつかり合う相手がいないから、本気のケンカはしたことがないでしょう。
でも彼がキレると怖いのは、前の回のジョー戦でちょっと触れていますね。
この回はこのまま出すかどうか悩んだんですが、作品自体が蒼雪の練習用といいますか、ふだん書いてないことを書いてみようと思いまして、こうなりました。
なので、爽快な展開を予想されておりましたら、皆さまには面白くなかったかもしれません。
十代の子供たちには楽しくないだろうな~と思いつつ、でもモンハンの年齢規定は15歳以上だからこれでいいのだ、と(笑)
テンプレ通りに当たり障りなく書くことはいつでもできる。
ユッカとショウコが力を合わせて順調に勝ちました、という展開とかです。
でも、この状況下なら、絶対ケンカすると思ったんですよww
お互い年齢が同じですし、若いですし、本音で付き合ってる友達でもありますから。
この回については後悔はありません。むしろ、彼女たちの本質に踏み込んでいると自負しておりますし、楽しく書けました。
ユッカはずっと良い子キャラだったので、どこかでそれを壊したかったというか。
私個人が、完全な優等生キャラが好きじゃないんで、優等生をする理由を書いてみたかったようです。
インフルAのフル装備とのこと、大丈夫でしょうか。まだ辛そうですね。
作品は逃げませんから、読むのはいつでも構いませんよ^^;
ゆっくり休んで、身体治してください。どうぞお大事にです。
どんなに仲が良くても、愛し合っていても喧嘩しない夫婦はないと申しまして。
まぁ男女の差はあるのでしょうが、人間は他の存在が思い通りにならないと大なり小なり不快を感じる生き物です。
この二人のようにハンターとして長期間行動を共にする間柄で喧嘩が無い方がおかしい。
多分ブルース・ボルトのコンビもマジなどつき合いを何度もやっている事でしょう。
ロジャーとは?
彼がマジになったら二人ともタコ殴りになって終わりそうですが。
さらに言うと。
某ドキュメント作家に言わせると『人間は怒った時にこそ本音が出る。だから私は相手を怒らせてからインタビューする』だそうです。
逆に言うと怒ったシーンにこそキャラの本音がリアルに描け、受け止められる場面(チャンス)ではないでしょうか?
その意味でも今後の展開に期待します。
う~ん、でも他の掲示板の通り、今『インフルA装備』でして。
このマイナススキル、きついわ。
体力が……。
次の回はじっくり拝読させて頂いてコメントをさせて下さい。
え、誤字?!
あ~、ほんとだ。見落としていましたw
ご指摘感謝です。あとでちゃんと直します!
ご感想とご意見、大変参考になっております。
この回のキャラの動きは、ユッカ達の個性が今までで一番動いて強調されたと、自分でも思います。
そのために、どうしてもユッカの意固地で甘えた性格や、ショウコの根のまっすぐさ(良くも悪くも)が際立っており、読んでくださる方にとっては、見たくない一面であったかもしれません。
ご指摘の通り、ユッカは相手を尊重しているようで、そのくせ我を通すわがままな所があり、自分でもそれをわかっているから、なおのこともどかしく思っています。それが彼女の焦り。
ショウコは、親友がどう自分を振り回そうと「別にいいやん」と、現状を受け入れているので、むしろ相手がウジウジするとイラっとしてしまうんですね。
加えて今現在の厳しい状況が、たとえば「食料が少なくなった雪山の避難小屋」みたいに互いを追い詰めている。それがここで爆発した感じです。
ちなみにこれらは頭で考えたのでなく、こいつらならこういう状況下でこうする、と思ったからです。
みんなで仲良くハツラツと狩りをするのがゲームのコンセプトですが、もはやこの作品はゲームの再現ではなく、蒼雪の一種オリジナル小説と化しております。
なので、既存のモンハン小説だったらこんな展開はないだろうと思いつつも、キャラが動くにまかせました。
拙作を辛抱強くお読みいただいている皆さまには、感謝で一杯です。
ユッカの気づいてほしいこと…いろいろ。
ううむ、そこに小鳥遊さんの読みたい部分が隠されている気が。
ちょっとそれ、いくつか教えて欲しいのですがww
などと、コメントを拝見してハッとする所もあり、次の展開を練り直すきっかけになりました。
重ねてありがとうございます^^
コハルがあまり出番がないので、慰め役として出てもらいました。
蒼雪も落ち込んだときは飼い犬に慰めてもらいますが、もふもふではありません。
その点、ペット商品の猫グッズは「もふもふ」という言葉の多いこと…憧れます。癒されますよね。
猫派が多い理由が、なんとなくわかったようです(笑)
7行目に誤字があるかと思われます>< (誤)正確 (正)性格
さて、本題ですが、今回のお話。
ユッカはどこまでもユッカらしく、また、ショウコもどこまでもショウコらしかった、というのが感想です。
すべてを背負い込みたがるユッカの悪い癖。
ユッカへの友情から苛立ちを感じてしまうショウコ。
今回の厳しい条件下での狩りに対する不安との向き合い方にも、ユッカとショウコそれぞれな感じが出ていますね。
ユッカは『自分がショウコを巻き込んだ』という負い目があるので、狩りでの不安においても『ショウコに何かあったら……』というのが大きいように思います。
一方、ヘンに気を遣って表面上を完璧に取り繕うということがないショウコの正直さ(彼女の美点です^^)は、今回は些細な喧嘩のきっかけとなってしまいました。
ユッカには、いろいろと気付いてほしい事もありますが、この狩りを終えて、彼女がどう成長するのか楽しみです。
ユッカを追いかけていったショウコも、頑張れ~~と思っています。
コハルにゃんは、癒しの存在でしたね♪
ユッカもショウコも、まだまだ若いんですもの^^
彼女たちの成長ぶりを応援しながら見守っていくのが私の楽しみです。
繊細かつふてぶてしい根性が、もの書きには必須……と私もメモしておきます(笑)
ご感想は、こちらでも、次の回でも、ご自由にお願いしますです。
最初に書いたときは、ボツにしようとした内容でした。
ユッカとショウコが些細なことでケンカしているという…。
キャラクターがぶれるのではないかと思ったら、やっぱりやめようかとも思いましたが、一晩たって読み返したら、「これでいいかも?」と考え直し、手直しして掲載に至りました。
読まれてみて、もし気に食わない部分がありましたら、ご指摘くださると幸いです。
…もっと作者として自信を持ってお出しできればいいんですが、どうも最近は万人受けを考えすぎている意識があり…これも反省材料のひとつではあります。
自分が本当に気に入って書けば、どんな内容、キャラでも評価に値するものができるんだろうなとも思いますが。
ものを書くというのは、繊細かつふてぶてしい根性が必要なんだなと、最近とみに思う次第です。