モンスターハンター 騎士の証明~56
- カテゴリ:自作小説
- 2013/02/22 08:21:56
【騎士と狩人、一堂に会し】
「ランマル、よかった、来てくれて……」
ユッカが涙を浮かべると、ランマルは笑みを深めた。
「泣いてる暇はニャいぞ。急いでここを離れるニャ!」
「うんっ!」
心強い味方に、ユッカは大きくうなずいた。ランマルは腰に下げたポーチから閃光玉を取り出すと、勢いよく振りかぶって投げた。強烈な閃光が辺りを覆い、ティガレックス亜種が目を射られて悲鳴をあげる。
「今のうちに逃げるニャ! 立て、ユッカ!」
「待って、足に力が……!」
疲労は極限に達していた。早く立って走らないと視力を取り戻したモンスター達に襲われてしまう。わかってはいるが、肩に担いだショウコの腕が重しのようにのしかかる。
ユッカは歯を食いしばって、地面に両肘をついて身体を起こそうとした。そこへ、
「うおお~!」
「ボルトさん?!」
再び空を見上げたユッカはあぜんとした。飛行船から落下傘もなしに落ちてくる黒い騎士は、間違いなくボルトだ。
野太い雄叫びが徐々に近づき、やがてユッカ達から少し離れた位置にドスンと地響きを立てた。両手両脚で衝撃をこらえたボルトは、落下のダメージもものともせずユッカ達のところへ駆け寄ってきた。
「しっかりしろ! まだ走れるか?」
「は、はい!」
ボルトは地面に片膝をつくと、気を失ったショウコの片腕を軽々と担いだ。ユッカはもう片方のショウコの腕を背負い直し、ボルトと並んでショウコを支え、立ち上がる。
「コハル! 俺達はぎりぎりまで奴らを引きつけるニャ!」
「殿は任せておくんニャはれ!」
ベリオロス亜種の近くにいたコハルが、手にした十字型の武器――ナルガ猫手裏剣をかざして応える。
「よし、こっちだ!」
「はい!」
ボルトは、高速艇ギルドバードの向かう先へと走り出した。ユッカも渾身の力を振りしぼって走り出す。背後では、早くも閃光玉の効果の切れたモンスター2頭と応戦するランマル達の声が聞こえてきたが、ふたりとも振り返ることなく全力でその場を後にした。
「ここならしばらく安全だ」
モンスターのいる場所から5キロほど離れた岩場までたどり着くと、ようやくボルトは足を止め、ほっとした笑みを見せた。ユッカはその言葉を聞くなり、膝から力が抜けて座りこんでしまった。
「あれは……」
全力疾走したせいで喉が干上がり、声を出すのもつらかったが、思わず感嘆がもれていた。ごつごつした岩場に錨を降ろして空中に停泊している飛行船は、近くで見るとよりいっそう美しかった。
「ギルドの高速艇ギルドバードだ。めったなことでは飛ばないんだが、まあ、特別ってことだな」
汗みずくで荒い息をつきながら、ユッカは飛行船から綱をつけて下りてくる大きな箱と、同じようにして降りてくる数人の船員達をただ眺めていた。その間に、ボルトがショウコを岩陰の涼しいところへ運んでやる。
降りてきた船員達は、岩と岩が重なり合って日陰を作っている場所に簡易式の天幕を作り始めた。どうやらそこがユッカ達の休憩場所になるようだ。
「なんや……ウチらは船に乗せてもらえんのかい」
「ショウコ、気がついたのね!」
ユッカが振り向くと、岩陰でショウコが弱々しく微笑んだ。
「ほんま、死ぬかと思ったわ。ああ、しんどかった……てか、おっちゃん!」
「あぁ?――だからおっちゃん言うなってあれほど――ぐお!」
振り向いたボルトの脛(すね)に、ショウコの足蹴りが炸裂した。泣き所を突かれて巨体が飛び上がる。ショウコは半身を起こし、まなじりをつり上げて怒鳴った。
「来るの遅いわボケェ! 万が一のことがあったらすぐ駆けつけるからな、言うとったやんかぁ! 危うく死にかけたやないかい!」
「わ、悪かったよ! でも間に合ったんだからいいじゃねえかよ!」
「そういう問題やない~!」
「お、落ち着いてよ、ショウコ、ボルトさん!」
岩に手をついて立ち上がり、ユッカはふたりをなだめようとした。そこへ、小さな白いアイルーがとことこと近づいてきた。
「おニャかすいてましぇんか? あっちでごはんにしましょうニャ」
「アンデルにゃ~ん!」
ウルク装備を身に着けたアイルーを発見するなり、ボルトはショウコとのケンカを放り出してそのアイルーに飛びついた。太い腕で力任せに抱きしめられ、ふにゅっ! とアンデルセンが細い悲鳴をあげる。
「なんや、おっちゃん猫好きかい」
「あはは……なんか意外だね」
ショウコを助け起こしながら、ユッカも笑った。
その日の狩りは、ひとまず終了ということになった。モンスターが入り込みにくいこの場所なら、一晩明かすこともできる。残すは2頭のみなので、時間的にはまだ充分に余裕があった。
日が西に傾くころ、船員達が天幕を張り終え、ユッカ達に挨拶して船に戻っていく。ユッカはお辞儀をして礼を返すと、さっそく支給された品を見定めにかかった。物資を使い果たしてしまった今、支給品のあり方が明日の狩りを左右する。
青く塗られた支給品ボックスの大きな蓋を開いて、ユッカは一瞬言葉を失った。
「こんなに……たくさん」
「え? どれどれ?」
一緒に覗きこんだショウコも、わおと嬉しそうに瞳を輝かせる。
入っていたのは、充分すぎるほどの応急薬に携帯食料、クーラードリンク、ホットドリンク、弾丸の数々だった。それに、支給専用秘薬までふたり分そろっている。
「秘薬はありがたいなぁ。強敵には絶対欠かせん薬や」
「うん。そうだね……」
しみじみとしたショウコの言葉に、ユッカも秘薬を手にとってうなずいた。栄養剤グレートと、マンドラゴラという稀少なキノコを調合してできるその薬は、服用者の体力を全快し、よほどの致命傷以外はすべてきれいに治してしまう。
その貴重な薬を惜しげもなく配したということは、それだけユッカ達の狩りが過酷だということも示していた。
「……それで、足りるかな?」
横からやわらかな声がした。ドキッとしてユッカは薬を持ったまま硬直する。ショウコが振り向いて、ああと声をあげた。
「ロジャーはんやないか。……と、誰?」
「部下のブルースと申します」
短い言葉で、ロジャーのやや後ろに立つ青い騎士が黙礼する。「あ、そう」とショウコはそれきりで、まだ固まっているユッカを軽く肘でつついた。
「ほら。ロジャーはん来たで。なんで顔あげんの」
「う、わ、わかってるってば……」
耳まで真っ赤にして、ユッカはもごもごとつぶやいた。足音が数歩、そっと近づき、ユッカの脇で止まった。やや離れた場所から、アンデルセンとたわむれるボルトの声が聞こえてくる。あいつ相変わらずだな、とブルースがぶっきらぼうにつぶやいた。
「ユッカ君」
穏やかなロジャーの声に、ユッカの心臓が大きく跳ね上がった。早く顔をあげて、ちゃんと挨拶しなければ。自分をせっつくけれど、身体はまるで言うことを聞かない。
「……今回のことは、じつに……」
と、ゆっくり話し始めたロジャーの言葉を遮るかのように、
「アンデルセンはか~い~ニャ~ん!」
……ボルトの浮かれた声と、困ったようなアンデルセンの声が響き渡った。話を折られて、こほん、とロジャーが咳払いをする。
「……黙らせましょうか」
ブルースがぐっと拳を固めるのへ、ロジャーは「別にいいよ」と苦笑した。改めてユッカに向き直る。
「――ユッカ君。少し、時間をもらっていいかな?」
ユッカは面を上げた。こくりとうなずいていた。
平和主義のオトモは…3rdでは使えない部類ナンバーワンという…^^;
むやみに敵をひっかきまわすだけで、笛は吹かないし、採取もそんなにしてないし。
3Gのチャンバは、かなり賢くなってますよね。採取もばっちりです。
体力が半分以下になったら、すぐに回復のおどりをおどってくれる頼もしさといったら!
その点うちのアイルーどもはなぁ(笑)
アンデルセンにそんな一面があったとは。アンデルセンはもうしばらく登場しますので、その性格を生かせたらいいなとおもいます。
ちなみに蒼雪は古代のお面がお気に入りです。
話し方がかわいいですヂャ(笑)
ふさふさのお面も、ゲーム開始当初はお世話になりました。探知、便利ですよね^^
ありがとうございます。おかげですっきりしました。
アンデルセンは小型優先ですが、回復係なので平和主義もよかったですね。
わたしが最初に雇ったオトモで、その頃は平和主義アイルーの存在を知らなかったんですw
きっとやるときはやるタイプ。
「……ご主人しゃまのじゃまをしにゃいでほしいのニャ」
ってやや引け腰でリノプロスに向かわれたりしてしまったら、もうかわゆくてたまりません♥
チャチャとカヤンバも、はじめはアイルーのほうが、なんて思っていたけれど今では大事な大事な仲間。ふさふさのお面が特にお気に入りです♫
再度のコメ失礼いたしました。
ボルトのモデルのイカズチさんもアンデルセンをお気に入りなので、ボルトにも自然と乗り移ってますね(笑)
3Gのチャチャとカヤンバも可愛いですよね。ちょこちょこ動く仕草、笑いを誘うセリフ、すぐに好きになってしまいました。
そういえば、実際のトゥさんのアンデルセンは小型狙いでしたっけ?平和主義のイメージがありましたw
もちろん、ブルースがグーでボルトを黙らせるんですww
しかしロジャーは、ここまで一人行動で頑張ったであろうボルトをねぎらうつもりで「別に(やらなくて)いいよ」と言ったのです。
3rdの狩りに生きるなどで出てくる「王国の地質調査員」も、今回のジャンプポイントと称してジャンプしまくってますよね。
私も最初ゲームやったときは、ノーダメージで飛び降りれるなんて!と感動したものです(笑いましたが)
敵に触れただけで死ぬゲームを作っていたカプコンさんが…ねぇ。
なかなか死なないリアルじゃない人間が戦うゲームは多いですが、モンハンはそれに輪をかけている気がします。ある意味カッコいいですよね^^
死なない安心感もありますし。好き放題できる感覚でしょうか。
あ、「殿は~」は、ランマルの呼称じゃないんです。との、じゃなくて。
「しんがり」と読みます。軍隊で一番後方について敵を防ぐ重要な役割ですが、一番危険な役目でもあります。
最初ふりがなをふっていたんですが、字数の関係で省いてしまいました。
わかりづらかったようで申し訳ありません^^;
字数制限、またしても…くぅ。
ユッカとロジャーは、すぐにはどうこうなりませんね。この次の回を描いて気づいたんですが。
まず最初に、一緒に乗り越えないとならないものがありますからね。
普通の恋人同士にはなれないと思います。だんだんと、ですね。
ふたりとも可愛いなぁ。そしてアンデルセンの登場はやっぱりうれしいものです。3Gでも連れていきたい……戦力的には奇面族のほうがありそうなんですけれどw
『「……黙らせましょうか」』
には「その拳でですか」とつっこみたくてうずうず。この台詞、わたしも笑っちゃいましたw
55話から58話まで拝読しました。
ランマルはともかく、ボルトまで生身で飛び降りてくるとは。びっくりです。
たしかにゲームだといろいろなところから平気で飛び降りているんですよね。う~ん丈夫な足腰。この場面、モンハン世界ならではの素敵な演出ですね!
ところで『「殿は任せておくんニャはれ!」』の殿はランマルのことでしょうか?
他にいないしそうだとは思うのですが、一瞬あれっと思ってしまいました。
わたしが二匹の関係を失念しているのでしたらごめんなさい。ランマルは偉いアイルーなのかなぁ。
ユッカとロジャーについては、読み進めている途中の方がコメントを目に入れてしまったらいけないですから。みんなと一緒に見守っていますw
ボルトダイブのシーンは、どうしようか悩みました(笑)
でもゲームを見る限り、ハンターはものすごい高所から飛び降りても死なないじゃないですかww
Fの方では、飛行船から飛び降りてモンスター討伐に向かってる場面も見たことあります。
なので、非常識と知りつつ、こうなった次第です。
モンスターにダメージ食らうのに、ビル10階相当の高さからジャンプしても怪我しないハンターって一体…。
落下傘ついでに、パラシュートと書こうか、これも悩みました。
モンハンは英語が日本語と混じって普通にしゃべられるので、天幕=テント、落下傘=パラシュートでも別に良いかと思ったんです。
打撃も、ダメージとかヒットで言い換えるとかしても良いかなと。
でも和製英語が飛び交いすぎると、小説の雰囲気が崩れそうだったので、今後も今くらいの語用でいきます。
ボルトとショウコ、相性いいですね。ボケとツッコミが成立してますし。
恋愛はともかく、組んだら楽しい2人かもしれません。
ラギア対へビィの支給品は、これでもかと秘薬が入っていますよね。
最初見たときは「いや、全部使わなくていいんじゃない?」と思いましたが、全部使っても足りなかった。
作中の文章は、この経験がもとになっております。3Gやってよかった。
助言も役に立ったようでなによりです。
いや、アンデルセンは個別で来ているので、トゥルーとランファはおりませんよ。
(事前に説明入れてます)
ボルトの猫好きシーンとブルースのセリフは、最初書いたときに「イカズチさん怒らないかな」と懸念したもので、ボツにしようと思ったんですが、面白いのでそのままにしました。
笑ってくださって安心しました。ありがとうございます^^
この次の展開は、私も書くのが楽しみです。さて、どうしようかな…。
「しっかりしろ! まだ走れるか?」
い、いやお前が……な?
流石は頑丈だけが取り柄のボルト。
それにショウコとも良いコンビになりそうですねぇ。
確かに。
無茶なクエストであればあるほど支給品も良いモノが入っていますよね。
最近では3Gの『ラギア闘技大会』でのヘビィボウガン。
まぁ闘技大会は最初から所持してるんですが。
秘薬×2、支給品専用秘薬×3、いにしえの秘薬にもどり玉、
これだけで7回は完全回復できる上に回復薬G×10に加え回復薬×10、ハチミツ×10.
つまり実質回復薬G×20。
「これでもか」と言うくらいの回復系。
そこまでしてもクリアの難しいクエでした。
蒼雪さん、GRさんの助言が無ければとうに挫折していたでしょうね。
支給品の多さはクエの難易度に比例する。
その通りの納得です。
アンデルにゃ~ん、出てきましたかぁ。
真っ白もふもふウルク装備。
か~い~にゃあ。
『……黙らせましょうか』
笑った。
……あれ?
アンデルセンが居ると言う事は……。
次回は狩りとは別の意味で楽しみな回になりそうな予感。
ユッカはロジャーに対してどうするんでしょう。
もしユッカが素直になれたなら、ロジャーはユッカの気持ちを受け止めるのか、それとも。
目が離せません。