モンスターハンター 騎士の証明~60
- カテゴリ:自作小説
- 2013/03/12 09:35:17
【君と目指す道は】
それは本当に大切なことだった。
(僕はとても、急ぎ過ぎていたのかもしれないな)
ひたむきに自分を見つめてくるユッカを前に、ロジャーは思う。
ロジャーには、目指すところがあった。狩りの技量やナイトとしての人格を磨き上げ、すべてにおいて完璧と称されなければならなかった。
かつてナイトの長であったティオの後を継ぐ者として、一日も早く彼に近づかなければならない――そう思い込んでいた。
(だけど、もっといろんなところに立ち止まっていいのかもしれない)
急ぎ完璧を目指すあまり、自分を慕ってくれる人達をもないがしろにしては意味がない。
置いてけぼりにした相手を思って、結局苦しむのは自分なのだから。
(自分が苦しいから?――それだけじゃない)
誰かが悲しまないためだ。自分は、自分を慕ってくれる人達の気持ちを、ひとつひとつ掬(すく)っていかなければならない。そうしたいと感じた。
今まで人をあしらうことには慣れていた。ユッカに対しての態度もそういう意味でのもので、それがギルドナイトの義務だと思っていた。
でもそれが間違っていたのだと、今ではわかる。そうやって義務的に対処したことで、少なからず人の気持ちをおざなりにしたこと。それが自分で許せなかったのだ。
完璧主義もここまでくると笑える。ロジャーは困ったように眉を寄せて自嘲した。
「……ロジャーさん?」
「……僕は今まで、ギルドナイトがどういうふうに人に見られるのか、真剣に考えたことはなかった」
やや視線を落とし、ロジャーは言った。
「ギルドナイトという立場である人間が、その言動でどれほどまわりに影響を与えているのか、ということをね。君みたいに、真摯に受け取ってくれる人がいるなんて思わなかったんだ」
「それは、わたしが勝手にそう思っていただけですから」
むしろユッカが慌てて、おろおろと両手を振った。
「それに、誰かの期待にすべて応えるなんて無理じゃないですか? いくらナイトだからって……」
「でも、自分が後悔するよりましだ。僕は、僕にできることは全力で尽くしたい。どうせ完璧主義なら、できる限りのことはしたい。そう思った」
ふっきれたように、ロジャーは微笑んだ。ユッカは何か言いたげにこちらを見たが、すぐに彼女も笑った。
その笑顔が土や血に汚れていることに、ロジャーはようやく意味をもって気がついた。
ずいぶん自分は勝手だったなと、今さらながら反省する。年頃の女の子が男の前でこんな格好でいることが、どれだけ恥ずかしいことか考えもしなかったなんて。余裕がないにも程があった。
「……ごめん。気づかなくて」
「……え?」
ロジャーはそっと手を伸ばすと、ユッカの鼻の頭にこびりついていた土を指で払った。
「僕は、そういうの気にしないんだけどね。だってそれは、君が全力で戦った姿だから。とても、尊いと思う」
「……」
ユッカは目をぱちぱちしてこちらを見ている。何か言おうと唇を開きかけたが、すぐに堪(こら)えるようにつぐんでしまった。
まるで小鳥みたいだな。ロジャーは思った。手のひらに包んで、優しく守ってあげたくなる。
けれどこの小鳥は、戦うことを知っている。自らの強い意志も持っている。もう飛ばないようにと鳥籠に閉じ込めることは、彼女を別の意味で殺してしまうだろう。
だからロジャーは、次の言葉を言うべきかどうか迷った。その言葉が、ギルドナイトとしての意思なのか、ロジャー本人の願いなのか、自身でも判断がつきかねた。
「……ロジャーさん?」
可憐な声が、そっと背を押した気がした。それで、決心がついた。
「君には、この狩りについて、すべてを話しておこうと思う。その上で、これからどうするか決めてほしい」
「――はい」
ロジャーをまっすぐに見つめ、ユッカは迷うことなくうなずいた。
強いな、と思った。きっと彼女は、“両方”のロジャーを信じているのだろう。
そしてロジャーもまた、ユッカが受け入れてくれたことに安堵していた。言おうとした決心は、ギルドナイトである自分と、ロジャー個人、双方の願いであったからだ。
夕食は、太陽が西の地平線に沈んだころに催された。
暖かなたき火を囲んで、ロジャー達は、身だしなみを整えたユッカ達と食事を共にしていた。そこには、ランマル達はもちろん、飛行船内に拘置されていたガレンの姿もある。
手錠はそのままのガレンの姿にユッカ達は驚いたが、ロジャーが穏やかに説明した。
「彼はこのエルドラ国の出身であり、僕達が追う事件の重要参考人だ。しかし、彼は仲間の命と引き換えに、事件に協力することを申し出てくれた。君達ももはや無関係ではない。だから、この場に呼んだんだ」
「どういうことですか?」
アンデルセンが配ったシチューの皿を手に、ユッカがこわばった面持ちで尋ねる。ロジャーは言った。
「君達に依頼した大連続狩猟だけど、どうやら、この地にいるモンスターは人為的に放逐された可能性が高い」
「なんやて!?」
ショウコも声をあげる。慌てて皿を取り落としそうになり、かろうじて持ちこたえた。
「誰かがあいつら放したんかい?!」
「あくまで推察の域で、僕らもそう考えていたに過ぎない。しかし、彼の証言でそれが限りなく正解に近いことがわかった」
全員がガレンを注目した。鎖付きの両手で湯気の立つ皿を持っていたガレンは、重々しく言った。
「私もすべてを知るわけではない。だが、モンスターの密猟に関わってきたこれまでの経緯(いきさつ)で、どうやらそうではないかと私も考える。捕らえてきたモンスターを、ただ解体して業者に売る様子がなかったからな」
「詳しく聞かせてください」
ユッカが厳しい面持ちで促した。ガレンはうなずいた。
「私は、国王の密命により、外地でモンスターを捕獲してこの国に運ぶ仕事を負っていた。初めのうちは、どうして王がそうさせるのかわからなかった。その目的も疑わずにいた。家族を人質に取られているからな。意見を出せば、自分もろとも命がない。従うしかなかった」
「あんたの事情はええ。それよか、捕まえてきたモンスターはどうなったんや?」
ショウコも射抜くようにガレンを見た。
「わからない」
「おい、わからんって――」
いきり立つショウコに、ガレンはかぶりを振った。
「私はただ捕まえてくるだけだ。麻酔で眠らされたモンスターは、別の者達によって、ある場所へと運ばれていく。私はその場所を知っているが、一度も近づいたことはない」
「その場所とは?」
ブルースが鋭い目で尋ねる。ガレンはたき火から目を外し、遠い彼方を見やった。痛ましいまなざしだった。
「――ここからそう遠くない。この先に、滅びた街がある。かつて、この国の都だったところだ」
元ガル国の首都、クド。ガレンは低い声で言った。
こちらこそ、いつもお忙しい中時間を割いてくださって恐縮の限りです。
いつもありがとうございます。とても励みになっています。
そうですね、このあとにユッカとショウコが残ったモンスターを狩って、そこから核心に(ようやく)迫ります。
かなり重たい展開を考えてますが、ここまで読んでくださっている皆さんには、もう予想はついてるかなぁ。
え、アンデルセンのお給仕の姿を?!
あぁっ、そこまで考えが回りませんでしたwww
え、え~、どうかそこは想像で補ってください…。たぶんエプロンじゃないですかね。
フリフリの、ネコマークが付いた(って持ってるのか)
お祝いのお言葉ありがとうございます^^
一年で終わらせるはずが、2年目突入になってしまいました。ここまで書き続けられたのも、イカズチさんたちが熱心に読んでくださったからです。
毎回のコメントにヒントをもらい、アドパでもネタをいただき、感謝してもしきれません。
たぶんモンハン4の発売日までには終わると思いますが…あと何回とまでは決めてません。
久しぶりに制限なく書いておりますので、この調子で書きたいことを書きたいだけ書こうと思ってます。
応援してくださればうれしいです。今後ともよろしくお願いいたします^^
でもじっくりと読んでコメントを書き込もうとすると、どうしても読速が遅くなって。
いや元々読むの遅いんですけどね、私。
さぁてストーリーは謎の核心へと迫っていくのでしょうか。
何故、モンスターを捕え、放ち、狩らせるのか。
答え如何によってはショウコ辺りの怒りが爆発しそうですが。
しかし、この回は配膳中のアンデルセン描写が無いのはもったいなかったなぁと。
エプロン姿のアンデルセン、か~い~だろニャー……。
コック姿かニャー? 板前姿かニャー?
おおう、一年もの長期連載。
まずはおめでとう御座います。
これだけ長く書き続けられる蒼雪さんの筆力は相当なものですねぇ。
さすがは我らが道場主です。
こちらこそ、ここまで長くお読みくださり、本当にありがとうございます^^
トゥさんたちから頂くコメントに励まされたり、ヒントをもらったりして、こうして続けることができました。
3月中に終わるのではと前に書きましたが、もうしばらく続きます^^;
最後までお読みいただければ幸いです。よろしくお願いします。
ロジャーは過去を引きずるタイプですね~。
意外とねちっこいのかもしれません。
だから過去を蒸し返して謝ろうとするのかなとも思いますが^^;
しかし返せば、それは彼なりの優しさであったと私は思います。
どうも自分は彼女に優しくなかったぞという気持ちが、心の片隅に引っかかっていたのかもしれません。
夢あふれる若者に、夢を諦めろと言うのは残酷ですから。
かといって、ナイトの職務内容から、変に希望を持たせるわけにもいかなかったわけで。ジレンマになっていたんでしょうね。仕事が忙しくて忘れていたんだけど、再会したことで蘇ったんですね。
仲間の存在は大きいです。文中では、ブルースとボルトはロジャーの過去をさらっと流してましたが、この後でまたフォローが入ります。
ロジャーにとってのユッカの存在は、彼らとはまた違った立ち位置にいるんでしょうね。
しかし、まじめなくせにちゃっかり便乗して盗み聞きしているブルースが、書いてて可笑しかったです(笑)
次回以降の展開は、ちょっとモンハンの世界にずれてるのかなとも思いますが、どうしてもやりたかったので、このまま行こうと思ってます。
楽しんで読んで頂ければうれしいです^^
1年間も楽しませてくださってありがとうございます♥
そしてもちろん、これからも楽しみにしています!
完璧主義のロジャーさん。
随分前のことをユッカに謝ったときにも感じましたが、自分の言動を忘れず、顧みずにはいられないところがあるのかな、と。理想をめざして急いでいたとはいっても、心はきっとがむしゃらにはなれず、途中のいろいろなものに立ち止まって関わって進むタイプなんだろうなと思いました。
すごく大変な生き方です。強くなければ潰れてしまいそうです。
強くたって仲間がいなければ耐えられないかも。
だからユッカがいてくれて、みんなが盗み聞きしてくれて、よかったなぁw
ジゴロなロジャーさんもおもしろいかもしれません、あはw
そして後半、次回以降への期待がふくらみますね。
滅びた国の都。廃墟にモンスターの影……なんて想像してぞくぞくしてしまいます。
あははww
ロジャーは、どうも女性のあしらいが上手すぎてですね、嫌味にならないよう制御するのが大変でした。
ちなみに、ご指摘のセリフは、最後に「尊いと思う」となっていますが、初稿では「素敵だよ」でした。
そしてユッカは相手がふざけていると思い、彼を乱暴に突き飛ばして逃げるという…。
この展開も面白そうだと思ったんですが、さっきまでの綺麗なシーンから一転、ドタバタ劇になるのでやめました^^;
それに、ジゴロのロジャーでは、ユッカと小鳥遊さんに嫌われますよねww
ユッカの小鳥の喩えは、ロジャー視点から見ると彼女がどう映るのか、という心情描写です。
まだあからさまに好きとかじゃないけど、好もしくはあるという感じです。
物語もようやく大詰めになってきましたが、次回はもう少し会話のシーンになります。
楽しんで頂けたらうれしいです。
半年で完結するかと思われた物語も、ついに1年を迎えました。
ここまでお読みくださり、温かいコメントを頂けたことが、何よりの励みでした。
もうしばらくお付き合い頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします^^
鼻の頭についた土を指先で払って、言ったセリフが
「僕は、そういうの気にしないんだけどね。だってそれは、君が全力で戦った姿だから。とても、尊いと思う」
って、それはちょっと男前すぎでしょう~~(もちろん、良い意味で、ですw)
小鳥に喩えられたユッカも、可愛らしかったです。
ロジャーが、ギルドナイト、ロジャー個人、双方の願いだというのが何なのか、気になります。
これから先を読むのが、また楽しみです^^
そして後半、また物語が動きだしそうな雰囲気。
なんだか、わくわくしてきました。
クドに行ったら、どんな事が分かるのだろう?
まだ全貌が分からず闇に覆われている部分があるようですが、この国の問題を解決に導いていけると良いです。
みんな、頑張れ~と応援しています。
また、続きを楽しみにお待ちしていますね^^