Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~54

【背中を預けて】

 乾いた大気を、巨大な翼持つ獣が体を傾けて滑空してくる。ベリオロスの特徴である長く伸びた朱色の犬歯を、ユッカははっきりと見た。とっさにポーチに手を突っ込む。最後のひとつが指先に当たり、迷わず手につかんでいた。
「やっ!」
 岩場から飛び出すと、ユッカは手にした閃光玉を飛来するベリオロス亜種の目の前めがけて投げつけた。灼熱の太陽を凌駕する白い閃光が空間を覆い、光の直撃を受けたベリオロスとティガレックス亜種が悲鳴をあげる。
「ショウコ!」
「ユッカ!」
 ユッカはショウコに駆け寄った。ショウコも全力で走ってきた。その身体がぶつかりあう前に反転し、ふたりは互いの背中を合わせていた。どちらも油断なく武器を構えている。
「ショウコ、ごめんね。わたし、大切なことに気づいてなかった」
 ティガレックスは標的を見失い、さかんに吼えて身体を回転させていた。飛竜種に見られる防衛行動だ。ベリオロスも吼えて威嚇しながら、見当違いの方へ体当たりをしている。
「ハ、ウチがいなくて泣いとるかと思った。――安心したで」
 親友の軽口に、ユッカは本当に涙が出そうになる。あえて笑ってみせた。
「わたし、あなたがいないとだめなの。そのことがよーくわかった」
「ウチもや」
 え、とユッカは振り向こうとした。だが、すぐに顔を戻す。正気を取り戻した2頭のモンスターが行動をやめ、頭を振って視力を取り戻そうとしていた。ユッカはティガレックスに照準を定めた。残す弾は通常弾Lv2のみ。その数も60発しかない。とても2頭を仕留めるには足りない。
「なあ、ユッカ」
 背面のショウコも、ベリオロスの動きに注意を払っている。振り向かずに言った。
「ウチはうれしかったんやで。あんたが初めて、わがまま言うたの」
「えっ?」
 ユッカは思わず振り向いていた。するとショウコも振り向き、にっと白い歯を見せて笑った。
「今まであんた、自分のこと二の次やったやん。ウチのこともいろいろ助けてくれとんのに、ウチはなんもできひんかった。だから、もしあんたが何か頼んできたら、きっと力になろう、そう思てた」
「ショウコ……」
「しかもそれが、初めて好きになった男のためやろ? そら、何が何でもかなえてやらんとなあ」
「ショウコ、それは……」
 もういいの、と言おうとしたユッカに、ショウコは眉をひそめてみせた。
「あかんで。あんたが何をひとりで決意したんかしらんが、自分の気持ちに嘘つくのはようない。あきらめるんなら、あの優男に気持ち伝えてからにせえ!」
 優男の言葉に、ユッカの顔がみるみる赤くなった。最後に飲んだクーラードリンクの効果もなくなったかのように、身体がほてりだす。ほらな、とショウコは微笑んだ。それを打ち破るかのように、2頭のモンスターの咆哮がとどろく。ショウコはさっとモンスターへ顔を戻した。ユッカも同じように身構える。
「4年も思い続けて、そこで終わりなんてもったいないで」
 だから、とショウコの声が聞こえた。思いのほか優しかった。
「――ウチのハンマーで打ち上げてでも、あんたをあの男へ届けたるわ!」
 ショウコが雄たけびをあげ、正面に陣取るベリオロス亜種に向かって突っ込む。ハンマーを携えて走りながら、コハル、と叫んだ。
「はいニャ!」
 コハルが腰に下げた小さな角笛を取り出し、軽やかな旋律を響かせた。その音色が体を撫でたとたん、ユッカの全身の痛みが和らいでいく。獣人種がかなでる回復笛の効果だ。
「うおお!」
 およそうら若き乙女には似つかわしくない怒号をあげ、ショウコはハンマーを掲げてベリオロスの朱色の顔面めがけて打ちかかった。ベリオロスは首を上向けてすさまじい咆哮をあげてきたが、装備したレックスシリーズのおかげでものともしない。
「だりゃあ!」
 上段から打ち下ろした暴風槌【裏常闇】が、咆哮を終えて下がったベリオロスの頭部を直撃した。しかしベリオロスは軽く頭を振っただけで、すぐに後方へ飛びすさる。長い棘の生えた翼膜付きの両腕を地面にふんばり、大きく息を吸い込む動作をした。それと同じく、ティガレックスが獲物を定めて動き出す。
「ユッカ、来るで!」
「うんっ!」
 ベリオロスが強烈な吐息を吐いた瞬間、前方20メートル先で巨大な竜巻が発生する。これに巻き込まれると、鎧をつけた人間ですら高く舞い上げられてしまうほどの威力だ。
 ユッカは竜巻とベリオロス、迫ってくるティガレックスを視界全体に収めるように下がった。銃を構え、スコープを覗いて照準を定める。ベリオロスはショウコに狙いをつけて執拗に追っている。ショウコは慎重に相手の動きを見てかわし、モンスターの動きが止まった隙にハンマーを短く当てていた。コハルもブーメランを投げて援護している。
 ユッカはショウコを狙おうとしたティガレックスの後ろ足めがけて撃った。数発撃ち込むと、黒轟竜は何事かとこちらに身体を向ける。凶悪な顔つきに、恐怖でみぞおちが痛くなった。それでも真正面から受け止める覚悟で、銃を下ろさない。
「ショウコには近づけさせない!」
 ティガレックスが吼えながらユッカめがけて四つん這いで走ってくる。標的に迫るスピードはすさまじいが、その間は直線しか動けない。ユッカは横に跳んで軸をずらし、強烈な突進をやり過ごした。そして相手が向き直る前に、ふたたび後ろ足に弾を数発撃ち込む。
 ティガレックスは即座に向き直ると、ずらりと生えそろった牙を見せつけるように襲いかかった。
「くっ!」
 銃を持ったまま、ユッカは横に数度転がって噛みつきをかわす。回避する寸前、やや足がもつれた。すんでのところで攻撃を避けられたが、危ないところだった。
(やっぱり感覚が変だ)
 原因は耳だ。ユッカは片方の手で右の耳を抑えた。
 右の聴覚が戻った感覚はなかった。ずっと音がこもったままで、鈍い痛みが続いている。コハルの笛の音色だけでは、鼓膜は再生されなかったようだ。
 ユッカは意識して深呼吸し、動揺する心を抑えようとした。わずかな焦りも禁物だ。聞こえない右耳のかわりに、全神経を視界と左耳に集中させる。
「ユッカ、そっちや!」
 ショウコが怒鳴る声が右手から聞こえた。左耳でそれを聞き取り、振り向いたユッカの顔がこわばる。
「竜巻が――こっちへ来る?!」
 大風のないこの場所で、自然発生するとは思えない。原因はすぐにわかった。ベリオロス亜種の吐き出した吐息が、もうひとつの竜巻を生み出したのだ。
 10メートルもの細長い竜巻が、わずかな空気の流れに乗ってゆるやかにこちらへ迫ってくる。すぐ近くにはティガレックスがおり、ユッカに食らおうと飛びかかった。
「――っ!」
 声にならない声をあげ、ユッカは急いで銃を背負うと、その場から走って逃れた。無言の死の風が突進しかけたティガレックスに当たるが、黒轟竜は怯まずにユッカへ突き進んでくる。竜巻もまた、相殺されることなく辺りをさまよい続けていた。
 ベリオロス亜種の吐き出す強力な突風で巨大な竜巻が起こることはよく知られているが、動く竜巻を使い分ける状態は、ユッカも初めて見た。ますます、この地にいるモンスター達がG級に匹敵する相手だと実感する。
(このままじゃ――ふたりともやられる)
 せめてもう少しの弾丸と薬があれば。ユッカは銃を構え直しながら思った。今は、どうこの場を生き残るか。それしか頭になかった。

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2013/02/11 23:13
イカズチさん、コメント感謝です。

ティガとナルガは手ごわい組み合わせですよね。それは3rdの「終焉を食らうもの」で証明済みです。
今回は大連続狩猟なので、ベリオと組んでます。
3rdの世界がモデルだったんですが、最近3Gをやり始めたこともあり、G級のベリオ亜種を登場させてみました。トライも3rdも同じ世界ですから、特に問題ないかと思います。

むろん、トゥさんのご謙遜もわかっておりますよ。なにしろ3Gをヘビィとライトで勝ち上がる方ですから。
私などは、ガンナーの水中での打たれ弱さに怖気づいて近接で進めていたもので…(その前に、3DS本体の持ち方に慣れてなかったので、繊細な動作を要求する弓の操作がうまくできなかったせいもある)
仲間がいることの心強さは、一人で狩っていると強く感じますね。
私の弓の援護があれば心強いとは、うれしいお言葉です。ありがとうございます。
G級の難クエに挑むたびに、ああイカズチさん達がいてくれたらな~と何度思っていることか。

ユッカとショウコもガンナーと剣士で、バランスが取れていますよね。加えて、ショウコはユッカの心の支えでもありますから。互いに補い合うのがパーティ戦の良さです。
この大変な戦いも、ユッカとショウコなら切り抜けてくれるでしょう^^
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2013/02/11 00:22
ううん。
ティガレックスのベストパートナーはナルガクルガと思い込んでいましたが……。
特性を見るとベリオも厄介ですね~。
特に亜種の竜巻は。

閃光玉も無く、回復系も残り少なそうな状況。
さらにユッカの耳が気になります。
絶体絶命なこの危機を二人はどうするんでしょうか?
気になります。

トゥさんは控えめに『五分と持ちません』とか言ってますが。
例えば蘭さんの太刀とトゥさんの双剣ならこの状況でも難なくイケるんじゃないでしょうか?
私も蒼雪さんの弓が援護してくれるなら怖くない。
『背中を預ける』とはこの安心感なんですよね。
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2013/02/06 12:12
小鳥遊さん、コメント感謝です。

「背中を預けて」というタイトルは、3Gの闘技大会の音楽のタイトルから拝借しました。

参考動画
http://www.youtube.com/watch?v=nhE7FsVv3p0

とても燃える曲で、私も大好きです。もっとも、戦闘中は操作に集中するのでじっくり聴いたためしがありませんが^^;

そこから発想を得て、どうしても書きたかったんです。ショウコとユッカが背中を預けている様子を。
ショウコは、前にコハルにも言われてますが男前なんですよね。いい感じで男役。
ユッカは女性らしさ(女々しさ、女性特有の自己中も)を強調して書いてますので、自然に対照的になりました。正反対ほど馬が合うというやつですね。
原案者のイカズチさんは、ここまでショウコの性格を考えてなかったと思うんですが、私の中のショウコは、気風の良い、暗鬱とした展開を吹き飛ばし、爽快に物語を進めてくれる旗手~切り込み隊長ですね。
非常に助かってます。

ボルトの布石に気づいてくださって感謝です。
こういう細かいご感想をいただくと、書いてよかったなあとしみじみ思いますね。
さすがにG級の強敵にあっさり勝ったりはしませんけど、盛り上がるように頑張って書こうと思います。
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2013/02/06 12:02
トゥさん、コメント感謝です。

トゥさんも3Gをプレイされておりますので、3Gのベリオロス亜種(G級)に会えたなら、驚くかもしれません。Gのベリさんの竜巻は動くんですよ。
アマツで動く竜巻に慣れたと思いましたが、死角から襲ってくる竜巻とベリオロスの猛攻はすさまじいものがあります。私も何度か落ちた覚えが…。
それに上位装備で挑んでいるユッカとショウコは…えらいですね^^;

ショウコ、カッコいいんですよ。字数に入らなかったのですが、コハルがユッカ・ショウココンビを見てハンカチを噛んで「ウニャ~!」と焼きもちを焼く場面を入れたかったです。
このセリフは自分でも気に入ってるので、トゥさんにもお気に召して頂けてよかった^^
強い友情は恋人同士にも似た関係にも見える、という感じが好きなもので。つい、こうなりました。

トゥさんもご指摘の部分、私も違和感があったところです。
なので、青字で修正をいれておきました。微々たる直しですが、少しは流れがスムーズになった…んじゃないかなぁ^^;
忌憚のないご指摘、まことに感謝します。また何か気が付いたら教えてくださいませ。

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2013/02/05 23:27
お互いに背中を預け合うとは、何よりもの信頼の証だと思える素敵な場面でした。
ショウコの気性は、なんというか……ユッカの親友にピッタリですね。
彼女のオトコマエ気質に救われている部分、きっとあるんでしょうね~。
でも、ショウコだって、ユッカがユッカだからこそ、こうして一緒に闘っているワケで。友情って良いものだなぁ、と素直に思えるお話です。

なんだか、狩りの方ではピンチみたいですけども、実は、私は心配していません。
だって、前回、何かの音に気付いたボルトが見上げた先に……で、ボルトさん、笑っていたでしょう。
うん、これは次回も楽しみです^^
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2013/02/05 22:39
なんと、2頭同時狩猟。
しかもティガ亜種とベリオ亜種でしょう、どちらも動きが速くて、想像するだけでドキドキです。
そのうえG級とは……わたしだったら5分ともたないかもしれません!

しかしショウコはオトコマエですね。
細腕でふりまわすハンマーというのも格好良いですが、

「ハ、ウチがいなくて泣いとるかと思った。――安心したで」
 親友の軽口に、ユッカは本当に涙が出そうになる。あえて笑ってみせた。
「わたし、あなたがいないとだめなの。そのことがよーくわかった」

これです。このやりとり、一瞬恋人どうしかと思ってしまいました。格好良いにも程がありますw

ちょっと53話のことにも触れますが、やっぱり展開が速いといいですね。
そのおかげもあり、わたしはユッカの心情描写、気になりませんでした。
ただその前の、置き去りにしたのは良くなかった、と急に思い至ったのはどうしてかなあとやや不思議に感じたくらいでしょうか。頭が冷えてふと気がついた、という理解で問題ありませんか?

次回も楽しみにしています✿



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