モンスターハンター 騎士の証明~58
- カテゴリ:自作小説
- 2013/02/27 11:11:20
【人はひとりゆえに】
「……こうなることを恐れていたのに」
淡々とした、それでいて悔やむような響きに、ユッカは驚いて顔を上げた。ロジャーからはいつもの余裕めいた笑みが消えていた。いや、この場所に来た時から、ユッカの知るロジャーと違っていた。
(心配……してくれてるの?)
それは同時に、自分に心を開いてくれていることだと、ユッカは気づいた。ハンターの統率者として接するなら、己の感情を出さないものだ。ユッカが17歳の頃、初めて出会った時のように。
けれど、それが自分のためだけの感情だとうぬぼれる気持ちを、ユッカはとっさに抑えつけた。かわりに、微笑んでかぶりを振った。
「ハンターなら、このくらいのケガは当然です。治らないわけじゃないし、きっと大丈夫ですから」
「……それでも、僕は自分が許せないよ」
唇を噛むロジャーに、ああ、とユッカは思った。
彼は、今、わたしを見ていない。
「僕はいつも、そうやって誰かに許され、助けられてばかりだ」
目を伏せて、ロジャーは言った。
「時々、自分が恐ろしくちっぽけな存在に思えてくる。ボルトやブルースの助けがなければ、ナイトの長でいることもできない。彼らから助けられるたびに、しっかりしろと叱咤されているような気がするよ。僕なんかより、ずっと彼らが騎士にふさわしい」
ユッカはロジャーを見つめた。彼が、なぜ「自分と似ている」と言ったのか、ようやく気づいた。
この人は許しが欲しいのだ。合わせ鏡のような、このわたしに。己自身に。
「……人は、助けあうから人なんだと思います」
だから、そっと語りかけた。いたわるように。
「何もかもひとりでできるのなら、最初から仲間なんていりません。一緒にいて楽しいからだけじゃなくて、お互いに助けてほしいから友達になるんじゃないですか?」
「ユッカ君……」
「わたしも、ついさっき、そう学びました。仲間のショウコから」
どこかすがるようなまなざしの青年に、ユッカは微笑んだ。
「わたしも、そうでした。なんでも自分でできなきゃって思いこんでいて、相手の立場で考えようともしなかった。傲慢で、愚かで、嫌になります。今でも自分が嫌い」
でも、とユッカは言い添える。
「そんなわたしを、ショウコは許してくれたんです。そして、わたし自身も気づくことができました。きっと――、さっきモンスターに襲われた時、もうすぐ死ぬかもって感じたからかもしれません」
「……」
ロジャーは納得したように吐息をついた。モンスターと対峙した瞬間に隣り合わせになる死の感覚は、時に、ハンターを哲学者にもさせ、宗教家にもさせる。人間の生存本能が、突発的にひらめきと決断をもたらすためだ。男女のハンターが、困難な依頼を遂行中に婚約してしまうなど、よくある話である。
ユッカの出した答えも、それにもとづくものだった。あの時ティガレックス亜種がショウコとの仲を引き裂かなければ、仲間と行動する本当の意味に気づけないままだったのかもしれない。
「でも、そんなわたしを許してくれるショウコを見ていると、よけいに自分がしっかりしなきゃって考えちゃうんです。もしショウコがいなくなった時、無力になる自分をわかっているから」
「――そうだ……」
はっとしたように、ロジャーがユッカを見つめた。
「僕も、それと同じ気持ちだったんだ」
「ロジャーさんも?」
ユッカは驚いてまばたきをした。ロジャーはうなずいた。ようやく目的地にたどり着いた旅人のように。
「……僕は、僕の上司であった人から、今の地位を譲られたんだ。ティオさんと言ってね。人柄もハンターとしての技量も、僕よりずっと上の人なんだ。でも、彼は自分より僕の方がナイトの長にふさわしいと言って、自分は副長に落ち着いた」
ロジャーはユッカから視線を外すと、荒涼とした地平線を眺めた。
「それでも、僕は彼を下に見たことなどない。ナイトになる前から、僕はあの人に恩があった。あの人は、すべてにおける僕の師匠と言うべき人なんだ」
僕は今でも無力なままだ。ロジャーはつぶやいた。
「ナイトになりたかったのは、大義のためだけじゃない。何もできなかったあの時の自分を……救いたかっただけなのかもしれない」
ロジャーは再び、ユッカを見つめた。
「僕は、昔、人を殺そうとしたんだよ」
ユッカは驚きを喉で呑みこんだ。ただひとつうなずき、そして、言葉を待った。
ロジャーの話す過去を、ユッカは黙って聞いた。
ハンターがモンスターを虐待するなど、衝撃の事実だった。彼らの狩り方にギルドは口を出さない。ハンターの生命の保全が最優先されるからだ。
しかし、少年だったロジャーが出会った悪質ハンターは、常軌を逸するほどむごい狩り方をするので有名だったらしい。
よってギルドにより改善の余地なしと判断がされ、粛正に至った。罪を犯したハンターが即粛正されることは稀である。その前に、勧告や罰金など相応の償いが求められるからだ。それでも反省せず罪を繰り返す者だけに、ナイトの剣が振るわれることとなる。
「あの時感じた無力感を、二度と味わいたくなかった。目の前で振るわれた暴力に対して、自分も暴力を振るうことでしか、痛めつけられる自分の心を救う術がなかった……今なら、そう言葉にできるよ。でも、子供だった僕は、何もわからなかった。ナイトになれば、その気持ちから自由になれると思ったんだ」
ユッカは小さくうなずいた。ロジャーは今この時も、その答えを出せないままなのだろう。わかった気になっているだけで。
でもそれは、きっと簡単に出してはいけない答えなのだ。たくさんの感情や倫理観が絡みあっているからこそ、答えは決して、ひとつではない。
「……わたしも、ナイトになれれば、と思ってました」
ぽつりとユッカはつぶやいた。
「ナイトになれば、この苦しい気持ちから解放されるんじゃないか、って。でも、違ったんです。自分の思い通りになることが、すべての解決にはならないんです」
ロジャーの前には、ティオという凄腕のハンター(ナイト)がいますから。
一度「この人はすごい」と思い込むと、自分なんてまだまだ…と考えますよね。
そして、それを励みに努力するものです。
でもロジャーはどこか孤独なんですよね。そういう意味では、ブルースとボルトのことも信頼しきれていない。だから自分を責めたり、自信がなくなったりしてしまう。
少年時代に受けた無力感が、そのまま彼の過小評価につながっているんです。
もちろん、ブルースもボルトもそうは思っていないということが、あとで明らかになります。
ユッカとロジャーはどうなるんでしょうね^^;
最初に考えていた話では、もっとすんなり恋人同士になる予定だったんですが、書いてみて、ロジャーが予想以上に複雑な人間だったと思い知り、なんだかこんな展開になってきました(笑)
私はけっこうヤキモチ焼きで、ゲームでもアニメでも、自分の好きなキャラが自分の好きじゃないキャラとくっつくのを見るのがすごく嫌なんです。そういう展開になった場合に、「ああこいつら別れてくれないかな」と思うくらいにww
キャラの好みは人それぞれですが、どうしてもくっついてほしくないキャラというのも居ますよね。
あまりに魅力的過ぎて、むしろ永遠にひとりでいてほしいような。
ロジャーも私の中では、そういう感じなんです、実は。
なので…、イカズチさんは好意的にロジャー達を見守っててくれてありがたいです。
もし読者に、上記のような感情を抱かれたまま話が進むと、読むの嫌になってしまいますから^^;
良い関係になるかどうかは、こっから先の流れで変わるんじゃないかと思ってます。
これは……ロジャーはかなり自分を過小評価していますねぇ。
少なくともブルースやボルトはロジャーに『しっかりしろ』などとは考えていないかと。
むしろロジャーの部下である事を誇りに思い、彼からの責務をまっとうする為に全力を尽くして居ると私は。
勿論、傲慢で鼻持ちならない自信家ではない事は明らかなのですが。
ロジャー衝撃の過去ですね。
汚れ仕事もあるナイト。
いや、ナイトになる前なのかな?
それでも仕事だからと何も考えずに粛清行為を行うのは単に自分を正当化しているだけに過ぎず。
悩むロジャーがロジャーらしいって言えばそうですね。
しかしこのような悩みを打ち明けられるユッカは彼の中でどのような存在なのか?
彼女の立ち位置が気になる所です。
おお、蒼雪さんのコメにもありますが『ロジャーがユッカを異性として意識するのは、もっと先』
これは逆にとらえればユッカにも望みありと。
よかったなぁユッカたん。
いえいえ、こちらこそいつも丁寧なご感想をいただき、ありがとうございます^^
書き込みはいつでもよろしいですから。気になさらないでくださいw
ロジャーが、あまり交流がないのにユッカに本音を語ったのは、彼女がほかとは違う雰囲気の子だからですね。
よく恋愛ものに見られる、「初めて会ったのに他人の気がしない人」という…。
ただ今の時点ではユッカ視点なので、ロジャーが何を考えて打ち明けたのかは不明になってます。
そこは、小鳥遊さんおっしゃるように、
>ただ、どうしても……ユッカがロジャーに惚れるのは分かるけど、その逆がイメージできない><
これは作者もそう思ってますし、ある意味狙い通りというか。w
ここでばらすと、ロジャーはまだユッカを恋愛対象として見てはいません(笑)
このシーンの以前にも、ロジャーは部下であるブルースにも相談してますよね。そのくらい、彼は他人からの承認というか、答えが欲しかったんです。
自問自答するタイプというご指摘、そうかもしれませんね。実際、ユッカと再会するまでは自問自答の日々だったのでしょう。それが今回のことがきっかけで、もう自分で抱えるのが限界になったんだという描写がこのあと入りますww
いつもながら鋭いご推察、お見事です。
ロジャーがユッカを異性として意識するのは、もっと先かもしれません。
あたたかく見守ってくだされば幸いです^^
なかなかコメントできなくて、スミマセンでした~~。
携帯からですと、長い文章が打ちにくいので、つい読み逃げで……スミマセン!
ユッカとロジャーが語り合っているのを固唾を飲んで見守っておりました。
ユッカのモノローグにも、合わせ鏡のような、とありましたが、なんせ生真面目さが似ている二人。
正しくあろうとする姿勢は間違ってはいませんが、それが強すぎると心配だなぁと思ってしまうところがある二人。
そんな二人が真面目に語り合ったらどうなるんだろう……と見守っていたんです。
ロジャーが抱えているものと、ユッカが向き合わねばならないものは、似ていますが違うようにも感じます。
それぞれが、それらと向き合い乗り越えられたら良いですね~^^
ロジャーさんは、少しお疲れなのでしょうか。
自分の内にある感情や本音を、そして自分の過去を、ユッカに聞かせるというのが意外でした。
てっきり、ロジャーさんは自問自答するタイプかと……。
つい自分をさらけ出してしまったよ、なんていう相手は、ユッカのようなタイプだとは想像していなかった、というのもあるのかもしれませんが^^;
まぁ、優秀なロジャーの事、ユッカの本質を素早く見抜き、そこに親近感のようなものを無意識に感じていたのでしょうか。
ユッカにはロジャーへの恋心があるので、彼女が一生懸命に語る姿には納得です。
微笑ましい気持ちで見守っておりました。
ただ、どうしても……ユッカがロジャーに惚れるのは分かるけど、その逆がイメージできない><
あ、今の段階では、ですけど。でも、初恋ってほろ苦い思い出になる事も多いし……。
ユッカのことは、素敵な女性に成長してほしいと応援していますが、この恋はひとまずじっと見守っていこうと思います。
親友のショウコが、恋愛においては先輩で良かったね、ユッカちゃん……とも思ったり^^
なんにせよ、ロジャーにとってもユッカにとっても『ナイト』って特別な意味を持っていそうですね。
それぞれが、どのような成長を遂げるのか楽しみにしつつ、今後も見守っていきます。
次回も楽しみです^^