Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~52

【分かたれた双璧・承前】

「危ないんはユッカも同じやろ? ウチの援護だけで、どんだけ弾つこてることか。しかもあんだけの敵や。な、あんただけが気にする必要ないって」
「でも……!」
 ユッカは顔を上げなかった。ショウコを巻き込んでしまった引け目があるせいだ。ギルドを――ロジャー達を信頼して、いつもの上位クラスの依頼だと信じて受けたことが、まさか、装備や実力以上の戦いを強いられるとは思ってもみなかっただろう。
(こればかりは、ギルドが悪いとしか言いようがない。けど、この子自分のせいにしたがるからなあ)
 落ち着け、落ち着け。ショウコは深呼吸する。焦りと不信は、命懸けの狩りには絶対禁物だ。
 だが残った道具を手探りで確認して、ショウコは絶望的になった。ポーチの中には、回復薬が3つ、回復Gは1つ。閃光玉は2つ。武器の硬度を保つ砥石は10個。罠の類はない。このエルドラ国に来る以前のギルドの依頼で使ってしまったからだ。薬を調合しようにも、この近辺には薬草も生えていない。
「正直、きっついなぁ……」
 思わず口に出てしまっていた。しまったと気づいた時は、もう遅かった。
 ユッカが、絶望的な顔でこちらを見つめていた。
「あ、嘘や嘘! 今のナシ!」
「……やっぱり、そうなんだ」
 ユッカは悲痛な顔をあげ、自分のポーチを探った。
「これ、使って」
「なっ、自分の薬やんか。あかん、そいつはユッカが持っとき!」
 差し出された5つの回復薬Gの小瓶を見て、ショウコは声を張り上げていた。だが、ユッカは頑として手を引っこめようとしなかった。
「だめ! ショウコに何かあったらいけないわ。お願い、使って」
「なんや、回避ならウチかて自信あるで! 大丈夫や言うとるやんか! それはあんたが使い!」
「そんなこと言って、ショウコの方がぼろぼろじゃない! 一番前で戦ってるショウコがわたしより傷ついてるんだよ、見過ごせるわけないじゃない」
「この――」
 カッとなって、ショウコは怒鳴りかけた。このわからずや、と。だが、頭上から急に飛来した巨大な翼がふたりに影を落とす。ズンと着地した衝撃で巻き起こされた風圧に、怒鳴り声がかき消された。
「――ティガレックス亜種!?」
 巨体を挟んだ向こう側でユッカが悲鳴をあげた。その声に応えるかのように、見上げんばかりの浅黒い巨竜が大きく胸を反らす。
 グアオオオオオッ!
 音圧で一瞬景色が歪んで見えた。耳を塞ぐ間もなく、ユッカとショウコの身体が音の衝撃で吹っ飛ばされる。
「ユッカ……」
 高級耳栓の効果で鼓膜は生きていたが、その備えのないユッカはどうなっただろう。ショウコはかすむ目を振りしぼって、巨竜の向こう側にうつぶせで倒れているユッカを見た。
(ああ……ウチのせいや)
 ユッカは倒れたまま動かない。息はあるようだが、音圧の打撃が大きかったらしく、立ち上がれないでいた。その手元には、割れた薬瓶が散乱している。こぼれた薬液がじわじわと地面に浸み込んでいた。
(ユッカぁ……ごめん、ごめんな)
 おそらくユッカの回復薬はあれが全部だったのだろう。耳は大丈夫だろうか。あれだけの咆哮をまともに喰らえば鼓膜が破裂してもおかしくない。
 さっき、ケンカなんてしなければ。ショウコの目頭が灼けるように熱くなった。
 素直に受け取っていれば、あとで自分がユッカに薬を使うこともできたのに。
「アホや……ウチはほんまに、アホや」
 乾いた地面に両手を打ちつけて、ショウコはむせび泣いた。すると、視界の隅で動くものがいた。ユッカだった。
「ユッカ……?」
 よろめきながら立ち上がるユッカが、いまだ地面に伏したままのショウコを見て、わずかに微笑んだ。まるで、勇気づけるように。
「あんた、何を――?」
「来なさいッ!」
 ユッカの声が変だ。よく見れば右の頬に血が流れている。耳だ。右の鼓膜をやられたのだ。ユッカが叫んだのは、ショウコではなくティガレックスだった。傷だらけの身体で果敢にもライトボウガンを構え、挑発するように相手の頭蓋へ連発する。
 もとより好戦的なティガレックスは、誘いに応じるように首を巡らせて咆哮した。足を踏みかえてユッカに狙いを定めると、翼膜のついた両腕とたくましい後足で猛然と地面を蹴る。
「あかん、ユッカああ!」
 ショウコは叫んだ。だがユッカは身を翻すと、どこにそんな力が残っていたのか、全力で走り始めたのである。――ショウコを置いて。
「ユッカ、このどアホオッ!!」
 ショウコもよろめきながら立ち上がり、全身で怒鳴った。悔しさのあまり、地団駄まで踏んだ。そこへ、ようやく体力が戻って復帰したメラルーのコハルが地面からもこもこと姿を現した。先のディアブロス戦で必死にショウコ達を援護していたものの、モンスターの尾による痛打で致命傷を負い、一匹だけ地中へ逃亡していたのである。モンスターの一種であるアイルーやメラルーは、地中で休息を取ることで傷ついた身体を治せるためだ。
「ショウコはん、どないして……」
「アホコハル! アホ、アホ、どアホ! なんでもっと早うこんのや!」
「堪忍してニャ~」
 泣きながら拳を振り上げるショウコに、コハルも両手で頭を抱えて萎縮していた。その姿にさすがにショウコも冷静になり、ごめんと弱々しい声で謝った。
「……八つ当たりしてごめんな。あんたは悪くないのに」
「そんなことあらしまへん。ウチも至らないよってに……。ごめんニャさい……」
「……うっ」
 ショウコはがくりと膝をつくと、うなだれる黒猫を力一杯抱きしめた。ふかふかの毛皮が、溢れる涙を吸い取ってくれる。
「ショウコはん……」
「うぅ、わああ~!」
 肩を震わせて、ショウコは激しく嗚咽した。今までコハルを抱きしめたことなどなかったが、この時ばかりは、そのぬくもりがどうしようもなく愛しかった。
 ずっと心細かった。ユッカに指摘されるまでもない。対峙するモンスター達のあまりの強大さに、心が挫かれそうになっていたのだ。
(この狩りに賭けたあんたの覚悟はわかる。それでも、難しいなら諦めるちゅう選択肢もあったやんか)
 薬の残りが少なくなっても、ユッカは依頼放棄しようとしなかった。それどころか、自分を囮にしてモンスターを遠ざけてくれた。おそらく、ショウコが薬を使う時間を稼ごうとしたのだろう。重傷を負って動きが鈍ったハンターが、薬を飲もうとした隙に瞬殺されるなど、よくある話だ。
 もしユッカがモンスターを引きつけてくれなかったら、自分はあっさりと轟竜の餌食になっていただろう。
(あんたひとりで奴を斃そうって顔だったで)
 ユッカの見せた微笑がまぶたの裏に甦り、ショウコは拳をきつく握りしめた。
(あんたはそういう子や。この狩りに不安なんは、お互い一緒やったのに。ウチが暴発したせいで、あんた、耳が……)
「……ショウコはん?」
 蒼白になった主の顔を見上げ、コハルが不安そうな声を出した。いたいけな視線に気づいて、ショウコは無理に笑顔を作った。
「大丈夫や。こういうピンチこそ、相方のウチがしっかりせんとな!」
 ぐいと手の甲で涙をきつく拭い、ショウコは顔を上げた。
「コハル、あんたも手伝ってや。ユッカをおっかけるんや!」
「はいニャ!」
 ショウコはコハルにうなずくと、ティガレックス亜種が走り抜けていった方向へ猛然と駆けだした。
「絶対死んだらあかんで! ユッカ!」

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2013/02/06 11:35
トゥさん、コメント感謝です。

ああよかった、ちょっと自信を失いかけていたので安心しましたw
おもしろいとのお言葉、ありがとうございます。本当に励みになります。
最近「面白さってどこからやってくるのだろう…」と、遠い目で考える日が多くてですね。
おもしろさって、「つい読んでしまう」とこから来てると思うのですが。ただ、ドキドキわくわくするだけじゃなくて。
文章を面倒がらずに飛ばさずに、そしてあとでまた読み返してもらえるような。
そんな作品を書きたいと常々願って努力しております。
そして、そういう内容を書くには、最初に浮かんだ自分のイメージは大切にせよということですよね。
当たり障りのない内容で、無難にまとめるよりも。
今回のトゥさんのお言葉に、また学ばされた思いです^^

ユッカがウザ子という懸念は、昨今の一般読者の好みを考えすぎたうえでの私の恐れですね。
ライトノベルのつもりで書いてますが、ラノベは読み手が快感を覚えたいための作品なので、冒険ものにしろ、恋愛ものにしろ、読み手が嫌な感情を抱く主要キャラは外せと言われているそうです、という情報を目にすると…、これ書いていいのだろうか、という恐れはやっぱり出てくる。

でも、周りから見ると空気読めないキャラというのは、逆を言えばそれだけ強い個性だということですよね。欠点もある時点で長所にもなりかねない。
とにかく人間を描きたかったということもあり、今回は彼女達の内面に踏み込んでみました。
作者の書きたかった部分と、それを読んだ方が興味を持ってくれる部分が一致すること、それが面白さの秘訣なのかもしれないですね。


モンスターハンターはCEROレーティング:C(15歳以上対象)
パッケージに書いてますからww
といっても、小学生も別にやっていいですけどね。ハンティングゲームなので、一応その辺気をつけろということですね。

アイルーお面に爆破強化、高速回復をつけると、水中やハプル戦で重宝します。
さすがにそのほかの相手にガードなしの剣士でいくとふっとばされて、さすがにムカッとしますがw
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2013/02/05 20:13
目頭が熱いです、わ~ん。

このエピソード、本当に最初はカットしてしまうおつもりだったんですか?
もったいないおばけが襲ってきちゃいますよw おもしろいですもの。
むしろ「力をあわせて順調に勝ちました」では爽快は爽快かもしれないけれど、あまり深みがなく友情が伝わりにくいというか、マンネリズムを感じてしまうので、これでよかったとわたしは思います。

ユッカの印象について何度か蒼雪さんが仰っていますが、同族嫌悪はあるかもしれません。
余裕がなくなると相手の気持ちまで考えられなくなって、でも自分では考えているつもりで勘違い、とか。気遣っていいるつもりが逆に元気な姿を見て自分が安心したいだけ、とか。……うわあ、ありそう。
なんだか他人事じゃなくなってきましたw ふたりが笑顔で依頼達成できるよう、心から応援しています。

余談ですけれど、十代の方も楽しめるのじゃないかなあ。
わたしはもう二十代なので確かなことは言えませんが、十代っていろいろなことにもっと必死で、どうにもできないような錯覚に陥ることもあって、些細なことでケンカして、って主観的には波瀾に満ちていた気がするんです。そんなときはきれいごとじゃない、こういうお話を読みたいし、実際ティーン向けのプロの作品でもよく扱っているエピソード、テーマのような、そんな気がしました。
それにしてもMHが15歳からだったとは……知りませんでした。ちょっとびっくりですw

 ✿

アイルーやメラルーのお面、わたしも使っています♥
爆弾まみれはガンナーでも「……むっ」とするときがありますから、剣士だとさぞ悲劇的なことになるのだろうなあw
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2013/01/29 09:31
イカズチさん、レス感謝です。

なるほど、ダルマのお面で挑まれてますか。
私も最近ようやくダルマお面をゲットできまして、主に採掘から帰るときに使用しています。
あれって発動するまでに若干時間がかかるので、マップ移動するなどして使わないとならないですよね。

なんと、痺れ攻撃ってよく効くものなんですか!?(゜o゜)
私も最初は付けていたんですが、ぜんぜん麻痺してくれないのであきらめていました。
今は、爆破属性を付けてます。こちらが爆破武器じゃなくても、かなりの頻度で怯ませてくれるので重宝してます。

メラルーも良いアイテム取ってくるみたいですね。まだランクが低いので、皮とか鱗ばかりなんですが。
ランク5になったら貴重品も持ってきてくれるみたいですね。これは頑張って育てないと。

このシリーズでのユッカは、読んだ人大半が嫌うでしょうね~^^;
爽快感とは程遠く、ほぼ自己中ですから。まわりを大切にしない人は嫌われますからね。
でも、ユッカは決してショウコをないがしろにしているわけじゃないんです。
自分を犠牲にしないと行動を決められない人間、それはつまり自己評価の低さから来ているんですが、彼女はそれに気づいていない。
ショウコを置いて行ったのも…それは次回に語られますが。ショウコが大事だからです。

ううむ、けなげさも一途さも度を過ぎると欠点になるんですね。
しかし完璧な人間はいませんから…。この件で、ユッカも大切なことに気づいてほしいと、作者ながら切に願います。
アバター
2013/01/27 23:09
私は標準装備ではチャチャにダルマのお面、カヤンバにメラルーフェイクを装備させてます。
特技にシビレ攻撃を付けているので時々モンスターの動きを封じてくれるのですが……。
メラルーフェイクでキレた時にはキングチャチャブーのように爆弾を散布するので大迷惑。
でも『火竜の煌液』とか『逆鱗』とか取ってこられた日には……。
黙るしかありませんよねぇ。

『ユッカは思いつめる性質』
そうですね。
そして思い詰めると周りが見えなくなるようです。
今回もユッカは『自分がなんとかしなきゃ』とオトリになったようですが、そこにショウコがどう考えるかと言う思考はあまり感じられず。
この性格は誰かが戒めてあげないとイカンかなぁ。
アバター
2013/01/27 12:16
イカズチさん、コメント感謝です。

そうですね、おっしゃる通りですね。
傷ついた仲間がいたから、回復弾を撃とうとリロードの最中に真っ先に狙われて被弾して、かえって迷惑をかけたりとか…って違うか(笑)

オトモのお邪魔攻撃、これはいざという時マジで切れますね。
余計なことすんなあ~!(-_-)/~~~ピシー!
…って、つれてきた自分が悪いんですがww
3Gのチャチャとカヤンバは相当かしこいですが、アイルーのお面だと見境なく爆弾を投げるので、罠にかけたときなどは大迷惑。わかってて連れてきた私が悪いんだが。
4ではその辺を改善希望です。

ユッカは思いつめる質ですよね。兄のグロムが家や自分から離れてしまうと「思い込み」、ハンターになったくらいですから。
なので、ここでティガとショウコを引き離して自分がオトリになろうとしたのも、「巻き込んだ引け目」を挽回しようとしたのかもしれません。
そんな彼女を理解して、良き相棒となってくれたショウコは本当にありがたい存在ですね。
この出来事が、きっとお互いの成長になるでしょう…次回をお楽しみに!
アバター
2013/01/25 20:29
良かれと思ってしたことが裏目にでる。
これは現実でもモンハンでも良くありますね。
『曲射ちをしたら近接攻撃役が爆弾を置いてる最中』
『ランスで突撃したら目の前に割り込んできた大剣が溜め始める』
『眠った途端にオトモ攻撃炸裂』
怒っちゃいけない、怒っちゃいけない……怒んないで。

ユッカは、やはりそうなのですね。
『自分でため込む性格』
甘えっこだった彼女が『しっかりせにゃ』となった時、真面目気質が災いし、このような性格になってしまう事は想像だに難しくありません。
これが全て悪いとは言いませんが張りつめた糸、鋭すぎる剃刀のように、いつか切れてしまうか刃こぼれでボロボロになってしまいそう。
いままではショウコと言うパートナーのお蔭でなんとかなっていたのでしょうね。
さてユッカ、どうするどうなる。



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