Children's Fantasy
- カテゴリ:自作小説
- 2013/02/24 03:44:06
第1章 其の十二
「よし、レベルも上がった事だし少し休憩するか」
「そうですね。小さい画面を見たりしないから別に視力が落ちたりはしないけど、なんと言うか長時間のプレイはやりたくないと言うか……」
「高レベルのボスは倒すのに半日はかかると聞くが……」
「えっ、そんなに!?」
「冗談だ。と言うか、まだサービス開始から1ヶ月も経っていないのにそんな高レベルのボスの情報があるわけないだろう?」
「もう! 驚かせないでくださいよ!」
そうは言うものの、本気で怒っているわけではない。二人の間のいつも通りのやり取り。カズヤがふざけて、サヤがそれに突っ込みを入れる。まあ、サヤがボケをする事も多々あるが。
「まあ、このレベル帯のボスならそう時間はかからないと思うぞ?」
「そうなんですか。……いつか挑戦してみますか?」
「そうだな。それも悪くないな」
このようなやり取りをし、二人は一旦ログアウトして休憩した後にもう一度ログインしようという事になった。
「何時くらいにログインしますか? 今は……2時半。それなら3時くらいでどうですか?」
「そうだなー。それくらいで――」
そう言いかけて、言葉を止める。今、視界で何かが動いたような気がした。それは、夏場に蚊が見えたような見えなかったような、それくらい不確かなもの。しかし
「サヤ、今何か見えなかったか?」
「殲滅できてませんでしたか? ならば私の新たに目覚めた十三の妖術を用いて焼き尽くしましょう――」
「もしかして、詠唱大好きなんじゃないのか?」
「冗談ですよ。冗談に決まってるじゃないですか。突っ込んでくださいよ……」
「いや、分かりにくいって」
俺もついさっき分かりにくい冗談を言ったからお互い様か、と笑って済ます。けれど、カズヤの最初の疑念はまだ晴れていない。
近辺のモンスターは倒しつくしたはずだ。ならば新しく湧いてきたモンスターだろうか。だが、それならばこちらを見つけ次第に襲ってくるはずだ。
考える。一瞬見えた影の正体は何だろうかと。
見間違えかもしれない。けれど見えた『何か』が本当にいるとしたら――。
数日前に見た攻略サイトの情報。この森の主、もといこの森のボスモンスター。
この狩場に来るプレイヤーのレベルを無視するほど強いと書かれていたはずだ。
「ヤバいサヤ、帰還用のアイテムを――――」
その瞬間、カズヤの動きが止まった。
◆ ◆ ◆ ◆
こちらに呼びかける形で止まったカズヤ。サヤは手で肩を叩いてみるが何の反応もない。
「え、ちょっと、カズヤくん、どうしたんですか急に」
悪ふざけなのかと思ったが、それはないだろう。
呼吸をしていない。瞬きをしていない。体が揺れていない。
呼吸をしないのは、ゲームの中だから我慢できるという理由で納得できる。
瞬きをしないというのも、ゲームの中なのだから目は乾燥しないということで、我慢できるだろう。
けれど、体が揺れないのはおかしい。人間、どうしても少しは体が動いてしまうはずだ。それに肩をたたいた時もまったく体が揺れなかった。
ためしに目の前で手を振ってみる。予想通り無反応。
「帰還用のアイテムというと……やっぱり、買い忘れてる」
今日買ってきたのはHP・MP回復アイテムと矢くらいであった。帰還用アイテムの『帰途の羽』は買っていない。
どうしようと考えている内に、カズヤの言っていた『何か』が迫る。
空からの急降下。頭部に付いた、敵を穿つための武器。
そう、それは――
嘴だった。